寒い日が続いている。今年はじめの雪が1週間前に降った時は東都が雪一色に染まった。一面の銀世界だったが、すぐに溶けた。都心は雪が少しでも降ると交通機関が麻痺するため、さっさと溶けてよかったのだろう。 新一は学校にレポートを出してきた帰りだ。すでに受験生は自由登校になっている。すでに推薦を受けている者もいたし、もうすぐセンター試験だ。それが終われば私立の受験が始まる。 志保から外へ出かける時は暖かくしなさいと言われているため、暖かいコートにマフラーで防寒している。手をコートのポケットに入れているため、手袋はしていない。とはいってもちゃんと持ってきてはいる。手を突っ込んだ奥に手袋もある。 志保が心配するといけないから、早く帰らないといけない。少しだけ風邪気味なのだ。風邪一つ命取りと言われてるから、安静にしていなくてはならない。だが、今日はどうしても学校まで行って担任と会わねばならなかったのだ。これでも一応受験生だから仕方ない。 早足に歩いていると新一の横で車が止まった。 新一が不審に思い……経験から車が横付けされていいことなど一つもない……ふと訝しげに視線をやるとドアが開き男が出てきた。 「すみません、道を聞きたいんですが」 三十代半ばくらいの背広の男だ。眼鏡をかけ癖毛をなでつけている。雰囲気は、いたってどこにでもいる仕事中のサラリーマンだ。だが、穏やかに見える目が奥でぎらりと輝き裏切っていた。新一は用心して、一歩距離を取る。 男は地図らしいメモを持っていてそれを広げて新一に聞いた。 「ここに行きたいんです」 地図を示す指先に新一が目を向けた瞬間男は隠してあった背中から拳銃を取り出し新一に突き付けた。低い位置に当てられた拳銃に地図を広げているいるため、誰も気がつかない。 「なんでしょう?」 新一は平静を装って問いかけた。 「動くな。おまえが見えなくても強いのは知っている。反撃したら、そこの子供を撃つ」 近くを歩いている子供を顎で示し、男は真剣な声音で脅す。 本当に子供を撃つのか、ただの脅しか新一は判断ができない。男を蹴り上げて拳銃を奪うこともできないことはない、と思うが危ない橋を渡るのは得策ではない。 「このまま一緒に車に乗れ。少しでもあやしい真似したら、歩いている子供でも老人でも撃つ。脅しじゃねえ」 男は自分の体で拳銃を隠し突きつけたまま新一を車の後部座席へと乗るように誘導する。新一はされるがままに、乗る。男は新一を押し込むように自分も一緒に乗り、新一の口元をハンカチで覆う。薬品が染み込ませてあるのか匂いがかすめる。新一はここで息を止め吸わないようにし意識を失った演技をしようかと思ったが、それで男が騙されてくれるか自信がない上、誰かが撃たれる可能性がある。仕方なく多少調節して薬品を吸い込み、意識を手放した。 車の後部座席でゆられている新一はうっすらと目を覚ます。意識は完全ではないが、手が前で縛られているとわかる。今のうちに携帯で知らせるべきだろう。新一は携帯に仕込んであるSOSのボタンを押す。 これは博士が新一を心配して開発したものだ。 志保も何かあったら報せなさいと、怖い顔で命令した。さすがに約束を守らないと泣かせることになる。 ボタンを押して新一は再び意識を失った。 志保はすぐにKIDに連絡を取った。新一の携帯からSOSがきている。これは滅多にないことだ。何かあったら押すようにと言っているが未だ押された過去はなかったのだ。 基本的に事件遭遇体質で、厄介ごとに巻き込まれる新一である。探偵をしているのはある意味、その体質を生かした天職だろう。だが、危険は隣り合わせだ。それなのに、自力で出来ると踏んでいるのか、迷惑をかけたくないのか、頼ることをしない。 今回は、SOSを押したということは、かなり危ないのだろう。事件に呼ばれて警察が周りにいるのなら絶対に押す訳がない。限りなく単独だろう。 志保は博士と相談して、KIDの携帯にメールを入れた。 