「ロミオとジュリエット」5


「お疲れさま〜!」
「良かったよ」
「絶対1位だって」
 舞台が終わると演劇やり終えた達成感と充実感から皆興奮気味に話す。
 三蔵はその中を抜けて、着替えることもせず客席に走った。隣にいた八戒もどうしたことかと後を追いかけた。
 ジュリエットの衣装を着た美人な三蔵が客席に現れたら当然だが人目を引いた。皆、どうしたことだ?と注目する。
 しかし、三蔵は気にした風もなく、というか気にする暇もなく走った。
「父さん!」
 三蔵は父親の後ろ姿に声をかけた。そう、光明が見に来ていたのだ。
「おや、三蔵どうしました?」
「どうしたじゃない。見に来るなんて、聞いてない・・・」
 三蔵は恥ずかしさからか顔を赤くして、困ったように眉をひそめる。
「良かったですよ、三蔵」
 光明はにっこり微笑み、三蔵を誉める。
「・・・何で隠してたんだ?」
「あはは、すみません。脅かしたかったんですよ。それに私が来るからって緊張させるのも悪い気がして」
「黙ってたって、気付くって・・・。舞台で父さん見つけた時はびっくりした。あれなら先に言っておいてもらった方がいい」
 三蔵はすねたように、責める声で言う。
 それを穏やかに見ながら光明は三蔵の肩にぽんと手を置いた。
「見ていて、三蔵が楽しそうなのでこっちまで嬉しくなってしまいました」
 幸せそうに言われると三蔵も対応に困る。
「・・・」
 可愛い三蔵をにっこりと微笑みながら見つめると、光明は三蔵の少し後ろに八戒がいるのを見つけた。
「貴方は・・・確か?」
「こんにちは、八戒です」
「一度夏休みに遊びに来てくれましたよね?」
「はい。あの時はお邪魔しました」
 八戒は頭を軽く下げる。
「また遊びに来て下さいね。貴方が先ほどのロミオですよね?とても素晴らしかったですよ。声もよく響いて姿も絵になってるし、何より三蔵と息が合ってましたよ」
「ありがとうございます」
 八戒も光明に誉められて嬉しい。
 三蔵の父親に認めてもらえるのは気分がいい。
「それにしても似合ってますね、二人とも」
 光明は三蔵のドレス姿、八戒のタイトな衣装に目を細め面白そうに顔をほころばせる。
「父さん・・・」
 三蔵は呆れたように光明を見上げた。
 どこまでも穏やかで、どこまでも楽しそうな光明は自分の息子が女装しても全然問題なく、楽しめるらしい。
 やっぱり父親に見られたのは間違いだったかもしれないと、三蔵は思う。内心、ちょっとだけため息を付いて光明を誘った。
「どこか、行く?喫茶もやってるし」
「いいえ。今日はこれで帰ります。だからお友達と一緒にいて下さい。帰ってきてから話をしてくれればいいですよ」
 ね?と微笑んで、八戒に視線を合わせると
「三蔵をよろしくお願いします」
 と言って去った。
 一緒に光明を見送った八戒は、
「良かったですね、三蔵」
 と言って笑った。
「ふん」
 三蔵は照れくさそうに、出口を見つめたままだ。
「どこか、回るか?」
「そうですね、回りましょう」
 若干赤い三蔵の横顔を見つめながら、八戒は頷いた。



 文化祭の最終日。
 投票は午後2時を締め切りに、開票され3時半に放送で発表される。どこにいても放送は入ることになっており、放送を固唾をのんで待っていた。
「お待たせしました、みなさん。とうとう投票結果が集計されました。今回の3学年の1位は9組、喫茶「紅茶とケーキの店」。2学年は5組、占いの館「統計の国」。1学年は1組の演劇「ロミオとジュリエット」です。ジャジャジャ〜ン!ーーー効果音が入る。ーーー栄えある総合1位は下級生ながらダントツ人気で1年1組です。おめでとうございます!!!これから授与式がありますので、クラスの代表者は講堂までおいで下さい。以上生徒会内、文化祭実行委員責任者よりお届けしました」

「わ〜〜〜!!!」
「やった!!!」
 当然の歓声であった。
 1年1組はおおはしゃぎある。
 1年で総合1位はなかなか取れないのだ。過去の歴史からいっても2、3年がほとんどだ。票を掴む術を心得ているからなのか、企画提案が優れているのか、例え1年であろうと年の功なのか・・・。
 どんな理由にせよ、今年は1年生が勝ったのである。嬉しくない訳がない。優勝できなくても、同じ1年として喜ばしいと歓迎ムードが漂っている。
「やりましたね、三蔵」
「ああ」
 三蔵が満足げに笑う。
 代役として、責任を果たすことができた。何でも完璧を求める三蔵としても、負けることは大嫌いだ。
 目指すなら1位に決まっている。三蔵は思う。
 こんなに充実感のある文化祭は初めてだ。いつも横で見ていたけれど、主役として参加して優勝を取ることができた。八戒や、クラスの皆と一緒に満足のいく結果が出せたのだ。
 楽しかった。
 嬉しかった。
 こんな感情は初めてで、戸惑いながらも歓迎している。だから、八戒に向けてにっこりと花が咲くような微笑みを見せた。
 誰もが見惚れるだろう、優しくて綺麗な微笑みだ。その微笑みに八戒は驚きで一瞬目を丸くするが、くすぐったそうに微笑み返した。


 そう、三蔵の未来はこれからだ。まだ、15歳。
 どこまでも、可能性は広がっている。







 後日の話。

「文化祭の写真売り上げ」
           (秘密の)新聞部調べ。

 1年1組三蔵君がダントツに売れたました。
 ジュリエットの可憐な写真がアングルといい、写りといい上出来で抜群に良くて、校内生徒、校外女性からの半々くらいの注文がありました。
 なぜか、八戒君とのラブシーンは女性に大人気でした。
 実はそれ以外でも日頃の写真が5枚組になっているものがコンスタントに売れています。ここだけの話、内緒で売られた秘蔵写真があるのです。それは、夏の体操服でむき出しの白い脚が映っている、鼻血もののプレミアム。
 1枚1000円と噂されていますが、実は2000円なんですよ。知ってました?

 その他に売れた人はもちろんいますが、三蔵君とは数が違います。比較になりません。

 以上、報告でした。



                           END


 「ロミ&ジュリ」書いていてとても楽しかったです。
 似合いますよね、二人とも衣装が!
 特に三蔵様のドレス姿は絶品♪
 写真部に行って、麗しい写真と鼻血ものの写真、欲しいです。
 さて、今回の敗因は1回目で水野君の正体がばれたことでしょうか?(笑)
 思い入れがありすぎたみたいですね・・・。
 登場人物もやっと出揃ったかしら?と思いながら。
 でも、まだあるなあ・・・。先は長いわ。
 先日、某方を化学の先生で出そう、という試みを思いつきましたので、いつか登場させたいと思っています。

 春流拝。

BACK NEXT