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  国際宇宙ステーション


1.概要

 有人宇宙飛行について発表をするためにインターネットで調べているという高校生からメールをもらいました。「有人宇宙飛行にはどのような問題があるんですか」という質問に次のような返事を書きました。参考になるかもしれませんので紹介します。



 私は宇宙開発の関係者ではなく専門的なことはわかりませんので、知っている範囲で書いてみます。まず宇宙開発全体の意義ですが、次の4つをあげることができます。

  1.惑星探査や天文現象などの天文学的知識への貢献。
  2.人間をより遠い世界へと送り出し、人間の活動の場を広げること。
  3.人工衛星の打ち上げによる社会や産業の発展への貢献。
  4.軍事技術の発展。

 1は純粋に学問的な役割といえます。現在までに様々な無人探査船が火星や木星へと送り込まれて、天文学的知識の発展に貢献してきました。2は人間がより遠くの世界へ行くという社会的な意義です。「人類の夢」や「ロマン」と言い換えることもできます。ただし、有人宇宙飛行による科学的な成果や実用的な役割はほとんどゼロですので、莫大な予算をつぎ込んでまで人間を宇宙へ送り出すことに意味があるのかは賛否の分かれるところです。3は気象衛星や通信衛星を打ち上げることによって、天気予報が正確になったり、テレビで衛星放送を見ることができるようになったり、衛星方式の携帯電話を使えるようになったりと人々の生活に様々な革新をもたらし、産業の発展にも貢献しています。この分野については衛星打ち上げビジネスとして、採算のとれるものになっています。ただし、人工衛星の打ち上げに人が乗り込む必要はないので、大型の軍事衛星や国際宇宙ステーションの部品以外はすべて無人ロケットで打ち上げています。4についてはあまり知られていませんが、実際の宇宙開発は米ソの冷戦の中で軍事分野がリードしてきました。NASAもソ連の宇宙開発機関も軍の関連組織ですし、宇宙飛行士たちもほとんどが軍人です。そのため、スペースシャトルの任務の半分以上は軍事衛星の打ち上げにでしたし、アポロ計画も科学的調査が目的ではなく、ソ連よりも先に人間を月に到達させることで、冷戦下でのアメリカの優位を世界にアピールするという政治的なねらいでした。莫大な予算のかかる宇宙開発に軍事分野の関わりは欠かすことのできないものだったわけです。また、宇宙ロケットは大型の核ミサイルと基本的にまったく同じしくみです。すぐれた宇宙ロケットを製造する技術を持つということは、地球上のどこにでも核ミサイルを撃ち込めるようになることを意味します。だからこそ、ソ連のスプートニクはアメリカにとって脅威だったし、アポロ計画の成功はアメリカの軍事力を世界にアピールするものだったわけです。そのため、アポロ計画に科学的な成果を期待していた天文学者たちは、その実態を知って失望したようです。天文学者のカール・セイガンはCBSのテレビ取材でアポロ計画について尋ねられた際、このように語っています。「当時、博士号を修得したばかりの私はアポロ計画を読み違えていました、うぶだったんですね、愚かにもこれは科学のための計画だと思ってしまったんです、実際はまったく違っていたのにね」(CBS 1994)。現在でも大型ロケットの技術は各国にとって最大の軍事機密のひとつです。

 では、宇宙開発にどれくらいのお金がかかるのかというとこうなります。

・国際宇宙ステーションの建設費 → 総額約400億ドル(約5兆円)
(当初予定よりもどんどんふくらんでいる。日本の負担ぶんはいまのところ約6000億円)
・1回のスペースシャトルの打ち上げ費用 → 約5億ドル(約600億円)
・1回の無人ロケットの打ち上げ費用 → 1億ドル〜2億ドル(100億円〜200億円)
(日本のH2ロケットの場合、1回約200億円)
・人間を火星に送り込む費用 → 10兆円〜数十兆円
(無人探査船とくらべて有人探査船では、月へ行くのに約10倍、火星だと約100倍の費用がかかる。)

