HALよ来い!

訓練開始!その1

 かねてからの家族との約束どおり、外に出せるようになってすぐに訓練所を探し始めました。最初は犬の雑誌で探していたのですが、あまり運転が上手くない家内が車で送り迎えできる場所という条件になかなかマッチするところがなく、結局電話帳をめくって何箇所か電話をかけてみました。家から一番近そうな所に見学に行ってみることにしました。
 そこは、きっと以前は外車のディーラーだったのではないかと思うような造りで、床も壁もレンガ張りの高級そうなサロンのような場所からガラス越しに訓練中の犬達が見られるようになっていました。サロンのあちこちに台があって、その上ではまるで置物みたいに犬達が「マテ」の訓練をしていました。
 ちょっとジャッキー・チェンに似た訓練士のお兄さんが応対に出てそこのシステムをきびきびと説明してくれました。曰く、訓練を始めるのは早ければ早いほど覚えが早い。基本的には1ヶ月単位で預かってひととおり家庭犬として必要な躾をする。ボーダーは自我が強く訓練には苦労する傾向がある。などなど。
 丁度、別の訓練士さんが一頭のボーダーを訓練しているところでした。見たこともないほど美しいボーダーの男の子で黒白がはっきりしていて、全身光り輝くような毛並みでした。しかし、他の犬達は黙々と訓練士さんについて歩いているのに、その子はだだひとりチョークチェーンに噛み付いたり蛇行したりして反抗を繰り返していました。
 「あの子はもう1ヶ月うちにいるんですが、大きくなっているのでなかなか躾が入らないんです。きっと3ヶ月コースになると思います。でもお宅のHALちゃんはまだ若いから1ヶ月で大丈夫ですよ。」とジャキー・チェン君が言います。
 子供たちと顔を見合わせてから、「家は預けて訓練するつもりはありません。せっかく子犬から飼っているのに、一番可愛い盛りに何ヶ月も預けるなんて論外です。通って訓練するコースはないんですか?」子供たちも思いは同じだったようで、向いでしきりにうなづいています。
 結局、1泊2日でHALが1つコマンドを習い、迎えに行った時にそれを僕らが一緒に習って、家に帰ってから僕らがコマンドを出してもHALがちゃんとできるまで練習して、次のコマンドを習いに行くという4回の通いコースというのにしました。訓練所の値段はもの凄く高かったのですが、家から車でほぼ一本道という立地の良さに負け、他を当たる前に決めてしまいました。
 迎えに行くのはみんなで行ける土曜日が良いということで、次の金曜日に家内がHALを送っていきました。その晩はHALが泊まりでいないので、僕もHALが来てから初めて会社の帰りに一杯やってちょっぴりご機嫌で帰ってきました。毎日噛み付かれたりしてご飯もおちおち食べていられないような状態だったので、みんな伸び伸びしているのではと思っていたのですが,帰るとなんだか家の中がし〜んとして静かなのです。家内も子供たちもなんだか放心したようにテレビを見ていました。下の子が「HAL今ごろぶたれてるかな?」と言いました。上の子が「きっとぶたれてるんじゃない。」とボソッと言いました。
 HALが来てから初めてのHALがいない夜は何だかお通夜のように過ぎていきました。

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