実はKIDの携帯の番号を志保は知っていた。何かあった時のためにとKIDが教えていたのだ。 新一の携帯にKID特製の発信器が付いていることも志保は知っている。以前そんなものがあると知ったのだが、新一の姿に戻りそれが復活したことも知っていた。 もしものために、使えるものがどれだけあるかが大事である。すぐにKIDから連絡が入る。志保は新一からのSOSがあったことを告げる。すると向こうもすぐに動くと返事があって切れた。何かあったら連絡しあうこと。新一の身の安全が一番の優先でるあこと。お互いに優先されるべきことが同じであるため、協力しない訳がない。 志保は博士と新一の携帯のGPSをたどる。いい加減学ぶのだ。以前はコナンの姿の時は哀も一緒に浚われたことがある。そうでなくとも事件に遭遇し危機に陥る確率がありすぎる。携帯にいろいろ細工してあるのは当然の結果だ。 現在の位置を確認して、移動中ではあるが、志保と博士は一緒に車で追うことにした。博士が運転している横で、志保がPCで移動していく位置を確認して。 KIDが志保からメールを受け取ったのは自室だった。KID用のメールアドレスを知っている者は数人しかいないため、すぐに確認すると新一が危機にあると書いてあった。即刻電話した。 新一が持ってる携帯からSOSが送られてきたという。彼がSOSを押すほどの危機とは何だろう。いつも一人でどうにかしようとして、どうにかしてしまう人だ。 それなのに、それを押して知らせる。つまり一人だけの可能性が高い。それとも人質がいるとか。どちらにしても、単身でどうにかならないと思ったのか、前回の志保の説教が聞いているのか。だが、言わなくてもいいと判断したら新一は絶対に言わない。 その重要性に、KIDは危機感を強める。 KIDは小型のPCを出して、新一が持ってくれている携帯に下げたストラップの発信器の現在位置を調べる。点滅している場所は移動中だ。速度的に車だろうか。 KIDは着替え、簡単に装備してバイクで発信器を追う。 どこだろう、ここは。 新一が目覚めたのはどこかの一室だった。動かない身体のせいで、視線だけをめぐらせて室内を観察しようとすると、男がいた。そして、新一をじっと見ている。 「気が付いたのか?」 「……ええ」 そう答えながらそっと部屋を観察する。どこかわからない。時計もない。小さな窓があるが、まだ一応明るいことから夕方よりは前だとわかる。 自分の身体も自由には動かせない。薬がまだ効いている。だるさとしびれを感じる。 さて、どうしたものか。新一は冷静に考える。今後の対応は男の目的で変わってくるし。 男は無言でじっと新一を見る。その視線はなんとも言えないものだ。 自分は事件に関わっている限り、恨まれることなどざらだ。直接関わった人間、その近親者、知人。警察に恨みがある場合の当て馬。組織を滅亡させたことから不利益を被った人間。有名人である父親の妬み。それ以外でも理由ならどれだけでもある。 男の瞳に浮かぶのは恨みであるようでいて、憎しみと後悔が混じり合ったものだ。 「それで、なにかご用ですか?」 新一は相手の真意を探ることにした。 「……工藤新一は銃で脅されて浚われても動揺もしないのか?」 「そうでもないんですが、初めてではないので」 事実である。困ったことに小さな頃から誘拐されたのは一度や二度ではない。 「ほう。なるほど。その度に帰還してきたのか。今度はどうかな?」 どうだろう。いつも死ぬつもりはないけれど、絶対などないことを知っている。志保と約束しているから、生きて帰りたいけど。 「……俺には妹がいた。俺に似ていなくて美人だった。気だてもよくて、料理も上手くて、自慢の妹だった。結婚も決まって幸せの絶頂期だった。俺も嬉しかった。早くに両親がなくなっていたから、妹の幸せそうな顔は俺の大切なものだった。おまえには兄弟がいないからこんな気持ちはわからないだろうな」 「……兄弟はいませんから、わかるとは言えませんが。