 600億円や5兆円といってもピンときませんので、日本の科学研究費や教育予算と比較してみます。

・公立の小・中・高等学校の校舎改築などのための1年間の予算(2002年度) →1515億円
・ガン関連の年間研究予算(2001年度) → 140億円
・アレルギーや伝染病治療のための年間研究予算(2001年度) → 53億円
・ES細胞等を利用したクローン研究の年間研究予算(2001年度) →80億円
・小柴さんのノーベル賞で有名になったスーパーカミオカンデの建設費用(総額) →約100億円

 他の科学研究費とくらべて宇宙開発の費用はケタ違いに大きいことがわかります。スペースシャトル1回の打ち上げを日本が引き受けると、それだけでガンの研究予算4年分が消えていくわけです。現在の技術でも人間を火星へ送り込むことは可能なのに、いっこうに計画が実現しないのもやはりお金の問題があるからです。とりわけ有人宇宙飛行は無人探査船と比較して数十倍の費用がかかる割に、科学的成果や産業への貢献が期待できません。たしかに宇宙開発予算を軍事費と比較すればたいした金額ではありません。戦車1台30億円、巡航ミサイル1発2000万円という世界なので、軍事費の予算枠であれば、ロケットの打ち上げ費用もそう突出した金額ではなくなります。実際に、冷戦のはげしかった1950年代60年代には、米ソとも自らの政治的優位をアピールするために潤沢な軍事予算を宇宙開発につぎ込み、つぎつぎと大型ロケットを打ち上げました。しかし、冷戦も終わった現在、各国は軍事費を縮小しており、宇宙開発予算も減らされてきています。アポロ計画の終わった1973年以後、誰も月へ行っていないのはそのためです。たしかに人間が遠くの星へ到達するというのは冒険心をかきたててくれますが、数十兆円もの予算をつぎ込んで有人宇宙船を火星に送り込む余裕はどこの国もない状況です。もちろん戦争をやることを考えれば、その予算と情熱を宇宙開発に向けたほうがずっとましだといえます。しかし、こうした軍事予算枠での宇宙開発では、軍事目的や国家の威信のアピールのための宇宙開発となってしまい、宇宙の平和利用や科学探査は後回しにされる状況が続いてしまいます。

 では、本当に有人宇宙飛行は夢やロマンと軍事利用だけで、科学的な成果や産業への貢献はないのでしょうか。惑星探査や天文現象の科学的調査だけが目的ならば、ロボットをつかった無人探査船で十分ですし、人工衛星の打ち上げに人間がロケットの乗り込む必要もありません。無人ならば人命を危険にさらすこともなく、費用もずっと安くすみます。シャトルの爆発事故は記憶に新しいように、宇宙ロケットは飛行機と比較してはるかに事故率が高く、安全な乗り物とはいえません。惑星探査や人工衛星打ち上げがすべて無人ロケットや無人探査船でおこなわれているのは、この安全性と費用の問題があるからです。そのいっぽうで、NASAは冷戦終結によって予算を減らされてしまったため、民間企業や外国から資金を集めるため、さかんに有人宇宙飛行の有効性をアピールしています。NASAの主張をまとめると次の3つになります。

1.宇宙空間で科学実験をすることによって様々な新素材を開発したり、科学的な発見をすることができる。
2.将来、人口増加や地球の汚染によって人類が地球に住めなくなったときにそなえて、宇宙空間で生活する準備や火星へ移住する計画を立てておく必要がある。
3.人間が宇宙へ行くことで、人々の意識を宇宙へ向けることができる。

 1はいまのところまったく成果があがっていません。たしかに宇宙空間での実験は無重力や真空という点で、地上よりもはるかに好条件で実験できるんですが、やはり600億円という打ち上げ費用と事故の危険性の大きさがネックになっています。成功するかどうかわからない新素材や新薬の開発に600億円を出そうという企業は存在しません。地上の実験室で同じ研究をすれば、はるかに安く長期的な研究ができます。日本の伝染病対策の研究予算が年間わずか53億円であることを考えると、600億も使ってシャトルを打ち上げるのではなく、こうした研究費こそもっと充実させるべきだという声もあります。NASAはさかんに宇宙空間での新素材開発の有効性をアピールしていますが、1度も成功例のないものへ600億円もの出資を呼びかけるやり方に対して、詐欺的行為だという批判もあがっています。また、日本人宇宙飛行士の毛利護さんがシャトルの「宇宙実験室」でメダカの実験をしたり、子供たちに宇宙からの科学教室を開いたりしていましたが、これも同様に600億円という費用と事故の危険性をおかしてまで行う必要性があったのかという批判もでています。教育予算に600億円をあてれば、大勢の若い教師を雇うこともできますし、多くの学校で30人学級も実現できるというわけです。

