この回の授業では、自然保護と発展途上国の現状について、アフリカのカメールーンを舞台に考えました。生徒には、次のビデオを見てもらった後に、感想文を書いてもらいました。
【資料】ビデオ・カメルーン、ゴリラとチンパンジーの保護をめぐって
1995年イギリス制作、1995年9月にNHKで放映、45分間
ビデオのあらすじ
舞台になるのは、熱帯の国、カメルーン。
まず、ヨーロッパから来た自然保護のボランティアが登場する。彼らはアフリカの熱帯雨林からゴリラやチンパンジーが絶滅しつつあることに注目し、カメルーンで違法にペットにされているチンパンジーを救出する活動をしている。その活動は非常に献身的だが、一方で、そのやり方が強引なことから地元の人々からは嫌がられている。地元の人たちの中には「連中はアフリカ全体を動物園にしたいんじゃないか」と批判する者もいる。
現地の自然保護官は、チンパンジーやゴリラの保護は、とらわれた一部のペットを救出するよりも、熱帯雨林の破壊をくいとめない限り、根本的な解決にならないと考えている。そのため、カメラを森へと案内する。そこでは、フランス系の木材業者が、巨大なトラックに丸太を満載し、林道を往復している。木材業者は、近隣の村に病院や学校を建てる約束で伐採をはじめたが、いっこうにその約束は果たされない。また、木材を切り出すばかりで、新たに植林をしないため、熱帯雨林はじりじりと減少している。森や村が荒れるばかりの状況に業を煮やした村人たちは、トラックの通行を封鎖するため、バリケードで林道をふさぎ、実力行使に出る。しかし、カメルーン政府はフランス企業の側につき、軍隊を使って村人をしりぞけ、投獄してしまう。フランスは、カメルーンのもと宗主国で、現在も最大の援助国のため、カメルーン政府は頭が上がらないからだ。
一方、木材業者がつくった林道を利用して、新しいタイプの密猟者が森に入ってきた。彼らは、伝統的な狩猟民とは異なり、野生動物の肉を市場に出して商売にしている。アフリカでは、野生動物の肉は「ブッシュミート」といって、食べる習慣があり、かなりの金額で取り引きされている。密猟者たちは、失業し、仕方なく密猟していると言うが、ゴリラやチンパンジーを殺すことにはまったく罪悪感は持っていない。そして、彼らは森に銃を持ち込んだ。
森に銃声が響く。そこには、巨大な雄のゴリラが、白目をむいて、横たわっている。雄のゴリラは群を守ろうとして、犠牲になったのだ。残されたゴリラの群も、リーダーを失い、雌と子供だけでは、生きのびるのは難しいという。密猟者たちは、そんなことは意に介さず、手際よく獲物を解体し、森から運び出していく。カメルーンにも野生動物を保護する法律はあるが、森の奥まで法律はとどいていない。
最後に、自然保護官は再び町にもどってきて、白人ボランティアに「カメルーンの現状に目を向けてほしい」と話しかける。そして「いくらペットにされたチンパンジーを救出しても、カメルーンの経済状況が好転しない限り、根本的な解決にはならない」と言う。しかし、白人ボランティアは「ヨーロッパの価値観を受け入れることこそが、アフリカ社会の進歩になる」として、彼の主張を受けつけない。
主な登場人物とその主張
1.密猟者
彼らは伝統的な狩猟民とは違い、もとは街で生活していた人々だ。しかし、失業し、他に仕事も見つからないので、森に入り、ゴリラやチンパンジーの密猟をして暮らしている。密猟した獲物はくん製にして市場に出荷している。アフリカでは、野生動物の肉はブッシュミートといって、食べる習慣がある。
当然、彼にとっては、自分が生きていくだけで精一杯で、自然保護どころではない。また、なぜゴリラやチンパンジーを保護しなければいけないのか納得できない。そのため、密猟をすることにはまったく罪悪感はない。
その一方で、外国企業によってカメルーンの熱帯雨林が壊され、森や獲物が減っていくことに不安を感じている。
2.ヨーロッパから来た自然保護のボランティアたち
ゴリラやチンパンジーの保護活動をしている。
彼らは、ゴリラやチンパンジーは、かわいくてかしこくて貴重な動物だと考えており、現地の人たちにも、そのことをわかってほしいと思っている。また、そのことが現地の人にも伝われば、野生動物の保護はうまくいくと思っている。
その一方で、現地の人たちの生活習慣を野蛮だと見下しているところがある。そのため、現地の人たちからは、白人の考え方をおしつけるだけの「うっとうしい連中」として、嫌がられている。
3.現地の自然保護官
現地の人と白人ボランティアとの間に入って、自然保護は大事だけれど、カメルーンの現実も見てほしいととなえている。
彼は、ゴリラやチンパンジーが絶滅しかかっているのは、単に密猟者のせいではなく、カメルーン社会のまずしさや外国企業による熱帯雨林の破壊が原因だと考えている。
