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  靖国神社参拝問題


【課題】 ここ数年、小泉首相による靖国神社への参拝問題をめぐって、中国や韓国から批判が相次ぎ、国際問題化しています。今回の課題はこの首相の靖国参拝問題についてです。
 靖国神社に神として祀られて(まつられて)いるのは、日本と天皇のために戦って戦死した軍人の霊です。戦死した軍人の名簿を靖国神社に登録し、彼らの勇敢さをたたえ、その魂を神として祀ることであの世からも日本を守ってもらうことを願うという性質を持った神社です。同じ性質の神社として全国に護国神社があり、靖国神社はその総本山という位置づけにあります。靖国神社や護国神社の考えでは、霊魂はあの世ではひとりひとりバラバラにあるのではなく、一体になっているとされるため、神社に霊魂を登録し、神として祀ることを「合祀(ごうし)」と言います。なお、この「祀る」というのは、あくまで儀式的行為で、実際に遺骨が神社に納められているわけではありません。
 靖国神社の歴史は、明治期にはじまり、戊辰戦争で戦死した官軍の兵士を祀るために明治の新政府が建立した施設が母体となっています。その後、富国強兵政策の中で、戦死した兵士の栄誉をたたえるという役割が強化され、規模が拡大されるとともに陸海軍が直接、管理・運営する「官営の神社」という特殊な位置におかれました。そのため、第二次世界大戦後、靖国神社はしばしば日本の軍国主義の象徴と見なされるようになりました。GHQは当初、靖国神社を取りつぶす予定でいましたが、政府関係者や遺族から強い反対があったため、一宗教法人として政府とは切り離されるかたちで残ることになりました。ただし、歴代の宮司(ぐうじ・長である神官のこと)は、皇室の家系にある者や旧華族出身者が就任しており、また、靖国神社に合祀される人々の名簿の作成には、厚生労働省も関わっていると指摘されており、現在も政府との結びつきが強いといわれています。現在、靖国神社には、約250万柱(はしら)が祀られています。その多くは、太平洋戦争で戦死した兵士たちで、約230万柱にのぼります。近年、中国や韓国からの批判を受けて、A級戦犯についての分祀(ぶんし)が議論されていますが、靖国神社の教義では、いったん神として祀られた霊魂は分けたりすることのできないもので、分祀を政府に強要されるのは信教の自由への弾圧であると靖国神社側は主張しています。
 首相の靖国参拝の問題点として、次の三点をあげることができます。まず、靖国神社の軍国主義的性質があります。戦前、靖国神社は軍部と一体化し、軍国主義の時代には、「戦死して靖国に祀られること」が日本国民にとっての最高の栄誉とされました。現在も靖国神社は戦死した軍人のみを神として祀っており、空襲や原爆の犠牲になった民間人は祀られていません。こういう軍国主義的な宗教法人に国が公的に関わることは、憲法の平和主義に反するというものです。ふたつめに、A級戦犯の合祀(ごうし)問題があります。A級戦犯は、極東国際軍事裁判で日本を軍国主義に導いたという判決を受けた人たちです。このようなA級戦犯をはじめとする日本の軍国化やアジア侵略を指導した人物までも神として祀っている神社に首相が参拝することは、近代史の中で日本が侵した戦争責任を否定することになります。実際、靖国神社の関係者は、度々、「日本の戦争はアジア侵略のためではなかったし、日本は悪くなかった」という発言をくり返しています。日本の侵略を受けた中国や韓国は、この戦争責任の問題をとりわけ重視しており、首相の靖国参拝をきびしく批判しています。そのため、首相が靖国参拝にこだわれば、アジアの中で日本が孤立していくことになります。三つめに「政教分離」の問題があります。首相が国を代表する立場で靖国神社を参拝するということは、靖国神社という特定の宗教法人を政府が支援することにつながります。このことは、憲法20条が定める信教の自由と政教分離の原則に違反するという批判がされており、しばしば裁判で争われています。
 一方、首相の靖国参拝を支持する人たちには、「日本は悪くなかった」という靖国神社の主張に賛同する人から、靖国神社の考えには反対だが身内が祀られている神社に首相が参拝することを歓迎する人まで、様々な立場があります。ただ、そこに共通しているのは、国のために戦死した人たちについて、首相が参拝し追悼するのは、国を代表する立場にある者にとって当然の義務であるという考え方です。靖国神社にまつられているのは、ほとんどが一般の兵士たちです。「お国のために」戦うことが日本人のつとめとされた時代の中で、彼らは徴兵されて戦地へ行き、戦死した人たちです。いわば、彼らは時代や社会の犠牲者といえます。こうした人たちについて、首相は国を代表する立場で「公式に」参拝する義務があるというわけです。
 あなたは、この問題について、どのように考えますか。また、どのようにするべきだと考えますか。現在、新聞各社の世論調査では、首相の靖国参拝について、賛成・反対はほぼ半々の状況です。資料の新聞記事にも目を通して、あなたの考えを根拠を示しながら書いてきてほしい。(約800字)


【資料1】 靖国神社のあゆみ

 明治初期の1869年、鳥羽伏見の戦いや戊辰戦争での官軍側の戦死者を祀るために新政府によって東京招魂社(とうきょうしょうこんしゃ)が創建された。これが靖国神社のもとになっている。その後、1879年に名前を靖国神社に改められ、天皇と日本のために戦い、戦死した軍人や軍属の魂を神として祀る施設とされた。この祀るという儀式には、たんに霊魂を慰めるというだけでなく、戦没者の魂を神として祀ることで、外国の侵略から天皇と日本を守ってもらうという意味が含まれている。靖国神社に祀られた戦没者の魂は畏敬の念を込めて「英霊(えいれい)」と呼ばれる。ただし、この「祀る」というのはあくまで神道の儀式的行為として戦没者の名前が神社に登録されることである。実際に遺骨が神社に納められているわけではないし、神社内に墓地が移されるわけでもない。他の戦没者と共にその魂が祀られることを「合祀(ごうし)」という。靖国神社には約250万柱もの魂が合祀されている。こうした戦没者の魂を祀る神社は、他にも日本各地に護国神社として創建され、靖国神社は各地の護国神社の中心地という役割をもっている。

