「星に願いを 2章 5」






 今回、幼なじみと友人を家に招待することになったのは、彼らの事情がばれたからだ。
 実際に婚姻届を出した訳でも結婚式を挙げた訳でもないが、二人は親族内で結婚したことになっている。ここ新居に住んで二人で暮らすことが条件であったから、二人は言われるがままに引っ越してきた。そのせいで、親族から新婚さん扱いをされている。家から引っ越す時両親は偶には実家に顔を出しなさいと言ったほどなのだ。状況に馴染み過ぎである。
 
 そのような事を説明した結果、新婚が住む新居へと招待することが決定された。さすがに準備があるので、ちょうと夏休みに入ることを利用して今日という日に決めたのだ。ばれたのが休み前の試験期間だったから、ちょうど良かった。他の人間……友人知人まで飛び火することなく必要最低限の人間だけに打ち明け招待することで納めることができた。
 彼ら三人は、結婚したという信じられない事実を真っ向から受け止め祝福している。それが、新一も快斗も甚だ不思議だ。もう少し反応が違っても普通おかしくない。
 蘭は新一の母である有希子から事実を聞いて新一に問いつめたのだから、予備知識があって新一に聞いたことになる。もっとも有希子は簡潔に「新ちゃんは結婚したのよ。今は旦那さんと新居で一緒に住んでいるの。いいでしょう?」と語ったらしい。頭の痛い説明である。新一は蘭を落ち付かせ、自分の曾祖父の時代から続く悲願を話して聞かせた。自分たちに悲願達成を託した爺の暴挙で結婚するしかないことを切々と訴えた。蘭は結ばれなかった恋人達に同情し現代に結ばれるなんてロマンチックねと笑った。新一がそのために結婚しなくてはならないという現実は、乙女の夢に比べたら些細なことらしく無視をされ、笑顔で「おめでとう、新一」と祝福を述べた。
 女は理解できないと新一が生きてきて何度も思ったことをこの時も噛み締めて、友好的に変化した蘭に「さんきゅ」と言うしかできなかった。
 さすがに、快斗と今だけの我慢だからと共犯者になっているとは新一もいえなかった。 それは、二人以外の人間に明かしていいことではない。だからなのか、蘭は新一が祖父の暴挙で結婚をしなくてはならないとは理解しても、二人はそれを了解したのだと信じたのだ。それは、新一がどんな人間か知っているからこそである。新一は自分の信念を決して曲げることはない。人の気持ちを無視することもない。幼なじみとして幸せになって欲しいと思っていた蘭がどんな理由であれ新一を祝福しないはずがなかった。それ故に、相手を確かめたくて彼女は新居に招待するように命令したのだ。
 そこに蘭の親友であり新一のクラスメート券悪友のような間柄である園子が加わるのは当然だった。園子もある意味新一との関わり合いは公私共に大きいのだ。
 その園子も普通ではない感性を持っていたため、新一を開けっぴろげに祝福し、新婚さんなのねと揶揄した。新一が彼女達に敵わないと思う所以である。
 
 一方青子が快斗から結婚したのだと聞かされた時、青子はさすがに公道で絶叫した。まずいと思った快斗が青子の手を引いて実家に連れて行き、お茶を入れながら落ち着くのを待って話をした。
 快斗の曾祖母に当たる人の悲恋物語が発端となった今回の結婚は黒羽家と工藤家の悲願になっていたのだと。今までは互いに男しか生まれなくて悲願は果たされなかったのだが、祖父が孫である快斗にやっと悲願達成だと言って結婚をするように問答無用で命令したこと。だが、相手も男であること。長くなるところは省き、要所を語る。
 青子はびっくりして目を見開いたまま、黙って快斗の話を聞いた。そして、おずおずと口を開く。快斗は納得しているの?と。それに、しているよと快斗は答えた。していなければ、さすがに引っ越しまでして、なおかつ一緒に住まないだろと快斗が笑うと青子はやっと笑顔になった。快斗が望んでいないことを強要されるなんて嫌だ。幸せならどんな形でも自分は嬉しいし、祝福するのだと言う幼なじみに快斗は安心させるように頭を撫でた。
 そして、青子を安心させるために新居に招待することにしたのだ。
 新一も同様な状況にいることを知った快斗はそれなら同じ日に呼ぼうと提案し、迎える準備をすることにした。
 午後二時からの招待でお茶とケーキでもてなし、希望であるお宅訪問とお宅拝見をさせて、夕食をご馳走する。そこまですれば、満足するだろうと二人願いこの日を迎えた。
 
