新一がいつもどこでも安心できるように、快斗は彼にいろいろなものを渡している。 快斗が傍にいれば新一は熟睡できる、心が安定する。つまりそれだけ精神が平穏で身体にもいい状態になる。しかし、快斗は絶えず工藤邸に出入りして新一の世話を焼くのだが、いつも、どこでも一緒にいられる訳でもない。 まして真剣に事件に取り組む新一の神聖な場所に快斗が行くことはなかったし………迎えは別であるが………突発的に呼び出されるので、快斗のあずかり知らぬところで警視庁からの要請があっては、快斗にはどうしようもなかった。 それでも少しでも新一が安心するように、無茶をしないようにと快斗は自分のものを彼に渡した。 どんなものでもいいのだが、自分が使っていたものの方が匂いや存在が残っているようで新一が安心するように微笑むので、少々彼には大きいがコートであったり、マフラーであったり、ハンカチであったり身につけられるものを彼に渡している。 その心使いが理解できるため「ありがとう」といいながら新一も感謝して受け取る。 快斗の匂いがするものに包まれていると、ひどく安心する新一。 すると自然にリラックスできて、快斗が傍にいてくれるような気がして現場でも安心することができるらしい。 「新一………」 「どうしたんだ?快斗」 「これ、身につけていて」 快斗は自分の手にはまっている腕時計を外して新一の自分より細い腕に付ける。 「快斗?」 「俺がずっとしてる時計。俺の時間と新一との時間を刻んでいる時計だから、付けていて?」 「でも、快斗が困るだろ?」 自分の時計を自分に渡したらこれから快斗が困るだろうと新一は思う。 彼のものを身に付けることは嫌ではない。それどころか、嬉しい。時計は初めてだが今までいろんなものを身につけていた。 「一つしか持っていない訳でもないよ。それにね、ちょっと来週から仕事が入っていてこれないから、新一に持っていて欲しいんだ」 快斗の仕事。闇夜をかける怪盗KID。 遠方であるビックジュエルの展示にあわせて東都をしばらく開けなければならないのだ。当然ながら、新一の傍にはいられない。KIDとしての仕事だけなら一週間で済むのだが、残念ながらそれだけではなく、マジシャンの卵として少しずつ活動している快斗は、その腕を買われてどうしても断れない筋からの依頼でショーをしなくてはならないのだ。その場所がこれまた真逆。片方が北海道、片方が九州………。夜空を自由に翔ることのできる怪盗も日本縦断は飛行機のお世話にならなければならなかった。 「そっか。どのくらい?」 「10日くらいかな?」 快斗がしばらく来られないと予め聞いていた新一だか、10日間いないとはっきり告げられると快斗がしばらく傍にないことを改めて認識させられた。 「………気を付けろよ?」 ほんの少しだけ心配を覗かせて、新一は快斗を見つめた。 快斗のKIDとしての仕事に新一は何も言うことができない。 いつもだったら、仕事が終われば工藤邸にやってくるから、無事を確認できていた。でも、今回は遠方であり、その後すぐには戻ってこないのだ。その理由がマジックの仕事なら喜んで送り出すべきなのだとわかっている。 それなのに、気落ちしてしまう自分に新一は吐息を付いた。 こんなにも快斗の存在に慣れてしまうなんて。いてくれるのが当たり前になっているなんて………。 「大丈夫だよ。10日で必ず帰って来るからね。だから、これを俺だと思ってしていてね?」 自分の腕にはめられた快斗の時計を真剣に見つめて、新一は快斗に視線を戻す。 「わかった。なあ、だったら俺も快斗に時計をあげていいか?ただ、俺のは快斗にサイズがあわないのやデザイン的にどうかと思うから、快斗に時計を買いたい。駄目か?」 新一は首を傾げて心配そうに快斗を見上げた。 