 戦前、日本政府は、神道が特定の宗教ではなく日本の伝統慣習であるとする立場をとっており、神道儀式や思想を積極的に政策や国家行事に取り入れる政策をすすめた。とりわけ、靖国神社は戦死した軍人を祀るという特殊な性質から、他の神社と異なり、陸軍と海軍によって直接、管理・運営された。昭和初期の軍国主義が高まった時代、天皇の臣民として天皇と国家のために命をささげることが務めとされ、その結果として靖国神社へ祀られることが最高の栄誉とされた。そうした中、大勢の若者たちは、靖国で再会すること誓い、出征していった。靖国神社に祀られている戦没者、約250万柱のうち、この時期の太平洋戦争と日中戦争による戦没者が約230万柱を占めている。

 第二次世界大戦後、GHQは日本の占領政策として、軍国主義の除去と民主主義の定着を掲げる。戦前の政治権力と神道思想とが一体化した政策について、GHQは「国家神道」と呼び、この政策が日本のファシズムを強化する役割を果たしたと分析した。そして、政教分離が憲法20条に規定され、靖国神社を含む各地の神社は、政府の管轄から宗教法人へと改められた。GHQはとりわけ靖国神社を日本の国家神道と軍国主義の象徴と見なし、当初の計画では取りつぶす予定だったが、日本政府と遺族からの強い反発によって断念し、宗教法人として残ることになった。

 靖国に祀られた戦没者の遺族で構成されている団体に日本遺族会がある。戦後間もない時期、この遺族会は平和主義的性質を持ち、再び戦争によって靖国に大勢の英霊が祀られる時代が来ないことを唱えていた。しかし、軍人恩給の給付をめぐって自民党との結びつきを深め、それにともなって遺族会の性質は変化し、しだいに軍国主義的性質を帯びるようになっていく。さらに、1978年にA級戦犯14柱が合祀され、その遺族が日本遺族会に加わったことで、こうした政治的立場が鮮明になる。現在、日本遺族会と靖国神社は、日中戦争と太平洋戦争は侵略戦争ではなく、戦争責任についてアジア諸国への謝罪は不必要とする立場をとっている。また、A級戦犯について、戦勝国による不当な裁判で裁かれ、処刑された戦争の犠牲者とする見解をとっている。日本遺族会は自民党タカ派の大きな支持団体となっており、小泉首相が靖国参拝にこだわるのも、自らの政治思想に基づくものではなく、日本遺族会の支持を集めるための政治的パフォーマンスではないかという指摘もされいる。また、靖国神社はしばしば右派知識人をまねいて講演会やシンポジウムを開催しており、きわめて政治色が強い。とりわけ、神社付属の軍事博物館である遊就館は、その展示内容が日本軍を賛美するもので、軍国主義的であると国内外から批判されている。

 戦後の首相による靖国参拝は、1975年の三木首相からはじまる。ただし、三木首相は公的な立場ではなく、あくまで一私人としての参拝を強調した。玉串料を公費から支出しないというだけでなく、公用車を使わず公人としての肩書きも使わないことで、自らの参拝が憲法違反ではないことを主張した。しかしその後、歴代首相による靖国参拝は、しだいに公私の境目が不明瞭になっていき、玉串料さえ公費から出さなければ「私人としての参拝」とみなされるという見解が政府によって唱えられるようになっていった。明確に「内閣総理大臣」としての立場で靖国参拝をおこなったのは、中曽根首相による1985年8月15日の参拝で、公用車で靖国神社に赴き、拝殿において「内閣総理大臣中曽根康弘」と記帳し、国費から供花代三万円を支出した。中曽根首相は参拝後「内閣総理大臣の資格で参拝した。いわゆる公式参拝である」と明言し、国内外に大きな波紋を広げた。とりわけ中国からの強い反発をまねき、日中関係が悪化するという事態に発展した。2001年からはじまった小泉首相による靖国参拝は、中曽根首相の参拝以来のきわめて公的性質の強いもので、やはり、公用車で靖国神社に赴き、「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳している。

 小泉首相による靖国参拝をめぐっては、憲法の定めた政教分離原則への違反であるとする訴訟がおこされている。裁判所はこの問題について憲法判断を避ける傾向にあり、合憲なのか違憲なのかをあいまいなままにした玉虫色の判決が多い。その中で、2004年4月の福岡地裁の判決は、公式参拝であり違憲であるとする判断を出している。一方、合憲であるとする判決はまだない。


【資料2】 首相の靖国参拝の何が問題なのか

1.憲法が定めた政教分離原則への違反にあたる。
 憲法20条には次のように規定されている。
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
 国による宗教活動の禁止、すなわち政治と宗教の分離は、次の二つの点から考えられる。国や地方公共団体が国民に特定宗教の教義を押しつけることは論外として、税金を使って特定宗教団体を支援することもまた、宗教間の平等を保つことができなくなり、人々の信教の自由が侵害されることになる。つまり、首相が公用車で靖国神社に乗り付け、大勢のSPを引き連れて参拝し、「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳して参拝することは、日本政府が靖国神社という宗教団体を支援する行為にあたり、国民の信教の自由を侵害していることになる。もうひとつの問題としては、政治権力と宗教とが結びつくことで、権力が論理を超越した宗教的教義によって裏付けされ、人々の自由な言論を制限し、ファシズムを生みやすいということがあげられる。日本の近代には、天皇を「現人神」という神聖な存在とし、その権威と一体化した政府を絶対的なものとして国民に徹底させた歴史がある。この宗教性を帯びた権力のあり方が戦前の民主化を大きく阻害してきた。そのことを考えると、日本に民主主義を定着させていくためには、厳格に政治権力と宗教との分離をおこなうことが不可欠である。ただし、多くの神道の儀式は伝統慣習と地続きであり、どこからが宗教行為でどこまでが伝統慣習なのか、線引きが困難であるという問題がある。また、日本に天皇制が存続している限り、神道の祭司という宗教性を帯びた存在が同時に国民統合の象徴であることになり、厳格な政教分離は不可能という状況がある。

