「博士、見みられた!」 新一は隣人である阿笠邸へと飛び込んだ。 箒に乗ったまま窓から駆け込み、床に着地するとひらりと降りて阿笠に叫んだ。 「はあ?見られた?」 「ああ!」 驚いて目を瞬く阿笠に新一は力一杯頷く。 「誰にだ?」 「KIDに!KIDに思い切り見られた!確かに、せっぱ詰まっていたんだけど、危機一髪だったんだけどさ。勝手に箒が飛んできて、俺の身を救ってくれた。……それは、もうし仕方ない。終わったことだ。でも!」 「確かに、他人に見られたのは困ったことだが、かえってKIDでよかったのかもしれんの。KIDが他言するとも思えん。他言する場所がないだろ?」 「うん」 新一は素直に頷いた。 しかし、ぎゅうと唇をかみしめ迷いを断ち切るように顔を上げた。 「俺、もしかしたら力を使ったかもしれない……」 「なんじゃと?」 阿笠も、さっきとは違い顔色を変えた。 「あの時、とっさのことで、動転していて力の加減ができていたと思えない。驚いて互いに視線があって、すぐに逃げてきたけど。自分でもわかんねえ」 目を伏せて新一は、吐息を付いた。 「そうか。それは困ったのう」 阿笠も掛ける言葉がない。 「落ち込んでいるとこ悪いけど、そろそろ説明して欲しいわ」 そこへ、唯一無言でいた宮野志保が声をかけた。目の前で起きた信じられない出来事に現実逃避したくなったが、一応踏みとどまったのだ。 新一が箒に乗って宙を飛んで来るなど想像できようはずがないではないか。 志保の疑問に新一がゆっくりと振り返った。そして厳かに口を開く。 「俺は、魔女なんだ」 「は?」 志保はあっけにとられた。 彼女にあるまじきびっくり目である。 「魔女?」 「ああ。魔女だ」 異国の言葉を聞いた気がした。志保は魔女と、心の中で繰り返す。 現実味など欠片もない。 「ほら」 新一は証明するように、箒にまたがりそのままゆっくり上昇する。そして、くるりと旋回した。 箒で自在に宙を動き回る新一。 「ほんとに?あなたが魔女……」 この目で見たものだ。信じない訳にいかない。 それに毒薬で大人が子供になり、また大人に戻るなどというファンタジックな体験をした自分である。否定することなどできない。 だが、よりによって、魔女。この現代に魔女。男なのに魔女。 志保の頭の中では疑問や突っ込みが渦巻いていた。 「驚いたか?」 「驚いたわ」 正直に志保は答えた。驚かないはずがない。近年これほど驚いたことはない。 「ねえ、なんで魔女なの?箒に乗って宙を飛ぶんだから、魔女であることは疑わないけど」 「それは、俺の母親が魔女だからだ」 「工藤有希子が、魔女?」 新一の母親である旧姓藤峰有希子は元大女優である。日本だけではなく世界にも名をはせた美人女優だ。世の男性を魅了した美貌は今でも衰えることはなく、時々アメリカのテレビに招かれているらしい。 志保も会ったことがあるが、実際の有希子は高校生の息子がいるとは思えないほど若々しく茶目っ気溢れる美人だった。 「ああ。だから、俺も魔女なんだ。母親の子供が俺しかいないから。娘がいたならば、よかったんだろうけどな。でも、欧米では男の魔女だっているもんだし。ウィッチを日本語で魔女って和訳したから女だと思われているものだけど」 英語の「Witch」は女性に限定されないものだし、ヨーロッパの言語では男性の魔女「Warlock」をしめす言葉も存在する。日本語に該当するものがないだけで。 「ふうん。そういうものなの。……魔女の子供は、誰でもなれるものなの?」 素朴な疑問である。 「なれるんじゃないのか?というかなるとかならないとかの問題じゃない。俺は魔女、それが事実なんだ。そういうもんなんだ。まあ、母方の力を引いているから箒にも乗れるってことだな。普通じゃ乗れないだろうし。つまり、生まれが魔女。わかったか?」 「……わかったわ」 実際は、わかったのかわからないのか、自分でも不明である。