芳国首都、蒲蘇。 凌雲山の山頂、そこにあるのは王宮・鷹隼宮 さらにその内殿で、ため息をつくものがいた。 名を、天蓬といい、峯王を務めている。 その傍に、酒瓶を腰に引っさげ、それに直に口をつけている青年――捲簾がいる。 「ねぇ・・・・捲簾。 気のせいかもしれませんが、金蝉、最近変じゃありません?」 「あン?」 「すっごく言いたくはないんですけど、 ・・・僕、避けられてるっぽいんです」 「それがどうしたよ」 「どうしたって・・・! 重大事件じゃないですか! 昨日の晩御飯の時は話し掛けてもほとんど返事してくれないし! 『一緒に寝ましょうか』って言っても『いらない』なんて言われちゃったんですよ!とどめにはこうです! 『じゃ、お休みのキスを』といったら『嫌』って言われたし! その上あのクソガキとの親密度がアップしてるみたいですし!」 くだらない事を指折り数えつつ、段々とポルテージを上げていく天蓬を横目に、 捲簾はこれが自分の主君かと思い、しみじみと悲しくなってくる。 ついでに、待ちに待った新王の実態がコレ (変態ゲロ甘ロリコン男兼裏表ありすぎ腹黒キングだと国民が知った日には、悲しむどころか首くくりたくなるんじゃねぇ?) と、まったりとした笑みを浮かべつつ、捲簾は考えた。 (しかも、遊び相手に与えたガキ相手に本気で嫉妬すんなや!) 悲しい。悲しすぎる。 だからといってほっとく事もできない宮仕えの身。 だいたい、捲簾の職務は禁軍左将軍。軍人だ。 それが何が悲しゅうて、朝議が終わるや否や、 こうして内殿に呼びつけられた挙句、延々とロリコンの恋愛相談を受けなきゃならないのか。 理不尽もいいとこだ。 不条理にも程がある。 どう考えても、給料分以上に働いてる! そう呆れ混じりのタマシイの叫びをしつつ、面倒見のいい彼は、 結局相手をしてしまう。 「あのさ、金蝉のことなら俺より傅相に訊いた方がいいデショ!」 言外に俺に聞くなそんな事、というニュアンスを含ませる事も忘れない。 しかし、それを理解しつつも聴くような主上じゃないこともまた、ここ五年で分かりきった事実で。 「光明さんは金蝉の味方なんです。 もし金蝉が口止めしちゃってたなら、絶対教えてくれません。 それに、そうして金蝉を逆に怒らせちゃうのもなるべく避けたいですし。 ・・・酷いですよね」 ・・・情けない。 マジで涙ぐんでるし。 ウソくさいけど。 アナタこの国の王だろ、いちばんエライだろ、権力者だろ、という言葉が捲簾の脳裏をよぎっては消えていった。 (逃げてぇ・・・) かなり切実に思うが、それをした場合の結果、もたらされる報復は考えたくもない。(←浅葉:何されたんだ・・・) そこまで考え、捲簾はしょうがなく覚悟を決めて ――その証拠に持っていた酒瓶を執務机の上におろして――相談にのる事にする。 「なぁ、お前またなんか怒らせるような真似したんじゃねぇの?」 「心当たり全くないですね」 一番ありそうな事をとりあえず口に出してみたが、間髪入れず否定される。 これまでの捲簾の経験からすると、金蝉の臍を天蓬が無意識に曲げさせて、後でゲロ甘な台詞をはきつつ、 天蓬がお姫様のご機嫌取りをする、というパターンが主なのに。 それが、違う? 視線でその旨を問うと、天蓬は自信満々にその根拠をとうとうと語り出した。 「だって最近は、人前で金蝉をお膝抱っこしなくなりましたし、 ほっぺにさえキスしなくなりましたし、抱きつかなくなりましたよ?!」 「威張る事でもないだろソレ! フツーだろ、フツー!」 アホだ! 「え――――――――――――――――――――――。 僕は断腸の思いでソレらを諦めたんですよ? 全世界の人に「金蝉は僕のものですvv」って宣言してみせる、 いいパフォーマンスだったと思うのに・・・。 それに、余計な虫を粉砕するのにも役立つと思ったんですけどね・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか」 「はいvv こういう深謀遠慮がですね、あった訳です」 なのに金蝉ってば、恥ずかしがり屋さんで、どうしても嫌だ、って言うんですよね、等と聞いている方が悶絶してへたばるか、ダッシュで走り去りたい衝動に駆られるような惚気を延々とはいているような天蓬には、捲簾のすごく長い沈黙の意味など、分かろうはずもなかった。 というか、わかっっててもシカトすると作者は思う。 「僕だって昨日の夜からずっと色々考えてるんです。 その中に、自分があの子を怒らせるような真似したのでは、なんて考え、とっくに入ってます。 でも、ここ最近の行動思い返してみても、全く心当たりが出てこなくて・・・ あ」 「何かあったか」 「僕がした事じゃないんですが・・・ そういえば、金蝉昨日ここに来なかったんですよね。 いつも仕事を終えたら一番に来てくれるのに。 仕事が長引いたのかな、って残念に思ったんですけど・・・」 倦簾、ご苦労様です。 宮仕えは気苦労も多いことでしょう。天蓬だから、あきらめが肝心かもしれません。 天蓬が王様の国はきっと栄えてるでしょうね・・・。(春流) |
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