HALよ来い!

心臓が大きい?!

 季節は秋に向って少しづつ涼しくなっていき、朝のお散歩も家を出るころがだんだん暗くなってきました。毛の長い大きいWAN子達も少しづつ元気を取り戻し、置物敷物みたいだった夏の日が嘘のように走りまわる季節がやってきました。フリスビーの大会を見に行ってしばらくしてから、HALは何だか咳をするようになってきました。特に朝晩や走りまわった後がひどく、時には咳き込み過ぎてはいてしまったこともありました。タバコのせいかと思い、HALのいる場所ではなるべく吸わないようにしていたのですが一向に収まる気配がありません。最初にお医者に行って見てもらった時は、気管支の炎症でしょう、と軽く言われ飲み薬と喉の中にシュッシュッてやるスプレーをもらってきました。HALはスプレーをすごく嫌がったんですが、そんなことを言っている場合でもなく、口の中にゲンコツを突っ込むようにして開かせ、朝晩シュッシュッとスプレーしてました。巷ではケンネルコフがはやっているとの情報があり、もしかしたらHALもそれにかかったんじゃないかととっても心配しました。1週間たっても改善の兆しが見られないため、もしかしたら肺炎かもしれないというので胸部レントゲンを取りました。
 「ちょっと待っててくださいね。」と言われて待合室で待つことしばし、あまり真剣には考えていなかったんですが待合室に現れた先生の顔つきはかなり厳しいものでした。えっ、何、何なの。家内と顔を見合わせてお互いの不安な表情を確認します。
「咳の原因ははっきりしませんが、HALちゃんの心臓は同じぐらいの大きさのWANちゃんと比べてかなり大きいようです。心臓に何らかの欠陥があり肥大している可能性があります。」
と先生が言いました。俄かには信じがたいし信じたくも無い話でしたが、そこの先生はいままでかかった先生達と違って皮膚病の時もコクシジュウムの時も信頼に足る診断と処置をしてくれた先生で、一応信用はしていましたし同じ体重のWAN子のレントゲンとHALのレントゲンを比較して見せてもらい、確かに心臓が3割近くも大きくて骨格と心臓も含めた内臓の位置関係が随分と違っているのを見て納得せざるを得ない状況でした。
「心臓が大きいとなんか問題があるんですか?」
「障害があると体の要求で心臓が大きくなるんです。」
心臓に何か欠陥があると体が要求するぶんだけ血液が送られない。健康な心臓が10の大きさで100の血液を送っているのに、障害のある心臓は同じ大きさで80の血液しか送れないとすると、成長過程で心臓は100の血液を送るために13の大きさになる、との説明だった。
「でも大きくなって解決するならそれで良いんじゃないんですか。」
きっと良くないんだろうなと思いつつ聞いてみた。
「仮に普通の大きさで100の血液を吸いこめるんだけど、80しか送り出せない心臓だとすると、大きくなることで130吸いこんでいるのに100しか送り出せないということになります。そうすると吸いこむ方の血管にいつも30分多く圧力がかかった状態になり、その部分が太くなってくることが考えられます。この部分の血管はちょうど気管支の側にあるので、HALちゃんの咳ももしかしたらここが膨らんで気管支を圧迫しているのかもしれません。」
「心臓疾患の症状が出るとどんな風になるんですか。」
「たとえば激しい運動をした後に、一時的酸欠状態になって突然倒れてしまうということが考えられます。今までにそんな兆候が出たことがありますか?」
「いつも公園では他のWANちゃん達が嫌がるくらい、他の子の何倍も元気に走りまわって遊んでます。そんなことは一度もありません。」
成犬であれば食餌療法と投薬を併用して行い、症状によっては運動制限などもするところだけど、まだ発育途中で恒常的な投薬は副作用が心配だし、心臓疾患の症状が出ていないため当面は食事療法だけを行って様子を見ましょう、絶対に太らせないで下さいということでした。それから万が一の時のために人工呼吸のやり方を習いました。気道をまっすぐにしてから口を閉じさせ鼻から息を吹き込むというやり方でした。帰りにHILL’sのh/dという心臓疾患用のフードをもらい、下を向いて黙り込んでいる家内と、何も知らずに元気にはしゃいでいるHALを車に乗せとぼとぼと家に向いました。
 もし本当に心臓に疾患があって長生きが難しいんだったら、走りまわりたいHALを押さえつけて少しだけ寿命を延ばしてやるより、楽しく伸び伸び自由に走りまわらせて寿命どおりに生きさせる方がHALにとって幸せなんじゃないか、と帰りの車の中も家に帰ってからもず〜っと考えてました。家の家族になってからまだ半年もたたないのに、ますます可愛くなってきたところなのにそりゃないよな、でも僕がしっかりしなくっちゃと思いました。決心がついたので家内と話しをすると家内も同じ意見でした。「だってボーダーコリーなんだから。」子供達を呼んで病院の結果を話しました。心臓が悪いかも知れないこと、突然倒れても慌てないで人工呼吸をすること、もしかしたら子供は産めないかも知れないこと。ボースケはキッと唇を噛み締めて、黙って聞いてました。プースケは僕の話しがどんなに大変なことか良くわかっていないようでしたが、子供が産めないかも知れないと聞いてとってもがっかりしていました。女の子にしようと決めた時、みんないつかはHALに子供を産んで欲しいと思っていたんです。1999/10/16我が家は真っ暗でした。

back  top  next