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  専業主夫


 この回は女性の職場進出とそれにともなう家庭内の男女の役割について考えました。家庭内での男女の役割といっても漠然としていますので、課題では、「専業主夫」という具体例を設定し、男性が主夫として家庭にはいるという状況について生徒たちがどのように考えるのかを軸に考察しました。


【課題】 今回は男女別の課題です。(800字程度)

 まず、女子への課題。あなたは結婚していて小さい子供がいるとします。いままで夫婦共稼ぎでやってきましたが、ある日、彼がこう言い出しました。
 「おれ、仕事をやめて専業主夫になろうかと思うんだ。子供も今がいちばん手のかかる時期だし、保育園の空きはぜんぜん見つからないしさ。それに、おれ、もっと子供と一緒にいてあげたいと思うんだ。ほら、子供ってどんどん成長していくだろ。自分の子供なのに人にあずけっぱなしで、成長していく様子を身近で見守ってやることができないっていうのは残念だし、後になってきっと後悔すると思うんだ。収入は少なくなってしまうけど、節約すれば何とかやっていけると思う。それに君よりもおれの方が家事や子育てに向いていると思うんだ。子供が小学校に入って手がかからなくなったら、その時に再就職を考えようと思う。どうかな?」
 あなたは彼に何と答えますか。専業主夫になりたいという彼にあなたの考えを話してください。

 次に男子への課題。あなたは結婚していて小さい子供がいるとします。いままで夫婦共稼ぎでやってきましたが、ある日、彼女がこう言い出しました。
 「あなた、仕事をやめて専業主夫になってもらえないかしら。お互い仕事を持っていて忙しいけど、子供も今がいちばん手のかかる時期だし、保育園の空きは見つからないし、もっと子供と一緒にいてあげたいと思うの。ただ、私はいま手がけている仕事をどうしても続けたいんだ。5年前から関わってきたプロジェクトにようやく実現のめどが立って、私にそのリーダーを任せてもらえそうなの。ほら、あなた、この間、いまの仕事をやめて転職しようかなって言っていたじゃない。それならいっそのこと、家計は私の収入で十分やっていけるから、あなた、会社をやめて主夫になること、本気で考えてもらえないかしら?」
 あなたは彼女に何と答えますか。子供のためにも専業主夫になってもらえないかという彼女にあなたの考えを話してください。(2005.9)


【資料1 新聞記事】
育休取得率、女性は7割 男性なお1%未満 厚労省調査
朝日新聞 2005年08月10日13時25分
 04年度の女性の育児休業取得率は70.6%で、初めて7割を超えたことが、厚生労働省の女性雇用管理基本調査でわかった。02年度の前回調査より6.6ポイント増えた。男性は0.56%と前回(0.33%)並み。昨年末に策定した政府の「子ども・子育て応援プラン」は10年後に男性で10%とする計画だが、現状では達成はほど遠い。同省は「育児を女性に頼る男性や会社の意識改革が必要」としている。
 調査は、5人以上の従業員がいる1万89事業所を、04年10月時点で調べた。回答率は77%。育児休業は、03年度の1年間に出産した人か、配偶者が出産した人のうち、04年10月1日までに休み始めた人を集計した。
 女性の取得を事業規模別にみると、従業員500人以上は83.2%、100〜499人規模は83%といずれも8割に達したが、30〜99人規模が69.5%、5〜29人規模が60.2%と中小は6割台で、事業規模によって開きが出た。
 調査は今回で4回目。初回の96年度は女性49.1%、男性0.12%。2回目の99年度は女性56.4%、男性0.42%で、女性の上昇に比べ、男性は足踏み状態が続く。新たな少子化対策をまとめた同応援プランでは14年までに働き方を見直し、育児休業の取得率を女性80%、男性10%とする政府目標を掲げている。
 厚労省は「プランに沿った企業の行動計画で男性の育休取得を進めてほしい」としている。

育児休業:スウェーデンの企業、臨時社員を多用し支援−−内閣府調査
毎日新聞 2005年7月21日 東京朝刊
 育児休業を取りやすい環境を企業がどうつくるかを学ぶため、内閣府は20日、育児支援が整っているスウェーデンの企業1000社を調査した結果をまとめた。日本では休業者の仕事を同僚が分担する傾向が強いが、スウェーデンでは臨時契約社員を積極的に雇い、代替要員の確保に努めている。内閣府は「本人や職場の負担を少なくすることができる」と日本が学ぶ点だと指摘している。
 日本の出生率(03年)は1・29だが、スウェーデンは1・71。企業の育児休業取得率も日本の女性73・1%、男性0・4%に対し、スウェーデンは女性84・0%、男性79・2%と高い。スウェーデンでは、育児休業がとられた企業の74・4%が臨時に社員を雇い、仕事の穴を埋めている。【小川直樹】