2.戦死した軍人と軍関係者のみを神として祀る靖国神社のあり方は平和主義を掲げる日本にふさわしくない。
 靖国神社は、戦死した軍人を神として祀る神社である。戦前、靖国神社は陸海軍によって直接管理・運営される国営の神社だった。軍国主義の時代には、靖国に神として祀られることが日本人にとっての最高の栄誉とされた。そのため、戦後、靖国神社は戦前の軍国主義のシンボルと見なされた。このような神社は平和を願う場としてふさわしくないだけでなく、首相が国を代表する立場で参拝することは、軍国主義を賛美することにつながる。戦争の犠牲になった人々を追悼し、平和を願うためのものとするならば、そこには空襲や原爆で犠牲になった大勢の民間人も祀られていなければならないはずである。また、靖国神社は現在でもさかんに政治活動をおこなっており、そこでは近代史における日本のアジア侵略を否定する主張がなされ、日本軍の賛美する発言がなされている。このような靖国神社に首相が日本を代表する立場で参拝することは、日本の平和主義を損ねることになる。

3.A級戦犯が合祀されている靖国神社に参拝することは、日本の戦争責任を否定することになる。
 1978年に靖国神社はA級戦犯を合祀した。A級戦犯は、極東国際軍事裁判で日本の軍国化に指導的役割を果たしたとされ、死刑、または無期懲役の判決を受けた者たちである。彼らは、「お国のために」と徴兵され、戦死した一般の兵士とはまったく立場が異なる。このようなA級戦犯をはじめとする日本の軍国化やアジア侵略を指導した人物までも神として祀っている神社に首相が参拝することは、近代史の中で日本が侵した戦争責任を否定することにつながる。日本の侵略を受けた中国や韓国は、この戦争責任の問題をとりわけ重視しており、首相の靖国参拝をきびしく批判している。そのため、首相が靖国参拝にこだわれば、アジアの中で日本が孤立していくことになる。極東国際軍事裁判は、第二次大戦の勝者である連合国軍が一方的に敗戦国日本を裁いた裁判として公正さに欠けるとしても、A級戦犯の戦争責任を否定することは、サンフランシスコ講和条約自体を否定することになる。このことは、アジア社会の中で日本が孤立することを意味するだけでなく、国連をはじめとした戦後の国際社会のあり方そのものを否定することになり、国際社会の中で日本は完全に孤立することになる。


【資料3】 どうすればよいのか
  ・特定の宗教性を排した公的な施設をつくり、原爆や空襲の犠牲者もふくめて追悼する。
  ・靖国神社のA級戦犯を分祀し、首相の公式参拝を認める。
  ・現状のまま首相の靖国参拝を続ける。
  ・戦前のように靖国神社を国営の神社として、戦死者を追悼する。
  ・戦死者への追悼は個々人にまかせ、国が戦死者への参拝や追悼をやるべきではない。


【資料4】 新聞各社の論調
  ・朝日・毎日 → A級戦犯が合祀されている限り、首相は靖国参拝をすべきではない。
  ・読売 → 靖国参拝に賛成だったが、2005年に渡辺恒雄社長がA級戦犯の合祀を批判し、反対の立場に。
  ・産経 → 首相の靖国参拝は、国を代表する立場にある者として当然のつとめ。靖国神社の主張にも賛同。


【資料5・新聞記事】 靖国参拝の問題点は?
(朝日新聞 2005.2.17更新)
Q 靖国参拝の問題点は?
 小泉首相が靖国(やすくに)神社に参拝するかどうか、少し前ニュースでやってました。そもそも何が問題となってるんですか。(朝日中学生ウイークリー「ニュース質問箱」から)
A 政教分離、A級戦犯めぐり意見対立
 靖国神社は、東京都千代田区にあります。明治新政府と江戸幕府の旧勢力が争った戊辰(ぼしん)戦争での新政府側の死者の霊をなぐさめるため、1869年(明治2年)に東京招魂社としてつくられました。10年後に靖国神社と改称。1945年の第2次世界大戦の終戦まで、国家と神道が結びついた「国家神道」や、軍国主義の象徴とされてきました。戦後、日本を占領したGHQ(連合国軍総司令部)の指令で国家神道が廃止されてからは、宗教団体の一つとして存続しています。
 では、なぜ首相の靖国神社参拝が問題なのでしょう。
 1947年に施行された日本国憲法では、政治と宗教をわける「政教分離」を規定しています。小泉首相は、首相に就任した2001年から2004年まで毎年参拝。首相が宗教施設を参拝するのは、政教分離の原則に反するのではないかと批判されています。
 もうひとつの問題は、靖国神社に「A級戦犯」がまつられていること。A級戦犯とは、終戦後、連合国が戦前・戦中の日本の政治・軍事指導者を裁いた「東京裁判」で、戦争の計画や実行など「平和に対する罪」があったとした人たちのことです。1978年から14人がまつられています。
 日中戦争などを含めた15年にわたる戦争では、日本人約310万人はもとより、中国や朝鮮半島などアジア全体で2千万人以上が犠牲となりました。そのため中国や韓国は、A級戦犯をまつる神社への首相の参拝を非難しているのです。

