対人社会社会動機検出法 (寺岡隆著) から

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2.群間比較

実施状況2

 上記の実施状況1に対する実験例では、「単利動機成分」(D+) ・「優越動機成分」(A+が優位な一般反応傾向として検出された 例について述べたが、このような傾向はきわめて常識的に理解され るけれども、このような傾向がどのような集団でも常に似たような 水準で出現ずるとは限っていない。もう1つの実例を示しておこう。 実はこのデータは後に比較のために用いるためのものである。 ここでは、北星学園大学文学部社会福祉学科学生(2・3年生) 98名(男子43、女子55)に対して実施して得られたデータを 示しておく(寺岡1991)。前例と同様に、授業時間を割いて実 施した集団実験で条件は「標準型基本方式」である。

分析結果2

実験結果はFIG.4-5に示された通りである。この表には反応 の「安定群」「不安定群」(本図ではupperとlower)ご とに結果が示されている。また不確定度も算出されている。  ここでは安定群はC=100%の被験者だけである。 この安定群の被験者 (男子16、女子18)のうち過半数は単一の動機成分であったが 、一部の被験者(男子6、女子3)はC=100ではあるが2種な いし3種の動機成分からなる安定した混合動機であった。この場合 、“安定した反応というのは16種の対応する検出パタンに対する 反応が前・後系列で全部一致したということで、通常は安定してい れば単一の動機成分だけか2種の混合動機成分だけになることが多 いが、きわめて稀ではあるが、すべての対応する検出パタンに対し て両系列でまったく同一の反応をするとC=100になるが、選択 反応が動機成分的に一貫性がなければ雑成分が混入したかたちで検 出されてくる場合があるということは留意しておくべきことであろう。 さて、動機成分分布に関していえば、やはり「単利動機成分」(A+) ・「優越動磯成分」(D+)が相対的に高い出現率を示しているが 、「平等動機成分」(D0)や「共栄動機成分」(S+)もかなり 高い出現率を示していることに気がつく。それだけでなく、おもし ろいことに、通常は安定群では平均値が高い成分はますます高く低 い成分はますます低くなるが、安定群では男女とも「優越動機成分 」(D+)が低くなり、特に男子は低く、女子では「共栄動機成分 」(S+)が低いこと、また、この安定群では、男子は「平等動機 成分」(D0)が高く女子でも「平等動機成分」(D0)は高いけ れども「単利動機成分」(A+)の方が高く「共栄動磯成分」(S+) が相対的に低いこと、などの傾向を示しているのである。なお、こ の集団での「一致係数」の全体の平均値は男子ではC=66.2で 女子はC=59.0であり、「不確定度」では、男子はU=0.39 で女子はU=0.42で、両群は類似しているが、女子の方がいく らかランダム性が高かったという結果になった。

集団特性

 前記の北海道大学の結果と比べると集団差がかなりあるというこ とである。これがこの実験における本来の被験者群の平均的な反応 傾向なのか福祉教育の結果なのかは不明ではあるが、福祉を専攻し ようという私立大学の学生、特に生涯を福祉事業に従事する可能性 が比較的高い可能性がある男子は、いわゆるふつうの国立大学の学 部学生とは平均的にみて多少異なる点があるのではないかというこ とを示唆した結果ではないかとも思われるのである。もしも、そう した傾向がほかの検査などでも検出されるとすれば、この実験結果 も「IF-THEN法」の鋭敏な検出力に関係したものであるとい える。ここではこれ以上結果の解釈という社会心理学的問題には深 く立ち入らないが、「IF-THEN法」は、集団の反応傾向、 すなわち、「集団特性」(group property)という概 念を客観的に測定できる技法になるのではないかということを示唆 しているように思われるのである。  なお、FIG.4-5下部に動機成分分布の各成分ごとに被験者 間における成分のちらばりに関する標準偏差が示されている。この 数値は数値群の構造からいっても出現率の高い成分の標準偏差は一 般に出現率の低い成分の標準偏差よりも大になるので、この表から はあまり深い情報は得られず、せいぜい出現率がほぼ等しい成分ど うしを比較する場合に有効という程度の指標であるので、通常は分 析には用いないことが多い。  以上、一般傾向の検出という点に関して、2つの被験者群に対す る分析例を示したが、これからわかることは、9種の動機成分の中 では、「単利動機成分」(A+)・「優越動機成分」(D+)がい わゆる常識的に高い出現率を示すが、これだけではなく、「平等動 機成分」(D0)・「共栄動機成分」(S+)も集団によってはか なり高い出現率を示すということである。換言すれば、この4種以 外の出現率は少なくとも一般反応傾向の検査で高い出現率を示すこ とはほとんどないといってよい。これらの結果はいわば“あたり前 "のような結果ともいえるが、これが「IF-THEN法」の実際 的妥当性の間接的吟味にもなっており、また、これらの数値群はど の集団でも同じではなく、いわゆる「集団特性」を浮き彫りにして 相互比較が可能なほど変化に富んでいる数値群ということである。 本書では、本書の目的から実験結果の細部にはあえて立ち入らない が、「集団特性」に関係すると考えられるこれらの実験結果の解釈 は社会心理学的にかなり興味のあることではないかと思われる。 [もどる] [次を表示]

(寺岡隆 『対人社会動機検出法』から。 北大路書房, 2000)