今日は目暮警部から呼び出しがあり、事件現場に行っていた。 どうにか謎を解き、犯人を割り出せた。暗号めいたものが現場に置いてあったため、至急と言われ向かった。 すでに、夜だ。 銀色に輝く三日月の夜。その月光が作るあらゆる影は神秘的に見える。静かだからよけいにそう思うのだろう。 新一は月を見上げてある人物を思いだした。夜空を飛ぶ白い鳥。 ああ。今日はKIDの予告日だっけ。 KIDの鳩が持ってきた予告状を読み解いたが、答え合わせをKIDとしていない。実は、先日も新一は事件の要請があって家にいなかった。だから、会えていないのだ。 うーん。 県境の現場は車でないと困る田舎だった。どうにか事件を解決して東都まで戻ってきたが、今は夜十時だ。最寄りの電車の駅まで車で送ってもらい、先ほど米花駅に降り立った。帰り道、そろそろ夜は冷え込んでくる。11月だから仕方ない。 あれ?白い鳥だ。 遠くに夜空を飛ぶ白い鳥を発見する。パトカーの音も聞こえてくる。中森警部と追いかけっこをしているようだ。あれは本物に見えるけれど、ダミーは飛ばしているのだろうか。 それともある程度引きつけて、ダミーを出してその隙に別方向へ逃げるんだろうか。風向きはどうだろう。冷え込んできたが、今日はあまり風力はない。 それにしても、今日も易々とビックジュエルを盗み終えたらしい。こんな姿を見るのは久しぶりだ。 なんだか感慨深い。 地上から見上げると、まさしくKIDは月に愛された魔術師だ。 あんな風に飛べたら気持ちいいものだろうか。そろそろKIDでも寒くなったりするのだろうか。あの衣装は薄そうだけど、素材が暖かいのかもしれない。夏用、冬用、合用があるのかもしれない。そうでないと、難しいな。だって、夏はすごく暑い。汗が滴ったら、マジックも難しいし、汗が現場に落ちたら証拠にもなる。冬は寒くて手が悴んだから、やはりマジックは難しいだろう。風邪を引いても困る。花粉症になんてなったら、大変だ。KIDがマスクなんてしていたら、人相的にどうなんだろう。ちょっと変質者っぽいかもしれない。シルクハットに片眼鏡。それにマスク!想像すると笑える。 それとも、寒い時はスーツの下に暖かい下着を身につけているかもしれない。だって、夜空を飛ぶのだ。とんでもなく冷えている。 でも、あれにいろいろマジックのタネを仕込んでいるんだから、やはり便利グッズもいっぱいあるだろう。よく膨らまないものだ。 新一は探偵らしく、つい考える。 謎は謎のままにしておいて欲しいとKIDが思っていようと、不思議に思ったことは考えずにはいられないのが探偵の性だ。 うーん。 今度やってきたら、暖かい飲み物はごちそうすることにしよう。きっと寒いだろう。平気な顔をしていても、実は寒いに違いない。怪盗だからやせ我慢して堪えているのだろうし。うん、そうしよう。 新一は決めた。 そんな新一の感情が働いたとKIDは知らずに、今後飲み物をご馳走になる。 健康診断である。 今日も新一は隣の阿笠邸、志保の前に座っていた。すでにあらかた診断は終えて今はお茶の時間だ。 湯気を立ててる珈琲と茶請けのクッキー。 診断結果が良好であるからお茶もより美味しく感じる。欲を言えばブラックがよかったのだが、ミルクが入って濁っているの難点だが、志保が用意してくれたのだから仕方ない。 「そういえば、とうとうわからなかったな」 新一は珈琲を飲みクッキーを一つ食べてから、ふと思い出したように呟いた。 「なにが?」 志保はいきなりなにを言い出すのだろうと身構えた。こういう時の勘はは当たるのだ。新一は、常々疑問に思うと言い出すと十割の確率で、精神的に攻撃を受ける。こんな切り出しも、嫌な予感がひしひしとする。、 「組織のこと。あれって変装だったのかな?」 「……さあ」 やっぱりだ。この話題はアレだ。止めることが出来ないが、アレだ。 あの見るからにあやしい人相で入国出国をどうしたのか。パスポートはどうなのか。疑問に思った新一は考えた。あれは、実はいつもの姿が変装なのだと。ジンの長髪はカツラで、それを取って七三分けにし銀縁眼鏡のサラリーマンに早変わりできるのだ。