 2について、将来の地球や人類がどうなるのかは何ともいえません。将来、人類はまちがいなく宇宙へ進出することになるという人もいれば、地球を住みよい世界にするためにもっと努力するべきだという人もいます。ただ、こうした宇宙進出の準備を「いま」やる必要があるのかという点では、やはり費用の問題で疑問を感じます。現在の技術では、国際宇宙ステーションを1基建設するだけで約5兆円、さらにその後の維持・運用費にも毎年数千億円が消えていきます。日本だけでも建設費用の6000億円に加えて維持費が毎年300億円かかるわけで、どうなるのかわからない将来への投資にしては金額が大きすぎるように見えます。

 3は大いに成果を上げているといえます。日本では毛利護さんがスペースシャトルに乗り込んで大いに注目をあびましたし、最初に月へ足跡をしるしたアームストロング船長は20世紀の顔のひとりといえます。つまり、無人探査船と有人宇宙船とでは、人々に与える印象がまったく異なるのです。無人探査船が火星の調査をおこなっても喜ぶのは科学者と天文マニアだけですが、人間が火星に到達したとなれば世界中から注目をあびるはずです。たとえば、火星の調査をおこなった無人探査船マーズパスファインダー号と人間を乗せて月面着陸したアポロ着陸船とを比較した場合、科学的成果の点でははるかにマーズパスファインダー号のほうが大きいのですが、知名度・注目度という点では言うまでもなくアポロ計画に軍配が上がります。それだけ「人が乗っている」ことの社会的影響力は大きいわけです。しかし、こうした有人宇宙飛行への注目は、それ自体に科学的成果があるというのではなく、政治的要素の強いものです。実際にNASAは宇宙飛行士の活躍をアピールして、さかんにNASAの予算獲得に利用しているわけです。いわば宇宙飛行士はNASAの広告塔で、彼らが変な発言をしないようにNASAでは入念に教育し、インタビューの受け答えではあれこれとNASAによるチェックが入るといわれています。

 こうしたNASAの主張は、その場しのぎの嘘をこどもがつく様子を連想してしまって、NASAや日本の宇宙開発事業団の関係者たちが有人宇宙飛行の「有用性」を本気で信じているとは考えにくいものがあります。これらは政府から資金を獲得し宇宙開発を続けるための口実にすぎず、多くの科学研究でそうであるように、研究者や技術者としては「やってみたいからやりたい」「宇宙へいってみたいからやりたい」というのが本音ではないでしょうか。

 それは子供の頃からのあこがれや夢であったり、研究者としての挑戦であったり、とにかく宇宙へ行ってみたい・行かせたいというのがまず最初で、それがどう役立つかは後からつけ足した口実にすぎないのではないかと思います。宇宙飛行士の古川聡さんはテレビに出演した際、おもむろにウルトラセブンの人形を鞄から取りだし、「宇宙へ行くことは子供の頃からのあこがれでした」と目をきらきらさせて話していました。宇宙開発の関係者にはこういうタイプが多いようです。こうした子供っぽい姿勢は知的好奇心という点ではきわめて純粋な研究動機です。その研究でもうけたいとか社会的地位を得たいというのと違って、研究自体がやりたいわけですからずっと純粋な動機といえます。ただ、それは趣味として自分のお金でやっているぶんには大いに結構なことですが、他人の税金を湯水のように使ってやるとなるとそれではすまない問題になってきます。自分の夢のために他人の税金を湯水のように使う、宇宙に行きたいという願望をかなえるために役に立つのかどうかわからないことを誇大宣伝するというやり方は、あまりにも無責任に思います。

