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  宇宙開発


 この回は有人宇宙飛行を中心とした宇宙開発について考えました。
 
 日本で、宇宙飛行というといまだに「夢」や「科学技術の発展」という視点でとらえられがちです。「日本人宇宙飛行士」や「火星開発」など、テレビや新聞の報道もそういう論調です。しかし一方で、宇宙飛行・宇宙開発は、巨額の予算のかかる一大国家事業でもあります。現在、どこの国でも地上のことで多くの問題を抱え、国家予算は赤字で悩んでいるという状況で、宇宙開発に巨額の予算をつぎ込める国はなくなってきています。そのため、アメリカでもロシアでも、宇宙開発の予算を減らしています。どこかの大金持ちがいくらでも寄付をしてくれるというのなら、宇宙開発に夢や希望だけを見ていればいいのですが、現実には経済的利益を考えなければならなくなってきています。もう、アメリカでもロシアでも、人間が宇宙へ行ったというだけで、大喜びしていた時代はとっくに過ぎているのです。1972年に、最後のアポロ宇宙飛行士が月へいって以来、もう25年間、一人も月へいっていないのはそのためです。
 
 もう一つ問題があります。今までの宇宙開発は、アメリカとソ連の政治的対立の中で、軍事目的で進められてきたということです。逆に、軍事目的だからこそ、ばく大な国家予算をかけて、人を月へ送り出したり、宇宙ステーションをつくったりできたといえます。もし、科学研究や人類の夢といった目
的で宇宙開発が進められていたら、もっとずっと小規模なものになっていたでしょう。だから、宇宙開発の歴史は冷戦の歴史でもあります。そのため、冷戦が終わった現在、宇宙開発の予算がけずられているわけです。
 
 国からの予算をけずられたNASAは「宇宙で実験をすれば、新しい薬や素材を作り出せる」とさかんに宣伝して、企業や外国からの資金提供を呼びかけています。しかし、今のところ、大きな成果は上がっていません。アメリカではほとんどの企業が宇宙開発に参加するのをやめてしまいました。まだ現在の技術では、宇宙開発によって採算がとれるほどの利益をあげることはできないのです。
 
 こうした現状と、多くの日本人の思い描く宇宙開発のイメージとは大きなズレがあります。そこで、今回の授業は宇宙開発、とりわけ、ばく大な予算がかかり政治的な色の濃い有人宇宙飛行について、考えていくことにしました。なお、授業では、宇宙開発の歩みを解説した後、次の2つのビデオを見ました。
 
ビデオ
 
●1992.NHK「スペースエイジ」より21世紀の宇宙開発
●1995.TBS「CBSドキュメント」特集・ラストフロンティア・ロストフロンティア
 
 
 生徒のレポート
 
●魚類は海以外の世界をみたくて陸へ進出した。そして、両生類や爬虫類や哺乳類になった。爬虫類は空を飛びたくなって、鳥になった。私は宇宙へ行ってみたい。そこはわからないことだらけだし、そういうなぞを解明したいとも思う。宇宙の外に何があるのかも知りたい。私だけでなく、多くの人がそう思っていると思う。
 だから、私も広い意味での宇宙開発については賛成だ。ただ、現実にはすごくお金がかかるということを聞くと、何もかも賛成という気にはならなくなった。今回、火星に探査機が着いたけど、こういうことに興味のない人にとっては、「だから、何だ」という事だろう。私も、宇宙で薬をつくるとか、宇宙で新しい物質をつくればもうかるとか、そういう話には興味がない。企業が勝手にやればいいという気がする。NASAが火星に移住する計画を宣伝しているけど、あれにも違和感を感じる。魚が陸をめざしたように、人間は火星をめざすのだろうか。よくわからないです。
 ただ、よく考えてみると、「外の世界」への興味もあるけど、今の世界にはもっと現実的にせまっている問題がたくさんある。公害問題とか病気の問題とか、そういうことにもっとお金を使った方がいいという気もする。宇宙開発は、もっと落ち着いて、長い目で見て進めていく方がいいのではないかと
思う。
 
●僕は宇宙が好きだ。宇宙のことに興味もある。月に基地をつくる計画については、以前に本でも読んだことがある。こういう計画は積極的に進めていくといいと思う。そうすれば、宇宙飛行士だけでなく、ふつうの人も宇宙へ出られるようになる。早くそういう時代がくるといいと思う。それに、宇宙開発を積極的に進めて、他の星に人間が住めるようになれば、人口の問題も解決する。
 1999年には大魔王が地球に来るだろうと言っている人もいることだし、早く宇宙基地を実現した方がいい。
 
●私は必要ないと思う。確かに、私も宇宙には少し興味がある。だけど、あまり利益もないのに、ばく大なお金をかけて、人間が宇宙へ行く必要はあるのだろうか?
 「そのうち、地球の環境が悪化して、住めなくなるだろうから、宇宙へ行く準備をしておいた方がいい」という意見があったが、宇宙へ出ていくことよりも、地球の環境問題を解決していくことのほうが大事だと思う。「地球がダメになったら、宇宙へ行けばいい」という考え方では、うまくいかないと思う。
 