でも兄弟同然で育った幼なじみはいます。彼女が幸せになってくれたらと思います」 大事な幼なじみ。自分は隣にはいられないけれど、どうか泣かないで笑っていてほしいと思う。 「ふん、でも俺の妹の奈美の方が美人で可愛い」 なにを刺激されたのか、男が自慢げに反論する。新一は心中でこういうのをシスコンというのだと思った。蘭だって美人で料理も上手だから決して自慢の妹に負けはしないが、まさか言い返すこともできない。過去形で話していることから、彼の行動原理に結びついている。 「そうですか」 新一は話をあわせ相づちをうつ。 男はふんと鼻を鳴らしてから、ふと表情を堅くした。 「だが、あと一ヶ月で挙式だという時に、妹は襲われた。強姦されたんだ。命に別状はなかったが、精神は殺されたも同然で、妹は絶望して死んだ。結婚間近だったから余計に辛かったんだろう。強姦されても被害者は名乗りでないことが多いっていうのをあの時本当にわかった。誰に言えるっていうんだ。婚約者にだって言えやしない。俺は家族だから知ったんだ」 男は唇を噛みしめ、ぎゅうと握った拳をふるわせた。 「俺は犯人が許せなかった。絶対に探して復讐してやるって決めていた。実はニュースにはなっていなかっただけで、何人もの女性を強姦していた犯罪者がいたんだ。それを聞いてどれだけ悔やんだか。あの時、夜遅く帰ってくる奈美を駅まで迎えに行けばよかった!そして、犯人は俺がどうこうする前に捕まった。今まで犯罪を防げなかった警察が、一人の一般人の協力によって。それが工藤新一。おまえだ。もう少し早く動いてくれていたら、奈美は助かったのに。警察が無能だから、被害者が次々と出たんだ。工藤新一がもう少し早く動いてくれたらって思ったさ。警察じゃないから捜査権がないのもわかっているけど。でも犯人が捕まった。一応感謝した。だが、あの男は最低のことをしておいて、罪は軽かった。殺人じゃないから。死刑にも無期懲役にもならない。殺人と変わらないことをしておいて、日本の法律はあいつを見逃す」 男は新一を厳しい目で睨んだ。 「こんなことなら俺が殺しておくんだった。なんとしても先に見つけて奈美の敵を討ってやればよかった。それなのに、今やつは塀の中だ。手も出せない」 「……」 「なんて理不尽なんだろう。神様は酷いな。俺の妹の命は奪って、やつの命は安全なんて」 くつくつと男は暗く嗤う。 復讐なんて妹さんは望んでいないとか、復讐なんてしてどうする?とか諭しても、男が納得するとは思えなかった。正論だけですべてが回るなら、犯罪なんてないだろう。道徳だけで生きていけるなら、殺人だってないだろう。 真実を明らかに、謎を解いて。事件を解決してきた新一だが、正義を振りかざす趣味はない。 それに幼児化した経験が以前は探偵という存在であれればよかった稚拙さが、傲慢であったとわかった。 真実が正しいとは言えない。 それでも、目の前の男を肯定することはできないけれど。 「なあ」 男は新一の頬に手を伸ばす。 「正しい探偵さんは、人を殺したいなんて思ったことはないだろう?」 愉しそうに目をゆがませて男は問う。最初から是の返事など期待もしない調子で。 「……人を殺したいと、殺意を抱いたことはありませんが、人を許せないと思ったこともあります。直接手にかけなくても、罪をおかしたこともありますし」 犯罪者を自殺に追い込んでも、罪だろう。自分が真実を明らかにして人が死ぬのなら、それは殺人と変わらない。 新一がまっすぐに男を見ながら告白すると、男は目を瞬く。 「俺の気持ちがわかるというのか?」 「いいえ」 新一は首を振る。 それだけは、わからない。人の命は儚いものだ。一度命を失ったら、戻ってこない。 自分の命でさえ、いつ潰えるかわからないのに。 「一つお聞きしますが、お名前は?」 「は?」 「私の名前はご存じのようですが、私はあなたとしか呼べません」 「俺が言うと思うのか?」 