対
人
社
会
動
機
検
出
法
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対人社会社会動機検出法 (寺岡隆著) から
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5.国際比較
国際比較問題
すでに述べてきたように、「IF-THEN法」は、@社会動機に
対する検査技法としてかなり検出力があるように思われること、
A社会動機間題に関する国際比較的研究にほかにはない有力な武器
になり得る構造的特質を備えていると考えられること、Bこれまで
の考察から、対人関係における個人的な社会動機には文化差などに
よる差異があるのではないかということ、Cその差異はこの技法で
検出可能な範囲内にあるのではないかと考えられること、Dこのよ
うな研究資料は従来なかったといえること、などが著者に国際比較
問題に目を向けさせるきっかけになったという事情があるが、もと
より、国際比較研究というのは、本来、種々の隘路があってなかな
か思うようにはデータを収集することができないし、本格的な国際
比較による交差文化的研究をするにはかなり大掛かりな実施計画と
実行力と協力体制と実施準備が必用になってくるものである。
したがって、ここで紹介しようとしている調査内容も、それほど体
系化されたものではなく、たまたま得られたデータを基礎として、
このような国際比較研究への礎とすることを意図したものにすぎな
いが、それでも、そのなかに、実施してみなければ得られない貴重
な情報が含まれていればそれだけの価値は十分にあるものであると
考えられるので、本章では、「IF-THEN法」で得られた国際
比較のデータの一部を分析した結果についてそのエッセンスを紹介
することにする。
実施状況
国際比較研究に限らず、一般に、比較をする場合にはできるだけほ
かの条件は統制することが望ましい。現実には、この種の研究の宿
命ではあるが、そのような線に沿ったデータを収集することは困難
であるので、ここでは、たまたま訪問できた数ヶ国で比較的収集し
やすい大学生のデータを収集したという点で統一したに過ぎない。
その国におけるその大学の地位などについても相対的に水準を合わ
せることなどは困難であり、実施時期も同時期とはいえないし、ま
た、教示を与える実施者も同一人物ではない、という意味において
、本研究は十分に統制された群に対して実施されたというわけでは
ない。しかし、教示者は、著者とそれぞれ十分な打ち合わせをした
上でその地域における言語に通じたいわゆるnativeな言語を
話す心理学研究者(多くは心理学教授であるが一部は研究員や教授
の指導による大学院学生)ということで統一しており、可能な限り
は統制ができたといってよいものであった。
被験者群はFIG.4-8に示されているように、分析は基本的に
は国別・群別・性別を単位として行っているが、形式上、国別の総
数だけでいえば、日本222名(男141・女81)・米国334名
(男88・女246))・オランダ93名(男28・女64)・ロシア
188名(男69・女119)・韓国l48名(男36・女112)
・中国166名(男71・女95)・香港(返還後)80名(男40
・女40)・台湾145(男110・女35)である。ただし、論
議の便宜上、日本と米国はそれぞれ2群に分けて整理した*8。
FIG.4-8の成分分布の数値のかなりの部分は相互比較のため
にあえて重複して掲載されている。実験事態はいずれの被験者群も
教室で実施する集団実験で、教示者が実施方法について説明したあ
と、「標準IF-THEN法」の「基本型」に基づいた一般反応傾
向検出検査を第1実験として実施し、ついで、第2実験として教示
を与えて条件別の実験を実施した。この場合の条件別は前章におい
て説明した「信頼関係」(T条件)・「敵対関係」(H条件)・
「無関係」(U条件)の3種の条件で被験者の約3分の1ずつが各
条件に割り当てられて実施するということで統一されている。いず
れの被験者群でもその国の言語で書かれた教示用紙(香港だけは英
語・中国語の2種が表裏に印刷されたもの)が配布され、その上で
教示者がほぼ一定の仕方で説明をするというかたちで行われている
。実施時間も両実験で教示時間・回収時間を含めて約70〜80分
程度である。教示者は、それぞれその国における心理学者(教授が
大部分であるが群によっては高等研究員・大学院学生など)で
nativeな言語による教示が与えられた。課題系列は基本的に
はいずれも同一のものであるが、反応用紙・教示用紙に記載されて
いる見だしや反応記入方式などの説明は当該言語圏の言語で印刷さ
れているものを用いた。ただし、実施時期は1988-1997に