その上、ジンの趣味を想像して、ついに志保の脳の方が汚染されそうだった。 「本当にな、自分で確かめることできなかったから。今でも心残りだ」 まだAPTX4869の資料がそろっていなくて、子供の姿であった時に組織と最終戦に突入したため、二人は総攻撃に参加できていない。出来ることなら何でもするが、さすがに子供の姿ではハンデがあり過ぎる。足手まといだ。だから、外で通信しながらフォローしていた。中でどんなやりとりがあったのか、詳しいことは話に聞く以外なかった。 つまり、直接疑問を聞くことは出来なかったのだ。 志保としては問題解決など望んでいないが、新一にしてみれば、疑問を放置しておけないのだろう。困ったことだ。 「俺、いろいろ思ってさ」 志保はぐっと緊張した。彼がこう言い出したら要注意だ。探偵とはふつうの人間の考えの上どころか宇宙の彼方をゆく。 「俺が知っている組織の人間は数が知れているけれど。なんというか、変だなーと思ったんだ。違和感というか、ジンやウォッカ、ベルモット、ピスコ、キール。それと、直接あってないけどキャンティにコルン。すばらしい狙撃の腕前らしいと作戦を立てるときに赤井さんから聞いていたし、志保も内部にいる時、ある程度のコードネームと人柄について聞いたことはあるだろ?」 「あるわね。噂なんて興味なかったけど、自分に関わっている人間については、知っているわ。内部について、べらべら話すのは危険で恐怖がつきまとったけど、総攻撃をかけるのに情報は必要だから出来るだけ話したわね。赤井さんも」 「そう。で、俺が何度か対峙した時に感じた違和感?もっと組織なら効率的であるべきなのにな?って思うことがあった訳だ。組織が残虐で、冷酷だというのはこの際棚に置いておいて」 それは置いていいものなのかと志保は思ったがぐっと我慢した。 「変装の話もしたけどさ、なんであんな黒い服着ているんだろう?目立つこと甚だしい格好で町中を歩くのは隠密行動に向かない。見るからにあやしい人相だと目撃証言があるだろうし。まあ、あんまりあやしくて目を合わせないように通り過ぎることも十分に考えられる。でも、ふつうならもっと町中、人混みに紛れるのが一番適切だと思う。殺人をするなら特に。で、格好も変だが性格とか行動が変だな」 「行動が変?性格って言われても、個人差があるものでしょ?」 「組織で個人差がどれだけ認められる?それが失敗につながるかもしれないのに。で、組織に属する人間の特色は、残忍で、冷酷?人を殺すことをなんとも思わない、人の心を失ったヤツらか?」 「……そうね。組織にとって不必要だと思ったら簡単に始末されるもの。そうやってどれだけの人が亡くなったことか」 志保の顔が曇る。 自分の姉をそうやって亡くした。両親の死因もあやしい。自分も殺される予定だった。 「人を殺すことに抵抗があったら組織になんていられないわ。……え、つまり、なに?あなたが言いたいのは、個人差が認められているとうことは、残忍で冷酷だけではないということ?」 まさか、と志保は思った。 が、新一のいいたいこととは、そういうことだ。 「人間性が認められていなければ、個人差なんてあるもんか。なあ、ジンは煙草を吸うだろ?それにあの愛車?絶対に証拠を残してはいけないはずなのに、それは変だろう?本当にプロなら煙草なんて吸わない。車はどこにでもある目立たない車種で、改造して性能はいいものにするなら通る。服装も、あのロングコートや帽子にすんごい長髪だろ?髪の毛だって落ちていたら証拠になる。?それらを個人差で終わらせるなんて、犯罪組織として崩壊している。あれでジンが組織でトップクラスだというなら、明らかに意図がある。そう思わないか?」 「……意図?」 新一の疑問を聞けば、明らかにおかしいのだと理解できる。今まで自分が何気なく見過ごしてきたことが、色付けられるように整理されていく。 「ジンに限ったことではないが、他の人間も性格や趣味がおかしいと判断した。ウォッカはジンを慕っている?上司だと見ている?一応自分達のリーダーだと思っているだろう行動をしている。