「これ、また使うよな?こっちに置いておく」
 シンクで洗った食器……カップやケーキ皿などを布巾で水気をふき取り新一は一式をすぐに使えるように仕舞わず、調理台の隅に置く。
「ああ。さんきゅ。……そっち終わったらこれよろしく」
 快斗は新一に返事をしながら夕食の準備、下拵えをしている。料理の腕は快斗の方が断然上であるから女性三人が席を立ってから新一は洗い物を請け負い、快斗は下準備に取りかかった。洗い物を終えた新一は快斗を手伝うつもりだ。自分ができることは少ないが、何分五人分である。通常と量が違うせいで、やることが多い。使う食器も前日に五人分用意してあるし、食材も購入した。
「これ、詰めればいいんだよな。それにしても、すごい」
 鳥一羽丸ごとをオーブンで焼くのだが、お腹の中に野菜や香辛料を詰め込むのだ。人参、じゃがいも、玉葱、ズッキーニ、オリーブなどを細かく切ったものに下味を付けたものがボールに入っている。それを新一が詰め込むのだ。
 その間に快斗は次に進んでいる。スープに南瓜のポタージュを作ろうと柔らかく茹で小さく切っておいた南瓜を牛乳と調味料を入れてミキサーにかける。それを鍋に入れて弱火で煮込む。その傍ら前日から準備しておいたバットに入ったコンソメのゼリーを冷蔵庫から取り出し具を入れて混ぜる。
 朝茹でた海老とタコを小さめに切っておいたものときゅうりを加えた具だ。これにコンソメゼリーを絡めれば、サラダになる。
「快斗できたから、オーブン入れるぜ」
 鳥に野菜を詰め込み終えた新一は鉄板に乗せ暖めておいたオーブンへと入れた。そして時間をセットする。
「さんきゅ。こっちも進んでるから、タルタルソース作って」
「おーけー」
 タルタルソースはスズキのムニエルに掛けるつもりである。玉葱とパセリを微塵切りにして、ボールにマヨネーズとレモン汁を入れ混ぜあわせる。出来上がったものは小振りの鉢へと入れ直して冷蔵庫へ。
 スズキは魚嫌いな快斗でもどうにかできるように切り身が用意されているし、実際調理に関わるのは新一の役目になっているため、今回のメニューに加わった。
 前もってできることはやってあるから、なるべく直前に作業した方が美味しいだろうものとその場でしかできないものを残して作業をする。
「あー、そろそろ見てきた方がいいかな。どこにいるんだろう。声が聞こえないから西の二階かな?それとも車庫までいったか」
 新一が手を洗いタオルで拭きながら快斗に聞いた。好きなように見て回ればいいとはいえ、いつまでも放っておく訳にもいかない。
「だな。こっちも、いいか。……どこまで行ったかな」
 快斗も同じように手を洗ってタオルで拭きエプロンを外す。外したエプロンは軽く畳んでひょいとダイニングの椅子にかける。新一も同様に色違いのエプロンを掛けて探検に出かけている幼なじみと友人を捜しに行くことにした。
 
 
 
