田中君の質問

こんなメールをいただいた。

はじめまして、いつもイギリス紳士様のページを楽しく拝見させていただいております。私は現在某私立大学の田中と申します。

イギリス紳士様の論文は読みやすく、面白く、勉強になり、何といっても説得力があって
お世辞ではなく惚れています。そこでパソコンという便利なインフラが普及した事もあって
イギリス紳士様直々に指導を受けれたらと思いまして、筆ではなくキーボードを取らせて頂いたのです。

簡潔に申し上げますと、
1、論文の書き方講座を読ませて頂いて解らない点があった:3のDevelopment
2、論文の経済学部の編入学試験対策でどのように答えて良いかわからなかった
です。

出来れば実際に
Introduction
Survey
Development
Conclusion
Note
Bibliography
に当てはめながら簡単(御書きになるだろう内容の要点)で構いませんから、
イギリス紳士様独特の鋭い切り口でどのような事を御自身であったら
御書きになるのかを知りたいのです。

そして以下が実際に解きにくかった過去問題です。

1、日本の社会は、しばしば「組織と個人」という観点から諸外国と比較される。
この側面を持つ社会問題を自由に取り上げて、この観点に立った議論を検討しなさい。

2、自然科学ないしは社会科学において理論モデルが果たす役割、ならびに理論モデルから
得られる予測の有用性といぎについて、考えを述べよ。

3、自然科学と社会科学の差異と共通性については、一方で、両者に共通の方法的な
特徴が見いだされると主張され、他方、全く異なると考える主張もある。
このような考え方の違いは、どのような理由によると考えるか。

4、世界の中の日本の役割

5、(4と似ているのですが) アジアの中の日本ーその過去・現在・未来・について、考えを述べなさい。

6、おそらくどのような分野でも、程度の差こそあれ、「事実はいいから意見を出せ」という主張と、「意見はいいから事実を示せ」という主張がぶつかる事があると思われる。 あなたが勉強してきた分野、あるいは勉強しようとしている分野で、こうした議論が生ずる状況を具体的に記述し、それについてあなたの考えを述べなさい。

ここの大学の論文の配点は大きいようなのでイギリス紳士様のような解答が書けたらと思います。
貴方様のお力にかかっております。
(本当に)よろしくお願いいたします。
大変長く申し訳ありませんでした。


【注意】
さて、これからこの方の質問に答えていこうとおもうのだが、ひとつ注意してもらいたいのは、仮に僕がこの試験をいまからいうやり方で答えたとしても、必ずしも合格答案となるわけではないし、一般的な解答となるわけでもない。

あくまで、『僕が』解答したなら、という条件付の話である。

【はじめに】

このテの問題は、『論文の書き方講座』で示したやり方とはまったく異なっている。

あれは研究論文であって、これは試験の小論文にすぎない。

したがって、イントロも必要なければ、文献一覧も必要ない。

強いていえば、3.Development を部分的に使うことになる程度だ。(しかし、『論文の書き方講座』のなかでも述べたが、Development のパーツは比較的自由に文章を展開できるので、結局はやはり研究論文の書き方とはまったく異なったモノである)

次に、問題のパターンを見てみると、『〜考えを述べよ』、『〜を検討せよ』といった質問なので、おそらく『モノゴトをどのように考え、分析できるか』という“知性”を問う問題であることがわかる。これと対照的なのが、『モノゴトをどの程度知っているか』という“知識”を問う問題である。いわば前者は京大タイプであり、後者は東大タイプといえよう。

したがって、この試験に対しては、おそらく知識を積み重ねることよりも、いかにスマートで論理的な論文を書くことができるか、という点のほうがより重要になってくると思われる。


【問題の解き方】

1.質問に答えるためには、『何が求められているのか』を把握しなくてはいけない。

たとえば、(1)では『社会問題を取り上げて〜検討せよ』、(3)では『理由を述べよ』、(6)では『こうした議論が生ずる状況を具体的に記述し、それについてあなたの考えを述べなさい』となっている。これらに応じて文章を組み立てないと、質問に答えていないことになる。

2.質問の題意、つまり期待されている視点なり分析が何であるかを読み取らなくてはいけない。

たとえば、(1)は『1、日本の社会は、しばしば「組織と個人」という観点から諸外国と比較される。この側面を持つ社会問題を自由に取り上げて、この観点に立った議論を検討しなさい。』という問題だが、これはすなわち、『欧米文化における個人主義傾向と、日本における全体主義傾向のあいだで生じる齟齬“論”について議論せよ』ということに他ならない。

経済の話で具体例を出すとすればそれはすなわち、日米構造調整会議で焦点となったような、『談合システムと海外企業へのオープン性』、『日本の国内企業群の閉鎖性と、一企業単位でのフェアな市場競争を求める欧米企業』といったテーマに終着しうる。

このように、概ね質問の文面は、『期待されている論文内容のヒント』であることが多い。そしてそれを読み取って、論文を展開する必要がある。(もちろん、出題者の予想外の議論を展開することも可能だが、それはやはりリスクが高いし、ここで紹介するのは不適切だろう)

3.メモ書きをとる

これは、『自分のためのヒント』ですな。たとえば、(3)の質問に対しては、僕なら、

・自然科学:例外なしに物理法則が適応できる力学。証明可能。実験可能。
・社会科学:例外が存在する、社会における力学。証明不可能(事後的に分析が可能なだけ。しかもさまざまな干渉要素がある)。理論の展開には前提条件が必要。実験不可能。

くらいのことをメモしておく。

4.パターン

800〜1000字の小論文ないし作文の場合なら、以下にあげるパターンのいずれかで対応できると思う。どれも基本は一緒なのだが。


≪理由を示せ≫
問題提起

結論

根拠@

事例@

根拠A

事例A

根拠B

事例B

結論
(→場合によったら新たな問題提起)
≪どうすればよいか?≫
問題提起

(前提条件)

手段@

根拠@

手段A

根拠A

手段B

根拠

有効範囲ないし注意点などの補足
≪諸説について議論せよ≫
問題提起

第1説の紹介

肯定的側面の分析

否定的側面の分析

第2説の紹介

肯定的側面の分析

否定的側面の分析

・・・

任意の一つを取り上げて、根拠とともにそれが優れている点を述べる。


【解答例】

さて、ここでひとつパターンに沿って解答例を作ってみたいとおもう。

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