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第3便 ベトナム編
序章

アジア好き

取得したPADIのライセンス。
 2002年のタイ・カンボジア12日間の旅から帰国後、当たり前のようにサラリーマンの生活に戻った。しかし、周りからは何か変わったと言われた。自分では全く気づかなかったが、あるとしたら日本とは全く違うカンボジアという地に行き、全く知らない世界を自分一人だけで体験できたことによる自信だろう。人が何かをしようとするときはある程度の自信が必要である。この自信の大敵が不安、不安を打ち消すには他で自分が克服して得た自信が必要になる。そういう意味では、やはり一人旅は私に多くの自信をくれたのだろう。そして、それが仕事や発言にも出てきているため、周りから変わったと言われていたに違いない。ただ、当の本人は正直なところ迷っていた。やはり、今までの人生で初めての2週間に渡る海外での旅をし、そこでいろいろなことを感じ、そして得たものも多いのだが疲れた部分もある。少なくとも帰国して2002年が終わる1ヶ月半はまた旅に出たいなどとは思わなかった。忘年会、クリスマス、大晦日、正月、新年会、おでん、鍋、熱燗、お雑煮、スノーボードそういった日本を思う存分楽しみたいと思っていた。

インストラクターのFUKAIさんと私。PCRダイビングショップにて。
 そんな私が再び海外へ脱出したのは2003年の6月、以前仕事でプロジェクトに携わったお客さんと2003年の前半に再び仕事をする機会があり、そのときに以前から意気投合していた担当者の横田さんにスキューバダイビングをしないかと誘われたことが発端だ。横田さんはすでにかなりのダイビング経験を持っており、一人でダイビング旅行に出たり、PADIのプロダイバーとして日本でダイビングのインストラクターをしたりしていた。横田さんに誘われたこのころも、まだ明確に旅に出たいという意識があったわけではない。ただ、幼少から煩っていた喘息対策として3歳から6年間水泳をしていたこともあって、水は大好きである。それほど運動神経が良くない私も水の中では思い通りに動くことができる。もちろんスキューバダイビングという世界にも少なからず興味は持っていたが、もちろんライセンスは持っていない。一人でライセンスを取りに行くというのもいまいちのらないし、ちょっと不安でもある。しかしプロダイバーの横田さんが一緒なら安心だ。そんな気持ちでOKした。

 もともとそんなに予算もなかったし、どうせライセンスの取得コースなんてたいしてダイビングを楽しむ時間もないしということで、お手軽なフィリピンのセブに行くことにした。どうせ有給休暇をとって行くんだからと1日延泊を付けて2003年6月19日から24日までの6日間、確か航空券と宿泊費、朝昼夜の食事、延泊料それにライセンス取得料をすべて合わせて55000円くらいだった気がする。とにかくものすごく安かった。ライセンス取得コースも問題なく進んだ。案の定、水は全く怖くない。それどころか、今まで自分が知らなかった海中という世界に驚いた。ウニに足を刺されたのも初めてだった。最後の1日はオプションで追加ダイブを付け魚の餌付けも体験した。目の前で食事をする魚を見たのは生まれて初めてだ。とにかくスポーツというより海中散歩と言えるスキューバダイビングに、散歩が大好きの私はまんまとハマってしまったのである。

マクタン島のアジアな風景。トライシクルから撮影。
 そして、このセブへの旅は単にスキューバダイビングの楽しさだけではなく、私にアジアというものを再度見せてくれた。旅の4日目の午後、私は横田さんと宿泊していたホテルがあるマクタン島を散策した。もちろん今まで旅したマレーシアやタイ、カンボジアとは微妙に違うのだが、それでもどこか懐かしさを感じる。ガイドブックでは「治安が悪い」と書かれていた場所に住む人たちは、ものすごく親切だ。翌日はセブ島のダウンタウンであるセブ・シティへ足を運んでみた。夕方になると屋台が立ち並び、湿った空気と合わさってアジアっぽい匂いが立ちこめる。置いてあるなんだか分からない肉を指差し、焼いてもらって簡易テーブルでビールを飲みながらかぶりつく。一緒に来ているはずの横田さんも何故か旅先のゲストハウスで会った日本人のように思えてくる。「やっぱこれが好きなんだなぁ」、素直にそう思った。そしてこのとき、まだまだアジアを旅したいという気持ちを再認識することができた。

 帰国した私は早速旅のプランを練る。もちろん旅から帰ってきてまたすぐに旅に出れるほど私の会社も甘くはない。次に旅に出るのは、ちょうど航空券も安い9月末〜11月までの間にしよう。そうすれば一応3ヶ月くらい間を置くことになるし、なんとかなるだろう。せっかくスキューバダイビングのライセンスを取得したんだし、今度の旅ではどこかで潜ってみたい。ということは海のある国がいい。スキューバダイビングは結構費用がかかる。格安でダイビングできるところはないだろうか。そんな感じで本屋で「地球の歩き方」を立ち読みして、次のターゲットを決定した。次に旅するのはベトナムにしよう。

序章 完

第1章 ニャ・チャン へつづく

※セブの旅の様子はCOLUMN「第7回 写真集:美しき楽園〜セブ〜 - 前編 -」および「第8回 写真集:美しき楽園〜セブ〜 - 後編 -」にてご紹介しています。ぜひこちらもご覧ください。

2006/01/08(Sun)掲載