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  永住外国人の地方参政権


 この回の授業では、日本で暮らす外国人の状況を解説した後、次の課題で生徒たちにレポートを書いてもらい、それをもとにクラスで在日外国人の地方参政権をテーマに討論しました。在日外国人の地方参政権について、生徒の反応は、選挙権では賛成が8割、被選挙権では賛否の比率が逆転し、賛成3割という割合でした。

【課題】 現在、日本の永住資格を持っている外国人は約63万人います。そのうちの52万人あまりが韓国籍・朝鮮籍で、戦前の植民地政策によって日本に来た人たちやその子孫で、「特別永住者」と呼ばれています。在日二世・三世の場合は日本で生まれ育った人たちですが、日本の国籍は血統主義というしくみを採用しており、日本で生まれ育った人でも両親が外国籍の場合は日本国籍は与えられません。こうした永住外国人は、日本人同様に社会生活をし、日本語を話し、税も納めていますが、現在、いくつかの権利が制限されています。公務員のいくつかの職につくことができない、国政・地方ともに参政権がない、定期的に外国人登録をするために法務局へ出頭しなければならないなどです。1980年代以前は、すべての公務員職につくことができず、国民健康保険や国民年金にも加入できなかったのですが、1979年に国際人権規約、1982年に国連難民条約に日本が加盟したことをきっかけに少しずつ永住外国人の権利は拡大されてきました。
 ここでは地方参政権に焦点をしぼって考えていきたいと思います。次のAとBの会話を読み、永住外国人の地方参政権を認めるべきかどうか、あなたの考えをすじみちだてて述べなさい。(1000字程度)



A 「そもそも参政権というのは、選挙や住民投票によって政治に参加し、国の舵取りをする権利だよね。言い換えると、国というワク組みをとおしてその国に所属している国民が政治に参加するしくみだといえる。だから国籍に関係なく日本の参政権が保障されるっていうのは原則からはずれるものだよ。もし外国人にも参政権が保障されたら、国民主権の原則がくずれてしまうし、国というワク組みがあいまいなものになってしまう。それに、外国人は日本という国家へ忠誠を持たず、国民として日本に所属していない人たちなわけだから、そういう人たちが参政権を持って政治参加するっていうのは無責任だよ。国籍と参政権はひとつのセットになっているものだと思う」

B 「でも、在日の人たちをはじめとした永住外国人は、この社会の一員として長く日本に暮らしている人たちだよね。日本で生まれ育った人も多い。地域の一員として暮らし、税金も納めている。こういう人たちに参政権がなく、社会の重要な決定に参加できないっていうのは現実を無視しているように見えるよ。日本の社会は日本人だけのものではなく、そこに暮らすすべての人たちのものだと思う」

A 「それは理想論だよ。もちろん地域でともに暮らす外国人の人権や生活権を守り、互いに信頼関係を深めていくことは大事だよ。でも、こうした外国人の人権を守ることと参政権とはまったく性質が違う問題だ。それに税金を納めているというのは道路を利用したり警察や消防といった行政サービスを受ける対価であって、参政権の保障とは別だよ。参政権がないから税金を免除するなんていう国は世界中どこにもない。現代は国家が国民の利益を代表して国家間で互いに利害を調整している社会だよね。政治・経済・文化の様々な分野で国際問題が起きている。だからその人がどこの国に所属しているかというのは重要だよ。国連だって国籍のない人は職員として採用してくれない。そういう意味で、外国人に参政権を保障するっていうのは国の主権がゆらいでしまうし、国際情勢の原則からはずれることにもなる」