昭和天皇「私はあれ以来参拝していない」 A級戦犯合祀
朝日新聞 2006年07月20日11時12分
 昭和天皇が死去前年の1988年、靖国神社にA級戦犯が合祀(ごうし)されたことについて、「私はあれ以来参拝していない それが私の心だ」などと発言したメモが残されていることが分かった。当時の富田朝彦宮内庁長官(故人)が発言をメモに記し、家族が保管していた。昭和天皇は靖国神社に戦後8回参拝。78年のA級戦犯合祀以降は一度も参拝していなかった。A級戦犯合祀後に昭和天皇が靖国参拝をしなかったことをめぐっては、合祀当時の側近が昭和天皇が不快感を抱いていた、と証言しており、今回のメモでその思いが裏付けられた格好だ。
 メモは88年4月28日付。それによると、昭和天皇の発言として「私は 或(あ)る時に、A級(戦犯)が合祀され その上 松岡、白取(原文のまま)までもが 筑波は慎重に対処してくれたと聞いたが」と記されている。これらの個人名は、日独伊三国同盟を推進し、A級戦犯として合祀された松岡洋右元外相、白鳥敏夫元駐伊大使、66年に旧厚生省からA級戦犯の祭神名票を受け取ったが合祀していなかった筑波藤麿・靖国神社宮司を指しているとみられる。
 メモではさらに、「松平の子の今の宮司がどう考えたのか 易々(やすやす)と 松平は平和に強い考(え)があったと思うのに 親の心子知らずと思っている」と続けられている。終戦直後当時の松平慶民・宮内大臣と、合祀に踏み切った、その長男の松平永芳・靖国神社宮司について触れられたとみられる。
 昭和天皇は続けて「だから私(は)あれ以来参拝していない それが私の心だ」と述べた、と記されている。昭和天皇は戦後8回参拝したが、75年11月の参拝が最後で、78年のA級戦犯合祀以降は一度も参拝しなかった。靖国神社の広報課は20日、報道された内容について「コメントは差し控えたい」とだけ話した。

 《「昭和天皇独白録」の出版にたずさわった作家半藤一利さんの話》メモや日記の一部を見ましたが、メモは手帳にびっしり張ってあった。天皇の目の前で書いたものかは分からないが、だいぶ時間がたってから書いたものではないことが分かる。昭和天皇の肉声に近いものだと思う。終戦直後の肉声として「独白録」があるが、最晩年の肉声として、本当に貴重な史料だ。後から勝手に作ったものではないと思う。
 個人的な悪口などを言わない昭和天皇が、かなり強く、A級戦犯合祀(ごうし)に反対の意思を表明しているのに驚いた。昭和天皇が靖国神社に行かなくなったこととA級戦犯合祀が関係していることはこれまでも推測されてはいたが、それが裏付けられたということになる。私にとってはやっぱりという思いだが、「合祀とは関係ない」という主張をしてきた人にとってはショックだろう。
 靖国神社への戦犯の合祀(ごうし)は1959年、まずBC級戦犯から始まった。A級戦犯は78年に合祀された。大きな国際問題になったのは、戦後40年目の85年。中曽根康弘首相(当時)が8月15日の終戦記念日に初めて公式参拝したことを受け、中国、韓国を始めとするアジア諸国から「侵略戦争を正当化している」という激しい批判が起こった。とりわけ、中国はA級戦犯の合祀を問題視した。結局、中曽根氏は関係悪化を防ぐために1回で参拝を打ち切った。だが、A級戦犯の合祀問題はその後も日中間を中心に続いている。
 昭和天皇は、戦前は年2回程度、主に新たな戦死者を祭る臨時大祭の際に靖国に参拝していた。戦後も8回にわたって参拝の記録があるが、連合国軍総司令部が45年12月、神道への国の保護の中止などを命じた「神道指令」を出した後、占領が終わるまでの約6年半は一度も参拝しなかった。52年10月に参拝を再開するが、その後、75年11月を最後に参拝は途絶えた。今の天皇は89年の即位後、一度も参拝したことがない。
 首相の靖国参拝を定着させることで、天皇「ご親拝」の復活に道を開きたいという考えの人たちもいる。
 自民党内では、首相の靖国参拝が問題視されないよう、A級戦犯の分祀(ぶんし)が検討されてきた。いったん合祀された霊を分け、一部を別の場所に移すという考え方で、遺族側に自発的な合祀取り下げが打診されたこともあるが、動きは止まっている。靖国神社側も、「いったん神として祭った霊を分けることはできない」と拒んでいる。
 ただ、分祀論は折に触れて浮上している。99年には小渕内閣の野中広務官房長官(当時)が靖国神社を宗教法人から特殊法人とする案とともに、分祀の検討を表明した。日本遺族会会長の古賀誠・元自民党幹事長も今年5月、A級戦犯の分祀を検討するよう提案。けじめをつけるため、兼務していた靖国神社の崇敬者総代を先月中旬に辞任している。
《靖国神社に合祀された東京裁判のA級戦犯14人》
【絞首刑】(肩書は戦時、以下同じ)
  東条英機(陸軍大将、首相)
  板垣征四郎(陸軍大将)
  土肥原賢二(陸軍大将)
  松井石根(陸軍大将)
  木村兵太郎(陸軍大将)
  武藤章(陸軍中将)
  広田弘毅(首相、外相)
【終身刑、獄死】
  平沼騏一郎(首相)
  小磯国昭(陸軍大将、首相)
  白鳥敏夫(駐イタリア大使)
  梅津美治郎(陸軍大将)
【禁固20年、獄死】
  東郷茂徳(外相)
【判決前に病死】
  松岡洋右(外相)
  永野修身(海軍大将)

首相靖国参拝、評価二分 若年層は肯定的 本社世論調査
朝日新聞 2004.4.20
 小泉首相が靖国神社への参拝を続けていることを「良いことだ」と思うか、「やめるべきだ」と思うか。朝日新聞社の全国世論調査(17、18日実施)で聞いたところ、全体では「良い」「やめる」がともに約4割で並び、評価は二分された。40代や50代の働き盛りに「やめるべきだ」が目立つ一方、若年層では抵抗感が薄れているようだ。福岡地裁が違憲との判断を示した首相参拝は、年齢別や支持政党別に見ると、まだら模様の反応が浮かび上がった。  全体では「良いことだ」の42%に対し「やめるべきだ」が39%だった。40代が「良い」32%に対し「やめる」45%となるなど、50代を含めた働き盛り世代で否定的な見方が強い。
 反対に、この世代をはさんだ若年層と高齢層は肯定的で、70歳以上では「良い」52%に対し「やめる」36%だった。20代もそれぞれ46%、36%となった。特に、20代の男性で「良い」が55%にのぼった。
 支持政党別では、自民支持層は「良い」が59%と過半数を占めたものの、連立与党でも公明支持層は「やめる」59%と否定的だ。「やめる」は民主支持層で54%、共産55%、社民59%と野党各党の支持層でそろって多数を占めた。無党派層でも「やめる」40%、「良い」36%と否定的な見方が、わずかながら上回った。
 小泉首相の靖国神社参拝を巡っては、01年にも「参拝に積極的に取り組んでほしいか」と尋ねている。「ほしい」は、同年7月には41%で「慎重に」の42%と並んでいた。だが、韓国や中国などの反発もあり、8月には「ほしい」26%、「慎重」65%と慎重論が強まった。 (04/20 06:20)

