「お帰り、新一」 「………ただいま」 学校から帰ってきた新一が玄関からリビングに差し掛かるとキッチンから声がかかる。ずっと一人暮らしだったからこの屋敷で誰かが「お帰り」と返してくれることに新一は未だに慣れない。 驚異的な回復を見せた怪盗KIDこと盗一は置いてもらうのだからと、家事を進んでやり始めた。落ちていた盗一を拾った翌日学校へ行かねばならない新一を大丈夫だからと送り出した盗一は、勝手にご飯を作って待っていた。 そんなことして身体に響かないのか、と新一が心配しても大したことない、いつものことだからと笑う。そして、お礼にご飯や掃除をやらせて欲しいと申し出た。「働かざる者、食うべからず」と言ってそれ以来実行している。 おかげで屋敷中綺麗なものだ。 それしかやることがないからか、どこもかしこもピカピカに磨き上げられて見違える程だ。今までは新一が一人で住んでいる分には、彼が過ごす場所だけ問題なく暮らせる程度になっていた。掃除に力を入れることもなかったし、食事にしても一人分を作ることは面倒だから適当にしていたし、隣でご馳走になることも多々あった。見かねて志保が差し入れに来たり新一を隣家に引きずって行く事が日課だった。 今は食事は栄養のバランスの考えられたものがテーブルに並ぶ。 盗一は料理が上手かった。 「ほい、珈琲」 新一が鞄を置いて上着を脱ぐと差し出される香り高い珈琲。それを受け取りソファに座り一口すする。 (美味しい………) 新一は己の好みに入れられた珈琲を味わう。苦みも酸味もちょうどいいのだ。 盗一は料理だけでなく珈琲を入れるのも上手かった。 なぜ、こんなにもあらゆることをそつなくこなすのだろう。怪盗だからという理由では納まらないことである。彼が言う、マジシャンという仕事からいっても手先は器用かもしれないが、それ以外に発揮されるには分野が違うような気がする。 おそらく、基本的に料理も珈琲も掃除でも何でも好きなのだろう。そして面倒見もいい。 「今日のご飯は筍ご飯に、大根とイカの煮物、ネギと豆腐のお味噌汁、さわらの塩焼き、海草サラダ、きゅうりと白菜の浅付け。デザートにプリンだ」 盗一は新一の横に腰を下ろして、そう告げた。自身も珈琲のカップを片手にこくりと飲み干す。 「………いつもながらに、すごいな」 味もあっさりめで新一好みの料理の数々である。 規則正しく栄養価の高い食事を取るせいで、新一の体調もいい。主治医である志保は不幸中の幸いね、と喜んでいた。 「そんなこともないだろ。普通だ」 「普通ね。………盗一はいつもこんなの作ってた訳?」 やっと彼を盗一とよべるようになった新一だ。最初KID、と何度もよんでしまってその度に「盗一」だよと笑われた。 「いろんな料理を作るの好きだから。日本だけでなく、アメリカ、イタリア、フランス、アジア、世界でショーをしてそこの料理を食べたおかげで、自分で作りたくなるだ」 「なるほど」 もっともな理由に新一は頷く。 世界各国へ赴けば、現地の料理を食べる機会もあるだろう。新一のように食にこだわりがない人間ならともかく、美味しいものを食べたいのは人間の三大欲求を追求する一つの形だ。それに払う労力が苦にならない人間が盗一のようになるのだろう。 「新一は、もっと食べた方がいいな。いくら小食でも高校生が生きていくカロリーには足りなさ過ぎる。朝御飯抜きってのも、頂けないし」 「………これでも、食べてるんだけど」 「ああ?よくそんな事言えるな。俺が見た時、冷蔵庫に新鮮な野菜も何もあったもんじゃなかった。空っぽの中身から一体何を作るんだ?」 「………」 「せめて俺がここにいる間に料理習おうとか思わないか?」 「………」 「習った方がお得だと思うけどな。簡単なのもあるし。10分だって作れる美味しい料理、知っておいて無駄にはならない。栄養失調で倒れたくないだろ?」 「………お人好し」 新一は盗一を横目で見ながら小さく呟く。心配されているのはわかっているのだ。