B 「それは19世紀的な世界観だよ。19世紀の帝国主義の時代では、国家同士が互いの利益をぶつけあい、力と力の関係の中で戦争や植民地支配をくり返してきたけど、現在はそういう時代ではなくなってきている。国際社会の中で人々が国家というワク組みを超えて話し合い、互いに協力しあっていく時代になりつつある。NPOの国際的な活動もさかんだし、国境を越えて人や物の移動もどんどん増えている。国際便の飛行機の搭乗者数はのべ人数で年に5億人にも上る。ヨーロッパ諸国では10人に1人や2人が外国人という国も多い。だから、スウェーデン、ノルウェー、デンマークといった北欧諸国やオーストラリア、ニュージーランドでは3年くらいそこに暮らしている外国人には地方参政権を認められている。お隣の韓国でも、永住外国人には地方参政権が保障されるようになった。そういう時代に国のワク組みを強調して、日本は日本人だけのものだと言わんばかりに愛国心や国家への忠誠をとなえるのは時代錯誤だよ」

A 「でも、第二次世界大戦後もあいかわらず国家間の戦争は続いている。最近では湾岸戦争にイラク戦争、それに日本では拉致問題が表面化してから北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国との関係もあやしくなっている。国同士が互いに利益をぶつけあう力関係の中で国際社会が成り立っている状況は現在も変わっていないんじゃないかな。国を超えて世界中の人々が協力しあう時代になってきているというのはおとぎ話に見えるよ。それに、永住外国人に地方参政権のある国は北欧をはじめとして20数カ国あるけど、そういう国では、労働力確保のために外国人労働者を積極的に受け入れているっていう事情が背景にあるんだ」

B 「北欧諸国が外国人の地方参政権を認めているのは、たんに外国人労働者を呼び込むためでなく、住民参加の地方自治を大事にしているからだよ。そういう北欧諸国の取り組みを特殊なケースのようにいうのは根拠のない指摘だよ。それにここで話し合っているのは、永住外国人が総理大臣や外交官になれるかっていう話じゃなくて、地方参政権についてだよね。地方行政のほとんどが住民サービスに関することだから、地方参政権の保障は日本国籍のあるなしに関係なく、住民としてその地域に暮らしていることが重要だと思うよ。例えば、老人の介護サービスをどうするかとか、近所にゴミ焼却場や原子力発電所ができるなんていう場合、国籍に関係なく住民は大きな影響を受ける。そうした問題を決める場に、日本で長く暮らしている永住外国人が参加できないというのはすじが通らないよ。だから、すでに住民投票では、条例を改正して外国人の住民も投票できる自治体も出てきている。首長や議員の選挙でも地域に住む外国籍の人が参加することで、ともに地域を支えているという意識が出てくるはずだよ」

A 「地方行政と国全体の行政とは一体のものだよ。例えば、原発建設の是非は地域住民の問題でもあるけど、同時に日本全体のエネルギー政策にも関わってくる問題であって、両者をわけて考えることはできない。だから、地方行政だけならかまわないという安易な発想は間違っているよ。日本社会の中で参政権を行使したいのなら、まず、日本に帰化して国籍を所得するべきじゃないかな。参政権が国籍保有者に保障されるしくみというのは近代国家の原則だし、日本に帰化することで日本社会の一員としてこの社会を良くしていこうとする意志をはっきり示すことになるわけだから、そのほうが好ましいと思うよ」

B 「多くの日本人はこの国に生まれたというだけで日本国籍が保障されるわけだよね。それなのに外国人についてだけ、日本への忠誠心を示さないと参政権を与えないというのは矛盾しているし、国籍が違うというだけで疑ってかかる姿勢は差別的だと思う。外国人の場合も、日本に長く住んでいるというだけで十分、地方参政権を保障する根拠になるはずだよ」

A 「それは逆で、日本という国を支えていくために日本人の愛国心や国家への忠誠心を高めていくことが大事だと思う。それに、アメリカ合衆国では外国人に地方参政権はないし、ヨーロッパ諸国でもフランスやドイツといった大国ではEU圏外の外国人について地方参政権を認めていない。国際社会の主流はあくまで参政権と国籍はセットになっているという考え方だよ。だから外国人でも住民として長年そこに暮らしている事実があれば参政権を認めるという発想は乱暴だよ」

