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第2便 タイ・カンボジア編
第3章 再びバンコク/アユタヤ

第3話 旅の割り切り

 バンコクでは水上交通がまだ残っており、カオサン付近のチャオプラヤ川では船が水上バスとして運航している。これにでも乗って南にでも下ってみようか。パッポン通りやシーロム通りの辺りまで行ってみるのもいいかもしれない。そう遠くはないだろう。そんなことも考えながら、とりあえずカオサン通りで昼食を摂ることにした。いや、正確にはカオサン通りの一本裏の通りだ。カオサン通りはすでに多くのお洒落な欧米人向けカフェや、ちょっとした旅行者用の店で溢れているが、一本裏に入ればそこはまだそれほど多くの店はない。どちらかというと旅行代理店のオフィスやら、それほど賑やかではない店、バーなどがあり、また少しだが屋台も出ている。この通りの中にはいくつか現地人向けの昔ながらの大衆食堂もある。私はその中の一軒でバジルチキンライスを食べた。ペプシと合わせて35B、日本円にして120円程度だ。相変わらず安い。

雨のカオサン・ロード。突然降り出したスコールで通りから一気に人気が消えた。
 腹も満たされ水上バスの方へ向かおうとして店を出たところ、どうも雲行きがあやしい。これは来るかもしれない、そう感じた私はもうちょっとこの辺りで時間を潰そうとカオサン通りを散歩した。以前からちょっと気になっていた多くの旅行者が着ているタイのビールのロゴの入ったロングスリーブTシャツを値切って200Bで購入、先ほどの昼飯がそれほど量がなかったので屋台で何か買って食べようと思った瞬間、一気に来た。スコールだ。昨日は北バスターミナルで少しだけ体験したが、今日はもろだ。カオサン通りを散策していた欧米人はみんな通りの両側の店で雨宿りをする。一瞬で通りから人気が消えた。窓のないトゥクトゥクだけが大急ぎでどこかへ向かう。スコールは凄まじい勢いだった。しばらくして、ちょっと勢いが弱まったうちにゲストハウスへ向かう。ところが驚いたことにゲストハウスへ続くワット・チャナソンクラム通りは水浸しで小さな川のようになっていたのだ。ビーチサンダルで入ると軽く踝までは雨水に浸かる。一度弱まったスコールの勢いは再度激しくなる。雷も鳴りだした。私は途中にあった店先で小休してから、また勢いが弱まるのを待ってからなんとかゲストハウスに着くことができた。スコールはすぐに止む、と言っても今外で降っている雨は一向に止みそうもない。これではどこにも出れない。私は仕方なく一眠りすることにした。

 起きると17:30、雨は既に上がっていた。しかしこれからパッポンの方へ行くには時間が遅すぎる。とりあえず夕食もカオサンで摂ることにした。やはり一本外れた通りにある、昼に行ったのとは違う半屋台のような店に入った。そこで私は一人のタイ人女性と知り合いになった。Weeと言う名のその女性は40代前半だろうか、19歳と17歳になる二人の娘の母親だった。たまたま同じテーブルになったので話かけると、すっかり打ち解けてしまったのだ。私たちは夕食を食べながら会話を楽しんだ。Weeは飯に野菜の炒め物をかけたようなものを注文し、それを少し私に分けてくれた。私はタイに来て初めてのトムヤムクンだ。辛かったが旨かった。Weeはこの近くのレストランでトムヤムクンを料理しているらしく、とにかくトムヤムクンはうまいだろうと行ってきた。しばらく話をして「娘たちが待っているので帰る」と別れた。

 Weeが帰った後、私は同じ店で清水さんという日本人の女性と出会った。彼女は26歳で東京に住んでいるという。派遣会社に勤めていたのだが、つい先日その仕事を辞めて旅に出たらしい。昨晩カオサンに到着したばかりでこれから1ヶ月程度旅をする予定だそうだ。とりあえず南の島へフルムーンパーティーにでも行くつもりだと言っていた。アジア以外にもかなり様々なところを旅したらしく、いろいろな場所の話をしてくれた。場所をカオサン通りのバーに移して、結局0:30くらいまで飲んでいた。私は今回カンボジアでひどく精神的な孤独感と旅の疲れを感じたこと、特に現地の人と仲良くなり、日本人とカンボジア人という括りを越えて付き合いたくても、どうしても国籍や旅行者という見えない壁が立ち塞がりどこかでそれがすっきりせずチグハグになったことを話した。彼女は「それはしょうがないことなんだよ」と言う。彼女も以前同じようなことを感じたことがあるらしい。しかし、それはもう割り切るしかないという結論に達し、下手な感情は持たないようにしているらしい。確かにそうなのかもしれない。それはそのときの私にとってひどく悲しいことだったが、それを割り切らないことにはこれから旅は続けられないのかもしれない。しかし、果たして私にそのような感情を捨てることができるのだろうか。バーではSangsonというタイのウイスキーを飲んだ。素だと薬のような味できついので、コーラで割るのが普通のようだ。それでもそれなりにきつかった。すっかり酔っぱらってしまった私は彼女と別れてゲストハウスへ戻った。頭がグルグル回っている。どうやら後から来る酒のようだ。そんな気持ち悪くも心地よい感覚の中でそのまま眠りについた。

つづく

2005/12/27(Tue)掲載