「うわー、すごいわ。広間がある」
「本当ね。……でもここに広間があってもあの二人が使うのかしら?」
「これをどうやって使うんだろうね」
 両開きの重厚な扉を開けた蘭、園子、青子の感想である。天井から下がっているシャンデリアはきらきらと輝いているし、敷かれている絨毯も毛足が長く柔らかい。深く鈍い赤色の地色に緑色の蔦が幾重にも描かれた模様になっている。
 中央にあるテーブルに椅子。所々に置かれた家具と工芸品。いかにもお金がかかっていそうな部屋である。
「あー、貴婦人の椅子よ」
 園子が叫び部屋を横切ると窓側の隅に置かれた花柄のクッションに流麗な形をした椅子を指さした。細長く、片側に肘掛けのような背もたれが付いている椅子である。
「なに、それ?」
 蘭の疑問に園子は笑ってその少々変わった形の椅子に横向きにゆったりと座った。
「こうやって、貴族のお姫様なんかが座っている絵って見たことない?胸が開いてびらびらしたドレス着て宝石じゃらじゃら付けた貴婦人が、気怠げに座って扇子なんて持ってるやつ!」
「……あるわ!」
「私もあるかも。……だから貴婦人の椅子?すごい、ぴったり」
 頭の中で想像が行き着いた蘭と青子は互いに手を叩いた。
 確かに記憶にある。ヨーロッパの絵画に、こんな椅子に座った貴婦人の絵があったはずだ。自分達とあまりにかけ離れていたし、今の時代にあるとは思わなかったため、瞬間理解できなかった。
「……ふふふ、座ってみる?」
 園子はそこから退き、蘭の背中を押した。蘭も少し緊張しながら座り気持ち良さそうに目を細めた。
「なんかお姫様になった気分だわ。……じゃあ、次は青子ちゃん」
 蘭は椅子から退き今度は青子の背中を押して座らせた。
「うわー、なんかすごいかも。きっとこんな機会二度とないわ」
 目を見張りながら、青子は正直な感想を述べた。一般家庭に暮らすごくごく一般的な高校生である青子が、こんな豪勢な広間や椅子に縁があるはずがなかった。
「でも、これからはあるかもよ?」
 当然とばかりに園子が言う。
「え?まさか」
「あると思うよ。だって青子ちゃんの幼なじみの家なんだよ、ここ。それに私達友達になったんだし」
 驚く青子に蘭は事実を説明する。幼なじみの家に二度と来ないことはないだろう。それに、園子は鈴木財閥の次女だ。親友である蘭は付き合いで実はすでにいろいろな場所へと連れていかれた。パーティで緊張はしなくなった自分を誉めたいと蘭は思っている。それに、新一だとて実家は洋館である。世界的に著名な作家の父親と元女優の母親に囲まれている幼なじみと長く付き合っているのである。いい加減、慣れるというものだ。
 だから青子がこれから遭遇する様々な事態を蘭は簡単に想像できた。
「そうだけど。でも、ねえ」
 快斗と幼なじみであるという事実は一生消えない。だが、この屋敷に自分がそうそう足を運ぶとも思えなかった。青子は首をひねってうなる。
「そのうち、わかるから。本当に、あれって感じだから」
 蘭は、力無く笑い今後の青子の人生を思った。たぶん、巻き込まれるだろう。人の縁とはそういうものだ。自分達がここで知り合いになり、幼なじみ同士が結婚してしまったのだ。
「うん。わかった」
 わからないなりにも、青子はきっぱりと頷いた。
「ふふ、この園子さんと友達になった時点で諦めてよ」
 園子は説明を省き、高らかに笑った。青子を巻き込む気満々である。次回パーティがあったら、絶対に呼ぶだろう。それを横目で見ながら蘭は、
「じゃあ、次のところ行ってみようか。まだまだ広くて見甲斐がありそうだし」
「そうね!」
「うん!行こう」
 園子と青子も同意して、広間から退出した。
 
 
 