B 「アメリカやイギリス、フランスの場合、国籍のしくみが日本と違って生地主義だから、そこで生まれた子供は親の国籍に関係なくアメリカ、イギリス、フランスの国籍が与えられる。たとえ両親が不法入国者であったとしても、国内で生まれた子供には国籍が保障されるしくみになっている。だから生地主義の国では、国内で生まれ育ったのに外国人という子供は基本的に存在しない。在日韓国・朝鮮の人たちが二世、三世の世代になっても日本国籍が保障されないのとはぜんぜん状況が違うよ。それに、ベルギー、フランス、イギリス、ギリシャ、アイルランド、イタリア、オランダ、ポルトガルといった国では成人の二重国籍も認めていて、以前の国籍を抹消することなく、新たな国籍を所得できるようになっている。だからヨーロッパでは、当たり前のように二重国籍、三重国籍の人たちがたくさんいる。そういう事実を無視して、参政権と国籍はセットになっているのが国際社会の主流だとか、国籍は愛国心と忠誠心のあらわれだなんていうのは時代錯誤もはなはだしいよ。外国人はみんなスパイだとでも言いたいわけ?先進国の中で、日本みたいに国籍所得の申請が困難だったり、両親が外国籍だからといって国内で生まれ育った子供にまで国籍を与えなかったりするのはめずらしいよ」

A 「アメリカやオーストラリアは移民の国だから国籍に生地主義を採用しているわけで、日本とはまったく歴史が違うよ。日本の場合、民族意識によって社会をまとめてきたわけだから、それがなくなってしまったら日本社会がバラバラになってしまう危険がある。それぞれの国にそれぞれの歴史があるわけだから、なんでも欧米式のやり方をまねすればいいっていうのは間違っているよ。実際、アジアの国のほとんどは日本同様に血統主義を採用していて、両親が外国人の場合、子どもに国籍は保障されないし、帰化の審査は韓国や中国だって日本以上にきびしい。日本に永住している外国人は圧倒的にアジアの人が多いわけだから、日本の国籍制度を国際状況の異なる欧米と比較するよりも、アジアの国々と比較した方が妥当だよ。それにヨーロッパの場合は、EU統合によって国籍の申請が簡素化されてきたわけで、EU圏外の者が新たに国籍を取る場合の審査は依然としてきびしい。例えばドイツには、トルコから来た出かせぎ労働者やその家族が大勢くらしているけど、彼らのドイツ国籍の所得はきびしく制限されている。ドイツ国籍のしくみは日本と同様に血統主義だから、トルコ人労働者の家族はドイツ生まれの2世・3世でもやはり「外国人」として暮らしている。アメリカもヒスパニック系の不法移民が増加して社会問題になっているから、最近ではアメリカ国籍を取るのはどんどん難しくなっている。すぐにでも地球市民になれる時代が来るかのように言うのは甘すぎると思うよ」

B 「植民地にされた歴史を持つアジアの国々と侵略した側である日本とを同列に論じるのは間違っているよ。アジア各地での植民地支配から人々が立ち上がって外国の侵略に対抗するためには、ナショナリズムは有効だし、その後の国づくりもナショナリズムを拠り所にするっていうのもある程度仕方ないと思う。でも、日本の場合は、逆に極端なナショナリズムによってアジアを侵略した歴史を持っている。そういう日本が戦後もナショナリズムにこだわりつづけるっていうのはまずいと思うんだ。韓国は植民地支配からの自立ということでナショナリズムを強調して国づくりをしてきたけど、外国人の増加と国際化による政策の転換によって2005年には公職選挙法が改正されて永住外国人の投票も可能になった。一方で、侵略した側である日本がいまだにナショナリズムを強調する政策をつづけて外国人の参政権を認めないのは、過去の侵略の歴史を反省していないように見えるよ。ナショナリズムによって社会をまとめようとするやり方は、「同じ」であることを社会の求心力にするわけだから、そういう社会では、マイノリティや立場の異なる人を差別・排除しようとする傾向が強まる危険をはらんでいる。この同質性を指向する社会傾向が、日本ではアイヌの人々や在日朝鮮の人々への差別につながっていったわけでしょ。確かにナショナリズムは自分たちは同じだという意識によって強い団結力を生みだすから、19世紀の帝国主義の時代には外国の侵略に対抗するという意味で効果があった。でも、現在は国際情勢も大きく変わったわけだよね。もはやナショナリズムという同質性で社会をまとめようとする発想自体が現代の社会にそぐわないと思うよ。それに、在日韓国・朝鮮の人たちの場合、日本で暮らすことになった原因は日本の植民地支配にあるわけだよね。戦前・戦中の日本の植民地支配によって彼らを一方的に日本人にした。そういう中で彼らは日本へ出かせぎに来たり、強制連行によって日本につれてこられて奴隷労働をさせられたりしてきた。ところが、日本が戦争に負けて植民地を失ったとたん、今度は一方的に彼らの日本国籍をはく奪して朝鮮半島に追い返そうとした。そういう歴史的事情のある人たちに、日本で権利が保障されたいなら日本国籍を取れというのはあまりにも傲慢だし、歴史的な理解に欠けているよ」