でも、ウォッカは『ジンの兄貴』『兄貴』と呼んでいるが、これは年齢のせいだろうか。それとも組織に入った順番からだろうか。もしそうなら、ここでは先輩後輩というものが存在することになる。中学高校の運動部のような、ヤツだな。……組織なのに?」 「……組織なのに、ね。どうしてかしら、どんどんおかしく感じるわ」 志保の価値観とは何だったのだろう。実は知らず植え付けられていたのだろうか。組織内は実は狭い。 「ベルモットも自由主義だったららしいし、あの人の性格もなー。女優やってる人間はああなるものなのかもしれないが。母さんも同じ属性だし。ピスコは志保の方が知っているだろ?で、狙撃手であるキャンティにコルン。話と映像といろいろ加味して、口が悪いのや無口なのは置いておいて、基本的に腕が良ければ性格は別にいいみたいだろ?ファッションも同じよううに。でも顔に刺青はいいのか?それは明らかに目立つよな?」 「……よりによって、顔はないわよね。ふつう」 志保も疲れる。頭の中がぐるぐる回る。 志保も映像は見ている。左目あたりに蝶のタトゥーがあるのだ。 「組織の自由度と言ってしまえば終わりだけど。それは犯罪組織として許せないことだと俺は思う。そんな自由にやりたい放題だったらとっくの昔に組織は内側から崩壊しているさ。そんなことなら、俺の方がもっとうまくやる」 新一は冗談めかして、ウインクする。 「……」 だが志保は笑えなかった。新一が本気なら、組織なんて手の上で転がしそうで怖い。 「で、それらをふまえて、俺は考えた!もしかしたら、あれは全部組織の指示なのかもしれないと!」 「え?」 「コードネームを与えられるくらいになると、組織から指示されるんだ。君はこういう人間を案じなさいと。話し方、ファッション、嗜好などこと細かく作れていて、それを演じ切らなければならない!組織で仕事中は、それにのっとって仕事をしなくてはならない。休日はやっと本来の自分に戻れるんだ。それを心待ちしているんだな!」 「……はあ?」 志保は呆れた声しか出せない。 「ジンは本当は可愛いものが大好きで、レースひらひらとか好きで、少女趣味。珈琲より断然紅茶派。午後のお茶の時間をこよなく愛する人間だとする。だが、組織から与えられた人物像は真逆だった。乱暴な口調で、手入れのされていない長髪、服装も地味で味気ない。嫌いな煙草も吸わないといけないし、与えられた車はごつい!最悪だ。でもどれだけ上手に演じられたかが査定に響く。だから、がんばるわけだ。そうでないと、休暇に響く。ウォッカも実はあんなんじゃなくて。ジンより先輩だとすると、仕事を離れると、ジンがウォッカ先輩と呼んで尽くしているかもしれない。本来は気障な口調で、サングラスを外すと美形だとか?それで、ジンにアドバイスしたり?がんばっているけど、もっと演技力に気を付けないとダメだな、とか言って?キャンティも刺青なんて付けられて、もうお嫁にいけない!とか泣いていたり?いや実はあれはシールみたいなのを付けているだけか?変装用に渡されたヤツか?本当は楚々とした美人なのに、乱暴な口調で粗雑な感じの人物を演じているだけとか?本来の姿に戻ったらもてもてとか?そうだ、年に一度査定の評価が発表されるならどうだろう?組織らしいよな。そこで今年のMVPが発表される。演技力賞だな!副賞は休暇と旅行。うん、大組織なら、これくらいするべきだな!」 新一大爆発である。大暴走である。 その想像力はとどまるところを知らない。宇宙の彼方銀河系を突き抜ける勢いがある。 志保は、すでに反応できなかった。 新一の言葉が頭の中をぐるっと回って、回って三回転半くらいしたところで、ようやく理解して、ほとほと困った。 自分はこれを認めていいのか? 反論しなければ、認めたも同然だが。でも、しかし?それでも、無理だろう? 「………………なんで、組織はそんなことをするの?必要性は?」 ようやく志保が言えたのは、大いなる疑問だった。根元だった。 「ああ、それはな。きっと、娯楽だ!」 新一は志保の肩をに手で掴み笑顔で叫んだ。 