 いかがでしょうか。



2.ポイント

●宇宙開発には莫大な費用がかかる
・国際宇宙ステーションの建設費 → 約400億ドル(約5兆円)
 (当初予定よりも大幅にふくらんでいる。日本の負担は約6000億円)
・1回のスペースシャトルの打ち上げ費用 → 約5億ドル(約600億円)
・1回の無人ロケットの打ち上げ費用 → 1億ドル〜2億ドル(100億円〜200億円)
 (日本のH2ロケットの場合、約200億円)

比較 日本の国家予算
・発展途上国への援助(ODA)予算(2002年度) → 8566億円
・公立の小・中・高等学校の校舎改築などのための予算(2002年度) →1515億円
・ガン関連の年間研究予算(2001年度) → 140億円
・アレルギー疾患や感染症治療のための年間研究予算(2001年度) → 53億円
・ES細胞等を利用した再生医療の年間研究予算(2001年度) →80億円
・スーパーカミオカンデの建設費用(総額) →約100億円

●人間を宇宙へ送り出すにはさらに巨額の費用がかかる
・人間の居住性や安全性を確保するため、無人の探査機とくらべて数十倍の費用がかかる。宇宙の滞在期間が長くなるほどその差は大きくなる。

●宇宙ロケットの事故率は非常に高い
・NASAが試算したスペースシャトルの事故率は1/245。245回打ち上げれば1回は事故をおこす確率。商用ジェット機の事故確率が100万回に1回なのにくらべ、非常に高い。
・スペースシャトルは1986年と2003年に爆発事故をおこし、いずれも乗員は全員死亡している。

●人間を宇宙へ送り出して何をするのか?
・具体的な調査・研究よりも、宇宙進出への夢とあこがれが原動力。
 (宇宙へ行って何をするかではなく、宇宙へ行くこと自体が目的)
・天文学的調査ならば無人探査機で十分な成果を上げることができる。
・アポロ計画は軍事的・政治的目的で、科学的成果はない。
・スペースシャトルを使った「宇宙実験室」で新発見はまだ一度もない。
  ・莫大な費用がかかるわりに具体的な成果は得られていない。
  ・現在の技術では宇宙開発は採算に合わない。

●国際宇宙ステーション(ISS)とは?
・アメリカ、日本、カナダ、ヨーロッパ各国、ロシアが協力して計画を進めている有人の宇宙ステーション。宇宙での特殊な環境を利用した実験や研究を長期間にわたって行う。7名が数ヶ月にわたって滞在できる。2008年の完成予定。
・宇宙開発事業団のWebサイトにISSの詳しい紹介があります。
 http://jem.tksc.nasda.go.jp/iss/index.html
・もともとはアメリカが1980年代にスペースシャトルと同時に宇宙ステーションの建設計画 をたてていたが、NASAの予算削減によって取り止めになった。冷戦の終結にともなってさらに予算を削減されたNASAはアメリカ1国での建設を断念し、世界各国へ協力を呼びかけ、1990年代に「国際」宇宙ステーションとしての計画がスタートした。
・しかし、建設には莫大な費用がかかるために計画は度々変更されている。
・また、2003年2月のスペースシャトル事故でさらに計画はおくれる模様。



3.資料 ビデオ

・「CBSドキュメンタリー」ロストフロンティア・ラストフロンティア  1996 CBS
 アポロ計画から現在の国際宇宙ステーションに至るアメリカの宇宙開発のあゆみを紹介。
・「週刊子供ニュース」宇宙飛行士・古川聡さん出演  2003.5.31 NHK



4.資料 新聞記事

国際宇宙ステーション計画の縮小 再考迫られる利用法 米の予算減が引き金
asahi.com 2002.8.29
(写真)米スペースシャトルの貨物室から見た国際宇宙ステーション。ロボットアームを使い構造物を組み立てていく=NASA提供、AP

 日米欧ロとカナダの協力で進める国際宇宙ステーション(ISS)計画が縮小されつつある。資金の大半を出す米国の予算削減方針がきっかけだ。その余波で、日本は実験棟「きぼう」の打ち上げを予定より1年以上遅らさざるをえなくなった。参加国はステーションの利用方法について再検討を迫られている。(ワシントン=大牟田透、平子義紀)