言葉はわかっても実感が沸かないのだ。 「それで力を使ったって、どういうことなの?魔女だとばれても問題じゃないみたいなのに」 先ほど阿笠と新一二人が深刻そうにしていた理由が知りたかった。志保としては、ここでまとめて質問をすることによって理解しようという考えだ。 「……ああ、それはな。父親の方が問題なんだ」 「工藤優作?」 「その、工藤優作だけど、実は吸血鬼だ」 「……っ!」 二度目の驚きに志保の目は大きく見開き、そのまま止まった。やがて、数度瞬いて一度息を長く吐いてから新一へ視線を向けた。 「吸血鬼って?」 これ以上なにに驚けというのか。もう今さらの気がしながら志保は聞いた。 「言葉の通り吸血鬼。説明は、後でするとして吸血鬼の力に魅了がある。その目で相手を従える力がある。自分に惹き付ける力がある。よく映画なんかでもあるけど、適度には事実だ」 「つまり?KIDに力を使ったの?」 「使うつもりはなかったんだけど。あの時とっさのことだったから、勝手に使ってしまったかもしれねえ」 「それって、どうなるの?困るんでしょ?」 「……」 新一が言い難そうに口を閉じる。それに阿笠が横から助け船を出した。 「新一君にKIDが魅了されたかもしれんということじゃ。魅了されると離れられないし、相手の言うことを何でも聞く」 「……ストーカーで下僕なのね」 志保は簡素に結論付けた。付け方が大層極論だった。 「ストーカー……」 「……下僕……」 新一と阿笠二人とも、あまりの暴言に志保の言葉を反芻した。 KIDがストーカーで下僕な姿をうっかり想像して、二人の脳が拒否をした。 「否なもんじゃな」 「イヤとかそういう次元じゃねえ。断固として拒否する!気持ち悪い……」 全身から拒否反応を示し、新一はうなった。 「まあ、イヤでも何でもいいけど。魔女と吸血鬼の子供な訳よね、あなた。それについて、じっくり聞かせてもらえるかしら?私にはあなたの身体を知っておく義務があるのよ。主治医なんですからね」 やけに冷静な声音で志保が詳細を求めた。それは志保の正当な権利だった。己の作った薬で幼児化した新一の身体を解毒剤で元の姿に戻した志保には、彼の身体に責任がある。身体の状態を知らないでは治療もできない。 「ああ、うん。ごめん、今まで言わなくて」 志保の意図に気づき新一は申し訳なさそうに謝った。 「それについては、いいわ。魔女だ、吸血鬼だなんて告白しろって方が無茶だってわかってるもの。だから、これから嘘を付かず話してくれるならいいわ」 「わかった」 新一は両手を軽く上げて降参といって笑った。 「まず、どっちから話そうか。魔女からの方がわかりやすいよな?」 「ええ。あなたは自分のことを魔女だと名乗ったものね。決して吸血鬼だとは言わなかった」 つまり、新一自身は自分を魔女であると思っているということだ。だから、そちらの方が重いこととわかる。 新一の配慮に志保は頷いた。 「そういうことだ。母方は魔女の家系で、元はイギリスだそうだ。各地に散らばっているけど、母親の祖母や叔母や従兄弟や姪や甥なんかが魔女として生きている。とはいっても数が多い訳じゃない。まあ、後で話す吸血鬼よりは多いけどさ。……元々魔女っていうのは、薬草やハーブに詳しく地域で医者の役割をしていた。それ以外に呪いごとを請け負い、天候とか自然現象に聡く暦をよむから村でも重宝されていた」 「現代でも魔女と呼ばれる人がいることは知っているわ。テレビ番組なんかでやっていたもの」 職業として魔女をしてる人間がいることは有名だ。その人間は皆に魔女だと知れている。今でも相談すれば恋の呪いなどだってしてくれる。 「まあな。魔女もいろいろあるみたいだ。母方の家系は公にしないらしい。歴史上、魔女狩りだってあったし。用心に越したことないから。だから身分の高い爵位持ちの専属として付いたりした魔女もいたらしいけど、秘密だったんだろ。能力の違いはあれど、魔術と呼ばれることも出来るし。