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ベトナム各地に点在するクメール様式の遺跡、チャム・タワー。
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太平洋からの緩やかで心地よい風に当たりながらぼーっとする。そんな時間を過ごしていると、ムイ・ネーのHanh CafeオフィスのChienという男が、ちょうど16:00きっかりに私を迎えにきた。彼はバイクでファン・ティエットまで連れて行ってくれるというのだ。ちょうどファン・ティエットは行ってみたかったので私は喜んで受けた。ファン・ティエットはベトナムの定番調味料、ヌック・マムの産地として知られる漁港だ。ヌック・マムは魚醤油と言われ、腐った魚を使うらしい。そうなると産地は漁港となるわけだ。私は港町が大好きだ。もしかしたら横浜生まれだからかもしれない。何か街の匂いといい、雰囲気といい、私を落ち着かせてくれるものが港町には多い気がする。早速Chienのバイクの後ろに乗り込み、アンコール遺跡巡りのときのようにファン・ティエットへ向かった。途中、遺跡であるチャム・タワーも見学した。規模は大きくないが、この場所がいい。小高い丘の上にあり180度青空が広がるパノラマ、本当に気持ちがいい。こんな場所にいるとついつい両手を広げて伸びをしたくなってしまう。
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チャム・タワーのある小高い丘からの景色。空が広く、緑が多い。
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バイクがファン・ティエットに近づくにつれ、次第に強烈な匂いが立ちこめ始めた。相当くさい。「ムイ・ネーからファン・ティエットへ続く道の両側に小さなヌック・マムの工場が多数点在し、独特の匂いが漂う」とガイドブックに書いてあったが、全くその通りだった。工場らしきものも見えるし、瓶に入れた黄色い液体を売っているヌック・マム・ショップも多く見かける。土産には最高だろうが、今買うと重くなるからやめておこう。ファン・ティエットへ着いた私たちは、バイクで簡単に付近を散策した。ニャ・チャンよりは発展しているようで交通量も多い。しかし、どこか懐かしい雰囲気が漂っているいい感じの港町だ。ニャ・チャンがどちらかというとリゾートメインのイメージが強いのに対して、この街は私がベトナムに抱いていたイメージに近かった。Chienの話を聞くと、ディスコなどもありそこそこ栄えてはいるらしい。港に近づくともう夕方になろうとしているというのに多くの地元人たちがいた。きっと夕飯の魚でも仕入れにきているのだろう、東京では見られない光景に何か安心を覚えた。
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ファン・ティエットの街の風景。素朴な港町といった感じだ。港付近はもう少し栄えている。
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そのまま私たちは港に近い1軒の小さな食堂に入った。Chien曰く、ここの主人は漁師で、毎日新鮮な魚介類を採っては安価で地元の人たちに提供しているらしい。確かにイカやカニなどが旨かった。そのものも新鮮でとても旨いのだが、ツケダレがまた格別だ。イカには塩と胡椒にライムを絞ったMuoi Tieuがよく合う。カニには塩と唐辛子にライムを絞ったタレが非常に合った。Chienは英語もうまく、Saigon BeerのExport版大瓶を3本空けて会話を楽しんだ。この店に外国人が来るのは珍しいらしく、店のオカミさんも話に加わり、ベトナム語を教えてくれた。大いに楽しんだ後、案の定食事代は私に回ってきた。144,000ドン、バイクでの移動代や観光代を考えればそれほど大きい出費ではないが、やはり自分を本当によく思ってくれているのか、あるいは利用されているだけなのかということが分からなくなった。カンボジアのシェム・リアップで感じたのと同じ感情だ。正直、私はあのとき感じたこの複雑な気持ちに対する整理方法をまだ見出せていなかった。
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Chienと一緒に入った食堂の料理。ただでさえ新鮮な食材に独特のツケダレを使用するとビールが進みすぎる。
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酔っぱらっていたこともあり、すっかり気分が滅入ってしまった私はその後行ったカラオケでも、道ばたで購入した蒸しパンにも一切金を出さなかった。でも段々そんな自分も嫌になってきて、気晴らしのためにChienとバイクの運転手を代わった。HONDAのカブのようなバイクで、もちろん50cc(だと思う)なのでそんなにスピードは出ない。ギアがロータリー式なので少々慣れるまで時間がかかったが、慣れてしまえばなんてことはない。非常に簡単だ。スピードは40km/hが限界のようだ。街灯もそれほど多くなく、対向車がたまに来るくらいで辺りは暗い。もちろん酔っぱらっていたので危ないといえばそうだが、ヘルメットも被らず自然の中を走っていると、夜の空気がひんやりして気持ちがいい。無事宿について気分もすっきりした私はChienに別れを告げ部屋に戻った。たまたま部屋に灰皿がなかったため、私はタバコを吸うために外に出た。すると驚きだ。満天の星だったのだ。赤く光る星、あれは稼いだろうか、とにかくこんな素晴らしい星空はスノーボードの帰りの温泉でもそうは見ることはできない。私は非常に満足して部屋に戻った。明日はここムイ・ネーで観光でもしよう。もちろんバイクを借りて。そして午後はまたビーチで読書でもするとしようか。
つづく