A 「彼らの日本国籍が失われたのは、日本が戦争に負けて朝鮮半島が植民地から独立したためだから、それは仕方のないことじゃないかな。たしかに植民地支配や強制連行そのものは正当化できないけど、日本の敗戦によって彼らが日本国籍を失ったことにまで日本の責任はないと思うよ。それに彼らは戦後、朝鮮半島に帰るか日本に残るかを選択できる立場にいた。実際、大戦末期の1945年には韓国・朝鮮の人たちは約200万人が日本にいたけど、戦後の5年間でその半数以上が朝鮮半島に帰国している。だから日本に残った人たちは自分の意志で日本に暮らすことを選んだといえる。そういう人たちが日本で永住していくためには、日本国籍を所得して立場をはっきりさせたほうが良いと思うよ。永住外国人というあいまいな立場のまま参政権まで認めてしまったら、現在のあいまいな状況がこの先もずっと続くことになってしまうよ」

B 「帰るか残るか選択できる立場にいたというのは、間違っているよ。日本政府は、200万もの植民地出身者が戦後も国内にいるのは困るという判断から、彼らに朝鮮半島へ帰るようにうながしていた。帰還をうながすために、日本政府は在日の人たちに北朝鮮が地上の楽園であるかのように言ったりもした。植民地出身者の日本国籍はく奪もそのひとつだよ。そもそも、戦後の混乱のなかで、朝鮮半島に帰国するか日本に残るのかをはっきりさせろというのは乱暴なやり方だったと思うよ。ドイツの場合は、第二次世界大戦中にオーストリアを併合したけど、戦後、西ドイツ国内に暮らすオーストリア人については国籍選択権を保障して、本人が意思表示すればドイツ国籍が回復できるようにした。それに対して日本の場合は、戦後、在日韓国・朝鮮人に対していっさい選択権を認めず、一方的に日本国籍をはく奪して、もし日本国籍が再度ほしければ今度は外国人としてあらためて申請しろというやり方をした。日本国籍の審査はすごくきびしくて、手続きに何年もかかるし、何度も法務局へ行って審査を受けなければならない。帰化の際には名前まで日本ふうに改めるよう指導される。これは実質的に、お前たちはもう日本人ではないんだからとっとと日本から出て行けと言っているのと同じだよ。そのために、在日韓国・朝鮮の人たちは1965年までは永住権すら認められず、いつ国外追放になるかわからない不安定な立場におかれた。そうした日本政府のやり方に植民地支配の反省はまったく見られないよ」

A 「じゃあ、日本の植民地政策に原因のある在日韓国・朝鮮や台湾の人たちについては、申請すればすぐに日本国籍が所得できるようにすればいいと思うわけ?」

B 「うん。日本生まれの二世・三世だけでなく、在日一世についても、まず日本国籍を保障するべきだと思う。彼らについては、地方参政権なんて限定的な権利だけでなく日本国籍自体を保障して二重国籍を認めるべきだよ。心の祖国として朝鮮半島とのつながりを捨てたくないっていう人も多いだろうし、10年くらいの期間を設けて、その間にどちらの国籍にするか選んでもらうのが植民地支配に対する日本政府の責任だと思う。そういう歴史的背景のある人たちに対して、日本国籍が取りたければ何年もかけて手続きしろなんていうのは間違っているよ。あと、それとは別に日本で5年以上暮らしている外国人についても、地方参政権を認めるべきだと思う。日本人は国際化っていうと外国へ行くことばかり考えるけど、本当の意味での国際化っていうのは社会の内側に異なる考えの人たちを受け入れて、互いに違いを認めながらうまくやっていけるようになることだよ。そういう意味では日本の社会は外国人に対してあまりにも閉鎖的だよ」