わかってはいるが、素直になれないだけである。 「新一には負ける」 盗一はにっこりと笑う。盗一を拾った新一に彼が先に「お人好し」と言ったのだ。 「わかった」 新一は負けた。肩をすくめて、はあと見せつけるようにため息を付く。 「確かに聞いたからな。明日からでも始めようか」 「明日から?せめて、休日にしてくれ」 「わかった、わかった」 新一が眉を寄せて嫌そうにするので、盗一はくすくす笑いながら新一の頭にぽんと手を置く。 「じゃあ、休日にな。………ご飯までには時間があるけど、どうする?勉強でもするか?それとも読書?………マジックでも見るか?」 「マジックもいいけど………、俺だけ見るのも悪いから志保と一緒の時に見せてくれ」 盗一のマジックはさすがに本職のマジシャンだけあって、目を奪われるほど鮮やかだった。一度お礼にと新一と志保、阿笠博士に披露してくれた。その時に思いの外志保が瞳をきらきらさせて感激していたことが印象深い。彼女は幼い頃から組織で育ち、親子で家族で過ごした記憶があまりにも少ない。両親が亡くなってからは唯一の姉でさえいつでも逢える訳でもなく、一緒に旅行、遊びになど行く機会もなかった。当然マジックショーなど行ったこともない。 初めて間近に見るマジックに声を立てて楽しげに笑う姿が、忘れられない。 これからどれだけでも楽しい体験ができるのだから、彼女にはたくさん笑って欲しかった。 「了解。また、マジックショーを開かせて頂きましょう」 盗一はKIDの口調で請け負った。 自分のマジックで楽しそうに笑って、胸をどきどきさせ幸せな時間を過ごしてもらえる。それは奇術師冥利に尽きるものだ。盗一は舞台上のように優雅に一礼して、器用に片目を閉じて見せた。 ピピピ………!!! 徐に新一の携帯が鳴る。新一はポケットから取り出し表示された名前を確認すると表情を改めて電話に出た。 「もしもし?」 すでに携帯に慣れた盗一である。最初は何かと思ったが、今は平然と見守る。 新一にかかってくる電話はそれほど多くはない。友達からかかってきて他愛もない話をすることも少なく、主にかかってくるのは隣の阿笠博士と志保だ。しかし、新一の態度でそれとは違うとわかった。 「はい。こんばんは、目暮警備。………ええ、そうですか。事件?はい。………わかりました。はい。それでは」 新一は通話を切ると、ふうと吐息を付いて盗一を振り返った。 「これから、出かけてくる」 「どこへ?………警部って呼んでたけど、何かあるのか?」 「あ、ああ。………KIDとは関係ない一課なんだけど、ちょっと協力してるから」 「新一が?」 新一は神妙に頷く。 「何の?」 「………殺人事件の」 盗一の問いに新一は正直に言い辛い。案の定盗一は目を見開いて驚いている。 「殺人事件?高校生の新一が?」 「目暮警部は元々父親の知り合いだ。それで、俺は小さい頃から知ってる」 「それで、新一が殺人事件にどう関係があるんだ?」 「………探偵」 新一は小さな声で告白した。 わざわざ言うことでもない。だから言ってなかった。 自分から探偵していますだなんて、初代KIDに言う気にはならなかった。 「探偵………?」 「そう。探偵として協力してる」 「へえ。新一がね」 「………」 感心しているような盗一の反応が、新一にはどことなく居たたまれない。 「似合うかもな。こんなにも瞳が綺麗だったら何でも見抜いてしまいそうだ」 しかし盗一は笑って認めた。 「………これから迎えが来るから。ちょっとどれくらいかかるかわからないんだ。夕飯先に食べてていいから」 「………なあ、俺も見てみたいな。新一が探偵をしているところを」 「どうして?」 「ただ、見てみたいんだけだ。それに外出するなら新一と一緒の方がいいし、現代の警察がどんなものか見てみたい気もする」 「………」 新一は盗一の真意を考える。未来を知らない方がいいと彼は言った。新一も知らない方がいいと思う。けれど、新一にはそれを止める権利などない。