「星に願いを 3章 3」






「それで、今週の予定は?」
 朝御飯を食べながら新一は快斗に訊ねた。
 今日の朝食の当番は新一であるから、快斗より先に起きて簡単であるが用意して快斗を起こして、今に至る。
 朝の光が注ぐテーブルの上には、目玉焼きと焼いたウインナーとプチトマトが二つ。それからトーストと脇にいちごジャムとマーマレードの瓶が乗っている。飲み物は珈琲。たっぷりといれてあるから、好きなだけ飲める。快斗用にはミルクと砂糖たっぷりのマグカップを用意して置いてあるし、新一としては精一杯の朝食だ。
「今週?今週は孤児院と老人ホームとデパートの催しに出るから結構忙しいな」
 快斗は一瞬考えてから予定を告げた。
「マジックだよな?そんなにあって大丈夫なのか?」
 今週で三件のマジックショーである。いくら小規模なものでも、プロではない学生の快斗には多いだろう。
「大丈夫だろ?慣れているし。毎年やっているからさ、恒例なんだって」
「へえ、そんなに?いいなー」
「また来年って手を振るから、行かない訳にはいかないだろ?冬休みとかも行くところあるし、季節でいろいろだな」
 また来ると約束してくる快斗を想像すると、なんだか心温まる光景だ。
 それほどボランティアのようにいろいろな場所に行ってマジックを見せてくる快斗がなんだか新一は誇らしい。
「小さな事からこつこつとやっていくんだ。それは俺の勉強になる。経験は無駄にならない」
 まだひよっこのマジシャンにとって舞台は貴重だ。腕には自信があっても、経験ばかりは年を重ねなければ手に入らない。観客を見てマジックを選び、楽しませる。巧みな話術も必要で、快斗は父親である黒羽盗一にはとんと敵わない。まだまだ尊敬する父親の背中は遠くて、快斗は追いかけている最中だ。
「そうだな。最初に会った時も公園でマジック披露していたし!」
 出会いを思い出して新一が笑った。
 観客だった新一は快斗のマジックに惜しみない拍手をくれた。そして、その後誉めてくれた。ついでに誕生日まで祝ってくれた。
 新一にあの時会ったから、自分はがんばろうと決めたのだ。それを新一に告白したことはないけれど。自分にとって新一は起点になった存在だ。
「いいなー。俺も行きたいなー。快斗のマジックの舞台見たい」
 快斗は新一の前でもマジックの練習をする。多くは工作部屋ではあるが、新一が快斗のマジックのファンであるという事実を忘れないでいて、時々披露してくれる。
 それが新一は嬉しくて堪らない。
 束の間味わえる夢みたいなマジック。
 一度目にすると、新一の心を奪って離さない。
「なあ、付いていったら駄目か?」
 新一が上目遣いで強請った。その目はじっと快斗を見て離れない。
「……駄目じゃないけど」
「本当か?」
「でも、新一事件があったら無理だろ?」
 快斗は至極まっとうなことを言う。新一はむっと唇を尖らせた。
「……そうだけど。そうなんだけど、俺だって見に行きたい!どうしても駄目な時は諦めるけど、一回くらい快斗の舞台見に行ってもいいだろ?夫婦なんだし!」
 新一は自分でも無茶苦茶言っていることは理解していた。普段は、夫婦なんだしなんて絶対に言わない。でも、やはりそれなりに思うことはある訳だ。
 夫婦で運命共同体なんだから、自分が快斗の素晴らしい舞台を見る権利はあると新一は信じている。共犯者なんだから、いいよな?と思うのだ。
 新一の思考回路をなんとなく理解した快斗は心中でため息を付いた。
 新一にマジックを見てもらうことは全く構わない。是非見て欲しいくらいだ。だが、新一が孤児院や老人ホームやデパートに行った場合のことを考えると、少し頭が痛い。
 この新一はそれはそれは無駄に顔がいい。
 初めて新一を見た時驚いたくらいなのだ。あの祖父をして「三国一の美人」と言わしめた人間だ。目立つこと甚だしい。注目を浴びまくるだろう。それも駄目ではないが、新一としてはどうなのだろう。嫌ではないのか。
 孤児院や老人ホームなら、そう騒ぐことはないだろうが、問題はデパートだ。不特定多数の人間が集まるデパートは、どう考えてもまずいとわかる。
「ああ。じゃあ、行けたらな」
 なんとなく保留というか、流動的に快斗は肯定した。
「事件がないように、祈ってやる」
 拳を握って、新一は自身に言い聞かせている。ただ、事件ばかりは新一の都合ではどうにもならないのだ。わかっているが、つい神頼みしたくなる。神なんて信じていないのに、すがりたくなるってこういう時だなと新一は思った。
 
