「ゲンイチロー?」 「リョーマ?」 なんでここにいる? それは二人の胸に浮かんだ共通な台詞だった。 ここは、様々な雑貨が並んだ店だった。生活に密着した雑貨から輸入品、国内の便利グッズまで種類も豊富で色鮮やかなものが並んでいる。流行のファッション、本屋などがテナントとして入っているビルの5階フロアーすべて占めている店だ。並んでいる商品から客層は女性が圧倒的に多い。男性客もいるが、とても少ない。 「あれ?こっち来るっていってた?」 「イヤ……。急に決まって」 真田弦一郎は全く彼らしくなく歯切れ悪い。 彼らはメル友だ。 日頃、些細なことをやりとりしている。が、昨日のメールでリョーマは真田が神奈川からこちらに出かけてくるなど聞いていなかった。普通に元気か?とかテニスの調子はどうか?とか今度テストがあるとか、そんな話題だった。 「でも、ゲンイチローが、こんなところに来るなんて珍しいね」 リョーマは首を傾げて真田を見上げた。こんな場所に縁のある人間ではなかったはずだ。必要があれば雑貨などの店に赴くだろうが、遠出してまでこの店に用があるとは思えない。神奈川からここまでは遠い。 「ああ……。母親に頼まれて。ここでないと手に入らないものがあるらしい」 そう、真田としても女性客であふれている場所になど来たくはなかった。だが、母親には逆らえないため、わざわざ遠方の店までやってきたのだ。メールでリョーマに伝えなかったのは、単に恥ずかしかっただけに他ならない。東京に来るならリョーマに会えればうれしいと思うが、自分がこんなちゃらちゃらした店に行くなどと言いたくなかったのだ。真田の男心は今時珍しく純粋である。 「へえ。頼まれたもの買えたの?」 「ああ。この通り」 真田は手に持っていた袋を見せる。店のロゴがプリントされた紺色のPPの袋である。 「おまえは?買い物か?」 真田は、ふと疑問に思って問う。 リョーマがこういった店にいることは別段おかしくはないが、一人であることは不思議だった。誰かと買い物ならわかる。だが、そうでなければテニスでもしている方が自然だ。 「俺はね、ちょっと見に来たんだけど。何かないかなーと思って」 困ったようにリョーマは笑う。その台詞と表情に真田はますます不思議に思った。 「何かとは?」 「もうすぐKeyのbirthdayなんだ。それでプレゼントなににしようか迷ってさ。いいものあるかなーと思って見に来た」 「そうか。跡部か」 確かに、跡部景吾という男に渡すプレゼントなど真田には思いつかない。親しいリョーマならわかりそうだが。 「リョーマからもらえれば、なんでもあいつは嬉しいだろ?」 「そうだろうねー。Keyってそういう人だし。でも、だからこそ、喜んでもらいたいんだ」 「……」 「なかなかいいもの見つからないけどね」 リョーマは雑貨であふれた店内をくるりと見回して苦笑する。 「それなら、今まで跡部がくれたプレゼントを参考にすればいい」 真田は悩んだ末、そう助言した。どんなものを過去にもらったかによるだろう。そして、今までどんなものを贈ったか。同じものを避けるか、それともあえて同じもので通すか。真田は知らないが、リョーマは跡部にちゃんとしたプレゼントを贈るのは初めてだった。 「……あれ?そういえば、あらかじめ用意したプレゼントをKeyからもらったことないや。いつも突然母親の都合で会ったから。birthdayにって、その場で急いで花束くれたことあるよ、小さい頃」 リョーマの誕生日がクリスマス・イブであることは知っていてもその辺りで会うか会わないかは母親の都合だったため、プレゼントを用意するとうことが跡部には不可能だった。それでも、クリスマスパーティだと母親にアメリカへと唐突に連れていかれた時、跡部は近所の花屋で可愛らしい花束を作ってリョーマに贈った。跡部が小学五年生の時の話である。 「……」 さすが跡部である。自分にはまねできないと真田は思った。 「俺も、だからKeyにプレゼントちゃんと渡したことないよ。今までアメリカと日本と離れていて、こんな時期に会うこと少なかったし。突然だし。初めて知った時はおめでとうって言うしかできなかった」 「たとえ物がなくてもいいと俺は思うが?同じようにおめでとうといえば、それだけできっといい」 真田は自分に当てはめて思う。何かが欲しい訳ではないだろう。笑顔でおめでとうといって祝ってもらえれば、それだけで嬉しい。 「同じように?」 「ああ」 真田は力強く頷いた。リョーマは小さく笑って、「それでもいいかもね」と返した。 ちなみに、同じようにという言葉通り、リョーマはおめでとう!といって頬にキスを贈ることを思い浮かべている。もちろん真田はそんなことは知らない。 「Thanks、ゲンイチロー」 「イヤ。大して役に立っていない」 「そんなことないよ。謙虚なんだから。ねえ、今度こっちに来ることがあったら連絡ちょうだいね」 「ああ」 「約束」 にこりとリョーマは笑った。今日は突然で時間がないが、今度は話をしたいと思う。できれば、テニスも。 真田も大きく頷いて、笑みを浮かべる。 二人は、じゃあ、と手を振り笑顔で別れた。 |