例えばほんの些細なことで歴史が変わるのかもしれない。すでに変わったことがあるかもしれない。それでも、彼本人が決めることだ。現代の警察を見たい。それが興味だけなのか他に意味があるのか。一応、二課ではなく一課だから彼の知り合いにあう確率は少ないだろうが………。 「駄目か?」 盗一は静かに返事を待つ。 「………わかった。聞いてみる。多分付いてくるだけならいいと思う」 迎えに来るのは馴染みの高木だ。付き添いで一人増えても邪魔にならないようにしていれば、苦笑しながらも許してくれるだろう。 「サンキュー」 盗一が微笑むので新一も瞳を和らげて頷いた。 工藤邸前に車が止まった音がする。しばらくすると呼び鈴が鳴るので、新一は玄関まで出た。 「こんばんは、工藤君」 「高木さん、こんばんは」 いつもの人の良さそうな顔で挨拶をする高木である。それを新一は殺人事件の迎えにしては穏やか過ぎるとは思うが、反対に何があっても変わらず明るくいられ人を和ませる高木を認めてもいた。だから新一もいろんな事を言いやすい。 「高木さん、実は一人連れて行きたいんですけど、いいですか?」 「珍しいね、工藤君がそんなこというの。本当なら簡単にいいって言えないんだけど、君がいうなら、いいよ。目暮警部も了承してくれると思う」 「ありがとうございます。決して邪魔にはなりませんから」 新一はぺこりと頭を下げる。 「とんでもないよ、こっちがいつもお世話になってるんだから」 高木は頭をかきながら、手をふる。 「じゃ、行こうか。その人は?」 「ここにいます。彼です」 新一が呼ぶと玄関に盗一も現れて、すみませんと頭を下げた。 現場付近には黄色と黒のロープが張られ、その横には見張り役の警察官が立っている。 今回の現場はマンションの一室。主人が仲間を集めてパーティを開いていたのだが、そのうちの一人が倒れた。救急車が呼ばれて運ばれたがすぐに死亡。死因は青酸カリ、毒殺だ。その場にいた人間はマンションに残っている。 泣いている者、悲壮に顔をゆがめている者、慰めている者。 刑事が別室で一人ずつ話を聞いて、その時どんな状況だったか確認している。 新一はここに付くと一通り部屋を見て回り気付いたことを鑑識に質問し、目暮警部に集まったメンバーと被害者の現在わかっていることを、頷きながら聞いていた。 「なるほど」 「何かわかったかね?」 「まだ何とも言えませんね」 新一は顎に細い指を当てながら一度目を閉じ、思案する。 「では、メンバーのお話を聞かせてもらえますか?」 「ああ、こっちだ」 隣の部屋で目暮と一緒に新一は話を聞くことにする。 盗一は壁際で、その様子をじっと見つめていた。 警察の邪魔にならないように、無言で新一が何をして何を見ているか、漏らさないように目を離さない。 こんな殺人現場に来たことはない。 KIDとして警察と相対することはあったから、警察機関には慣れているのだがやはり人の命に関わることだと何とも殺伐とした雰囲気が漂っている。 重くて、切れそうな空気。 漂ってくるのは、見えないのに血の匂い。 不快感に盗一は知らない間に眉を寄せる。 「工藤君とはどういう関係ですか?」 高木が、何の深い意味もなく話しかける。一人で立っている盗一に気を使ったのだろう。 「彼の父親の知り合いですよ」 盗一は予め用意してあった関係を告げた。 これは新一と相談してあったのだ。新一自身の知り合いにしては少しだけ年齢があわない。おかしいこともないのだが、父親の知り合いなら大概怪しまれない。 「そうですか。えっと、こんな殺人現場だと辛くないですか?」 「大丈夫です。気になさらないで下さい」 初めて現場を見る者は、居たたまれない。関係者だとて、早くこの場から離れたいものだ。人間が一人殺された場所。人間がもつ残忍な思惑が残る場所。 「新一はいつもこのようなことをしているんですか?」 盗一は現場に慣れている新一を見ながら思っていたことを聞いてみた。 