「さあ。イヤなら別にかまいません」 「あんた、変なヤツだな」 「……時々言われます」 新一の憮然とした物言いに、男は吹き出す。 「俺は、奈美の敵だけ討てればいいんだ。あいつを殺せればいいんだ。捕まる前なら、文句とか、殴るとか出来たけど、もう無理だ。あいつが刑務所から出てくる時に俺が絶対に生きているなんて誰も保証できないだろ?なあ、工藤新一。おまえを取引にしたら、やつに会うことはできると思うか?」 「無理でしょう」 どう考えても無理だろう。たかが高校生一人の命では。 それで自分を見殺しにしたら日本警察は困るかもしれないが。 だが、かといって刑務所から受刑者を連れて来るのも、不可能だろう。 「名探偵の命なのに?」 「あなたがどう思っているのか知りませんが、私はただの高校生ですよ。確かに警察に協力していることもありますが、私は一般人です」 新一の身分は表向きも裏向きも高校生である。高校生の傍ら探偵をしていても、犯罪組織を滅亡させようとも、それに変わりはない。 「おまえが、ただの高校生?なら警察はどうなんだ?無能の集まりだろう?」 日本は他国に比べれば安全で、日本警察は優秀である。 その神話も多少崩れてきたが、それでも夜道一人で歩けるくらい安全だ。一般人が一番身近な交番の警察官も親切だ。 「警察に勤めるすべての人間が優秀で罪も犯さない潔白な人間だとはいいません。実際捕まる人も絶えない。でも、まじめに事件に取り組み地道に捜査している人もいるんです。だから、無能だと一言で片づけないで下さい」 警察官に限らず、公務員でもそうだ。税金で雇われているとはいっても、別に高額の給料をもらっている訳でも仕事が楽である訳でもない。表に出てくる高級官僚や警察の幹部は極一部だ。どこでも、下で支える多くの人の手があって成り立っているのだから。 「警察官もかばうなんて、お優しいな」 男が皮肉を込める。 「かばっているつもりはありません。事実です」 新一が言い切ると、男は目を吊り上げる。 「それでも、優秀なら犯人をもっと早く捕まえることができただろ?努力だけ認めても、犯罪は減らないだろ?被害者は泣くしかない!」 男の激しい訴えに新一は返す言葉を持たない。 被害者からすれば当然の意見だからだ。警察は事件が起こってからでないと動けない。未然に防ぐには限界がある。 誰かを憎まないと精神が持たない。そういう人を何度も見てきた。正論で正す必要がない場合もある。 新一は思う。この男を説得する必要性。男がしていることは自分を浚ってきただけだ。男は何がしたいのか。目的は何だろう。 それでも、新一はすぐに問わなかったのは時間稼ぎだ。志保にSOSを出してからどれだけ経過しているか。確かめられないが、それでも最速で助けが入るだろう。 これ以上、男に罪をおかして欲しくない。 「なあ、なんとか言えよ」 だが、男は新一の肩を揺さぶって答えを則す。 「返事もないのか?」 新一は困ったように苦笑を浮かべ首を振る。新一がなにを言っても男の慰めにはならないのだ。 「あんたみたいな名探偵から見れば俺は馬鹿に感じるだろうが、それでも奈美は俺のすべてだったんだ!」 男は悲鳴のように叫び新一を乱暴に床に押しつける。反動で息を詰まらせた新一は、「違う」と囁くように言うのがやっとだった。 「奈美さえいれば、奈美が幸せになってくれれば、それだけでよかったのに!」 男は沸き上がってくる激情のまま馬乗りになり新一の細い首を絞めた。 「……!」 上に乗られた圧迫感と首をぎゅうと絞められ息が苦しい。心臓がばくばくと激しく音を立てる。 抵抗したくても、まだ身体は動かない。手も縛られている。 このまま、死ぬのか。 ああ、志保が泣くな。困った。 思い浮かぶのはそんなことだ。自分のせいで泣かせるのは忍びない。 ついでに、白い鳥もいたな。あの男も泣くだろうか。前回の時はかなり心配させた。 