また、白人ボランティアのように、ゴリラやチンパンジーがかわいいと主張するだけでは、自然保護はうまくいかないと考えている。
生徒の感想
●ゴリラとか殺したって別に関係ねーけど、もし殺している密猟者がゴリラやサルだったとしたら、どーすんだ!殺されても文句いえねーぞ。
●このビデオを見て思ったことは、まず、なんて貧しい国なんだと思いました。
(密猟者と動物保護ボランティアと現地の自然保護官の)この三者の中で、一番、私の気持ちに近いのは、密猟者たちです。
食べていくためには、密猟も仕方ないと思います。だけど、ゴリラやチンパンジーは、かわいそうだし……。それに対して、ヨーロッパの自然保護の人たちのやることは、チンパンジーたちにはいいことかもしれませんが、少し強引だと思います。現地の自然保護官は、すごく大変だと思います。ヨーロッパからのボランティアはうっとうしいし、熱帯雨林は少なくなり、チンパンジーはいなくなるし。
カメルーンの国が、もっと豊かになり、密猟者にもほかの仕事をあたえられるようになればいいと思います。難しいことだとは思いますが。
●私はビデオを見て、人種差別がすごいと思いました。白人はゴリラやチンパンジーを無理に保護していて、黒人のことを考えていないし、見下しているような気がします。黒人も黒人で、白人を嫌っているので、本当の話ができません。
一番すべき事は、ゴリラやチンパンジーの保護より、お互いの心を開くことだと思います。こんな事では、いつになっても、動物たちは救えないと思いました。
●ビデオのサルを見ていて、かわいそうだと思った。サルでも、この地球に共に生きているのだから、無視していてはだめだと思う。かといって、言葉でなら誰でも言える。だから、実際に保護活動をしている人はえらいと思う。でも、それは当然のことをしているだけなのかもしれない。
●密猟者の方が正しいと思った。フランスの木材業者は、木を勝手に切り倒して、そのまま去ってしまうけど、密猟者は、必要な量しかとっていない。木材業者が切り倒した木のあとに、また新たに木を植えれば、何十年後かには、木が大きくなり、動物のすみかができるのではないか。
●ゴリラやチンパンジーを保護しなければならない理由は、私にもわからない。だけど、そう言っていたら、この世界に住むすべての動物がいなくなってしまう。それに、こういう考え方は、人間中心の考え方で、動物たちから見れば、人間は今のところ害をもたらす存在だ。
とはいうものの、こういう主張から、密猟者に密猟をやめろと言っても、生活のかかっている彼らには、説得力がない。このままでは、熱帯雨林の破壊とともに、密猟者も森の奥へ奥へとは言ってしまうだろう。
●このビデオを見て、ゴリラやチンパンジーが絶滅しかけていることを知った。そして、その原因が密猟者のせいだけでなく、日本をふくむ外国企業のせいだということに、とてもショックを受けた。普段、あたりまえのように使っているものも、ゴリラやチンパンジーの絶滅にかかわっていると思うと、胸が痛む。
●仕事もなく、その日一日の生活するのに精一杯な密猟者たちに、チンパンジーやゴリラをとってはいけないというのは、あまり望ましいことではありません。
熱帯雨林を減らしているのは、むしろ、生活に不自由していない人たちが起こしている問題ではないでしょうか?ボランティアたちの意見も悪いことではないけれど、この問題に対して、最もなっとくできる意見は、やはり、自然保護官だと思います。
密猟者たちが住んでいる森では、人が生きていくためには、森の生き物の犠牲も必要です。そう考えると、熱帯雨林の破壊の原因は、カメルーン社会の貧しさや、外国企業によるものだと考えた方が良いと思います。
●サルをトイレで飼ったりするなんて、信じられない。かわいそう。
●むずかしい問題だ。どの人の意見も無視できるものではなかった。一番この状況を冷静に見ているのは、「現地の自然保護官」だと思う。しかし、彼には、この問題を解決する力はない。まず、その国その国の独自の文化を理解するところからはじめなければいけないなと思った。
●人間は生きていくために、何かを食べなければならない。そこで問題になるのは、ゴリラやチンパンジーなどの絶滅しそうな動物を食べる場合だ。
俺が思うには、ゴリラやチンパンジーが、地球上からいなくなったとしても、人間が生きていくには関係がない。それに、密猟者は密猟しないと生きていけないのだから、ゴリラやチンパンジーの狩りは、しかたないと思う。
●密猟者は自然保護どころではないと言っている。そこになぜ、ヨーロッパから来た人たちが、自然保護の活動をしているのだろう?現地の人たちは、めいわくだと思っていて、彼らなりの考え方があるのに、なぜヨーロッパから来た人たちは、自分の国のように活動しているのだろう?