箒に乗って宙を飛べるのも簡単な魔術だからな」 「魔術ってほかにはどんな?」 魔術というものをあまり志保は信じていなかったが、今日から変わることは決定事項だ。 「うーん?そうだな、こうやって……」 新一は人差し指を唇に当てて目を閉じ、何か唱えると指を離してふうと息を吹きかける。すると、小さな炎が灯った。 「……」 志保はその炎をじっと見つめて、首を傾げる。 「これは幻影?それとも本物で熱いの?あなたの指に付けているけど」 「どっちとも言えるな。一応、これで他のものに火を付けることはできる。でも、触っても熱くないぞ。つまり今ある炎は灯りとしての意味合いが大きい」 志保は新一の指から上がる炎にそっと手を伸ばして触れてみた。指が炎を突き抜けるが、熱くもなんともない。 「本当ね」 魔術とは何なのか。現実にあるのなら、そこには理があるはずだ。志保は興味が沸いてきた。 「他には?」 だから、興味津々と目を輝かせ志保は聞いた。 「そうだなー。なら、あれだ。……メリル!」 新一は誰かの名前を呼んだ。すると、どこからともなく茶色の猫が現れて新一の肩に納まった。 「使い魔だ」 「……そう。あなたそんなものがいたのね」 驚くことに、疲れてきた志保はそれだけ言った。使い魔がいるなんて、やはり魔女なのだ。それ以外の何者でもない。 だが、彼は人間でもあるはずだ。魔女とはいっても身体は人間のもの。それを志保は知っている。 「初めまして、シホさま」 猫が挨拶をした。話せるのだ。当然といえば当然だ。 「新一さまの使い魔のメリルです」 幼い少女の声で猫は話しながら頭を軽く下げた。 「よろしく。私のこと知ってるの?」 「もちろんです。私は主に呼ばれない限り原則として現れませんが、存在は主のそばにあるようなものですから、たとえ一緒にいなくても知っています。だからシホさまのことを存じております」 使い魔とは、ふだんどんな次元にいるのだろう。 新一、主が呼べばどこにでも姿を現すのだろうか? 「新一さま。それより、先ほどのようなことがあったら呼んで下さいませ」 「ああ……、悪い。あんまりとっさだったから、呼ぶ間がなかった。箒の方が先にきたし」 高層ビルから落ちたことと、使い魔を呼ばなかったことを咎められ新一素直に謝った。主の危機に駆けつけられない使い魔など意味がないと口を酸っぱくして言われているのだ。 だから、主が呼ばなくても使い魔の判断でよほどの危機には飛んでいってもいいことにはなっている。今回使い魔が駆けつける前に箒が飛んでいったのだ。 「……今度何かあったら、真っ先に駆けつけますわ。ですからこそ、なるべく危ない目にはあわないで下さいね、新一さま」 「ああ」 使い魔がいきなり現れる状況など望まないだろう意図を前提にするメリルに新一は苦笑を浮かべて頷いた。 「それから、ハカセも。お久しぶりです」 「ああ。メリルも元気そうだ。よかったのう」 「はい」 当然ながら知己である阿笠にもメリルは挨拶した。二人の間に流れる空気は和やかだ。 「そうじゃ。お茶でも飲むかの?話は長くなるじゃろうし。座ってゆっくりした方がいい。メリルは紅茶でいいかの?」 「はい、お願いします」 「では、用意してくるから」 そういって阿笠は消えた。思わずその背を見送って新一と志保はソファに座ることにした。確かに立ち話でする内容ではない。 「メリル」 「は−い」 新一が呼ぶと茶色い猫はぴょんと飛んで新一の膝に納まった。新一が毛並みを優しく撫でてやると気持良さそうに丸くなる。まるで本当の猫のようだ。 「ええっと、どこまで話した?魔女についてだよな?」 「そうね。少し質問してもいいかしら?」 「いいぞ」 「まず、あなたの血族の魔女は魔術が使えるのが基本なのよね?」 「使えるぞ、あの一族は。最低でも箒には乗れる。基本として炎を灯したり、簡単な自然現象くらいできる。あとは得意分野が違うな」 「そう。