-業界こいばな第4話-
なぜなぜ分析

   さてさて、今回のお話は少しお固い内容かも知れません。(^^;

表題に書きました「なぜなぜ分析」
この聞き慣れない言葉は本来、品質管理と言う職業(工場で作る製品の不良を
出さないように管理、又は出てしまった不良を2度と出さない為に対策を講じる
仕事です。)で使われるものです。

「なぜ?なぜ?」と現象を掘り下げて行くうちに真の原因を突き止められる便利な
手法で、基板のトラブルが発生した際に今回の話の内容を覚えておけば、
少しは役に立つかも知れないと思いUPするもので、皆様が同じ思いをしない
為に少しお役に立てば幸いです。
真の原因を突き止めずにいると、又同じトラブルに見舞われるものです!
「何も悪い事していないのに基板が壊れた!」と言うのは実はきちんと
原因があって起きているもの
であって、それに気付かれていないだけの事なのです…。

ここでは基板のトラブルが発生した時を想定し、それが何の原因で
発生していたのかを実話を元にやってみましょう。
(該当する基板屋さんのお名前は伏せさせて頂きます。)



−トラブル実例−

某基板屋さんより購入した「ドンキーコング」の基板、「ハーネス付き」
だったのでそのままコントロールBOXに接続したら、画面は正常に写るが、
VGMが鳴らない不具合のある事が判った。ジャンプ音等の一部の効果音
だけは鳴る。

さて、早速「なぜなぜ分析」の開始です。

1.なぜVGMが出ないのでしょう?
 音声関係のトラブルは「音声ボード」(3枚基板で構成されるこの機種、一番上の
 小さいボードを指します。昔の基板は「音声ボード」が独立しているものが少なく
 ありません。)系統が故障しているものです。
 別なドンキーコングのジャンク基板より音声ボードを外し、交換することで、
 VGMは正常に鳴り出す事を確認できました。

2.なぜ音声ボードが正常に動作しないのでしょう?
 一部の効果音は鳴る事から少なくても音声出力の最終段、ボリュームや
 音声アンプ等は壊れていない事が判ります。
 基板の外観を確認しても、基板の割れやパターン断線等の不具合は見受けられ
 ません。
 VGMの全てを制御しているのはどうも基板上のZ80CPUである可能性が高い
 事が判り、ソケットに再度挿し直してみましたが、それでも不具合は治りません。
 最後に「Z80」を良品に交換したところ、無事VGMが鳴り出し、不具合は治り
 ました。

 本来であれば、大概の方はここで「めでたしめでたし」で終了してしまい
 ますよね。
さてここからが「なぜなぜ分析」の本領発揮です!!

3.なぜCPU「Z80」が壊れたのでしょう?
 CPUは他のTTLICと違い、内部の集積度も高い事から、高い電圧が加わると
 一早く壊れてしまうデリケートな電気部品
です。
 再度高い電圧が加わった可能性が無いか、基板を注意深く調べてみると、
 なんと「12V電源ライン」のコードが切れ掛けて、中の芯線の一部が
 ばらけており、隣接する「5V電源ライン」に殆ど接触しかけている事が
 判りました。
 試しにコードを動かしてみると、芯線は5V電源ラインと接触する不具合が再現
 する事が判りました。
 
 この事から、今回起きた基板の不具合は切れ掛かったコードの芯線が隣の
 パターンと一瞬ショートし、一番デリケートなCPUが異常電圧で壊れていた事が
 原因
と判りました。
 本職の品質管理屋なら、本当に同じ壊れ方が再現するのか良品を使って
 再現試験をするところですが…皆様は真似しませんよう。(^^;

 さて、切れ掛かったコードを修理する事で2度と同じ故障が発生する心配は
 無くなりました。これに気付かなかったら、また同じ故障を起こす所でした。
 さて、実はまだ先があるのです!!もっと原因を掘り下げてみましょう!!