少子化対策:男性の育児休業促進シンポ開催で予算要求
毎日新聞 2005年8月22日 3時00分
 内閣府は21日、男性の育児休業の取得を促す「サラリーマンの働き方を考えるシンポジウム」の開催費約8000万円を来年度予算の概算要求に盛り込むことを決めた。03年で男性の育児休業取得率は0.44%にとどまっており、シンポジウムを通して少子化対策の必要性を広くアピールし、取得率アップを図る。
 シンポジウムは全国7カ所で開催。企業経営者、従業員、保育所関係者などがパネリストになり、労働環境の整備などについて意見交換する。【葛西大博】

少子化アンケート:働きやすい職場を重視 女性の出産意識
毎日新聞 2005年8月21日 20時32分 (最終更新時間 8月21日 22時37分)
 毎日新聞がNTTレゾナント社の協力を得て行ったインターネット上でのアンケートで、女性を対象にした「今と何が変わったらもっと子どもを産みたいか」という質問(複数回答)に対し、「子どもがいても働きやすい職場になる」が43.0%でもっとも多かった。衆院選のマニフェストで自民、民主、公明、社民党が掲げた「児童手当など政府援助の増額」は32.1%、「待機児童ゼロ作戦」で政府与党が力を入れてきた保育園・幼稚園対策を求める声も26.4%にとどまり、少子化対策では政党と国民の意識のずれが目立った。
 質問は毎日新聞が作成し、NTTレゾナント社が運営するgooリサーチが7月19、20の両日、gooリサーチのモニターを対象に調査し、全国の10代以上の男女1079人が回答した。
 現行の児童手当は2人目までが月額5000円、3人目以降が1万円。民主、公明、社民党はいずれも具体的な増額をマニフェストの目玉に掲げた。一方、「働きやすい職場」については、公明党が子育て支援策に「生活を犠牲にしない働き方」を挙げ、重視しているが、自民党や民主党は育児休業や短時間勤務制度に触れた程度。
 アンケートでは「何が変わったら子どもを産みたいか」の質問に、専業主婦は42.0%、未婚者は44.2%が「働きやすい職場」を挙げ、仕事や結婚の有無にかかわらず、働き方が子どもの数を決めるに際し、強い影響を与えているといえる。
 働き方について男女に聞いたところ、54.3%の人が「収入が減っても子育てなどに充てる時間を増やしたい」と答えた。特に働き盛りで子育て世代の30〜40代の男性では61.3%もが「時間を増やしたい」と考え、価値観が変わり始めていることを示している。
 さらに男性に聞いた「妻の収入で家計をまかなえるならば、一家を支える大黒柱の役割を放棄して良いか」という質問でも39.0%が「そう思う」と答え、男性中心の世帯観の変化が見て取れる。ただ、30〜40代では53.8%が「そう思う」と答えたが、50代以上では32.0%で、世代間でギャップがあることも分かった。
 子育て支援に充てる国の予算について男女に聞いたところ「消費税率を上げる」はわずか5.9%。85.0%の人が「無駄な公共事業や行政経費を切り詰める」と答え、行政への不満の高さが表れた。【「未来が見えますか」取材班】


【資料2 ビデオ】
・芝信用金庫 女性職員に昇進と損害賠償を認める判決 テレビ朝日「ニュースステーション」1996.11.27
・男性の育児休業の実情 NHK「特報首都圏」2002.11.22
・女性プロ野球投手 アイラ・ボーダーズ TBS「CBSドキュメント(60ミニッツ)」1998



【資料3 キーワード】
・男女の分業
 「男は仕事、女は家庭」という男女の分業は、そう古いものではない。高度経済成長期の1960年代に、日本では労働人口の過半数が会社勤めとなり、それによって男女間の分業制が定着し、専業主婦という女性の立場が社会的に認知されていった。夫婦間の「男女の分業」というと聞こえは良いが、一方で、「生活面で自立できない男」と「経済面で自立できない女」というひと組の自立できない男女をつくり出すという問題を孕んでいる。それ以前の、農耕社会では、男女問わず農作業をおこなうため、専業主婦という存在は基本的に存在しない。

・男は結婚して専業主婦の妻をもらって「一人前」
 高度経済成長期、日本の産業は安く大量に生産することで急成長していった。そのため、従業員に要求されることは、組織と命令に従順であることと長時間労働に耐えられることだった。こうして、日本企業での長時間労働の慣習が確立していく。日々、15時間16時間と働く労働者、とりわけホワイトカラー層にとって、帰宅してから家事をすることは考えられない。そこで、専業主婦の妻をもらい、家事・育児はすべて妻にまかせ、仕事にのみ専念するようになって、はじめて「一人前」の社員と評価されるという企業内慣習が生まれていった。このことは、ひとりの社員にふたりぶんの労働を要求する日本企業の体質を意味している。そのため、独身の男性従業員や家事・育児をしながら働く女性従業員は「半人前」の存在と見なされた。また、妻帯者であっても、妻が専業主婦ではなく働きに出ている場合、社内で軽く見られる風潮が1990年代はじめまで続いた。そのため、世間体や社内での評価を気にして、妻に専業主婦になることをもとめる男性も多かった。しかし、バブル崩壊以後の不況と終身雇用の崩壊という労働状況の不安定化によって、近年ではむしろ共稼ぎを歓迎する男性が増加している。