「そんなの、駄目な訳がないでしょ。いいの?新一」 「いい。っていうか買いたいんだ。快斗に持っていて欲しい」 「ありがとう新一。嬉しい………」 快斗はにっこりと微笑むと新一を抱きしめた。腕の中にある自分の大切な存在が、溜まらなく愛しい。 「俺だって、ありがとう。この時計ずっとしてるから。快斗の大事な時計だろ?」 以前からしている快斗の時計。 シンプルな文字盤で色は銀色。一見何の変哲もない時計だが、中身は一秒の狂いもない精密なものらしい。シンプルで飾り気はないが決して安っぽく見えなくて、上質さが漂っている。 なんでも、一目で気に入った一品で高校生が買うには高価過ぎて手が出せなかったのだが、どうしても欲しくてバイトをして購入したらしい。 その話を新一は聞いたことがあったから、どれだけ快斗にとって大切で思い出深いか知っていた。もらった分だけ、返したいのだ。思いのこもった品に等しいものなどあげられないが、少しでも自分が与えられた分を快斗に渡したかった。 「明日、良かったら買いに行こう?快斗」 「うん。お出かけしようか」 明日は休日である。二人で出かけて時計を探そう。 そう、約束した。 ぴかぴかに磨かれた透明なガラスケースに納められ、照明が当たり輝いている時計たち。 二人がやって来たのは、大手の百貨店である。 ここの宝飾品売場はとても広く、時計を扱う店舗が多い。別にどんなメーカーでもいいのだけれど、ひとまず種類が豊富な場所にやってきたのだ。 「どれがいい?快斗が好きなの選んで」 「俺が選ぶの?」 「だって………。快斗のだろ?快斗の趣味があるだろ?」 「………う〜ん、俺は新一に選んで欲しいな」 「俺?」 「うん。新一に選んで欲しい。俺のために新一が選ぶってのが嬉しい。だって、俺のことを思って趣味やどんなのが似合うかって考えてるくれる訳でしょう?」 「………うん」 相手のために選ぶ。 それはもちろん相手のことを第一に考えることだ。 相手の好み。どんなデザインが好きか?用途は何を重視するか?彼の腕に洋服にあうか?ただ相手のことに心を傾けて時間を費やして………選ぶ。 それが、とても楽しい時間でもある。 気に入ってくれるだろうか? 笑顔を見せてくれるだろうか? 喜んでくれる? 渡した時を考えて想像するだけで、心がぽかぽかしてくる。 だから、新一は快斗の言葉に頷いた。 快斗だって新一に以前からたくさんのものを選んでくれているのだ。 ちょっとしたもの。例えば、今日の献立だってそうだ。相手の好みや栄養、季節、気候を考慮して作る。 「選んでくれる?」 「俺でいいなら選ぶ………」 「ありがとう」 照れくさそうに頬を染めて、ううん、と首をふる新一がとても可愛らしいと快斗は思う。 「向こうも、見よう」 「ああ」 新一が快斗の服の裾を引っ張るので、快斗は目を細めて誘われるままに付いていった。 結局百貨店では気に入るものがなくて………及第点のものはたくさんあるのだけれど、ピンとくるものがないのだ………別の時計専門店へ来ていた。建物が全て世界の時計でしめられている、最近話題の時計店。 1、2階は割とメジャーなブランドやメーカーのものが置いてあって人も混んでいた。その上になると高価なブランドが並び、冷やかしがほとんどか、その金額がぽんと出せるお金持ちがいるだけだ。その上が少々マニアックな時計を扱うメーカーである。 「あ、これ快斗の時計だ」 「え?本当だ」 そこには新一がしている快斗の時計と同じメーカーのものが並んでいた。シンプルなデザインで上品そうな、文字盤の美しい時計。ガラスケースに入れられているものを見回すと、少々デザインが違うもの、小振りなもの、色違いのもの、懐中時計等々並んでいる。 そして、ふと二人の目が止まった先には快斗の時計と全く同じデザインで鈍いゴールドの色違いがあった。