「………知らないんですか?有名だけれど」 まさか新一自身が連れてきた人間が彼のことを知らないとは思わなかった高木は不思議そうに盗一を見上げた。 「私、ずっと海外に行ってましたから。最近の日本について疎いんですよ」 「そうですか。工藤君は日本警察の救世主って言われているくらい有名な探偵ですよ。日本で知らない人間なんていないんじゃないかな?「迷宮なし」は伊達ではなく、本当にその瞳で真実を見抜くんです」 自慢するかのような高木の嬉しげな瞳が、どれだけ彼が好かれているかわかる。 これほどに警察に頼られている存在。 「名探偵」、工藤新一。 新一について新たに知った事実だ。 その彼が自分を匿っている。それは、どうしたことだろう。 彼は「誰もここにKIDがいるなんて思わないさ」と言った。確かにこれほど著名で警察から頼られる探偵の家に怪盗がいるとは思わないだろう。しかし、しかしだ。気まぐれやお人好しで済まされることではない。それは彼の意義に反することではないのか。 彼には何のメリットもなく、もし知られれば彼の立場は悪くなるどころかなくなる。 自分は過去の人間だから、この現在で裁くにはおかしい存在であるけれど。彼は過去の人間だと知る前から、同じ対応だった。 (なぜ?どうしてだ?) 新一の真意はどこにあるのだろう。 この現代にKIDと何か因縁でもあるのだろうか。彼がそうする理由があるのか。 盗一は、思う。 けれど、聞いていいことでもない。 未来を知ること。それは禁忌だ。 が、ここにいる以上何も知らないでいられる訳でもないのだ。知って何かしたいと思うのではなく、知っておくべきこともあると感じる。そうでなくては、なぜ自分は未来という不可思議な場所にいるのか。そこに、全く理由はないのか。意味はないのか。 「………たくさん事件を解決してくれました。どれだけ感謝してもしたりないです」 「そうですか」 高木の言葉を頭の半分で聞きながら、盗一は感心したように頷く。 そんな盗一を高木は、どこか不思議に思う。 新一がこのような場に誰かを連れてくるなど稀だ。殺人現場という関係者以外入り込めない、殺伐として愛憎渦巻く場所は普通の人間が見ていい気持ちなどしない。それを望むということは、何かよほどの理由があるのだろう。 それに高木の隣に立つ男性は、一種独特の雰囲気がある。 年齢は20代後半くらいだろうか、背が高くて精悍な身体付き。端正な顔に銀縁の眼鏡が似合っている。そして立ち姿が妙に様になっている。自分を見せることを知っている人間、きっとそんな仕事に就いているのだろう。 推理作家である工藤優作の知り合いであるのなら、実は知らないだけで有名な人間なのかもしれない。その道では成功を収めたものであるとか。それにしては年齢が若いかもしれないが………。才能と年齢は新一を見てわかるように関係がないだろう。 刑事である高木は、そう観察していた。 高木の観察力はおおむね間違ってはいなかった。ただ、銀縁眼鏡だけは変装用にかけていた。KIDである盗一は変装など朝飯前だが、今回はほんの少しだけ手を加えているに過ぎなかった。 「犯人は、貴方です」 新一は真っ直ぐに犯人を見つめ告げた。 もう一度そのパーティでの行動を再現して下さいとお願いして被害者がなくなった時の状況を作り出した。 しかし、一人だけどうしても同じ行動が起こせない人間がいた。つまり、殺害を犯した本人である。まだ身につけたままの毒薬。再び同じことをすれば自分が死んでしまうのだ。 真相を言い当てられた犯人はわなわなとふるえ、がっくりと膝を付いた。 「あいつが悪いんだ………あいつが、俺を!!!」 男は拳を握って殺意を込めて自分を取り巻く友人達を見回した。 「お前らだって悲しんだ顔してたって表面だけだ。本当はあいつが憎かったはずだ………!俺は当然のことをしたまでだ!」 男が自嘲気味に叫ぶ。その場にいる男の友人達は蒼白な顔で何も言えずに男を見つめる。 