・M型グラフ
 均等法によって後押しされた女性の職場進出と男性の意識の変化によって、近年では、結婚によって即退社する女性従業員は減少している。しかし、出産・育児とフルタイム労働との両立が困難な状況は続いており、出産を期に退社する女性は依然として多い。そのため、女性の年齢別労働力率のグラフは30代で低下する。その後、子供が小学校へ入学し、育児に手がかからなくなった30代後半から40代にかけて、パートタイムで職場復帰する女性が多い。そのため、労働力率のグラフは40代で再び上昇に転ずる。この折れ線グラフの軌跡がM字型を描くことから、日本の女性の年齢別労働力率のグラフをM型グラフと呼ぶ。

・育児休業制度
 女性のフルタイム労働を定着させるためには、出産・育児との両立が不可欠になる。そのため、政府は介護・育児休業法を制定し、育児休暇をとりやすい職場づくりを推進している。しかし、従業員ひとりあたりの業務量の多い日本企業では、育児休暇を長期にわたって所得することが困難な状況が続いている。とりわけ、男性従業員が育児休暇をとって子育てに積極的に参加し、家事・育児を分担することは、それまでの日本の企業慣習と相反するため、職場での評価や昇進に悪影響がでることを気にする男性社員が多く、育児休暇の所得率はきわめて低い。現在、育休取得率は、女性従業員で7割、男性従業員では1%未満という状況である。

・男女雇用均等法の改正
 1997年、それまで「ザル法」と呼ばれた男女雇用機会均等法が改正され、男女別の採用・研修・昇進を禁止し、違反企業に対しては企業名を公表するという罰則規定が設けられた。いまどき、女性に対して差別的な企業と名指しされることは、企業イメージに致命的ダメージを受けることになる。そのため、この改正によって、企業内での表だった男女差別は減少していった。しかし、均等法の改正・強化にともなって、企業側からの要求で労働基準法の女性保護規定が同時に撤廃された。そのため、従業員ひとりあたりの業務量の多さと長時間労働という日本企業の体質はそのまま続いている。これにより、業績を上げれば、男女問わずキャリアアップしていくようになったが、一方で家事・育児もできないほど仕事づけの生活はしたくないと考える女性も多い。このことが、女性従業員の意識にキャリア指向と主婦指向という二極化をもたらすことになった。

・男女の賃金格差
 2002年の正社員の比較で、男性の平均賃金を100とした場合、女性の平均賃金は66.5%である。男女格差の理由としては、女性従業員は重要な仕事を任されず昇進しにくいため、年齢が上昇するにつれて役職手当の付く男性社員との格差が広がっていくことがあげられる。今後は、改正均等法世代の女性従業員が管理職に昇進するケースが増加していくと予想され、正社員のみの比較では、男女間の平均賃金の差は縮小することが予想される。しかし、これはあくまで正社員のみの比較である。正社員として働く30代以上の女性従業員数が伸び悩む中、近年、パートで働く30代以上の女性は急増している。現在、パートタイムで働く女性の割合は、全女性従業員の約40%にものぼる。このパートタイム労働者もふくめて男女の賃金格差を算出すると、女性の平均は男性の半分以下となる。

・働く女性の二極化
 長時間労働という日本企業の体質のなかで生じた女性従業員の意識のキャリア指向と主婦指向という二極化は、同一職場内での女性従業員同士での対立を生みだしている。「キャリアウーマン」というと聞こえは良いが、男性社員と肩を並べて働く彼女たちの意識はオヤジである。そのため、若い腰かけOL、パート、派遣職員を同じ職場で働く仲間とは見なしておらず、むしろ、見下す傾向が強い。一方、そうした立場の女性従業員にとって、キャリア指向の女性従業員は、男性従業員以上に疎ましい存在として反感を持たれる傾向にある。近年、この女性従業員間の意識や立場の違いが、職場での軋轢を生みだしていると指摘されている。この傾向は、家事・育児をしながらでも正社員として働ける状況が定着し、ひとりの従業員がふたりぶんの労働力を示さなくても一人前と評価されるようにならないかぎり、改善されないと考えられる。

・負け犬
 酒井順子著「負け犬の遠吠え」の中で30代以上の独身女性を表現した言葉。「どんなに仕事でがんばっても結婚して子供のいる人から見ればあなたの言ってることなんて負け犬の遠吠えなのよ」という著者の母親の発言に由来している。キャリア指向と主婦指向という女性の意識の二極化、貧富の格差の拡大による「勝ち組」「負け組」の二極化という2000年代の日本の社会状況を読みとるキーワードとして注目された。


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