●ロケットに人を乗せるとカネがかかるし、無人ロケットだと人目を引かない。今のところどうしたらいいかわからない。
 
●必要ない。そんなに金をかけてまで、人間を宇宙に送り出す必要はない。
 
●私には、人を乗せて宇宙船が飛ぶことがそんなに価値のあることだとは思えない。
 確かに、広い宇宙のことを知ることは科学の進歩に役立つし、そのことは人類の財産になる。でも、それは無人の宇宙船で十分だというのだから人を送り出す必要はない。
 ビデオの中で、「宇宙開発に国民の支持を受けるには、有人飛行をやる必要がある」と言っていたが、この意見は有人飛行に本当に意義があるというものではない。「本当はたいして役に立たないけど、人々の注目をあびて、宇宙開発に予算を出させるためには必要だ」という否定的な理由だ。それに、「安全第一」と言いながら、宇宙飛行の中で何人もの犠牲者を出している。あの「人類の進歩のためには多少の犠牲はつきものだ」という考えは、どうしても好きになれない。
 もし、人間が宇宙に進出したとして、その時、人間がさらに宇宙の様々なところで勝手に手を加えてしまうというのも気になる。地球をさんざん破壊して、さらに宇宙にまで手をのばすというのか。「人類の発展」のためなら、宇宙に手を加えてもいいのだろうかという気もした。
 そして、何よりも有人飛行にはとてつもなくお金がかかる。それを無人にすれば、どれだけのお金が浮くことだろうか。そのお金には、もっと有意義な使い方があると思う。阪神大震災で被災した人を援助するとか、大勢の難民を救うとか、現実にせまっている問題はたくさんある。そういうことに国の予算をまわさないで(神戸でいまだに仮設住宅に住んでいる人もいる)、宇宙開発をすることが、本当に人類の発展なんだろうか。
 宇宙開発のすべてを否定する気はないが、私が行きついた答えは「宇宙開発をする前にもっとやらなきゃいけないことがある」ということだ。
 
●現在はまだ必要ないと思う。今、国が大金を使ってやるべき事は、政治的に危険な国や経済的に困っている国への対策だと思う。ロシアを助けよう。
 
●宇宙開発が必要なのかどうかわからない。ただ、それにかかるばく大なお金を環境保護や難民の子供たちへの援助に使えばいいのにと思う。
 
●有人宇宙飛行は必要ないのかも知れない。お金もかかるし、危険性も大きい。それに、実用的な利益もない。でも、人間が宇宙へ出ていくことは、多くの人の夢でもある。だから、まるっきり否定する気はない。ただ、私自身は、宇宙開発を積極的に支持する気にはなれない。
 これから先、何百年、何千もの未来に、人類が宇宙に進出し支配するようになったら、宇宙までも機械化され、つくりかえられていくだろう。人間の欲望は限界がないから、宇宙の果てまで人間によって荒れ果てたところになってしまうかも知れない。私は宇宙開発の未来にそんなことを想像する。
 地球が人間によって破壊されて、生き物が住めなくなってしまったら、人間も地球とともに滅んでしまえばいい。他の星へいって、その星の環境までこわすべきではないと思う。
 
●僕は有人宇宙飛行に反対です。
有人飛行は、乗員の安全性のため、無人の場合の10倍もお金がかかるからです。
 それに、宇宙開発そのものについても、宇宙へ行って大量に資源を採掘して、消費することよりも、地球の環境をまもっていくことを考えた方がいいと思います。第二の地球を見つけてそこへ移住するということを考えるより、地球を大切にして、自然と調和したくらしを考えていくべきだと思います。
 
●人間が宇宙飛行に行くということは、いずれ、将来に人間がどこか他の星に移住するという事である。それには絶対反対だ。地球をこんなに汚染しても、まだ少しも学んでいないのか。宇宙開発にかかわっている科学者や技術者の「地球が住めなくなったら、他の星へ行けばいい」というエゴイスティックな考え方にあきれてしまう。
 
 
■村田 ご覧の通り、宇宙開発について否定的でシビアな意見が多くをしめました。高度経済成長期の終わりに育った私にとって、子供の頃、よく科学絵本のような宇宙開発を空想しました。巨大な宇宙船やはるか遠くの宇宙、人工の惑星といった想像は楽しいものでした。だから、そうした夢と現実の宇宙開発とのズレはけっこうショックでしたし、そのズレを埋めて、現実の宇宙開発をどうしたらいいか考えるのは、面白いテーマではないかと思ったのです。
 
 ところが、意外と宇宙少年・少女は少なかったようです。今の中学生の多くは、はじめから宇宙開発や宇宙飛行に夢を描いていないのでしょうか。だとすると、今回のテーマは退屈なものになってしまいます。「現実にせまった問題が山ほどあるのに、宇宙飛行どころではないだろう」というきわめてまっとうな批判は、そのまま授業のテーマ設定にもあてはまるもので、少し恐縮しています。20世紀も終わろうとする今、それだけ多くの問題が地上にあふれているということでしょうか。
 
 あと、共通して環境問題への意識が高いことがあげられます。これから先、何十年もこの地球に住み続けるわけだから、先の短い大人よりも敏感になるのは当然といえば当然というところでしょうか。ただ、人間の存在を「汚れ」とだけ考えるのは一面的な見方です。(『風の谷のナウシカ』の影響かな。)人間も生き物だし、人間が造ったビルや道路も広い意味では自然や地球の一部です。それに、人間も生活のしかたによっては、他の生き物との共存も可能のはずです。そうやって、過去何万年も暮らしてきたわけですから。

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