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第2便 タイ・カンボジア編
第3章 再びバンコク/アユタヤ

第1話 雨のバンコク

バスからのタイの夕暮れ。徐々に高度を下げ始めた太陽。
 無事タイに再入国を果たした私はバンコク行きのバスを探していた。国境にはいくつかのバスがあったが、どれも350Bや270Bとやや高い。今日は朝も早かったのに加え悪路を揺られてきたためか疲れてもいたので、そろそろ妥協しようかと思っていたところに男女二人組のバックパッカーが声をかけてきた。「安いバスを知らないか?」と言う。「私も探しているのだ」と答えると「じゃあ、一緒に探そう」ということになった。私は彼らとともに国境付近を歩き回り、ここからトゥクトゥクで5分程度行った場所に公共バスターミナルがあることを突き止めた。一緒に探したバックパッカー二人は「トゥクトゥクで5分程度なら歩こう」と言ってきた。それを聞いた現地の人が驚いていたのがちょっと気になったが、安く上がるならと私も同意した。早速途中まで歩いてはみたものの、一向にバスターミナルらしきものは見えてこない。さらにとにかく暑い。疲れも極限に来ている。私は何度か倒れそうになった。それは私だけではなかった。彼らもまた同じようだったので、ここでヒッチハイクをすることにした。女性もいたからだろうか、運良くすぐに一台のピックアップトラックが停まってくれた。運転手は人が良さそうなオジさんだ。彼は快く私たちを受け入れてくれた。早速荷台に乗り込みバスターミナルへ向かう。吹き付ける風邪が心地よい。カンボジアの国道6号と違って、こちらタイの道は完全に奇麗に舗装されているため砂塵はない。2、3分してトラックはバスターミナルに到着した。到着してからわかったが、とても歩ける距離ではなかった。あのまま歩いていたら間違いなく倒れていただろう。

バスからのタイの夕暮れ。厚い雲の中へと落ちて行く太陽。
 このバスターミナルにはバンコクのカオサン行きというバスはない。カオサンに向かうのは主に外国人旅行客、現地のローカルバスターミナルにそこへ向かうバスがないというのは当然といえば当然だ。バンコクの北バスターミナル行きがあったので、私たちは164B払ってそのバスに乗り込んだ。かなり奇麗なバスだ。カンボジアへ向かう際にバンコクから乗ったバスより数段奇麗で、しかも冷房がしっかり効いている。さらにミネラルウォーターのサービスもある。バスの中で私は先ほど会ったバックパッカーと話をした。男性はBjoern、女性はDaniela、ドイツ人カップルだ。特にBjoernと私は気が合いかなり話は盛り上がった。「オレが知っているドイツ語は"Ich liebe Dich"(I love youの意味)だけだ」と言うと彼が笑いながら「Enough!!」と言う。すると隣ではDanielaが「Not enough!!」と怒る。そんな陽気な時間を過ごした。それからバスの窓からタイの日暮れの風景を眺めているうちにいつの間にか眠りに落ちた。

バスからのタイの夕暮れ。太陽は沈み、空は美しい色に染まり始める。
 15:00に国境のバスターミナルを出て、バンコクの北バスターミナルに到着したのが19:30、バンコク市内は豪雨だった。私たちはそこで韓国人の女の子二人組と出会い、みんなで乗り合いタクシーでカオサンへ向かおうということになったのだが、5人を一度に乗せてくれるタクシーはなかった。そのとき私は遠くに通り過ぎる3系統のバスを見つけた。3系統は確かカオサンへ行くはずだ。早速みんなで雨の中を隣の公共バスターミナルまで走る。運良くすぐバスが来たので飛び乗った。例の赤いバス、3.5Bだ。タクシーが150Bと言っていたのと比べるとすばらしくお得だ。やはり公共バスはさまざまな所を経由して行くため1時間ほどかかりようやくカオサンへ到着した。雨は小雨になっていた。どうやらスコールだったようだ。韓国人2人とはバス停で別れ、私とBjoernたちはワット・チャナソンクラム通りの方へ向かった。カンボジアへ発つ前に宿泊していたBella Bella Guest Houseやその周辺のMerry V、My House、Greenと廻ってみたがどこも満室だった。やっとのことでBanglampoo Guest Houseという宿で120Bのシングルルームを見つけ、そこに泊まることにした。Bjoernたちも同じ宿のダブルルームに泊まることになった。

 少しして私たちは3人で夕食に出掛けた。近くの小さな食堂でFried Rice with ShrimpとChang Beer Large Bottleを注文した。ここ、タイへ来ての初めてのシーフードだ。なかなかうまかった。BjoernはLarge Shrimpを頼んだ。ドイツでは小さいエビしかとれないらしく、タイの大きいタイガーシュリンプを見て「Amazing!!」を連発していた。また彼は相当サッカーが好きなようで食堂の大型テレビに釘付けになっていたため、私は主にDanielaと話をした。Bjoernは大学で建築を学んでいる27歳で、休みを利用して会社で働く彼女のDanielaと1年くらいの予定で旅をしているのだそうだ。日本の建築にも興味があると言っていた。またDanielaは漢字に非常に興味があって、アドレス交換のときに私が自分の名前を漢字で書くと「Beautiful!!」と感動していた。それにしても、やはり1年の旅で世界を見てきた人を受け入れる社会を持つ国に住んでいる彼らが、ものすごく羨ましく思った。なぜ日本の社会は「新卒」を良しとし、大学を出て旅をして世界を見てきた人を受け入れようとしないのだろう。絶対に多くを感じ、強い人間に成長しているはずなのに。宿へ戻ると私はチョークバッグも外さず、明かりもつけたまま眠ってしまった。やはり相当疲れていたようだ。

つづく

2005/12/19(Mon)掲載