ゴールドは決して嫌味のない、暖かみのある色だ。変にぎらぎらと輝いたりしない、金色。新一に腕にある銀色と対のようなその時計に二人とも一目で心を奪われた。 「なあ、快斗。すごく単純だけど、これがいいな」 「………俺も、なんか、いいなあって思った」 「快斗のために選ぶなら、やっぱりこれがいい。このデザインも質もお前によく似合うし………。対だから………、これを快斗にして欲しいな」 新一は、それはそれは魅惑的に微笑んだ。その笑みに快斗は見惚れる。 金と銀の対の時計。 それは、これからの彼らの時間を刻むものだ。 「これを付けた快斗が見たい………」 新一はこれ以上ない時計を見つけられて、満足そうに目を細めた。 あと、少し。 わずかに1日。そうしたら、快斗が帰ってくる。 今日も昼間に電話で呼び出されて、現場に向かった新一は早期の事件解決に多大なる協力をしていた。 新一が忙しく頭脳を巡らせて解き明かした事件が終わりを迎えたのは夕刻、夕日が沈み空を紅色と闇色に染めている頃だった。その夕闇色を遠くに見つめて新一は吐息を付く。 これで、今日も終わるのだ………。 新一は腕にはめている時計を見つめて微笑み、自分の腕ごとぎゅっと抱きしめた。 この時計があるから、彼が傍にいてくれるようで、人のどろどろとした思惑と恨みがこもった辛い事件があっても、立っていられた。 たとえ、時計がなくても今までの新一は決して自分の辛さや痛みを人に晒すことはなかった。体調が優れなくても人前で倒れることのないように、弱みなど見せなくて、誰かに頼ることをしなかった。 それでも、快斗がいるいないでは、大違いだ。 心に掛かる負担が違う。 もう、きっとなしになんてできない。こんなに傍にいてくれるのだから………。 「工藤くん、今日もすまなかったね。疲れていないかい?」 目暮は心配そうに疲れが伺える新一を見つめた。 ここ連日事件が立て続けに起こり、どれも新一の手を借りるほど厄介なものばかりだった。その度に、申し訳ないとは思いつつ連絡を入れて解決してもらっている。いい加減ここら辺で休ませないと彼が倒れてしまう、と目暮が心配になっても不思議ではなかった。 「大丈夫ですよ、目暮警部」 新一は苦笑する。自分を幼い頃から知っている、父親の旧知である目暮はまるで自分の息子のように新一を可愛がり、心配するのだ。 「そうは言っても、ね。黒羽くんは、まだなのかい?」 「明日、帰ってきますよ」 「明日かい。そうかい、それは良かった」 快斗が留守にしていることを目暮は早い時期から知っていた。なぜなら、工藤邸に迎えにやらせた高木が見送りに出てこない快斗を不思議に思い、今日はどうしたの?いないの?と開口一番新一に聞いて、彼がしばらくいないんですよと答えたからだ。それは当然目暮まで報告が来た。 なんでもマジシャンの卵である彼はいろいろあるらしい。 新一の隣にいるのが自然で、とても互いを大切にしていると感じる。食事や健康管理まで手を回してくれているらしく、彼がいる時の新一は格段に体調も良く、精神状態も良い。だから、目暮も高木も彼のことが気に入っているし動向は気になる。 新一のためにも早く帰って来て欲しいと目暮は思う。 第一、「明日、帰ってくる」と言う新一自身がとても嬉しそうなのだ。 「疲れているだろう?送らせよう」 「すいません」 新一は素直に受けることにする。そうしないと目暮の気がすまないだろうとわかるし、さすがに身体が怠かった。 「高木君、工藤君を頼むよ」 「はい。目暮警部」 高木は頷き、新一に向き直って声をかけた。 「じゃ、行こうか、工藤君」 「お願いします」 高木が、こっちだからと車のある方に案内する。新一はその後ろを付いて歩く。