「あんたがいなければ、あんたさえいなければ、上手くいったのに」 男は新一に憎悪の目を向けた。全くの逆恨みだが、男にとっては自分の罪を暴いた人間は許せない、それだけだ。そこに冷静な判断などない。 「………」 新一はただ、ゆがんだ男の瞳を見返した。 何も言わない新一に男はより激昂して掴みかかろうとする。しかし、すぐに警官が走り寄り、男の腕を掴み拘束した。 手錠をかけられ警官に連れられていく犯人の後ろ姿を見送る新一は、痛ましげな表情を浮かべて、辛そうな感情を漏らさないように納めているように見える。犯人を見抜いた喜びや自信などどこにもなくて。男に逆恨みの言葉を投げつけられても、無言で通して。 なぜこんな犯罪が起こるのかと眉をひそめて己が明らかにした真実に向き合っている。 新一はただ、真実だけに向き合っているのだ。 (なんて綺麗なんだろう) 推理している真摯な姿。 犯人を指し示し、真実を明らかにした時の煌めいた瞳。 そして、どこさ寂しげで儚げなのに決して揺るがない綺麗な蒼。 ほんの少しの痕跡から真実を見抜く。 天から与えられた稀なる至宝。 (そして、なんて痛々しくて優しいのか………) 男にあんな言葉を言われても怒ることもしない。その心で受け止めている。 盗一は新一から目が離せなかった。 「工藤君、ありがとう」 「いいえ。今日はこれで失礼します」 「そうか。お疲れさま。送らせるよ」 目暮と新一の話が終わり盗一に視線が移った。 「帰ろうか」 「ああ」 盗一は背を預けていた壁から離し頷く。 そして、二人は来た時と同じように高木に送られて帰宅した。 遅くなったが、やっと夕食を取って………あまり食欲がないという新一に、食べないと駄目だと盗一が押し切った………ソファでくつろぎ二人は食後の珈琲を飲んでいた。 「なあ、なぜ探偵をしているんだ?」 盗一は聞きたかった言葉を口にした。 とても気になった。今日の新一を見ていて、探偵は彼にぴったりだと思うが決して後味のいいものではなかった。何より新一自身が傷ついているように盗一には感じられたのだ。 「さあ、何でだろ」 新一は不可思議に微笑む。 「目の前にある謎を解かずにはいられない。正義は人によって様々でいくつもあると思うけど、真実は一つだ。事実は一つだけだ。それを見つけたいと思う。たぐり寄せたいと思う。パズルのピースを埋めていくように推理して見えない糸を解き明かしたい………まるで我が儘な子供だな」 小さく笑って新一は盗一を見た。 「それで痛い目を見てもやめられない。好奇心が押さえられない。結局俺はそれから逃れられない、それしかできないんだろうな………」 そういって自嘲気味に新一は目を伏せた。 「………それでも、新一にしかできないんだろ?」 「どうだろ?ただの自己満足かもな」 「そうじゃないだろ。いいや、それでもいい。新一にとって自己満足でも何でもいいさ。今日の事件だって、新一によって真実は明るみに出たんだ。それだけは事実だ。そうだろ?」 「………」 「殺された人間がどんな奴かは知らない。随分恨みを買っていたらしいけど、だからといって殺されていい訳じゃない。犯罪者を許していいはずがない。………俺がいうのも何だけど、そうだろ?」 盗一は新一の瞳を見つめて、告げる。 「俺は自分が許されないことを知ってる。罪を犯していることを知ってる。人を殺していなくても、怪盗紳士とよばれていてもKIDは同じ犯罪者だ。これから、それをしないなんて保証どこにもない。いつか裁かれる日が来るだろう」 「………盗一」 新一は視線を上げて盗一を見た。 「俺は、裁かれるなら新一がいいな」 盗一はにっこりと微笑む。 どうせなら、その蒼い瞳で断罪されたい。 それが叶うなら、本望だな。 掴まるなら警察じゃなくて、優しくて悲しい探偵がいい。 新一の瞳ならきっと俺の真実も見えるだろう。 「本当にそう思った。絶対、新一がいいな」 瞳を見開く新一に盗一はまるで楽しい提案を思いついたように微笑んだ。 |