首相の靖国神社参拝、賛否二分 本社世論調査
朝日新聞 2004年11月30日
 朝日新聞社が27、28の両日実施した全国世論調査(電話)によると、小泉首相の靖国神社参拝について、「続けた方がよい」が38%、「やめた方がよい」が39%で見方が割れた。参拝の継続を望む人の6割近くが、中国、韓国に配慮が「必要」と答え、首相に慎重な対応を求める世論もうかがえた。内閣支持率は39%で前回10月の38%から横ばい。不支持も43%で変わらなかった。
 小泉首相は就任以来、毎年靖国神社に参拝し、中国や韓国は強く反発している。21日の日中首脳会談で中国の胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席は、関係改善のため参拝の中止を首相に求めた。こうした中国側の主張について「当然だ」と思う人は30%にとどまり、「そうは思わない」が57%を占めた。
 その一方、首相の参拝については、継続か中止か、意見は真っ二つに分かれた。
 30代、40代では「やめる」が「続ける」より多いが、20代と70歳以上では「続ける」が4割を超え、高めだ。
 参拝を「続ける」と答えた人だけに参拝にあたって中国や韓国への何らかの配慮が必要かと聞くと、そのうちの57%(全体の22%)が「必要」と答えた。ただ20代では、中国や韓国への配慮が「必要だ」も3割と全体より高いのが目立った。
 また中国側の参拝中止要求を「当然だとは思わない」層でも、首相の参拝には配慮が「必要」の方が多かった。
 北朝鮮による拉致問題を巡っては、北朝鮮の対応を「評価しない」が89%に達した。今の日本政府の姿勢を「評価しない」も60%。政府の今後の対応としては、経済制裁など「強い態度で」が65%を占め、外交努力で「対話を深める」は26%だった。
 政党支持率は、自民27%(前回30%)、民主17%(同21%)。自民、民主が支持を減らす一方、無党派層は前回40%から48%に増えた。
 〈調査方法〉 27、28の両日、全国の有権者を対象にコンピューターで無作為に番号サンプルをつくる朝日RDD方式で電話調査した。対象者の選び方は無作為3段抽出法。有効回答は1885件、回答率は51%。

靖国参拝「首相は中止を」49% 本社世論調査
朝日新聞 2005年05月31日01時16分
 靖国神社参拝問題などを巡り日中関係が悪化する中、朝日新聞社が28、29の両日実施した全国世論調査(電話)で、小泉首相の中国に対する姿勢を「評価しない」人が48%と半数近くを占め、「評価する」は35%にとどまった。首相の靖国神社参拝を「やめた方がよい」は49%とほぼ半数にのぼり、「続けた方がよい」の39%を上回った。一方、靖国参拝を問題視する中国の姿勢についても「理解できない」は51%に達し、「理解できる」は37%。日中関係について首相、中国双方に厳しい見方が示された。
 内閣支持率は45%。今年1月調査で33%と発足以来最低を記録したが、その後、回復基調を維持。今回、04年9月の第2次小泉改造内閣発足後の水準まで戻った。
 首相の中国に対する姿勢について、自民支持層では「評価する」53%、「評価しない」30%だが、首相に靖国神社参拝の自粛を求めている公明の支持層では「評価する」24%、「評価しない」58%で批判的な見方が強かった。
 首相の靖国神社参拝については、4月の日中首脳会談後の緊急調査でも「やめた方がよい」が48%で、今回とほぼ同じだった。慎重な対応を求める意見は定着しつつあるようだ。
 首相の靖国参拝を問題視する中国の姿勢については、「理解できない」が自民支持層で60%、民主支持層で53%、公明支持層で50%だったのに対し、共産、社民支持層では「理解できる」が6〜7割だった。
 一方、日本の国連安保理常任理事国入り問題では、59%が「関心がある」と回答。常任理事国入りに「賛成」は56%、「反対」は17%で肯定的な見方が強い。
 首相が「構造改革の本丸」と位置づける郵政民営化については「賛成」42%、「反対」30%だった。

【社説】 靖国参拝 遺族におこたえしたい
朝日新聞 2005年06月05日
 朝日新聞が小泉首相の靖国神社参拝に反対していることについて、遺族の方や読者の皆さんから手紙やご指摘をいただいている。その中には、次のような意見も少なくない。
 あの戦争で国のために命を落とした者を悼むことの、どこがいけないのか。首相が参拝するのは当然ではないか――。この問いかけについて、考えてみたい。
 兵士として戦地に赴いた夫や父、子どもが亡くなる。その死を悲しみ、追悼するのは当然の営みだ。平和な戦後の世に暮らす私たちにとっても、それを共有するのは大切なことだと思う。
 戦死した何百万もの人々の一人ひとりに家族があり、未来があった。それを思うと戦争の残酷さ、悲惨さを痛感させられる。靖国神社に参拝する遺族や国民の、肉親や友人らを悼む思いは自然な感情だろう。
 しかし、命を落とした人々を追悼し、その犠牲に敬意を払うことと、戦争自体の評価や戦争指導者の責任問題とを混同するのは誤りだ。上官の命令に従わざるを得なかった兵士らと、戦争を計画し、決断した軍幹部や政治家の責任とは区別する必要がある。
 靖国神社は78年、処刑された東条英機元首相らを含む14人のA級戦犯を合祀(ごうし)した。このことが戦死者の追悼の問題をいっそう複雑にしてしまった。
 かつて陸海軍省に所管されていた靖国神社は、戦死者を悼むと同時に、戦死をほめたたえる、いわゆる顕彰の目的があった。戦意を高揚し、国民を戦争に動員するための役割を果たしてきた。
 戦後、宗教法人になったが、戦争の正当化という基本的なメッセージは変わらない。自衛のためにやむを得なかった戦争であり、東京裁判で戦争責任を問われたA級戦犯は連合国に「ぬれぎぬ」を着せられたというのが神社の立場だ。
 「朝日新聞は中国の反日に迎合しているのではないか」とのご指摘もいただいている。
 だが、中国が問題にしているのは一般兵士の追悼ではなく、戦争指導者の追悼である。A級戦犯が合祀された靖国神社を、日本国を代表する首相が参拝するのが許せないというのだ。
 侵略された被害国からのこの批判を、単純に「反日」と片づけるわけにはいかないと思う。
 小泉首相は、将来の平和を祈念して参拝するのだという。しかし、そのことが日中や日韓の間の平和を乱しているとすれば、果たして靖国に祭られた犠牲者たちが、それを喜べるだろうか。
 日本国民の幅広い層が納得でき、外国の賓客もためらうことなく表敬できる。そんな追悼の場所があれば、と願う。
 02年、当時の福田官房長官の私的諮問機関は、戦没者を追悼する場として新たな無宗教の国立施設の建立を提言した。そんな施設こそ、首相が日本国民を代表して訪れ、哀悼の誠をささげる場にふさわしい。いま、改めてそう考える。