A 「う〜ん、国籍所得審査の簡素化は良いと思うけど、日本国籍を持たない人に一定期間日本に暮らしたというだけで地方参政権を保障するのは、あいまいな状況がこの先もずっと続くことになってしまうから反対だな。二重国籍についても、国家間の関係が悪化したときにどちらの国に帰属するのかあいまいになってしまうから反対だ。姓名を日本ふうに改めることについても、いっしょにひとつの社会を支えていこうっていう意思表示なわけだから、悪いことではないと思う。日本社会が外国人に対して閉鎖的だっていったけど、むしろ在日韓国・朝鮮人のコミュニティのほうが閉鎖的で、常に日本人や日本社会に対して警戒心を持っているように見えるよ。在日の人と結婚した日本人は、むこうの親戚からあれこれ言われてすごく大変っていう話を聞くしね。とくに北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国系の人たちについては、民族教育を続けていて祖国とのつながりも強い。そういう日本社会に敵対心や警戒心を持っている人たちに地方参政権を認めるというのは問題が大きいんじゃないかな」

B 「それは日本社会が彼らにずっと差別的なやり方をしてきたからだよ。関東大震災のときには、朝鮮人が井戸に毒を入れたっていうデマが流れて、大勢の朝鮮系住民が殺されたりリンチされたりした。いまでも在日韓国・朝鮮の人たちに偏見を持っている人は少なくないし、朝鮮人は朝鮮に帰れなんてなひどいことをいまだに言う人までいる。さすがに最近はそこまで露骨な差別発言は減ってきたけど、それでも就職で不利になったり嫌がらせをされた経験を持つ在日の人は多い。そういう目にあっていれば、誰だって仲間同士で結束しようとするよ。だから、この問題は日本社会が積極的に彼らを受け入れて、いっしょに社会をつくっていく仲間という意識を持つことでしか解決しないと思うよ。信用できないやつ、うさんくさいやつという目で見ている限り、いつまでもうち解けることなんてない。それに日本社会を批判的な目で見ているのは、なにも在日韓国・朝鮮の人ばかりじゃないし、日本人にも大勢いるよ。そもそも民主主義っていうのは、社会への批判精神を持って、異なる考えに耳を傾けることで成り立つわけでしょ。批判する目を持っているからこそ、社会を良くしていくことができる。現状をただ肯定しているばかりでは社会は何も良くなっていかないよ。だから、在日韓国・朝鮮の人たちについて、日本政府に批判的だからっていう理由で地方参政権を認めようとしないのなら、それは民主主義への冒涜だよ。考えてみなよ、もしアメリカで、ブッシュ大統領の政策に批判的だからっていう理由で、アラブ系市民から参政権をはく奪したとしたら、それは恐ろしい社会になってしまうよ」

A 「でも、在日韓国・朝鮮人のような植民地政策にルーツのある人たちは、1991年に特別永住者制度が導入されて、すでに、社会保障、行政サービスすべての面で日本人とほとんど同等の権利が保障されている。それなのにこれ以上、外国人というあいまいな立場のまま、権利ばかりが拡大させる必要はないと思うよ」