するとジャケットのポケットに入れられている携帯が振動した。現場であったためマナーモードにしてあったのだ。 「もしもし?」 新一は表示された名前を見て、急いで取る。 『新一………?』 「快斗!」 『うん、新一、今どこ?』 「え、現場。今終わったところだ。これから帰る」 『そうなんだ。………早く、新一に逢いたいな』 「………俺も。早く快斗の顔が見たいよ。でも、気を付けて帰ってこいよ。無理するな」 『無理ね………。無理しなかったらすぐにでも逢いたいの?』 「そんなの………。お前、ずるい聞き方をする」 新一の拗ねたような声に、快斗の笑い声が電話越しに響く。 『だったら、魔法をかけてあげるよ』 「魔法………?何の?」 『新一にあっという間に逢う魔法。九州からそこま飛ぶ魔法だよ』 「………快斗?」 『one・two・three。………新一、前を見てごらん』 「え………?」 新一はいわれるがままに視線を上げた。果たしてそこには、快斗が立っていた。壁に背をもたせかけ携帯片手に新一を楽しそうに見つめて、ウインク一つ。 「………快斗???」 新一は知らずに走り出した。そして、快斗の前までくるとそのままの勢いでぎゅっと抱きついた。快斗はくすりと笑みを受かべて軽く抱き留めると新一の背を優しく撫でる。 「ただいま、新一」 「お帰り、快斗」 新一はにっこりと微笑みながら快斗を見上げた。瞳をきらきらさせて、逢えて嬉しいと雄弁に語っている。それが嬉しくて快斗も負けないような笑顔を見せる。 しかし、二人の世界に入り込みそうになったので、自分たちを見つめながら困ったように頭をかいている高木に快斗は「こんにちは」と会釈する。 「お帰り、黒羽君」 高木はそれに自分も会釈で返して、人のいい笑顔を見せる。 「しばらく留守をしていましたが、ご存じだったんですか?」 「ああ。初日から知っているよ。工藤くんを迎えにいったら一人だったから。黒羽くんは?って聞いたら不在だっていわれた。だからね、きっと捜査1課の人間は全員知っているよ」 高木は苦笑しながら、快斗に教える。 「………そうですか。ひょとしてご心配おかけしていたんでしょうかね?」 快斗も苦笑する。1課の人間に不在を知られるほどだとは思わなかった。いかに新一と共にいるかを多くの人に認識されていることか。 自分は怪盗KIDであるのに。その仕事に行っていたとわかったら、彼らの心配はさぞかしし甲斐がないだろう。 「う〜ん、早く帰ってくるといいなって思っていたよ。目暮警部もそう言ってた。そうそう、ここのところ連日で工藤くんを借りちゃったんだよね。だから身体に気を付けてもらえるかな?」 まるで快斗の許しを得ず新一に要請したことを申し訳ないと思っているかのような口調である。その不自然さに自分で発言しながら高木は気付いていなかった。 快斗はそんな高木に内心おかしさを感じたのだが、表面は「わかりました」と答えておいた。 まるで保護者同士の情報交換のような会話を新一は快斗にしがみついたまま、ぼーと聞いていた。 「じゃ、帰ろうか、新一」 「うん。………高木さん、さようなら」 「さようなら、工藤君、黒羽君。気を付けてね。ご苦労様でした」 高木は手をふって彼らを見送った。快斗は軽く会釈して新一を連れて人混みに消えた。 「予定より早いよな、どうして?」 「そんなの新一に早く逢いたいからに決まってるだろ?」 「………」 二人は仲良く工藤邸に帰ってきた。 現在は疲れた新一をひとまずソファに座らせて、快斗はその横に寄り添うように腰を下ろしている。帰宅した途端、美味しい珈琲が飲みたいという新一を胃に悪いから駄目だと聡し、砂糖一杯入れた暖かいミルクをマグカップに注ぎ渡した。甘い香りに一瞬眉を寄せて快斗を見上げたが、快斗は無言でいなした。