 「従来計画では06年にISSは7人常駐態勢になるはずだった。それが3人のままだと、カナダに割り当てられる実験時間は週30分未満。宇宙飛行士の滞在は11年に1回になってしまう」米国の計画縮小の動きに、カナダ政府はそう反発した。米国務省に対し「計画の協定は条約に準じるものではないのか」とねじ込んだ。程度の差はあれ、参加国共通の思いである。

 発端は昨年、ブッシュ政権下初の予算で「ISSの予算超過は見過ごせない」との判断が下されたこと。完成時にはサッカー場ほどの面積で、総重量約450トンになる計画だったが、米国居住棟と緊急帰還機の開発・建造は見合わすことになった。どちらも常駐を7人に増やすために必要な設備だ。

 ロケットや機器を独自に提供するロシアを除き、米国が全体の約8割を負担する。完成までの米拠出額は当初174億ドル(約2兆円)と見積もられていたが、昨年段階では301億ドルに達した。米航空宇宙局(NASA)は昨年1月、向こう5年間で40億ドルの超過が見込まれると、ホワイトハウスや行政管理予算局(OMB)に報告した。だが、わずか4カ月後に48億ドル超過に修正。見通しの甘さが露呈、予算削減で実績のあるオキーフOMB副長官のNASA長官起用につながった。

 NASAの外部評価委員会もこう批判した。「06年11月完成は当初計画より4年以上遅れており、設計が再三変更され、費用がかさんだ」「見積もりの専門家もおらず、毎年、その場しのぎの予算編成を続けてきた」さらに、ISSへのスペースシャトル飛行回数や常駐チームの交代頻度を削減すること、常駐3人のまま中核施設「米コア」を04年に完成させ、その先は再検討することを勧告。活動や実験に優先度を付け、予算内で設備を考えるよう求めた。ただ、実験設備の回転によって生じる人工重力が生物に与える影響などを調べる「セントリフュージ」の利用は、08年の予定を早める必要があると指摘した。

 NASAは勧告に基づく中間報告を先月まとめた。しかし、計画されている実験のうち約7割が「最優先」で、絞り込んだとはいえない。最優先実験をどんなペースで進めるかも示していない。  ロシアは「米国が緊急帰還機を造らないのなら、3人の緊急帰還用のソユーズ宇宙船(ロシア)を2機使えば6人常駐が可能だ」と代替案を示している。現行計画では、欧州各国は自前の実験棟より先に、米コアの部品を製造して提供しなければならない。実験棟をいつ打ち上げてもらえるのか、不安を募らせている。

 ○科学分野に偏らず宇宙利用を再整理 開発事業団
 日本の宇宙開発事業団は21日、ISS関連のスケジュール変更を政府の宇宙開発委員会に報告。「きぼう」部品のシャトルでの打ち上げを1〜2年先送りした。最終的には、年末に開かれる参加国協議で新しい打ち上げ日程が決まる。日本がセントリフュージの開発や建造を請け負う代わりに、米国がシャトルで部品を運ぶ契約になっている。事業団は「こちらの打ち上げが先なので、セントリフュージが欲しければ『きぼう』を早く打ち上げるよう頼める」と強気だ。
 「きぼう」は船内保管室、船内実験室、船外暴露部から構成される。実験室が出来上がれば、その要員を日本が独自に選べる。ISS常駐要員としては角野直子さんら3人が選ばれている。早ければ04年にも「きぼう」で仕事ができると見込んでいたが、任務はかなり先延ばしされた。事業団は要員の追加も考えているが、7人常駐態勢のめどが立たず、公募日程などは未定だ。
 事業団を含む宇宙3機関の統合を控え、日本の宇宙予算も米国と同じく削減努力を求められている。山浦雄一・宇宙環境利用推進部次長は厳しい環境を逆手に取り、「科学研究分野に偏っていた『きぼう』の利用を、宇宙産業の育成や芸術や文化なども含めた視点から整理し直した」と話す。
 目玉は、微小重力下でたんぱく質を結晶化させ、最終的には新薬に結びつけるプロジェクト。国が進める「たんぱく3000」のうち、約1割がこのような環境でないと作れないとみられ、製薬業界も期待をかける。

