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ダム市場メインの建物。2階建てくらいになっており、小さな専門店が軒を連ねる。
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ダム市場からの帰り道、私は海岸沿いの道に出てひたすら宿に向かって歩いた。既に太陽は沈み始めていて、水平線に近いところにある。沈むときの太陽の動きはなぜこんなに早いんだろう、そんなことを考えながら、途中休憩できそうな場所があれば一服しまた歩くといった感じで歩き続けた。するとおもしろいことに太陽が沈み始めると同時に海岸にいる人々の数が多くなってくる。そしてそのほとんどが観光客ではなく地元のベトナム人たちだった。海水浴を楽しんだり、家族で夕陽を見たり、昼間の暑さがすっかり和らいだ砂浜でサッカーをしていたりする。そう、ガイドブックなどでは「ベトナムのリゾート、ニャ・チャン」などと書かれているが、この海岸はまだまだ観光用ではない、現地の人々の社交場なのだ。一日の仕事を終え、沈み行く夕陽に一日の終わりを感じながら今日あった出来事を語らう、そんなゆっくりとした雰囲気が漂っている。みんなリラックスした顔で会話を楽しんでいる。そんな風景を見ると、なぜか私もとてもうれしくなってしまった。特にサッカーに関しては、ベトナムは強いという話は聞いたことはないが、こんな砂浜で練習していれば絶対足腰が鍛えられるだろう。サッカー日本代表、要注意である。
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ダム市場の建物外の店。食料品から日用雑貨などなんでも手に入る。。
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気がつけば今晩も雨だ。もちろんスコールだと思われるので、長く続く心配はない。雨が上がると私は近くのインターネットショップで少々日本の近況やメールなどを確認した後、すぐ近くにある「お父参カフェ」に向かった。昨晩自転車で夜の散歩に出たとき、まさに日本の居酒屋のような店構えで、外に設けられたテーブルにまでいっぱいに(おそらく)日本人が座っていたのが気になっていた。宿のThienに話すと、そこは日本人に大人気で、ベトナムの新鮮な魚を使った刺身などを味わうことができるという。宿にもこの店のショップカードが置いてあった。もちろん彼もそこへ行くのを勧めてくれた。昨晩はかなり混んでいる雰囲気だったし、店もそれほど大きくなさそうだったので果たして入れるかと思っていたが、何とか席を見つけた。私が腰を下ろしてすぐ、二人の日本人男性が来て合席となった。一人は28歳のプータロウ、もう一人は大学3年生で休学中の24歳の青年だった。学生の方は以前一年ほど旅に出ていて今回の旅もすでに4ヶ月を経過しているという。若いながら肥えた髭が旅の長さを物語っていた。
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夕暮れの海岸の風景。海水浴(もしかしたら風呂)をする人々や、潮風に吹かれ語り合う人々で満たされる。
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その二人と話していると、ちょうど後ろに座っていた男女のカップルが話しかけてきた。一緒に飲まないかと言う。もちろんOKだ。このカップルはパッケージ旅行でここニャ・チャンに来ているのだが、ツアーに含まれる夕食などおもしろくないので出歩いてこの店を見つけたらしい。千葉県の幕張で三井不動産の子会社で働いているという彼は、「本物のバックパッカーと会話するのは初めてだ」とひどく興奮していた。一方彼女の方はベトナム雑貨に興味があるらしく、ここベトナムにはかわいい雑貨が一杯あって本当に楽しいと言っていた。彼の方は東京育ちなのだが、筋金入りの阪神ファンですでに十分に回っていた酔いも手伝って、その想いを熱く語ってくれた。さらにそこへ小田急電鉄で働いていて有給を利用してベトナムへ旅行に来ているという男性二人が加わって、ボトルで頼んだ焼酎もすぐに底をつくほど大いに盛り上がった。東京を出て以来実に3日振り、ベトナムに来て初めての日本語だ。先のタイ・カンボジアの旅で考えさせられた決して消すことのできない日本人としてのアイデンティティー、なぜかちょっと悔しかったがやはり大切だと痛感した。
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砂浜でサッカーをする少年たち。足腰が自然に鍛えられそうだ。
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彼らの多くは今日ボートトリップを楽しんだという。なんでもボートでニャ・チャンから近い4つの島巡りツアーをやっていて、途中スノーケリングを楽しんだり、海の中でパーティーをやったりとかなり盛りだくさんな割にたった6$という手軽な料金らしい。明日のダイビングもキャンセルしたし、もちろん他に何も予定はない。これはぜひ味わってみようということで、途中席を抜け出して、ちょうど店じまいを始めていた旅行代理店シン・カフェで翌日のボートトリップを申し込んだ。チケットをもらい、居酒屋に戻ると残っていたのは当初の2人のみ。プータロウの方はベトナム人の女の子を気に入っているらしく、これから繁華街へ行くと言う。学生の方も付いていくらしい。私は疲れもあってか、久々に飲んだ日本酒(ベトナムには「越の一(えつのはじめ)」というオリジナルの日本酒がある)と焼酎のせいでかなり酔っぱらってしまっていたので宿に帰ることにした。すべてで94,000ドン、ホーが10,000〜15,000ドンと考えるとずいぶん豪勢な夕飯だが、もちろん日本の物価に比べれば安いし何より楽しい時間を過ごせたので大満足だ。ベロンベロンになった私は、かなりふらつきながらやっとのことで自分の部屋についた。
つづく