得意分野って何?って突っ込んで聞きたいけど、それをすると話が全く進まないから、後でゆっくり聞くとして。あなたの身体は人間のそれよね?私はあなたの身体はしっかり細胞、血液、レントゲン、隅々まで調べたけど、どこにも特異なものはなかったわ。もちろん免疫力や内臓器官の活動の著しい低下なんかはあるけど」 「魔女は人間の一種だ。魔術が使えるだけで、人間と全く変わりない」 「ええ。よかったわ、違わなくて。そうでないと今までの検査なんて役立たずですもの」 志保は小さく笑って安堵を漏らした。志保にとって一番大事なことは新一の健康である。それ以外は些細なことだ。 「待たせたの」 そこへ阿笠がお茶をもってやってきた。どうやら香りから紅茶だとわかる。湯気を立てるカップをそれぞれ配る。 ありがとうと受け取って、ひとまず喉を潤すことにする。メリルも新一の膝から降りカップを上手に前足で持ってふつうにふーと冷ましながら飲む。その姿を志保だけが興味深そうに見つめた。新一も阿笠も見慣れたものなのだ。 「……今度は吸血鬼について聞かせてもらえる?魔女については聞いたことを頭でまとめて理解しておくわ。また、わからなかったら聞くし」 「了解。……吸血鬼だけど、映画や物語にあるように人間の血を飲むというのは嘘だ。血なんて飲まないでも生きていける。飲むことも可能であるが、それが必要条件ではない。つまり、人間を襲うことなどない。あれはフィクションだ」 「……まあ、そうなんでしょうね。半分血を引いているあなたはまったく血に対して興味ないもの。第一、工藤優作がそんなことしたらどこからか漏れるわ。それがない、誰も知らないのだから、血を吸うなんてしないんでしょう。で、なにを栄養にしているの?ふつうの食事でいいの?」 「ふつうの食事しているな。一応、植物の精気もわけてもらうんだってさ。物語みたいに薔薇じゃないといけないなんてないから。一番は大樹だし、当たり前だけど。植物から大量に生気もらったら枯れるから。そんなことしない。それから、人間だと生気?生気抜き取ったら死ぬなんてないし。それって恋人同士や夫婦なら普通にもらえるものだしなー」 「なるほど。ふつうの食事に植物の精気、人間の生気ね。なら、なんの問題もないわね。ところで吸血鬼は人間なの?」 「見かけは人間。ふつうの暮らしているとこも人間。人間と明らかに違うのは、長命なとこだろ。あとは治癒能力が高い。魅了の力とかは魔女の魔術と通じるものがあるから、吸血鬼だけのものじゃないな。日の光や聖水、十字架、ニンニクに弱いっていうけど、別になんともない。鏡にだって映るし。心臓に杭を打たれたら、誰だって死ぬし。不死じゃないから」 「……長命なのね。それから治癒能力の高さか。あなたにも治癒能力の高さがあれば、もっと楽だったのにね」 つっこみどころは多々があるが、それ全てひとまずスルーして大事なところだけ志保は拾い上げる。 「それは仕方ないな」 新一が笑った。それでも生きているだけ奇跡なのだ。 「あなたは半分の血が流れているけど、寿命はどうなのかしら?」 「こればっかりは、わかんねえな。たぶん、多少は長いだろうけど。吸血鬼は長命だから元々種族は少ない。あまりに長い生涯に絶えかねて、時々眠ることもあるそうだ。だらこそ、他の血が入ることは少なくなる。俺と同じように半分血を受け継いでいる人間はいない訳じゃなけど、多くはないな。今どれだけいるか定かじゃねえし」 「成長は?」 「ある一定で止まるらしい。どのくらいで止まるかも個人差だ。だから、そんな顔するな、志保」 「だって、そうだとするなら、あなたずっとこのままよ。幼児化して、元に戻って。それだけで奇跡だったもの。おかげで私たちの遺伝子は多少なりとも書き換えられているわ。特にあなたは、お酒やまだ完成していない薬で何度も子供と大人の身体を繰り返したから」 元々無事に成長し年老いていける可能性は低いのだ。