 
 
 さてと……。
 ご飯を食べてから快斗は工作部屋にこもっている。マジックを披露するため、練習やネタの仕込みなどやることは多い。
 ここに入る前に鳩と兎に餌はやってきた。そして、小屋の掃除も済ませてある。糞の後始末や新しい藁を敷き詰め、水を変えてと丁寧だがてきぱきとこなした。
 そして、鳩と戯れた。
 鳩も今度のマジックに使うからコミュニケーションを取っておかねばならない。雛から育てた鳩は快斗のいうことを良く聞くし、今でも世話を欠かさないが、それでもマジックに使う前は調節する。元気がよく健康状態はいいようだから、大丈夫だろう。
 快斗は鳩の調子を考えながら、工作部屋に敷いてある畳の上にあぐらをかき工具を横に置いてあれやこれやと作業する。
 工作部屋は、そう名付けた通り快斗が好きな工作をする場所だ。とても広いから大きなものも気軽に置けるし室内で作ることもできる。それ以外にも興味のあるものに手を付けることができる。マジックは大好きでまじめに励んでいるけれど快斗の興味は多種多様だ。
 その趣味と一言で表せば、物好きなことがここでは自由にできる。現在誰にも邪魔されずに好きなことができる幸せを噛み締めている。
 好きなことに没頭できる。それは、実家ではできなかったことだ。
 邪魔される訳でもないし、没頭することを咎められることもない。快斗がマジックの練習に勤しんだり、工作をすることに対して両親に反対されたことはない。
 それでも、快斗の部屋でできることは限りがある。父親の書斎というより、仕事部屋のようなものに出入りがある程度は許されていても、所詮人のものだ。勝手をするには父親の部屋は敷居が高すぎた。
 それが現在、これほどの広い部屋が与えられている。
 爺のおかげだと思うと、素直に感謝はしたくないが、今回の結婚があって与えらた特権だ。それが快斗に対する報酬だといわんばかりのあからさまな態度が気に入らないが、権利を行使している身からすれば、あまり文句も言えない。
 結婚が爺達の横暴な意志によってなされたこととはいえ、自分達はそれを受けた。取引したといっていい。自分達の未来のために。選び取った自分は、爺に大手を振って逆らうことができない。
 複雑な心境だ。
 快斗はつらつらと考えながら手は動かす。今日は月曜日で明後日水曜日が孤児院で、金曜日が老人ホーム、日曜日がデパートと続くため、準備をしておかなければならない。場所によって人によってマジックは変えるから、それにあわせたタネを仕込む。
 
 
 
「快斗?」
 どれほど経ったのか。自分ではわからないが、ノックをして声をかけ部屋に入ってきた新一は左手にマグカップを持っている。
「ほい、差し入れ」
 そして、快斗が座る場所まで歩いて来るとマグカップを差し出した。色と香りから紅茶であるとわかる。これは快斗が好きなメーカーの茶葉だ。それもアールグレイ。
「さんきゅ」
 快斗はありがたく受け取ってそのまま一口飲んだ。身体に液体が広がる。随分集中して励んでいたらしい。肩から力が抜けてほっとした。
「快斗、根詰めすぎ」
 工作部屋に入ってずっと出てこない快斗を新一は心配していた。だからお茶でも差し入れて様子を見ようと思ったのだ。
「そうでもないんだけどなー。一旦集中すると周りを忘れるから」
「快斗も?俺と一緒だな」
 その集中力は目を見張るものがある。新一は推理と読書に。快斗はマジックとその準備などの工作に。どちらか一方が集中している時はもう一方がフォローしないと二人で時を忘れてしまう夫婦である。
 