新一は生理的に浮かぶ涙越しに自分の首を絞める男を見上げる。自分を殺したら殺人だ。犯罪を増やしたくなかったのに残念だ。 そんな今にも死にそうな人間とは思えないことを考えていると、ふっと息が自由になる。男が首から手を離したのだ。 「……っ、げほ、っ……」 新一は苦しくて咳き込む。急に入ってくる空気。心臓が激しくうつ。全身に熱い血液が回る。 「……ふ、なん、で」 荒い息の中新一は男に問う。 なぜやめたのか。 「なんで、首絞められて死にそうなのに、あんな目で見るんだ?」 「……」 あんな目とは何だろう。新一は視線で男に聞く。 「俺が憎くないのか?殺そうとした男だぞ?それなのに、なんで心配そうに見るんだよ?」 男が泣きそうに続けた。 「同情か?哀れみか?」 「……ち、がう」 新一はそれだけ答える。まだ息も鼓動も整わない。だるい身体は、めまいを起こしそうだ。 「馬鹿な男の八つ当たりを受けて、なんで自分がって思うだろ?」 「ちが、う……!」 男がどんどんと自分を追いつめていく。新一は止めたくても言葉さえ自由にならなくて歯がゆい。 「違わない!俺もあいつと同じ犯罪者だ。人を浚って、殺そうとして。強姦と、殺人とどっちもどっちだ」 男は手を力の限り握り締めた。爪で皮膚が傷ついたのか血が一筋流れる。 「あんな卑劣な男と同列なんだ……!俺は……っ、俺も……」 男の瞳が絶望に染まる。 憎む犯罪者と同じだと、目の前の男は認められない。認めたら精神が崩壊する。その危惧を新一はどう声をかけたらいいかと迷う。自由にならない身体と声が情けない。 「……ころして、ない。あなたは、ころせなか……た。良心が、あった、から。だから」「でも、犯罪は犯罪だろ?」 新一の言葉に男が即答する。 正論だった。犯罪は犯罪。新一もそう思う。 「だから、やめ、て。そう思う、なら」 犯罪は、なにも生まないから。ここで止めれば男はそれほど罪にとわれない。 「罪の痕が残っているのに?」 新一の首もとを男の指がなぞる。白い肌にくっきりと指の形が赤く付いた絞めた痕。 「そんな、の、きえる!」 罪の痕など幻想だ。罪の意識が見せるだけだ。 「奈美は、俺を許してくれないな。奈美は、どんな気持ちだったんだろう?」 男は虚ろな目で新一を見下ろした。新一の言葉が通じていない。 「男に無理矢理、襲われて。こうして自由を奪われて、好きでもない男に身体を蹂躙される」 言葉を続けながら男は新一の縛られている両手を掴み頭上に押しつけ、制服の三つしかないボタンを外す。 「奈美は嫌がった。抵抗しようとしたのをあいつは殴った。そして、服を引き裂いた」 男は妹がされた行為を実行に移すように、新一のシャツを無理矢理引き裂く。イヤな音を立ててボタンがはじき飛ぶ。 元々コートの前は留めていなかったせいで、男は楽に新一の肌を晒す。首にゆるく巻いてあったマフラーもいつの間にか床に落ちている。 病的に白い肌と華奢ともいえる細い身体。乱れて広がる黒い髪。透明な蒼い瞳が男を驚いたように見つめる。 「そして、身体をいやらしく手で撫でまわし舌で嘗めた」 男は覆い被さり新一の身体をゆるりと撫でる。首にある赤い絞めた痕が妙に欲望を煽り、男は首筋に吸い付いた。 「……っ」 新一は悲鳴を飲み込む。抵抗しようにも、全く体の自由はきかない。 男がますます手の動きを早めて、身体をまさぐる。イヤだ。いくらなんでも、このまま抵抗もできないなんて。だが、男の手が下肢にかかった時、さすがに新一は入るだけの力を入れて足で蹴ろうとした。 「はな、せ!」 男は新一の蹴りを易々と受け止める。新一の拙い抵抗が余計に男を煽ったで、目が暗く光る。 「やめ……ろ!」 男は喉の奥で嗤う。 「そうだ。奈美もそうして、やめてと叫んだんだ。誰も助けてくれなかったけど」 新一を見ているようで、見ていない。男は誰と対話しているのだろう。 「そして、あいつは奈美を犯した」 男の本気を悟り、新一は絶体絶命だと自覚した。 |