首相の靖国参拝は違憲と判断、賠償請求は棄却 福岡地裁
朝日新聞 2004.4.7
 小泉首相の就任後初めての靖国神社参拝が政教分離を定めた憲法に反するかどうかについて争われた訴訟の判決で、福岡地裁(亀川清長裁判長)は7日、「参拝は公的なもので、憲法で禁止された宗教的活動にあたる」と述べ、違憲と断じた。しかし「参拝で原告らの信教の自由を侵害したとはいえない」として、原告側の慰謝料請求は棄却した。

 問題とされたのは、01年8月の参拝。小泉首相の靖国参拝の違憲性が問われた訴訟は福岡など全国6地裁で起こされた。判決は3件目で、初めての違憲判断となった。
 この訴訟は九州・山口の市民ら211人が、首相と国に1人あたり10万円の損害賠償を求めた。原告側は控訴しない方向で検討中。原告側の請求そのものは棄却されたため、首相側の控訴は認められずに違憲判断を示した判決が確定する公算が大きくなっている。
 判決はまず、(1)公用車を使用(2)秘書官を随行(3)「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳(4)名札をつけて献花(5)参拝後に「内閣総理大臣である小泉純一郎が参拝した」と述べた−−などから、首相の職務の執行と位置づけた。
 続いて、従来の政教分離訴訟で判断基準とされてきた「目的効果基準」に基づいて、参拝の行われた場所、その行為に対する一般人の宗教的評価、行為者の意図・目的、一般人に与える効果・影響−−などを検討した。
 その中で、参拝を「宗教とかかわり合いを持つことは否定できない」と性格付けし、「自民党や内閣からも強い反対意見があり、国民の間でも消極的意見が少なくなかった。一般人の意識では、参拝を単に戦没者の追悼行事と評価しているとはいえない」と指摘した。さらに「戦没者追悼場所としては必ずしも適切でない靖国神社を4回も参拝したことに照らせば、憲法上の問題があることを承知しつつ、あえて政治的意図に基づいて参拝を行った」と批判した。
 そして、「参拝が神道の教義を広める宗教施設である靖国神社を援助、助長する効果をもたらした」ことも考えあわせ、「社会通念に従って客観的に判断すると、憲法で禁止される宗教的活動にあたる」と結論づけた。
 憲法は、国のあらゆる宗教的活動を禁じている。目的効果基準は、この絶対的禁止を緩やかに解釈するために使われてきた面もあり、「極めてあいまいな基準」と批判が絶えなかった。今回の判決は、同じ基準を使いながらも、それを厳格に適用した。 (04/07 13:27)

靖国参拝訴訟:憲法判断示さず、賠償請求を棄却−−東京地裁
毎日新聞 2005年4月27日 東京朝刊
 小泉純一郎首相や石原慎太郎東京都知事の靖国神社参拝に対し、東京都内の宗教関係者や旧日本軍の軍人・軍属として戦死した韓国人の遺族ら1048人が、違憲確認と1人3万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。柴田寛之裁判長は「訴えの利益がない」などと違憲確認の訴えを却下し門前払いとしたうえで、賠償請求を棄却した。憲法判断は示さなかった。原告側は控訴する。【井崎憲】

 ◇福岡のみ「違憲」−−6地裁1審、出そろう
 全国6地裁で起こされた靖国参拝訴訟はこれで1審判断が出そろったが、福岡地裁判決(04年4月)が「宗教的活動に当たる」として違憲と判断した以外は憲法判断をしなかった。
 原告は、政教分離を定めた憲法に違反するなどと主張し違憲確認を求めた。東京地裁判決は「過去の事実についての確認を求める訴えは、法律に特別の規定がなければ原則として許されない」などとして却下し、憲法判断に踏み込まなかった。そのうえで、賠償や参拝差し止め請求について「参拝によって不利益な取り扱いや宗教上の規制をしたとは認められず、権利の侵害はない」と退けた。
 一方で「靖国参拝により、日本が再び軍国主義の道を進み出したと懸念したり、憤りを感じるのも理解できなくはない」と原告の訴えに一定の理解を示した。
 ◇原告、声荒らげて「右傾化の表れ」
 判決後に会見した原告らは怒りをあらわにした。
 原告の一人で、判決のために来日した韓国太平洋戦争犠牲者遺族会会長、梁順任(ヤンスニム)さん(60)は「『日本の代表的な政治家が参拝しているのを黙って見ていたら日本が戦前に戻ってしまう』と恐れて原告になった。判決に少しは期待していたが、これは右傾化の表れだ」と声を荒らげた。
 浄土真宗僧侶の蒲信一(かばしんいち)原告団長(51)は「仏教徒やキリスト教徒は平和な世界を求めているのに、靖国神社は暴力や戦争を美化している。判決は日本がたどった過去への道を再び開いた」と批判した。
 弁護団は「参拝が違憲であることは小泉首相や石原都知事自身が認識している。2人の意識を下回る判決で、裁判所は違憲審査権を放棄している」との声明を出した。
 ◇「裁判にされる問題じゃない」−−小泉首相
 判決について、小泉純一郎首相は26日夜、官邸で記者団から質問され、「別に裁判にされるような問題じゃないと思うんですけどね」と語った。
 ◇「極めて当然」−−石原都知事
 また、石原慎太郎都知事は「靖国神社へは一人の日本人として戦没者への敬意と追悼の意を表すために参拝している。それを公的とか私的とか区別することには意味がなく、差し止めを求めること自体がおかしい。判決は極めて当然の判断と受け止めている」とのコメントを発表した。