 新一は見てもわからないが、快斗の周りに広げられた道具の数々を見回して大きな吐息を付く。
「いいなーー」
「何が?」
 実感がこもった新一に快斗が聞いた。
「俺にはなにがなんだかわかんないけど、これが快斗のマジックの元なんだと思うとどきどきする」
「どきどきする?」
「するって。だって、マジックと縁なんてなかったから。見るだけで、楽しい」
 不思議そうな快斗に新一は、快斗にとっては大げさに見えるほど真面目な顔で言う。
「そんなもんかなー。確かに一般の人にとっては縁がないな」
「だろ?そうだ、今日はずっと部屋にこもる?忙しいだろ?」
「そうだな、そうなると思う」
 快斗は思案して頷いた。
「わかった。今日は俺がご飯作るし、問題ない」
 それくらいは、任せろと新一は請け負った。
「悪いな」
「悪くなんてない。俺がやりたくてやってるんだからさ」
 新一は柔らかな声で小さく笑う。
「俺は快斗のマジックが好きだよ。だから、それに協力できるならするし、それができれば嬉しい」
 心から新一は訴えた。本心だった。
「ありがと」
 快斗はそんな風に言ってもらえて嬉しくて、頭を掻き回し、照れくさそうにお礼を言った。
「快斗はなんでマジシャンになりたいと思った?やっぱりお父さんの影響?」
 前から気になっていた素朴な疑問を新一は口にした。
「そうだな。影響は大きかったよ。生まれた時から周りにマジックがあったんだ」
 尊敬している父親。自分にはまだまだ遠い存在だ。でも、いつか越える。そう決めている。
 父親がマジックショーを行っている時、自分も連れていってくれた。そこで見た父親の舞台は素晴らしくて、子供心に誇らしかった。
 観客から拍手が贈られる。皆が笑顔だった。大人から子供まで。男、女関係なく。
 それを認めて、父親の仕事はなんて素晴らしいのかと思った。
 自分も、誰かの笑顔を見たかった。あの拍手を自分も受け取ってみたかった。
 惜しみない賞賛と笑顔。
 自分のマジックで喜んでくれる。目を輝かせてくれる。面白かったと言ってくれる。また見たいとねだってくれる。どれもこれも、味わいたかった。
「小さな頃父親の舞台を見て、あんな風に皆を笑顔にしたかった。自分のマジックで喜んでもらいたいって思った。マジックを見ている時、見ている人はその不思議に引き込まれ自分のことを一時忘れる。自分が男であることや女であること、社会的立場も関係がない。嫌なことも忘れて魅入ってくれる。父親に比べたら自分はまだ全然できていないけど、いつかできるようにしたい。そう思っている」
 マジシャンの醍醐味はマジックを見た人の反応だ。観客がいて初めてわかることがある。自分だけの自己満足ならマジシャンなんてならなくてもいい。
 趣味でやるだけなら、どんな風でもいい。
 ただ、マジックをしているだけなら、誰でもできる。
 けれど、自分は人に笑顔や夢を与えるマジシャンになりたかった。
「そっか。快斗ならなれるな。応援する」
 真摯な瞳で、新一は断言した。快斗ならそんなマジシャンになると決して疑わない。応援するという。
「……新一にそう言ってもらえると、本当にできる気がする。絶対なるよ」
 新一の気持ちに応えたい。
 応援するって言う新一は快斗の隣にいてずっと見ていてくれるのだから。どれだけ一緒にいられるかわからないけど、それまでに満足のいくマジシャンになりたい。
 
 
 
「そういえばさ。どんな衣装でいくんだ?」
 ふと、新一は気になった。
「ああ、行く場所が場所だから普通のスーツだよ。ダーク系の。あまりきっちりしすぎるのも問題だし。デパートは孤児院や老人ホームよりかっちりとした格好で行くけど」
 快斗は食後のお茶を飲みながら、うーんと首をひねりつつ答えた。
 夕食後のお茶の時間である。予告通り今日の夕食は新一が作った。幸いなことに事件の呼び出しもなく滞りなく料理に専念することができた。
 出来映えは、そこそこだ。新一の腕としては満点に近い。
 