たしかに、ヨーロッパの人たちがしていることは、それが自分の国でやっているのなら、まちがったことではないと思う。だから、現地の人たちの気持ちも、もう少し考えて、彼らをなっとくさせてから、活動するべきだと思う。
●密猟者がゴリラを殺しているところは、見ていて本当にかわいそうだった。
自然保護の理想と現実とでは違いが大きすぎると思った。
●密猟者は、自分のことしか考えられない人だと思う。こういう人達がいたら、いつまでも動物たちが減り続けると思う。私が貧乏だったら、もっと仕事を一生けん命さがすと思う。動物を殺して生活するなんて、残酷だし、動物だって生きているのだから、かわいそうだと思った。
でも、日本の私たちだって、魚や肉などを食べている。そういうことを考えたら、どこの国でも、人間は動物を殺して生きているんだと思った。
このまま、こういうことが続いたら、どうなるんだろう。最後はきっと食べるものがなくなってしまう。先のことを考えると、とても不安になる。きっと、密猟者たちもそんなことを考えて、くらしているのだと思った。
●これは人間本位の考え方かも知れないが、チンパンジーやゴリラの命と人間の命とでは、私は絶対に人間の命をえらぶ。しかし、ヨーロッパから来たボランティアは、チンパンジーの命の方を大事にしているように見える。私には考えられない。ペットの一匹や二匹を助けたからって、自然は元に戻らないと思う。アフリカの大きな大陸の中で、たくさんの動物たちをどうやって保護するというのか。彼らの自然保護のやり方は、基本的にまちがっていると思う。
●ビデオに登場する人たちそれぞれに、ちゃんとした言い分があると思いました。
僕は最初は、どんな理由があっても、動物が絶滅しかけている今、密猟者が悪いと思っていました。でも、その国の政府が、彼らのような仕事のない人たちに、何の手助けもしていないことを知って、密猟者の言いたいこともわかりました。
だから、密猟者になる者が出ないように、政府が援助したり、仕事を与えたりすればいいと思いました。
●ヨーロッパからの自然保護の人たちは、ペットとして飼われていて「もう自然には帰れない」チンパンジーをむりやり助け、それでまた、自分たちがつくったおりに閉じこめている。これでは、まったく自然保護になっていないと思う。こういう活動で、満足しているなんて、どうかしていると思う。
●ユンビさん(現地の自然保護官)が「ヨーロッパから来た自然保護団体の活動は、本当の自然保護じゃない」と言っていた。でも、ゴリラやチンパンジーが絶滅してからではおそいのだから、彼らが強引な保護活動をするのもしかたのないことだ。
たしかに熱帯雨林をこわしているのは、ヨーロッパの企業だ。しかし、だからといって密猟者がゴリラを殺すのは良くない。
●私は、密猟者が言っていることが理解できません。たしかに、森の木を切っている外国企業も悪いけれど、人がやっているから自分もやるという考えは良くないと思います。
●密猟者は、獲物は神様が与えてくれたものといっているけど、神様なんているかわかんないのに、神様をもちだすのはずるいと思う。仕事がほしいのなら、自分でさがせばいい。白人のせいじゃないと思う。
●ヨーロッパからのボランティアは、なぜ、救出活動をあんなに強引にするのか不思議に思った。強引にやるのは、救出活動じゃないと思う。
逆に、現地の人たちは、ペットのサルをなんでトイレなんかで飼うのか。そんなざんこくなことをするのなら、最初から飼わなければいいと思う。
それに、私はサルを商品にしてほしくないと思う。サルだって命があるのだから、神様はそんなこと許してくれないと思う。密猟者は神様が許してくれると言うが、それはまちがっていると思う。
もうサルを殺さないでほしい。人間がサルに悪くすれば、サルだって悪くなる。だから、人間はもっと動物にやさしくなるべきだと思う。
●ゴリラやチンパンジーには、あまり興味がありません。
しかし、密猟者たちのことは、見ていて興味がわきました。彼らは、動物を殺したくはないが、そうしなければ生きていけないと言っている。どうして、密猟者はゴリラやチンパンジーを殺さなくては生きていけないのか、ボランティアの人たちもいっしょに考えて、解決していかなければいけないと思います。
●ぼくは、密猟者たちは、むやみにゴリラやチンパンジーを殺しているのだと思っていた。でも、彼らは殺したくて殺しているのではなく、子供たちに食べさせるごはんなどの生活費のために、密猟をしている。しかも、彼らはほかにはたらくところがないという。このことは本当にむなしい。
とはいうものの、はたらくところがないというのは、彼ら自身にも責任があるのではないか。だから、僕には、密猟者たちに対して悪い印象が残った。
●豊かな国は「自然を守ろう」って言っていても、本当は自分たちの利益しか考えていない気がする。私は貧富の差なんて関係ないと思う。未来は、自然環境のことで、人間は生きていけなくなるかもしれない。そうなる前に、自然を大切にしてほしい。