B 「特別永住者がまるで日本人同等の権利が保障されているように言っているけど、それは間違いだよ。現在の日本の制度では、特別永住は資格であって権利ではない。だから、永住権という言い方は本当は間違いで、正確には永住資格なんだ。この差は大きい。権利でなく資格にすぎないという事は、日本政府の都合で永住資格をいつでも取り消せる事を意味している。実際、彼らが海外に出国するときには事前に再入国許可申請をしなければ資格を取り消されてしまう場合もある。だから、彼らが日本社会の中で不安定な立場にいるのはあいかわらずだし、1998年には国連規約人権委員会から日本政府が是正を強く求められたっていういきさつもある。そもそも日本政府による外国人への差別的な応対は世界的にも有名だよ。国際空港の外国人窓口には「foreigner」じゃなくて「alien」って書いてあるし、長期滞在する場合は指紋まで採取される。まるで犯罪者扱いだってずっと批判されているのに日本政府はいっこうに改めようとしない。アパートの部屋を借りるときだって、外国人っていうだけで断られることも多い。だから日本に来た外国人留学生の8割が日本のことを嫌いになって帰国しているっていうデーターもある。欧米ではこうした外国人差別は法律で禁止されているのに、日本ではいっこうに法制化される気配がない。たしかに在日韓国・朝鮮をはじめとした永住外国人への制度的な壁は少なくなってはきているけど、それだって日本政府が人権意識に目ざめて彼らに親切になったわけじゃなくて、彼らが長年、自分たちの権利を主張してきたことでようやく認められてきたっていういきさつがある。だから、日本社会が外国籍の人たちに親切であるかのようにいうのは勘違いもはなはだしいよ」

A 「差別的な部分については改善していく必要があると思う。でも、それと参政権を認めるかどうかとは話が違うよ。外国人の参政権を認めないのは差別じゃないし、国籍の問題をあいまいにしたまま参政権を拡大していくべきではないよ。もし、彼らの地方参政権を認めたら、今度はさらに国政への参政権と要求がエスカレートしていくことになってしまう」

B 「たしかに現在の世界情勢は国と国との利害を調整していく必要があるから、外交官のような国の利益を代表して外国と交渉する立場に外国人がつくのは問題があるね。それに国民主権の立場から、大臣や裁判官のような国民を代表する立場に外国人がつくことに制限を設けるのは合理性があると思う。でも、地方自治体の場合、外交問題とは関係ないし、国を代表するわけでもないんだから、はじめに言ったように永住外国人の地方参政権を制限するのは不当だと思うよ」

A 「ただ、どこまでが国政に影響するかっていうのはすごくあいまいだよね。例えば、原子力発電所の建設をどうするかとか、アメリカ軍基地をどうするかとか、そういうことはその地域の問題であるのと同時に、日本社会全体に影響が出てくる問題だよね。そういう問題の決定に外国人が関わってくるっていうのは、いくら永住資格があっても間違っていると思う。実際、裁判所でも外国籍の者が政策決定に関わることは認められないっていう判決が出ている。東京都に勤める在日韓国人の鄭香均(チョン・ヒャンギュン)さんが、外国籍だからといって公務員管理職試験を受けられないのは法の下の平等に違反するとして東京都を訴えたんだけど、2005年に最高裁は国籍を理由に管理職試験の受験を制限するのは各地方公共団体の裁量にまかせるという判決を出して、国籍による制限に合理性があるとしている。その背景には、国民主権の原則があるわけで、公権力の行使っていうことでは、外国人が地方公務員の管理職になることも地方参政権を持つことも同じだといえる。だから、地方公務員っていっても管理職や議員・首長に外国籍の人がつくのはふさわしくないと思う。とくに地方自治体の議員や首長は公権力を直接行使する立場だから、外国人がなるのはまずいよ。だから、被選挙権についてはとくに強く反対だな」