「へえ、そうか。もう、決めたのか?」
「まあ適当にな。衣装部屋にたくさんあるし」
 そう、衣装部屋にはこれでもかと洋服が詰まっている。すべて着る機会があるかどうか謎なほど、たくさんあるのだ。
「なら、着てみろよ。今から、試着!」
 新一が妙にやる気になって快斗の腕を掴んで誘った。
「俺は見に行くつもりだけど、もし行けなかった悲しいだろ?どんな姿かくらい知りたいし!さあ、行くぞ」
 新一が二階へと引っ張っていくので快斗は素直にそれに続いた。
 衣装部屋の扉を開けると、何度も思うが圧倒される。無駄だなとも思う。衣装に無頓着なつもりはないが、それほどおしゃれでもない。が、目の前に広がる衣装はどれも高価だった。
「さてと。どれにしようかな……」
 快斗はダーク系のスーツがまとめてある場所でハンガーを動かしながらどれにしようかと悩んだ。
 その中からシンプルなデザインを一着選ぶ。そして新一に見せた。
「これを孤児院と、老人ホームで」
「うん、いいんじゃないか」
 入り口で快斗の様子を眺めていた新一は、うんと頷いた。が、付け足した。
「それで、白いシャツと、ネクタイはどれ?」
「シャツは……これだな。……ネクタイはどうしようか。地味なのでいいんだけど」
 白いシャツがかかっている中で、簡単にシャツは選べるがネクタイはすぐには選べない。
「……じゃあ、これ」
 新一が中に入ってネクタイが並んでいる場所から暗い赤でペイズリー柄のものを差し出した。
「赤?」
「赤でいいって。暗い色だし、快斗若いんだから。これくらいでも、全然平気」
 自信をもって新一は勧めた。それに、快斗は是という以外なかった。そうすると返して、今度はデパートに着ていくスーツを選んだ。
「これで、どうだろ?」
 今度選んだのは、シンプルではあるが品があるスーツだ。色は黒に近い紺。
「いいな、似合う」
「だろ?それで、シャツとネクタイは……これでどうだ?」
 快斗が引っ張ったシャツはちょっと襟の形が変わったもので、ネクタイは濃い青だ。本人としては爽やかイメージで選んだのだが、新一の反応はどうだろうと伺ってみると、にこりと笑った。
「いい。……それさ、シャツにカフスとか付ける?」
「まあ、付けると引き締まっていいかな。どれにするか……」
 カフスが入った小さな引き出しを覗き込んで快斗は、首をひねった。新一はうーんと唸ると、ちょっと待ってろと言い置き、隣にある自分の衣装部屋へと向かった。ごそごそと音がして快斗が不審げに眉を寄せていると、新一が戻ってきた。そして、快斗に小箱を差し出した。
「はい、これ」
 快斗が渡された小箱を開けると、ビロードに覆われた中にカフスが入っていた。
「これ、なに?」
 青いカフスだ。宝石のようでいてそうでない輝きの石というか、そうでなかったらガラスだろう代物だ。
「これは、ベネチアングラスで出来ているんだ、綺麗な蒼だろ?」
 新一の言うとおり綺麗な蒼だ。まるで新一の瞳の色のようだ。
「ほんとだなー。これがガラスか、でも深い色で綺麗だ。そこら辺のガラスとは訳が違う」
 デザインもスクエアカットだが、サイドが何面にもカットされていて綺麗な立体だ。
「爺さん、否、おじさんから貰った?新一愛されているし」
 これは、衣装部屋に予め置いてあったものではないとわかっている。新一がすぐに思い当たったように探しに行ったからだ。それに、宝石ではなくベネチアングラスというチョイスがそう推測できた。
「これは違う」
 否定する新一に快斗は、はて、と疑問に思った。
「ふーん。でも、新一が買った訳じゃないんだよな」
 それくらいは快斗でもわかる。新一はこういったものを自分で買わない。欲しいという欲求がないらしく、宝飾品などは両親、祖父が買い与えたものばかりらしい。
「ああ」
「……」
 爺や父親に貰ったものではなく、自分で買ったのではない。では、誰から?快斗がそう疑問に思っても不思議ではないだろう。
「あ、待て。今何か嫌なこと想像しただろ?違うから!これは、違う!」
 これは、という時点でこれ以外はそうなのかと快斗は心中突っ込んだ。
 新一は快斗の目から見ても貢がれそうな人間である。両親、祖父だけでなく関わった人物から、物を捧げられていそうだ。実際、そういったものが一つもないということはあるまい。快斗の穿ったとは思えない想像を察したのか、新一は焦って説明する。
「ちょっと、これは別もので。とにかく、貰ったは貰ったけど、俺は正当な権利があって貰ったんだ。押しつけられたと言わないでもないが。で、気に入ったなら遠慮なく使え!」
 新一は叫んだ。
「ありがとう。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうな」
 快斗としては納得のいく説明でもないが、それ以上追求する必要もない。新一が言いたくないのなら、それでいい。自分に貸そうと思ってこれを探してきてくれたのだ。ありがたいだけだ。
「うん。どうせ箪笥の肥やしにしかなってないから、快斗に使ってもらえれば俺も嬉しい」
「勿体ないな。……今更だけど、実は高価?」
 宝石なら絶対に高価であろうが、このベネチアングラスもどういう角度から見ても安物ではないだろう。横目で快斗が問うと新一は困ったように眉を寄せ苦く笑う。
「高価かどうかは、どうだろう。値段知らないし……。俺は快斗に似合うと思うから、もらって欲しいくらいだけどな」
「……それは勘弁して。貸してくれるだけでいい。うん、これから借りる時は頼むから、是非、レンタルで!」
 どこか本気の顔で新一が言うから、快斗は丁寧に辞退した。貸してもらえるだけで、十分な好意だ。それ以上はこっちも困る。高価なものをあげると言われても扱いに困るだけだ。
「そっか?なら必要な時は言ってくれな」
「うん、お願いする」
 快斗は、こっくりと頷いた。
 