「あら、すごいわ。なに、これ?」
 蘭が口をぽかんと開けて驚く。
「……多分、快斗の部屋じゃないかな」
 青子はどう見ても幼なじみの部屋としか思えなくてそう答えた。
 だだっ広い部屋には雑然とした物が置いてある。見てわかるものと理解できないものや道具らしきものや作りかけのものなどが至る所にあった。
「黒羽君?」
「そう。快斗マジシャン志望だから。今でもすっごいけどね、おじさんの影響だし」
「マジシャン?すごいじゃない」
「うん。おじさんが有名なマジシャンなの。だから快斗も小さい頃から上手だった。将来は同じように目指していると思うよ」
「へえ。そうなんだ」
 部屋を見回して、なるほどと納得する。
 マジックに使う小道具、大道具などが並んでいたのだ。それ以外にも多分趣味だろう工作らしき物体や、理解不能なもの、女から見ればどこが楽しいのかというものがあって、男はこういうものが好きなのだなと実感した。
「……それにしても、この屋敷って変で面白いわ」
「ああ、趣味性にあふれてるっていうより好きなものに囲まれた家?」
「さっきの書斎もすごかったもんね。工藤君、あんなの読むんだ」
 三人はこの部屋に来る前に書斎へと足を運んでいた。その書斎を見た瞬間の蘭の反応は青子といい勝負だった。
 曰く、新一は読書家というか活字中毒であり、本に囲まれるのが大好きなのだと。そして、探偵をしているのだと。
 それを聞いた青子は驚いた。高校生が探偵とはあり得ない。しかし、聡明そうな顔を思い出して、なぜか納得した。彼が持つ雰囲気と容貌が一般とはかけ離れていたからだ。
 あった瞬間、青子は見惚れてしまって顔が赤くなり困ったほどだ。
「……あんなに綺麗な人初めて見た」
 青子の純粋過ぎる感想だった。
「……私達にとっては今更だけど。見慣れているし。でも、まあ、わかるわ」
 青子の言葉からすぐになにが言いたいのか察した園子が苦笑した。
「私はほんとに小さな頃から知ってるけど、覚えている限り新一はずっと綺麗よ。おば様に似たのね。おば様すっごい美人だもの。元は世界的に有名な女優なんだから。今でも若々しくてとても高校生の子供がいるなんて見えないし、その美貌っぷりは健在なの。その遺伝子を引き継いでいるから、新一はどんな角度から見ても醜い部分なんてないわよ。蒼い瞳に整った鼻梁、白い肌に漆黒の絹のような髪。桜色の唇。手足長くて細くて、身体のバランスも良くて。それにおじ様の血を引いてるせいか頭までいいわ。頭脳明晰ってああいうことを言うんだって思う。世界的ミステリ作家の頭脳ですもの、とびきりよね」
 蘭はまだ青子に詳しく話していなかった新一の両親をつらつらと紹介した。その両親から生まれた新一がいかに特別な存在であるのか、それだけでわかろうというものだ。
「……うわー、遺伝子から違ったんだ。納得ーーー。じゃあ、私が少しくらい見惚れちゃってもおかしくないってことだよね。よかった」
 ほっと安心を覗かせて胸に手を当て青子はため息を付いた。
 園子も蘭も苦笑う。
 新一に対する当たり前の反応である。それを今まで二人は数多見てきた。園子は、一度蘭に視線をあわせ目を細めると、にやりと笑った。
「まあね、あれは美少年なんていう甘っちょろい存在じゃないわ。傾国ってのよ。こう、人を惹き付けるオーラがあるの。誰もが目を奪われる強烈な存在感があって人の脳裏に刻み込むのよ」
「刻み込まれて終わちゃった人いるけどね。不幸なことに」
 蘭も付け加えた。
 恐ろしい台詞である。なにが今まであったのか。青子は一応聞いてみた。
「えっと、つかぬことを聞くけど。何があったの?」
「そうねえ。傾国の如く一目で恋に落ちて燃え上がったのはいいけれど、さくっと振られてジ・エンドね。告白まで行ければいいけど、そこまで辿り着けない人多いのよ。うちの学校、これでもセキュリティしっかりしてるし、校門で他校生が簡単に待てるようなとこじゃないの。私達二人といればそれほど無闇に声なんてかけられないし。第一探偵なんてやっているから、覆面のパトカーが学校へ迎えに来ることだってあるのよ。一度現場に行けば解決するまで学校来ないし。新一君、簡単に捕まえられない人だから、告白まで至れないわ」
「……工藤君って、すごい人ね」
 目をぱちくりと瞬かせ青子は感嘆した。
「本人あんまり自覚ないけどね。興味薄いから」
 蘭はため息をこぼした。そこに疲れがあるのは、なぜなのか。
「その分、私達が苦労したのよ!あれを野放しにするのは犯罪よ!それなのに、あの馬鹿は……。ふふふ、そうそうボランティアなんてやってられないわ」
 園子が人が違ったように目を鋭く尖らせ叫ぶと、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「園子……」
 蘭が労るように園子の肩を叩く。
「……ふふ、まあいいのよ。私はそれを買ってもいるんだから」
 意味深ににたりと笑う園子は恐ろしかった。それを買うとはどいうことか。謎を呟く園子だが青子は突っ込まなかった。誰でも聞いたら後悔することがあるのだ。正しく今はそれだろう。付き合いが深まればそうでもないのだろうが、今はまだその時ではない。