珈琲が駄目なら紅茶がいいのにと言い募ったけれど、、カフェインが強いから今は駄目と言い渡してある。 新一は一口ミルクを飲んで身体を暖めると、すぐ傍の快斗を上目使いで見つめながら聞いた。 「でも………大丈夫だったのか?」 心配そうにおずおずと聞く新一に安心させるように快斗は微笑む。 「まず、KIDの方は無事に終わったよ。中森警部が来ていたのにはびっくりしたけどね………。北海道まで来るなんて、ちょっと申し訳なかったかな。でも、海外よりは増しか。そして、マジックも大成功。ちゃんと観客の皆さんに満足してもらったよ」 「だったら、いいんだけど」 安堵の吐息を新一は付く。しかし、快斗はさらっと聞き逃せないことを言う。 「本当なら明日の便で帰ってくるはずだったんだけど、ショーが終わった時点で急いで飛行場に向かってチケット取って帰ってきた」 「ショーが終わった後って、付き合いとかあるんじゃないのか?」 「親睦会っていうか、パーティっていうかあるけど………。そんなことより新一に逢いたかったんだよね」 「そんなことって!」 「俺にとってはそんなこと。付き合いじゃなくて、実力で誰にも何も言われないマジシャンになるから。新一は気にする必用はない」 「快斗………」 「それより、大分疲れてるだろ?連日現場に行ってたの?顔色が悪い」 快斗は唇を噛みしめる新一の頬にそっと指を伸ばす。 「これでも、寝てるんだけど。だって快斗の時計だってあるし、俺の部屋は快斗のもので溢れてる」 新一の部屋には快斗のものがたくさん置いてある。 彼から贈られたというか、渡された衣類、コートや上着、マフラー、手袋、ハンカチ。ある時快斗がしていてすごく似合っていたので、ちょっと我が儘をいってもらったサングラス。新一の好きな推理小説の本。部屋の彩りに植木鉢。 しかし、新一が一番その存在を感じるのは彼の匂いだ。 一緒に眠るからなのか、快斗専用の枕が置いてあるからなのか、彼の香りと存在がある。 「………そうだね。俺がいるみたいだった?」 快斗はくすりと微笑む。例え傍にいなくても、新一は絶えず自分の存在を感じていてくれる。そして、安心していてくれるのだ。しかし、新一はもっと快斗を喜ばせることを言った。 「でも、やっぱり、本物がいいな」 新一は快斗に手を伸ばしてぎゅっと抱きついた。 肩口に顔を埋めて、快斗の匂いを胸に吸い込む。 とても、とても安心する。 快斗の心臓の音が聞こえる。 新一は目を閉じてその感触と存在を確かめる。 「………本物の感触はどう?」 耳元で囁くように聞く快斗に新一は顔を上げて、鮮やかに笑ってみせる。 「すっごく安心する。このまま眠りたいくらい」 「このままはちょっとね。ご飯食べてからにしよう?お腹空いたでしょ?」 「そうだった」 今気付いたかのように、新一は自分のお腹を押さえた。それに快斗は苦笑すると、新一の髪に指を絡めながら優しく撫でる。 「暖かいご飯作ってあげるから、それを食べてシャワー浴びて身体を休めてから寝ようよ」 「うん」 だったらいい、と新一は頷いた。 すぐにでも、この気持ちいい感触と存在に身を委ねて眠ってしまいたい欲求にかられるが、快斗が作るご飯と彼との食事の時間も楽しいから新一は承諾したのだ。 「ご飯作るのにちょっと時間かかるから、その間にお風呂に入ってきてもいいよ?」 「………そうする」 新一は快斗の言う通り、身体を暖めてくることにする。きっとお風呂から上がれば快斗のご飯と彼の笑顔が待っている。 新一はその至福の時間を思うと、自然と顔がほころぶ。 「今日も、一緒に寝よう?」 新一にとっては幸せな時間であり、快斗にとっては幸せと忍耐力の境目のようなお誘いを、彼は至極満面の笑みで告げた。 しかし、その誘惑を快斗が断ることは、決してない。 |