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第3便 ベトナム編
第1章 ニャ・チャン

第5話 一人旅の孤独

ダイビングボートが停泊していた港の風景。ベトナムの船は青にペイントされ国旗を掲げているものが多い。
 早朝6:30ぴったりに目が覚めた。なぜかここベトナムに来てからよく夢を見てる。大抵は明確には覚えていないのだが、何がか私の中で動いているのだろうか。ミニホテルの一階のテーブルでオレンジジュースを飲み干し、Rainbow Diversの迎車で私は港へ向かった。昨晩のスコールのせいか空は快晴、ダイビングには都合がいいが、今日は日焼けをしそうだ。港は出航前の漁船が多く泊まっていた。青くペイントされた船で出航準備をする漁師たちの姿を目にすることができた。オープンウォーターのライセンスを取得したセブ以来約3ヶ月ぶりのダイビングだ。しかも前回はプロダイバーの横田さんと一緒だったが、今回は一人きり、何事も挑戦だ。私を含め3人がこの日のFun Diverだ。私以外は欧米人だった。3名ほど日本人の学生らしき女の子たちが参加していたが、彼女らはTry Diveということだった。私のバディはVietという(おそらく)ベトナム人の男だ。どうやら名簿で私のYukiという名前を見てJapanese Girlと思っていたらしく、点呼のとき私が男性と分かるとひどく落胆していた。

ニャ・チャン近くの島々は手つかずの自然が残っており、海も非常にきれいなエメラルドグリーンだ。
 ボートはセブで乗ったバンカーボートよりもぐっとましだった。1st PointはTiger Wallと呼ばれるところだ。ウエットスーツ、これもせぶより上質なものを着用し、いざジャイアントストライドで海の中へ。すぐに感覚は取り戻してきた。中性浮力のコツも思い出した。しかし・・・魚がいない。どこを見渡しても魚が全然いないのだ。まるで荒れた野原のような感じだ。やっと見つけた魚もセブで見たものばかり。唯一小さなウツボを見ることができたが、これは別に珍しいものでもない。船に上がって第2のポイントへ。Try DiveやOpen Water Diveの連中もいたせいか、2回目のダイブまで2時間ほどあいた。周りは澄んだ海水で青というよりエメラルドグリーンに輝いている。島々には小さな小屋もあり非常にのんびりした風景だ。2nd Pointの名はMoray Beach、ウツボの砂浜だ。早速潜ってみると、まるで美しいリゾートビーチのような白い砂浜が続いていた。ここでもほとんど魚はいない。またまた、今度は岩場に隠れる巨大なウツボを見た。それ以外は何も面白いものはない。バディのVietも私が男性と分かってから、全く流れ作業のようにガイドをこなすだけで非常につまらなそうにしていた。

ダム市場に向かう途中の風景。何か田舎らしさというかアジアらしさというか、そんな雰囲気に和む。
 2回のダイブとも水深10mを越えたあたりから左鼻腔に激痛を覚え、快くダイブをすることはできなかった。私は幼少のころからアレルギー性鼻炎に伴う軽い蓄膿症を煩っているが、そのせいか、あるいは体調を崩しているせいだろう。第2のポイントを終え、船上で朝食。ツナサンドイッチにフルーツだ。これはなかなかうまかった。しかし、船上で孤独感が増していく。日本人三人娘の一人にはダイビングの前に軽く話しかけたが、その後は音沙汰なし。他の欧米人の連中は勝手にベラベラしゃべっている。何か肩身が狭い思いをした。そしてこれは来たなと思った。一人旅での孤独との戦い。これまでの一人旅では日本人、欧米人、現地人問わず誰かしらがいつも周りにいて孤独感なんて全く感じないときが多かったが、シェム・リアップの最終日やマレーシアのクアラ・ルンプール、そしてバンコクで感じた孤独が、ベトナムではこんなに早くも来てしまった。そういえば、昨日から誰ともろくに会話していない。こうなってしまうと一気に気が重くなってしまう。体調が一向に良くならないことや左鼻腔の激痛もあったので、ショップに戻った私はとりあえず明日のダイブはキャンセルした。

ダム市場の外に軒を連ねる果物屋。見たこともない色彩豊かな果物が沢山並んでいた。
 宿に戻ってすぐ、私はダム市場へと向かった。今日は徒歩だ。昨晩自転車で行ったときは案外近く感じたのだが、いざ歩いてみると30分以上かかってしまった。まあ、そのおかげで自転車のときは見落としていたようなニャ・チャンの風景を見ることができたのだが。市場に到着し入口近くの柱でフィルム交換をしていると、結構歳のいっているであろうベトナム人のお婆さんが近づいてきた。フォーを食べていかないかという。そんなに腹が減っていたわけではなかったが、このお婆さんがあまりにも気前がよかったのでいただいていくことにした。ところが出てきたのはフォーではなくミエンガー、春雨である。フォーは昨日の朝ニャ・チャン駅で食べたところだったので、ちょうど良かった。スープの味はフォーとさほど変わりはないが、やはり麺の歯ごたえが違った。10,000ドンは少々高い気がしたが、味は申し分なかった。市場自体はシェム・リアップのオールドマーケットをそのまま大きくしたような場所で、特にこれと言って目立つものはなかった。果実に関しては見たこともないようなものが並んでいたが、ちょっと手は出せなかった。

つづく

2006/02/06(Mon)掲載