 青子はなかなか怪しげな言動を取る二人と友達になることに戸惑いは一切なかった。人を見る目を彼女は小さな頃から持っている。それがはずれたことはない。そこが、青子の長所である。
「……あのね、そんな工藤君だけど。快斗と結婚してよかったのかしら?」
 少々不安げに青子は問う。それに、園子が瞬時に顔を青子を見た。
「問題なんてないわ!これ以上ない逸材よ!」
 そして、青子の不安などはね除ける強い意志でもって答えた。
「黒羽君、素敵じゃない。ハンサムで長身で優しそうで包容力とかありそうで、かつマジシャン!新一君の相手じゃなかったら私が立候補したいくらいのいい男!それで、お菓子作らせたら絶品てどうよ。反則!」
 うふふと高笑う園子に青子は少しだけ口元をひきつらせた。
「幼なじみを誉めてもらえると、嬉しいけど。なんていうか、私の方が照れるね。快斗は確かに優しいと思うよ。お菓子作りも上手だけど料理も上手いよ。私も時々お菓子焼いてもらうし、誕生日にケーキくれた事があったわ。ハンサムっていうのは、どうだろう。あのね、おじさんはすごく格好いいのよ、これが!おじさんに似ていることから考えれば快斗もハンサムって言えるのか、うん、そうかもね」
 青子は語りながら納得する。
「青子ちゃん、面食いじゃない?毎日ハンサム見ていたから自分の人を見るレベルが高いって自覚ないんじゃない?」
「ええ?そう?」
「そうだよ、絶対。黒羽君がうちの学校にいたらめちゃくちゃモテよ。保証する」
「……ああ、そいえば、快斗モテていたかも。下級生から告白されてるの見たことある。断っていたけど」
「やっぱり?」
「うん。私の知らないところでも告白されていたみたい。恵子、友達が教えてくれた。それで、断ってばかりだから、快斗に好きな人いるのって聞かれた。幼なじみだから知ってるでしょ?って聞かれてもわからなかったわ。その時も思ったけど、マジックが一番なのよね、快斗。何よりマジックで人を喜ばせることが好きなの。万人に、特に女の子に優しいし……愛想もいいし親切だし人を笑わせるからモテるけど、でも必要以上には自分の中に踏み込ませないんだよ。あれは一種のフェミニストっていうんだと思う」
「へえ、そういう人なんだ、黒羽君」
 蘭が目を丸くしながら、興味深げに頷いた。
「いい男が女に興味がないってどうなのかしら。立つ瀬がないわ」
 隣で園子が腕を組んで、吐息を付く。
「興味がないっていうか、女性には優しくってのはおじさんの教育方針だと思うの。女性は傷つけてはいけない、守らなくてはならない、尊重しなくてはならない。レディファーストも板に付いている。モテる要素はあるけど、それは快斗の中では常識のこと。だから、なんていったらいいのかな。多分、一人の大切な人を作る気が今はないんだってその時は感じたんだ」
「マジックと好きな女性は両立できると思うけどねえ。何が駄目だったのかな」
 園子が首をひねる。それに蘭が戸惑い気味に口を開いた。
「多分だけど、少し新一も似ているね。新一は鈍感なだけってのが大きくて比べるのがおかしいけど、どうしても叶えたい夢があるでしょ。それが新一は探偵で、黒羽君がマジック。恋人を作っても別にいいと思うけど、新一はね自分のせいで何か友人知人に迷惑をかける事を心配していたのね。探偵って決して綺麗なものだけじゃないから。人から恨まれることがあるんだって言っていたし。私も園子も事件に巻き込まれた時居合わせてわかったけど、加害者だけでなく被害者からだって逆恨みを受けることがあるもの。だから、自分の友達だからという理由で何かあったら困るって思っている。新一はそういう事情があった。自分の隣に簡単に人を置けない理由が。黒羽君にも私には深いことはわからないけど、そういう心の事情があるのかもね」
「……そうだね。うん」
 青子が小さく笑った。
 大切な幼なじみを認めてもらって嬉しかった。
「人の心まではわからないか。そうね、新一君もそういっていたことがあるわ」
 昔事件に巻き込まれた時、新一が真剣な目で小さく囁いたことだ。
「それを踏まえればお似合いよね、あの二人」
 園子は表情を一気に変えて、にやりと笑った。
「美男美女だもの。うふふふふ」
 美女ではないのだが、園子は小さな事など気にも止めなかった。あれは、美女の顔だからいいのだ、と信じている。
「はは、まあ、そうね。隣に並べると絵になるものねー。この際男同士だからとか関係ないし、問題ないわ」
 蘭の常識も新一に関しては世間一般からずれていた。ずれまくりだ。
「そう?そういってもらえると嬉しい。私もお似合いだと思うもの。幸せになって欲しいわ」
 青子は無邪気ににっこりと笑った。悪意の欠片もない。
 ここにいる女性三人、実は相当いい性格なのかもしれない。動じなさ過ぎる。世の中平和ねと言わんばかりの笑顔で、問題ありまくりの事実を軽く流す。
 ここに新一と快斗がいれば、三人の言動に頭を抱えただろう。そんなに祝福してくれなくていいから、と。だが、彼女たちはどこ吹く風である。所詮、彼らが彼女たちに敵う訳がないのだ。諦めるしかない。
 
 






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