 ◇靖国参拝違憲訴訟の状況◇
地裁    判決日      憲法判断 公務性
大阪1次 04・ 2・27   −−  公的
松山   04・ 3・16   −−  −−
福岡   04・ 4・ 7   違憲  公的
大阪2次 04・ 5・13   −−  私的
千葉   04・11・25   −−  公的
那覇   05・ 1・28   −−  −−
東京   05・ 4・26   −−  −−
 ※−−は判断せず。賠償請求はすべて棄却。福岡のみ確定

靖国参拝:小泉首相演説、議員参拝で帳消しに 韓国メディア「口だけの謝罪、無意味」
毎日新聞 2005年4月23日 東京朝刊
 【ソウル堀山明子】小泉純一郎首相が22日のアジア・アフリカ会議で行った日本の過去の侵略と植民地支配を謝罪した演説について、韓国のメディアや市民団体は、同じ日に日本の国会議員80人が靖国神社を参拝したことを指摘し、「口だけの謝罪で意味がない」とその真意をいぶかる見方が強い。参拝が演説の効果を帳消しにした格好だ。
 ニュース専門テレビYTNは、首相演説と靖国参拝を二本立てで報じ、演説を「日中首脳会談を成功させるための方策」「国連安保理常任理事国入りに向け、アジア諸国の信頼獲得を意図している」と批判的に伝えた。
 市民団体「太平洋戦争被害者補償推進協議会」の李煕子(イヒジャ)共同代表は「同じ日に政治家が集団参拝したこと自体、過去を反省するとは何か、まったく分かっていない証拠だ」と強く反発している。
 与党・開かれたウリ党報道官は「(小泉首相)発言が、高まる反日の雰囲気を避けようとする小手先戦術でないことを望む」と論評を出した。

王・中国大使:「反省を行動に」歴史問題で日本を批判
毎日新聞 2005年5月27日 東京朝刊
 中国の王毅駐日大使は26日、東京都内で開かれたシンポジウムで日本の歴史認識問題について「口先のおわび、反省を実際の行動に結びつけてほしい。そうすれば中日関係は正常な発展の軌道に戻る」と述べた。小泉純一郎首相が4月のジャカルタでの演説で「反省とおわび」を表明しながら靖国神社参拝の意向を変えないことを批判するとともに、首相の靖国参拝問題が日中関係を悪化させているとの中国側の見解を強調したものだ。【平田崇浩】

靖国神社 「A級戦犯の分祀は不可能」
朝日新聞 2005年06月05日
 日本・共同通信社の報道によると、小泉純一郎首相の靖国神社への参拝に対し、中国・韓国がA級戦犯の合祀を理由に反対していることと、一部与党の要人が「分祀」などを提案していることについて、宗教法人靖国神社は4日、A級戦犯を靖国神社と別に祭ることは不可能との認識を示した。
 靖国神社が共同通信社の質問書に対し、従来の態度を維持する立場を、公式な見解として書面で表明したもの。分祀による靖国問題の困難には、大きな困難が存在することが浮き彫りになった形だ。

「靖国参拝は首相の責務」と自民・安倍氏 中国批判も
朝日新聞 2005年05月28日20時11分
 自民党の安倍晋三幹事長代理は28日、札幌市内での講演で、小泉首相の靖国神社参拝について「小泉首相がわが国のために命をささげた人たちのため、尊崇の念を表すために靖国神社をお参りするのは当然で、責務であると思う。次の首相も、その次の首相も、お参りに行っていただきたいと思う」と述べた。
 中国の呉儀(ウー・イー)副首相が小泉首相との会談を直前にとりやめたことについても「日本が自分たちに気にくわないことをやっているからといって、首脳会談をいきなりキャンセルすることは、成熟した国が行う行為ではない。覇権主義的ではないかと思う」と批判した。

靖国参拝問題:古賀・自民元幹事長「近隣国に配慮も」
毎日新聞 2005年6月3日 東京朝刊
 自民党の古賀誠元幹事長(日本遺族会会長)は2日の堀内派総会で、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題について「近隣諸国に『内政干渉だ』『けしからん』と言うだけでことが済むのか」と述べ、中国など近隣諸国に対する配慮も必要との認識を示した。古賀氏は遺族会の立場として「首相の靖国参拝を大きな目標に掲げている」と強調した上で「一番大切なことは心静かに休まること。日本の国の平和を願っているのが御祭神だ。近隣諸国には気配りも必要だろうし、思いやりも必要だ」と指摘した。

靖国参拝問題:「小泉首相は中止を」−−中曽根元首相、講演で促す
毎日新聞 2005年6月4日 東京朝刊
 中曽根康弘元首相は3日、東京都内で開かれた日韓国交正常化40周年記念の講演会で、小泉純一郎首相の靖国神社参拝に中韓両国が反発していることについて「(A級戦犯を)分祀(ぶんし)するのが一番いいが、時間がかかる。ならば参拝をやめるのも一つの立派な決断だ」と述べ、首相に参拝中止を促した。
 中曽根氏は「個人の信念を貫くことも立派だが、そのことが国家全体の利益にどういう作用を及ぼしているかを考えるのも最高責任者の大事なポイントだ」と述べ、小泉首相の参拝継続が国益を損なう可能性を指摘したうえで「(参拝を)やめるということはやる以上に勇気を要する」と首相に決断を求めた。
 中曽根氏は首相在任中の85年に靖国神社を初めて公式参拝したが、中国や韓国に配慮して翌86年からは参拝を中断した。
 同じ講演会で韓国の金鍾泌(キムジョンピル)元首相は「靖国参拝問題に韓国、中国が何か言うと内政干渉だという人がいるが、内政干渉ではない」と指摘。「分祀をするか、参拝をとりやめるか。今の状態では韓国も中国も収まらない」と述べた。【高山祐】