 
 

 
 数日後、念願叶ってやっと新一はマジックショーを見に行けることになった。水曜日は無理だったから今日は金曜日の老人ホームである。
 快斗の運伝する車の助手席で新一はご機嫌だった。
 今日の車はトヨタ、プリウス。
 それ以外の高級車は老人ホームに乗り付けるのにまったく向かないのだ。プリウスでも実はいっぱいいっぱいで、本当は軽自動車とかワゴンとかが望ましいのだが、今買うのも勿体ない。
 妥協してプリウスに乗っているが、快斗は思う。やはり、今後購入するべきかと。
「なあ、車だけど、高校卒業したら一台買おうと思うんだけどさ」
「ああ、そうだな。いいと思うけど、何がいいんだ?」
 快斗の提案から、事情を推し量った新一はすぐに同意した。プリウスで出かけることに決める時も快斗は今一歩浮かない顔だった。
 車があると便利だが、相応というものがある。まだ、高校生の快斗がプリウスに乗っていたら、どう考えてもおかしい。
「ワゴンがいいんだけどなー。軽自動車の方が燃費はいいからな」
 希望を言えば安いことだ。学生の身だから、普通安い車でないと買えない。そこに、爺共が加わって勝手に購入しない限り。絶対に、内緒で進めないとあの爺達は手配して届けそうで怖い。
「うーん、まだ悩む時間あるから、じっくり考えてみてもいいと思う。その頃には新しいモデルとかも出るだろうし」
「そうだな」
 快斗は左折しながら、ああと頷いた。
「そうだよ。車庫はまだ余裕あるから一台二台増えても問題ないし。快斗の好きなのを選べばいい」
 四台も高級車が並ぶ車庫だが、まだまだ余裕がある。一体爺達がどんなつもりなのか定かではないが、今後増えることを見越していたのだろうか。
「今度こそって?」
 茶目っ気に快斗が笑う。
 爺共の趣味でそろえられていた、高級車だ。今度こそ、安くても自分の趣味で実用にあった車が欲しい。
「そう、今度こそ。俺も資金出すし!」
 にっと笑って宣言する新一に快斗は目を瞬く。
「新一も?」
「そう、だって俺も免許取るからさ。一緒に使おう!」
「なるほど。それなら、一緒に選ぼうな」
「うん!」
 まだ先だが、二人で車を買おう。そう決めた。
 爺達がどう出るかどうかわからないが、二人の未来は明るいはずだ。


 
 その後、快斗のマジックを堪能した新一はまた絶対に付いて行こうと心に誓った。
 
 
 



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