わたるので同一時期ではない。
分析結果
ここでは国際比較の例示という意味で第1実験、すなわち、「標準
型基本方式Jによる実験結果だけを示すに留める。各群における動
機成分分布はFIG.4-8に示された通りである。いちおう、各
群ごとに概括的に説明を加えれば、日本の被験者は北大と北星学園
大の2群であるが、全体にまとめてしまったこともあって類似した
傾向を示しているように見え、また、男女差も小さく、どちらの群
も「平等」(D0)・「単利」(A+)・「優越」(D+)が優位
になっているが、その順位は微妙に異なり、北星学園大では「平等」
・「単利」(約30%)が突出している。一般反応傾向ではどの国
の被験者でもこの3種の成分が主要動機群になるといってよいが、
興味の焦点はこれらの相対関係といってよいであろう。韓国嶺南大
では、男女とも「優越」(50〜40%)が圧倒的に高いことが指
摘でき、かなり落ちて「単利」・「平等」となる。米国キャリフォ
ルニア大では男女とも「優越」・「平等」(40〜30%)が高く
、「単利」が第3位であるがそれほど高いわけではない。これがデ
ラウェア大となると、男女とも「優越」(60%)が圧倒的優位を
占める反応傾向になり、他は10%程度になる。・オランダ・フロ
ーニンゲン大では男女差があるが「優越」と「単利」(約40%)
の2成分が突出し、かつ、「平等」が著しく低い傾向を示す。これ
に対して・ロシア・モスクワ大では、「平等」・「単利」・「優越」
・「共栄」などがほぼ同等(20〜10%)のいわば温和な反応傾
向になる。いわゆる温和な傾向はアジア系の中国(北京大・師茫大
・協和医大)・台湾(清華大)でもある程度類似した傾向がみられ
るが、香港(バブテスト大)は「単利」・「優越」(約30%)が
同等に優位で「平等」(20%弱)がこれに続き、むしろアメリカ
とオランダをミックスしたような傾向でそれほど温和とはいえない。
以上の傾向がなにを意味しているのかということは、社会心理学的
にたいへんに興味があることのように思われるが、これらの結果は
いわはマクロなかたちでの傾向であって、限られた少数被験者に対
ずる大雑把な分析から早急かつ大胆な社会心理学的結論は出すべき
ではないし、適用例を示すという本書の意図を逸脱するので、これ
以上の深い論議はあえてしないことにするが、より実施条件を詳細
に統一し、本検査とは別個に付加的質問紙なども用意してさらなる
分析を試みれば・かなり信頼性のある興味ある社会心理学的分析が
可能になるのではないか、少なくとも「IF-THEN法」はこの
ような調査の主検査に十分になり得るのではないかと思われるので
ある。
標準型特定方式による比較
FIG.4-9は・前記実験の第2実験で用いた3条件のうち、「
相互信頼条件」の結果の一部である。国際比較における興味ある結
果と思われるのでここに紹介しておこう。
「相互信頼条件」では、
当実験では、具体的な相手として、恋人とか婚約者とか伴侶など、
異性を想定させている。現在該当する人物がいない場合にはいると
仮定してその架空の人物を相手として反応することを要請させてい
る。ここでは、被験者としてはアメリカとオランダの女子学生を対
象とした。結果からわかるように、アメリカ西部のキャリフォルニア
の女子学生では、圧倒的に「平等」(D0の出現率が高く、ヨーロ
ッパにおけるオランダのフローニンゲンの女子学生では「平等」も
出現率がかなり高いが、「単利」(A+)と「共栄」(S+)が他
群にくらべて高いということに注意していただきたい。「平等」が
高いというのは、極端な表現をすれば、得をしようが損をしようが
なにがなんでも相手と「平等」でいたいということであり、「共栄
」が高いということは、同様に極端な表現をすれば、自分が損して
相手より低い得点でもよいから2人の得点の合計が高ければよいと
いうことを意味する。
同じアメリカでも東部に近いデラウェアの女子学生の反応傾向は、
一般反応傾向もふまえて考えると両者の中間的傾向を示しているよ
うにもみえる。このことからただちに精神文化の差や流れを云々す
るのは危険であるが、少なくとも、そのようなことをふと感じさせ
るような結果を示していることは興味あることではないであろうか
。また、「IF-THEN法」を用いて大々的に調査すればこの技
法はそのような基本的傾向を明らかにできる特質をもった心理検査
であるということを示唆したことにはならないであろうか。
北大路書房刊
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(寺岡隆 『対人社会動機検出法』から。 北大路書房, 2000)
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