B 「2005年の鄭香均さんの最高裁判決は、管理職試験の国籍による制限はあくまで自治体の裁量権の範囲内というもので、最高裁は在日外国人の政策決定への参加について良いとも悪いともいっていないよ。もっとも日本の行政訴訟で行政の裁量権を大きくとらえる傾向は、三権相互のチェック・アンド・バランスを欠いて行政権の肥大化を招くから、それ自体は問題だし、鄭香均さんも記者会見で激怒していたけど、ただ、2005年の最高裁判決は、在日外国人を地方公務員の管理職として採用することについて、採用するのもしないのも自治体の判断にまかせるっていっているだけで、採用を禁止するっていうものではない。たしかに被選挙権についての法的解釈は微妙なところだけど、日本の植民地支配にルーツのある朝鮮半島出身者や台湾出身者については、その歴史性を考慮して、日本社会の中で被選挙権もふくめて認められるべきだと思う。それに、そもそも日本の国籍制度が生地主義を採用していたら、日本で生まれ育った在日二世、三世たちは日本国籍が保障されている人たちだよ。こういう人を「外国人」としてひとくくりにして国籍を持っていないからダメと参政権から閉め出してしまうのは、形式主義的な発想で現実にそぐわないと思うよ。北欧諸国やオーストラリアでは3年くらいその国で合法的に暮らしていれば被選挙権もふくめて地方参政権が保障されるのに、日本ではそこで生まれ育った在日二世、三世にすら参政権がないなんて、日本社会の閉鎖性そのものだよ」

A 「でも、日本の憲法には15条に「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定されている。この15条の条文は、参政権が日本国籍を持った国民の固有の権利であることをはっきりと表している。それに1995年の最高裁判決では、参政権を求める在日韓国人たちの訴えを「憲法上、国籍のない外国人の参政権は保障していない」として棄却している」

B 「国民主権(主権在民)というのは、第一の政治権力が君主ではなく人々(people)にあるという原則のことで、国籍の有無は関係ないよ。どんな国の人権宣言・憲法でも、主権があるとされるのはpeopleであってnationではない。日本国憲法制定にあたって、当時の日本政府はpeopleの概念に民族主義的な「国民」という造語を強引にあてはめて、在日外国人の人権を制限しようとしてきたけど、基本的人権の保障が国籍保有者に限定されるなんて考え方、国際的にはまったく通用しないよ。憲法11条に「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」とあるけど、もし「国民」=「日本国籍保有者」で、外国人には基本的人権が保障されないのなら、外国人を殺しても罪に問われないことになってしまうわけで、こんなバカげたことはない。それに憲法14条の「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」という規定、これも「国民」を国籍保有者に限定してしまうと外国人は差別してもかまわないということになってしまう。「基本的人権は人類普遍の原理である」というのが日本国憲法の根幹なわけだから、国籍の有無で基本的人権が制限されるという考え方は、明らかに憲法の理念から外れるものだよ。憲法15条にしても、公務員を決めるのは君主でなく人々(people)だというイギリス名誉革命以来の近代政治の理念をなぞっているだけで、国籍保有の有無を持ち出すのは見当違いだよ。だから1995年の最高裁判決でも、参政権を求める在日の人たちの訴えを棄却しながらも、その一方で「法律で永住外国人に、自治体の長、議員の選挙権を付与することは、憲法上、禁止されていない」と付け加えている。要するにこの最高裁判決は、外国人の参政権は具体的に憲法で保障されてるわけじゃないけど、同時に憲法で禁止されているわけでもないから、将来、選挙法が改正されれば可能だよと指摘しているわけ。つまり、憲法15条が指している「国民固有の権利」というのは外国人を排除するものではないと言っているんだ。だから、この裁判の原告だった在日韓国の人たちは、1995年の最高裁判決が自分のたちの主張を後押ししてくれるものだとして歓迎しているよ」

A 「それは拡大解釈じゃないかな。1995年の最高裁判決は、「憲法上、国籍のない外国人の参政権は保障していない」が本論で、「法律で永住外国人に、自治体の長、議員の選挙権を付与することは、憲法上、禁止されていない」の部分はつけ足しにすぎない。このふたつの判決文はまったく逆のことを言っているわけだから、どちらが最高裁の判断としてメインかと言えば、在日韓国人の訴えを棄却しているはじめのほうということになる」

B 「でも、憲法93条2項では、地方参政権についてこう規定されている。「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」ここでは「国民」でも「国民固有」でもなく、「住民」と記されている。つまり、地方参政権については、国籍に関係なくその地域の住民が選挙するということになる。今回のテーマは地方参政権についてなんだから、憲法にはっきりと住民と記されていることを重視するべきだよ」

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