社説:靖国参拝問題 国益のためにやめる勇気を
毎日新聞 2005年6月5日 東京朝刊
 小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題が国内外で再燃している。首相は個人的信条の問題なので「他の国が干渉すべきでない」と参拝の姿勢を変えていない。一方で、私的信念を貫こうとするために、国益や国際協調の枠組みを損ないかねないという現実政治に直面している。
 私たちはこれまで、A級戦犯が合祀(ごうし)されている神社に首相としての参拝は行うべきでないという主張をしてきた。
 靖国問題をめぐっては、政界でも動きがでてきた。3日、中曽根康弘元首相が講演で「信念を貫くことも立派だが、国家全体の利益にどういう作用を及ぼしているかを考えるのも大事な点だ」と述べ、小泉首相に「勇気ある」参拝中止の決断を促した。
 中曽根氏は戦後40年を期して、85年の終戦記念日に初めて公式参拝した首相だが、翌年「間違いだった」と言って取りやめている。参拝の難しさを身にしみて感じている先輩首相が「やめる勇気を」と忠告する言葉を小泉首相はどう受け止めたのだろうか。
 河野洋平衆院議長も、歴代首相を集めて靖国問題を話し合い「慎重のうえにも慎重な対応が必要」との認識で一致した。自身の誕生日に1回だけ参拝し、その後周辺諸国の反発で中止した橋本龍太郎氏のほか、宮沢喜一、森喜朗氏らが顔をそろえた。
 公明党の神崎武法代表は「自粛を求める。連立の基盤に悪い影響があるだろう」と語った。
 衆院予算委の集中審議では、以前「総理大臣として行く」と言明していた小泉首相自身も「首相の職務としての参拝ではない」とトーンダウンし、A級戦犯については「戦争犯罪人とした(東京裁判を)日本は受諾している」などの認識を答弁している。しかし「心の問題は自分自身で考える問題だ」と中止要請ははねつけている。
 首相は参拝理由を「心ならずも戦争に駆り出された」戦没者に敬意と感謝の意をささげるためと言う。この点は理解できる。しかし、神社には戦争を指導した責任者の霊も一緒にまつられている。この矛盾について、迷惑をこうむった国民にも近隣諸国にもどう説明するのか、小泉首相はいまだに答えていない。「こころ」の問題を持ち出し自己完結する態度は説明責任放棄に等しく、説得力をもたないのではないか。
 戦後60年の総決算として、わが国が優先すべき「国益」の一つに国連安保理常任理事国入りがある。敗戦後、平和国家の道を歩んできた日本が常任理事国に入ることは、戦勝国による国際秩序から新しい国連へと移り変わるギアチェンジになるからだ。そのカギを握る周辺諸国との関係がギクシャクするのは、国益に何のプラスにもならない。
 小泉首相もわかっているはずなのに、意地を張り通すのは首相として思慮に欠けると言わざるを得ない。己の信条を殺してでも国益を優先させた元首相たちの重い決断を、小泉首相もかみしめるときが来ている。

靖国参拝、私的と強調 小泉首相
朝日新聞 2005年06月02日23時02分
 小泉首相は2日の衆院予算委員会で、靖国神社参拝について「首相の職務ではなく、私の信条から発する参拝に、他の国が干渉すべきでない。自分自身の判断で考える問題だ」と述べた。参拝を私的なものと位置付け、中国の意向に左右されずに参拝の継続を判断する考えを示したものだ。今年の参拝については、改めて「いつ行くかは適切に判断する」と語った。
 岡田民主党代表は「A級戦犯を昭和の受難者として合祀(ごうし)している靖国神社に、首相は参拝すべきでない」と中止を求めたが、首相は「(A級戦犯を)戦争犯罪人だと認識している」としつつ「A級戦犯のために参拝しているのではない。多くの戦没者に敬意を表している」と答えた。
 岡田氏は「アジア全体が、靖国問題をきっかけに日中関係がおかしくなる、と深刻に心配している」と指摘。日本の国連安保理常任理事国入りや北朝鮮の核・拉致問題に中国の協力を得にくくなり「国益が失われる」と追及した。首相は「時間をかけても日中友好論者だと理解していただけるよう努力したい」と、対話で問題解決をはかる考えを示した。  さらに岡田氏は「参拝に行かないと決めることも、相手を説得して考えを貫くこともしない。解決策を見つける責任がないなら首相をやめるべきだ」と退陣を迫った。首相は「中国が不快感を持っているからと言って、退陣せよという議論とどうして結びつくのか。退陣しなければならないとは考えていない」と否定した。
 また、志位共産党委員長は「侵略戦争を正当化する靖国神社の戦争観に日本政府の公認というお墨付きを与える」と批判。首相は「私は戦争への痛切な反省を表明している。靖国神社を参拝することが靖国神社の考えを支持しているととらないでほしい」と反論した。

国会議員80人が靖国参拝、現職閣僚はゼロ 春季例大祭
朝日新聞 2005年04月22日10時37分
 自民、民主両党などの超党派議員でつくる「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」(瓦力会長、266人)の国会議員80人が22日朝、春季例大祭期間中の東京・九段の靖国神社に集団で参拝した。
 参拝したのは自民党が古賀誠元幹事長、平沼赳夫前経産相ら78人、民主党は原口一博衆院議員ら2人。現職閣僚はいなかったが、西川公也内閣府副大臣と今津寛防衛庁副長官ほか、3人の政務官が参拝した。
 参拝後、同会の藤井孝男会長代理が記者会見し、中国や韓国から小泉首相の靖国神社参拝が批判を受けていることについて、「戦時に亡くなった方の御霊を参拝するのは自然な姿。中韓など近隣諸国の皆さんにご理解いただけないのは非常に残念だ」と話した。
 また、「今年はまだ小泉首相は参拝する、しないを言っていないが、ぜひしてほしい」として、会として今年も小泉首相が参拝することを期待する考えを示した。


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