4.なぜコードが切れ掛かっていたのでしょう?
 さてさて、「ドンキーコング」はもう15年以上も前の古い機種です。
 どうしても各部にガタが来ているのは仕方の無いところ。しかしながら、
 コードが切れかかってショートを起こす可能性のあるものを見過ごして
 そのまま出荷した基板屋さんに落度があった
こと、
 それから基板が届いた時にそれを確認もせず、
 直ぐにコントロールボックスに繋ぎ通電してしまった館主にも
 少なからず落度がありました。
 現在館主は同じ事故を起こさぬよう、通電前にはコードやコネクター類を確認
 することと、付属のハーネスは信用せずに大概は自分で新規に作り直すように
 しております。

 実際付属のハーネスの結線ミスも随分昔にありましたし、結局最後に信用
 できるのは皆様自身の目なのです。
 勿論基板屋さんに悪気がある訳ではありませんから知ってて下さいね。

 さて基板屋さんの落度に付いて更に「なぜなぜ分析」を続けてみましょう。

5.なぜコードの損傷が発生したのでしょう?そして見逃したのでしょう?
 実際にこの基板屋さんを訪れて基板の保管状態を確認してみるとどうでしょう。
 本来基板は縦置きに並べて、基板の反りによるトラブルを未然に防ぐもの
 なのですが、狭い店内、整理が全くできていない事から、検品が済んで
 出荷待ちの基板でさえ横に何段も高く積み重なっており、
 ハーネスが挿さったままの基板がぐしゃぐしゃに置かれた状態でした。
 これではいつ基板上のコードを誤って引っ掛けて損傷を与えても不思議では
 ありません。
 それから大変仕事が忙しい事から動作確認だけ行っているようで、
 基板の状態までとても確認できていない事が判りました。

 これ以上分析を進めると、基板屋さんの体質の問題に及んで来るため、分析は
 ここで一旦終了させて頂きますが、最終的には以下の事が真の原因になって
 いたことが判りました。

−真の原因−
 この基板屋さんに基板の検品の手順(ルール)や明確な管理ポイントと言う
 ものが業務上存在しない事から、基板の不具合が発生・流出していたもの。

−この基板屋さんが取るべき対策−
 この体質が続く限り、同様なトラブルが再度発生する可能性は十分にあります。
 対策としてはまず基板の検査ポイントを決め、それを漏らさずチェックするよう
 業務上のルールを決める事です。

-6月14日補足ー
 同業者のK氏より「まだまだ『なぜなぜ』の突っ込みが甘い!」と指摘を
 受けました。
 (同業者はこれだから…(^^;)館主も読み直して気が付きましたが、上記対策は
 「流出原因の対策」しかありませんでしたね。
 「発生原因の対策」が抜けておりました。

-発生原因対策の追加-
 「基板を剥き出しにしたまま乱雑に横積みする事をやめ、検品する基板のみ
 必要最小限にラックから取り出す等、保管方法及び取り扱い方法を
 是正する。」
 … …こんなもんでいいですかKさん?
 …え?まだ甘いですって?もう勘弁して下さい…(^^;

−あとがき−
 皆様如何でしたしょうか?大変固い話で申し訳ありません!ですが、
 皆様が同じ目に会わないよう、又は折角修理できた基板が又壊れる事が
 無い事を祈り、一つの考え方としてUPさせて頂きました。

 但し勿論、全ての基板屋さんの体質がこうなのではありません!!
 今回の実例は極めて特殊なものです。大概の基板屋さんはきちんと管理されて
 おります。
 例えば大阪のテクナートさんは、まず手順として、基板に付いた埃等の汚れを
 落とす事から始まり、一連の検品手順が終了したら自社シールを貼り付ける
 作業が行われているようです。
 きちんと「保証期間」まで設けているのは、行き届いた品質管理の自信の表われ
 ではないかと館主勝手に推測している次第であります。

 それからどの基板屋さんも日々自社の業務改善に努力されている事も事実で
 ある事を更に付け加えまして、今回の話を終わらせて頂きます。

 …皆様、肩が凝りましたね、申し訳ありません。(^^;

                                文責:館主


 



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