 ◇ISSの歩みと今後の予定
 84年    レーガン米大統領が各国に参加を呼びかけ
 98年 1月 15カ国が国際宇宙ステーション協定を結ぶ
    11月 最初の構造物を打ち上げる
 00年11月 宇宙飛行士3人が常駐開始
 01年 2月 米国の実験棟打ち上げ
 04年 2月 「米コア」の完成



宇宙開発自立・挑戦へ――旅行1人7―8億円、6年後にも事業団構想
日経産業新聞 2002年1月1日
 日本の宇宙開発が、自立を目指す新しい段階に入ってきた。この半世紀、目標にし続けてきた欧米と肩を並べる主力ロケットの開発にメドをつけ、国際宇宙ステーション計画の推進、地球環境を監視する衛星の開発など、国際協力が求められる活動に果敢に挑んでいる。将来の新しい市場の創出を目標に、独自の発想によるプロジェクトの提案も出てきた。実現性や採算性に関する社会の評価も厳しさを増しており、優先度を明確にした、実効性の高い宇宙開発へと変ぼうしていくだろう。

 宇宙開発事業団の先端ミッション研究センターは、独自開発の有人宇宙船を2008年にも打ち上げる「次期フラッグシップ(旗艦)ミッション」構想をまとめた。訓練を積んだ飛行士でなくても宇宙旅行ができる宇宙船として利用する。H2Aロケットの初期の開発を終えた今、次の十年を見据えた日本の宇宙開発の中核計画として実現を目指す。

 提案した新宇宙船は、円盤形で5人乗り。重量は2―3トン。日本の主力ロケットH2Aで打ち上げて地球を1日間回り、パラシュートで地上に戻ってくる。1回打ち上げて使い切る。居住部やエンジンなどを備えた拡張型もあり、1カ月間の宇宙旅行ができ、月の周回が可能だ。

 検討チームの野田篤司主任開発部員は「使い捨て型の宇宙船はコスト高になるという思い込みがある。しかし再利用型の米スペースシャトルの打ち上げコストは、1回約500億円と高い。初打ち上げから20年間は、使い捨ての方が得」と話す。

 宇宙船は最も安価なタイプで1機8億円。宇宙旅行に使うようコスト削減に徹した。約85億円に達するH2Aロケットの打ち上げ費用が悩みの種だが、実用衛星と相乗りするなどして、旅行代金を1人あたり7億―8億円に抑えられる見込み。宇宙関連メーカーや旅行会社など企業の計画参加も募りたい考え。

 従来に比べれば安価といえる宇宙旅行が実現すれば、新しい市場の形成が期待できる。日本の開発陣にとっても、独自の有人飛行技術の獲得は悲願。「81年のスペースシャトルから新しい宇宙船は20年作られていない。日本の技術で誰もが宇宙に行ける輸送手段を作りたい」と、野田主任は意気込む。

 日本の宇宙船構想には、スペースシャトル型の往還機「HOPE―X」や、有翼型ロケットなどがあった。しかしHOPE―Xは、増加するコストや実現した際の効果が不明確などの理由から、本来の大きさの4分の1サイズの試験機を最後に、開発計画が凍結された。有翼型ロケットは、技術的な壁が厚く、実現時期は30年以上先とみられる。すぐに開発に取りかかれる案ではなかった。

 この宇宙船の開発費は、総額約1000億円と試算している。実際に国の予算がつくかどうかは未知数。政府は現在、今後10年間の宇宙計画の基幹となるテーマを選抜中で、通信衛星や地球観測衛星など、ライバルをしのぐ夢や効用などが認められれば、計画着手も無理ではなさそうだ。

 一般人の宇宙旅行では、米国の実業家、デニス・チトー氏が2001年4月、ロシアに25億円を支払って国際宇宙ステーションに乗り込んだ例がある。中国も2005年に有人宇宙船を打ち上げる計画を発表し、今世紀中にいくつかの受付窓口が登場するのは間違いない。



5.資料 リンク

・「いんさいど」 その4 宇宙ステーションへの長い道  ゼニ、銭、ぜに

*こちらのサイトは、日経BP社「日経ニューメディア」編集部で宇宙開発関連の記事を担当している松浦 晋さんが公開しているものです。宇宙開発の記事を1988年3月から1992年3月までの4年間にわたって担当したときの体験談として、宇宙開発にまつわるお金の話が生々しく書かれています。


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