対人社会社会動機検出法 (寺岡隆著) から

[最初にもどる]

[ ページ 1 ]



2.群間比較

実施状況1

 まず、群間比較の例として被験者の所属集団が異なる群間比較の実 例を示す。データは、「標準型基本方式」による二つの集団実験の 分析結果である。被験者は北海道大学教養部学生合計124名で文 科U類1年生が70名(男子51・女子19)、医学進学課程(数 名の歯学進学課程学生を含む)1年生が54名(男子47・女子7 )で、データは通常の講義時間内で収集された(寺岡・目黒1982)*5。

分析結果1

 このデータは「標準IF−THEN法」で相手を限定しない一般的 事態で行った場合のデータで、分析結果はFIG.4-3に示され ている。いうまでもなく両群ともいろいろな型の被験者が混在して いるが、この分布は各集団ごとに算出される各動機成分の平均値の 分布である。  この平均値の分布でみた場合、出現比率が高いのは両 群とも「単利動機成分」(A+「優越動磯成分」(D+)であるこ とにすぐ気がつくであろう。あとは「平等動機成分」(D0がいく らか出現しているが、基本的にはA+とD+だけが突出して、ほか の成分はパラパラとわずかな数値で出現しているだけである。雑駁 な表現をすれば、通常の人間であれば、だれでも自己得点をあげよ うして単利動機が高くなるのは自然であろうし、競争事態ならば優 越動機が優勢になるのも自然であろうから、この両成分がほかの成 分よりも高くなるのは至極当然であろう。これ以外の動磯成分で自 虐動機・共倒動機などの成分の出現率はかなり低いが、これも常識 的に十分理解ができよう。むしろ多少とも出現しているということ を問題とすべきかもしれないが、これはそうした動機で反応してい るというよりは、ランダム的反応が含まれているために疑似成分と して検出されてきてこのようなかたちになったと解釈した方が自然 である。以上の傾向は、経験的にいえば、ほかの被験者群の場合で もおおむねそのようになるといってよい。その意味ではこの結果は きわめて自然で納得できる形状をしているといえよう。ということ は、「IF−THEN法」の結果は、基本的には、常識的に考えら れる結果になるということである。なお、被験者は男子に比べて女 子が少ないので、男女差のこまかい分析はしていないが、平均値に 関する限り大きな性差は認められなかった。  しかし、よくみると、医学進学課程のデータの社会動機成分分布は 文系学生の分布に比べて優越動磯成分が非常に高くなっているとい うことに注目して頂きたい。平均値で20%近くの差があるのであ る。現在この差を検定する方法が確立していないので統計学的有意 性を示すことはできないが、これくらいの人数の平均値でこれだけ の差があるということはかなりの差であるといってよいように思わ れるのである。「単利動磯」(A+)というのは相手利得は考えず に自己利得の上昇を目指す手を選択する反応傾向のことであり、「 優越動機」(D+)というのは、極端にいえば、自己得点が低くな ってもよいから相手よりは常に優越した手を選択するという反応傾 向を意味しているものである。ここに得られた結果をどう解釈する かという問題がこの場合の考察の主眼になろう。ここでは、実例を 示すことが月的であるので、それ以上、結果の解釈の問題には深く 立ち入らないが、一言注釈を加えれば、北海道大学の入学試験はい くつかの系ごとに合否がきまるが、医学進学系は独立の1つの系を 構成しており、北海道大学医学部は、東京などと比較してみれば、 昔から官立・国立が私立などに比べて価値的にはるかに重視される 一般的風土があるといえる北海道では、倍率問題だけではなく質的 問題も含めて、例年、最も激烈な入学試験になる最難関の学部とい われているところである。  この解釈問題はともかくとして、この実験結果は、「IF−THE N法」が群間の差をこのようなかたちでいみじくも検出することが できるかなり鋭敏な検査であるということを示唆しているデータで はないかと思われるのである。また逆にいえば、一般反応傾向の分 布における群間の差については、かなり差があるといってもこの程 度の差として検出されるものであるということを知っておかなけれ ばならないということである。

一致係数と安定群・不安定群

 ここで反応の「一致係数」についてひとこと触れておくことにする 。「一致係数」は、この場合、反応の信頼性あるいは反応の安定性 に関係する指標として考えてよいものである。この実験で得られた データにおける「一致係数」の全体の平均値はC=64.5(文系 62.4、医進65.5:男子66.0、女子55.1)であった が、C=100である被験者は124名中44名(35%)いた。 すなわち、約3分の1の被験者は前系列と後系列で選択基準をまっ たく変えずに反応しているということである。逆に、C=0である 被験者は14名(10%)いた。前系列と後系列で1個だけ検出パ タンで反応が違った被験者が26名いたが、100%の被験者と合 わせると約50%の被験者がかなり安定した反応をしていたことに なる。この傾向は、経験的にいえば、若干の例外はあったけれども 、大学生の場合、だいたいにおいてこのような傾向を示す集団が多 いのである。換言すれば、かなりの反応、少なくとも、半数程度の 被験者はかなり信頼できる反応をしているということである。 したがって、一致係数を規準として、個人をそれぞれ反応傾向に関 する「安定群」と「不安定群」のいずれかに分けて分析すると、通 常両群とも平均値の分布を反映した形で前者は極端化の方向に後者 は平滑化の方向にかたちを変化させることになるが、これらのかた ちがそれぞれ反応の反応分布の構造形態をかなり明瞭なかたちで浮 かびあがらせる機能をもつことになる。  この場合、2つの方向で情報を得ることができることを指摘してお きたい。1つは「安定群」の分布からの情報であり、ほかの1つは 「不安定群」の分布ないし、全体の分布からの情報である。まず、 「安定群」では、いわば疑似的な雑成分がまったく混入してこない ので出現率が0%の動機成分のところが多くなり、優位な動機成分 の出現率がその分ますます高くなる傾向があるので、その条件では どの動機成分が優位な動機成分になるのかということが明確になる ということである。しかし、「安定群」の場合は、逆にいえば、い くつかの動機成分の出現率が0になるところが多いだけに、社会動 機成分どうしの関係に関する情報が失われてしまうという側面があ る。通常、「不安定群」の分布にはランダム反応に近い反応も含ま れているであろうし、疑似成分もかなり混入してくる可能性が高い といえるが、それでもまったくのランダム因子だけではなく、全体 的にみれば潜在的ともいえるある種の反応傾向が認められることが ある。  たとえば、前記の実験結果において、ここでは一致係数の中 央値で62名ずつ半部に分けて安定群・不安定群(または上位群・ 下位群)と呼んだ場合安定群はD+・A+・D0の3成分だけで約 96%になるが、不安定群は、社会動機構造模型の循環構造に沿っ て出現状況(%)を示せば、S-(64)、B-(7.7)D+(29.4)、 A+(22.5)、S+(11.2)、B+(6.5)、D-(3.9)、A-(3.4)、D0(9.O) になり、これを分布図方式で描けばFIG.4-4のように「優越 動機成分」(D+)の出現率をモードとしてかなり奇麗といえる凸 型の分布の形状を示すことがわかる。こうした事実は、第1章で述 べた「社会動機構造模型」がたんなる机上で構築しただけの架空の 模型でなく、行動現象に対応をもっている模型であることを間接的 に証明していることになるが、それはともかくとして単に「安定群 」のみでなく全体のデータを種々の角度から眺めてみても、被験者 の反応群に内在する潜在的構造の特質が浮かびあがってくることに なるということをここで指摘しておきたい。 [最初にもどる]   [次を表示]

(寺岡隆 『対人社会動機検出法』から。 北大路書房, 2000)