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クアラ・ルンプールの街並。訪れてきた他の場所と比べて明らかに空が狭い。正面に見えるのはKLタワー。
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都会散策を続ける私の前に、また面白い光景が飛び込んできた。なんてことはない、「スーツ姿の男性」である。もちろんここクアラ・ルンプールは日本よりもだいぶ赤道に近い所に位置し、暑い。しかし、スーツを着込んで、ビシッとネクタイを締めているのである。もちろん、こんな暑いのにスーツなのかということにも哀れみを感じたが、何より彼がマレーシアで私が初めて見た「スーツ姿」だったのである。ここマレーシアは近年高度経済成長を続けているのは知っている。それは、ちょっと顔をあげてこのクアラ・ルンプールの空を見れば明らかである。しかし、ペナン島−マラッカと旅してきて、今まで私が全く目にすることがなかった人種が、ここにいるのである。これもまた、私に明らかに地方都市とは違う首都クアラ・ルンプールと印象づけた。
日は高く昇り、そろそろ昼時なので私は近くの大衆食堂に入ることにした。昼時とはいえすでに14時を過ぎている。食堂はがら空きだった。クアラ・ルンプールに観光で来る人たちはこのような大衆食堂で食事はしないのだろう、この店には英語のメニューがない。これは困った。ということで、私は定番Fried Riceを注文した。なんとか店員にも理解してもらい、食事にありつくことができた。(「ナシゴレン」という言い方で通じた)しかし、冷たい。料理がではない。人がだ。ペナンやマラッカ(マラッカではそれほど食堂で食事はしなかったが)では、食堂で私が独り食事をしていると店員やら近くのテーブルで食事をしている現地人が、気さくに声をかけてきてくれたものだ。しかし、ここは店員も食事をしている現地人も全くその様子がない。むしろ、変なモノでも見るような目で私を見ている。「ナンデコノガイジンハコンナトコロデメシクッテルンダ?」そんな感じで見ているのだ。どうも居心地が悪いので、私はさっさと食事を済ませ、会計をして店を出た。確かにここにはバックパッカーも少ない。道を歩いていても、明らかにバックパッカーと思われる人には出会わなかった。
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クアラ・ルンプールのHard Rock Cafe。正面の上にはHarley Davidson風のバイクに乗った人形がメリーゴーランドのように回転している。貧乏旅行には高い店なので、土産にTシャツだけ買った。
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奇麗に掃除された歩道を私は独り歩いた。目指すはクアラ・ルンプールのHard Rock Cafeだ。高校以来、私はどこか旅をすると必ず記念にHard Rock Cafe Classic T-shirtsの白を購入するようになっていた。もちろん、その年にHard Rock Cafeがなくてはいけないわけだが、特に自分への土産を買うより、どこへ行っても2000円前後のこれが一番の土産なのだ。このクアラ・ルンプールにもHard Rock Cafeが存在する。ガイドブックでそれを知った私は、早速行ってみることにしたのだ。何度か道に迷いながら、たどり着いた。入り口の上でハーレータイプのバイクに乗っている二人がMerry-Go-Roundのように回っているバーだった。早速入ったが、当たり前のようにメニューは貧乏旅行には高すぎる。私は飯を食うのをやめ、T-Shirtsだけ購入して店を出た。その足で、すぐ近くにあるペトロナス・ツイン・タワーへ向かった。2塔のモスクを模したこの建物はショーン・コネリーとキャサリン・ゼタ・ジョーンズが共演した映画『エントラップメント』(1999年)の舞台にもなったこの時点で世界で最も高いビルである。初めは外観だけ見ていたのだが、ちょうどこのときスコールが私を襲ったので、雨宿りも兼ねこの建物に入ってみた。
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世界一高いビル、ペトロナス・ツイン・タワー。モスクを模したその形はアーティスティックな面においても有名である。遠くから見ても大きな塔は、近くで見るとその大きさに圧倒させられる。
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ここら辺はKLCC(Kuara Lumpur City Centre)と呼ばれており、その象徴とも言えるペトロナス・ツイン・タワーの下には、ショッピングモールSuria KLCCが入っている。早速中に入ってみると、世界的に有名なブランド店や伊勢丹等が入っているこのショッピングモールは、マラッカのマコタ・パレードとは比較にもならないくらい高級感を漂わせていた。もちろんショッピングに来ている現地人たちの身なりも違う。マコタ・パレードがイトーヨーカドーだとしたら、こちらは日本橋三越あたりになるのだろうか、そんな感じだ。何をしようにも金がかかる。ちょっとコーヒーでも飲もうものなら、ペナンでは3杯は飲める値段を払わなければいけない。ここでもやはり「都会」ということを実感せざるを得なかった。汗で汚れたTシャツとうす汚いジーンズという格好の私は、雨が止むのを待ってすぐさまこのショッピングモールを出た。ペトロナス・ツイン・タワーは展望台もある。しかし、定期的にくるエレベーターを待たなければいけないのと、早くこの場所を立ち去りたい思いから今日は行くのはやめておいた。
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帰り道のKLの風景。大きな建物が多く建っているが、まだ建設中の場所もある。これからさらに発展していくという感じだ。
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KLCCからゲストハウスまで歩いた。もう陽は沈みかけ、街にはゴージャスなネオンや街灯が眩く輝いていた。高級ホテルが林立するエリアに入った。JW Marriott HotelやThe Ritz-Carlton KL、The Regent Kuara Lumpurなど、私には縁のない宿ばかりだ。近くには高級ショップもあり、バカンスだろうか、中年の欧米人夫婦らしき観光者が多く出歩いていた。もちろん、ここら辺は現地の人たちも観光客目当ての商売をやっているようで、私などが通っても全く愛想などなかった。なんだろう。何気ない冷たさと、何か身なり等で評価されているような嫌な感じ、もちろん自意識過剰なのかもしれないが、明らかにここの人たちはそういったものを私に対して向けているような気がした。マラッカでも若干は感じたが、ここクアラ・ルンプールはそれが著しい。東京もそうだが、これがおそらく「都会」なのだろう。それらを受けた私は、「寂しさ」を感じてしまった。何かそういった中にいると行動が縛られてしまうような気がした。そして、ここクアラ・ルンプールは私にとって明らかに「場違い」な場所だと痛感したのである。
つづく