細胞レベルで無理をさせ過ぎた身体だ。今、元の体に戻って生活できているだけ奇跡である。志保よりも新一の方がその傾向が強い。つまり、新一の成長がこのまま十代の青年で止まり、吸血鬼の長寿の特性がいかされされば、ずっとこの姿のままということになる。志保が罪の意識にとらわれても仕方ないだろう。 「気にするな、その時はその時だ。俺はこうして今探偵をしていられるだけで、幸せなんだよ」 「工藤くん。なら、私はあなたのフォローをするわ。あなたが少しでも健康でいらえるように。その代わり、無茶だけはしないでよ」 「善処します」 新一は笑って宣誓のように片手をあげた。 「お願いよ。……話を戻すけど、さっきの魅了については?」 「吸血鬼にも様々な特性があって、その一つに魅了がある。俗に言う魔眼だな。これは、さっきもふれたけど魔女にもあるという力だ。暗示や呪いを与えることがきでる。自分に従え、自分に魅了されろというやつだ。何か、目的があった場合は、魅了を使って意のままに操ることができる。無意識に使った場合、どんなことになるか、ちょっとわかんねえな。……まあ、使っていない可能性だってあるし」 「参考までに聞くけど、あなたその力を使ったことがあるの?」 「あるというべきだろうな。使うつもりなかったんだけど。小さな頃だと、力が制御できていないから、知らない間に使ったらしくて志保でいう下僕が勝手に付いてきた。父さんが追い払ってくれたけど、それが続いてな。くれぐれも使わないようにって指導を受けた。無闇に人の目を見つめちゃいけません。笑っちゃいけません。声をかけてはいけません。ついでに近づいてはいけませんって。親が有名人だから誘拐の可能性もあったからだろうな。ああ、コナンになっている時は眼鏡付けていたから反対に助かった。博士が特殊仕様にしてくれたからな」 「そうじゃの。なら、今使えるものも作っておくか?」 新一に話をふられ、阿笠が申し出た。 「ああ、作っておいてくれ。制御できているつもりでも、不可抗力ってあるからなー」 「わかった」 新一と阿笠の会話を聞きながら、志保はふと思った。 コナンであった時眼鏡をしていたから助かったといったが、本当だろうか。 なぜなら、下僕がたくさんいたからだ。大阪の高校生探偵や警視庁の警部や刑事など、まるで自分の手足のように使っていたではないか。それは、彼の性格だからだろうか。使えるものなら何でも使う。その証拠に阿笠も使いまくっているではないか。 志保は、冷静に口をつぐんだ。 今大事なところはそこではない。 「私の考えだけど、父方の吸血鬼としての魅了と母方の魔女としての魅了両方の力があるということではないの?可能性はあるでしょ?」 そうでなくて、ああも下僕ができるものか。否、できるのか?本来の魅力があるから相乗効果とか?父親からも見つめるだけではなく笑うな、近寄るなと言われている。ふつうにしているだけで、誘拐されそうな子供だったのだろう。志保は顔には出さないでぐるぐると考えた。 「うーん、そうだな、あるかもな。どっちの力ってのは判断できないよな。母親だって女優なんて仕事していたくらいだし。ただ、昔父さんが指導してくれたから、あっちの力だって思ったんだ」 母方なら母親が指導したはずだから。新一は幼心にそう思ったのだ。 「そう。どっちもどっちね。まあ、いいわ。あなたの魅了の力が強いということだけわかったから。無意識に使ったら相当厄介よね」 「……ああ、無意識はまずいな」 KIDのことを思い出したのか、新一はどんよりと視線を落とし深く息を吐いた。 「まあ、様子見ね」 「そうじゃ。使っていなければ問題もない」 力無い新一のため息に気を使い志保も阿笠も励ました。志保も一応、ストーカーや下僕と言って怖がらせた自覚があった。 「そうだな。うん。気をつけておく」 新一は頷いた。頷くしかなかった。それ以外自分ではどうしようもないのだから。 |