「……ご、らく」 「組織も、長くやっていると退屈なんだろう。閉鎖的だし。だから、娯楽が欲しくなるんだよ。面白いことに飢えるんだ。人間というのは、飽きっぽいからなあ」 志保の戸惑いなんて全く気にせず新一は続けた。 「だから幹部に娯楽を求めた訳だ。いい演技をすれば、待遇がよくなる!休暇も旅行も給料も!思いのままだ。だってふつうの仕事はできて当たり前なんだろ、あそこ」 「……」 確かに不必要となれば始末するくらいだ。仕事が出来て当然という風潮はある。 だが、しかし。 あれが与えられた人間像を演じていた結果なんて、信じたくない! ジンが実は少女趣味でそれを隠して冷酷な男を演じていたなんて、ウォッカも実は先輩と呼び慕っていたなんて!ジンが乙女ちっくなレースひらひらのテーブルにケーキとお茶を運び、そこにいるウォッカに、どうですか先輩?美味しいですか?と笑顔で聞いている姿が目に浮かぶ。ウォッカは、いいんじゃないか、ジンはかわいいなあとか言ってジンの頭を撫でる。頬を染めるジンとゆるりと笑う美形のウォッカ。 想像して、吐きそうになった。 志保はこのままだと脳が汚染されると思った。精神のテロだ。 やめて。 身体が気持ち悪さに、ぶるぶる震える。 「さすがに赤井さんには聞けなかったし。三年くらいいたんだろ?」 聞いたら、どうなんだろう。 赤井秀一は、工藤新一を認めている。彼の探偵としての能力、頭脳、情報処理能力、勘。すべてを認め尊重している。一種、理想だと思っているように感じる。 それが、こんな想像力を持っていると知ったら、幻滅するだろうか。それとも自分の手には負えないんだとやっぱり別格だと認識を新たにするのだろうか。 一度、切実に聞いてみたい。志保は心中で思う。 しかし、新一の想像からすれば、コードネームも同じカテゴリだろう。以前コードネームの謎に付いても語ったが、人物像の中にコードネームも入るだろうから、1セットだわ。 理解なんてしたくないが、新一がそう思っているとわかってしまう。つきあいの長さは伊達じゃない。 「志保?どうしたんだ、黙って」 「……いえ、別に。ちょっと考えていただけよ」 誰でも黙るわよと心の中で言い返しながら志保は流した。ここで返していけない。話が続いてしまうではないか! 「ならいいけど。組織は結構杜撰だからな」 「杜撰……。なんで?」 組織が杜撰なんて。でも、今までの想像の数々に比べれば、このくらい軽く感じるわ。 「俺は、仮にだけど黒の組織と呼んでいた。適当にな。元々その組織に付いて全く知らなかったから、仮にそう呼んだ。後でコードネームがあって、それが酒に関するものだと知ったし、規模が大きいことと、FBIやCIAが追っていることも知った。で、彼ら組織の面々は『組織』とか『あの方』と呼ぶんだ」 「それのどこが杜撰なの?」 「たとえば、FBIなら事務所(ビュウロー)と言う。自らFBIの人間なんて名乗ったら終わりだし、話の中で出す訳にはいかないから。隠語を使う訳だな。ほかにもフェデラル、フーヴァーなどの通称がある。日本警察だって、事件関係では隠語を使うし。CIAなら会社(ザ・カンパニー)やラングレーと呼ぶ。そういった言葉は他の人間がふつうに聞いても気にも止めない言葉だ。だから、会話の中でわからないように、使う訳だ。人があれ?と思ったら駄目なんだ」 「……確かに人の気を引いてしまったら、ダメね」 「だろう?なら、組織は?やつら、自分たちのことを『組織』って言っていたぞ。あの風貌で『組織』『あの方』で、コードネームの酒の名前で呼び合ったら変だって誰でも思うだろう?町のど真ん中で、誰に聞かれるかもしれないのに。互いをコードネームで呼び合う!どう考えても、変だろう?違和感ありまくりだろう?」 「……!」 いやだわ。すごく、いやだわ。馬鹿みたいだわ。 変だって思わなかった自分が恥ずかしいわ。 自分は、姉がいて、外で会う時に本名で呼ばれていたからあまり気にしていなかったけど、シェリーと外で呼ばれていたら憤死しそうだわ。 組織が、と普通の人混みの中で話しているジンやウォッカの姿を思い出して、殴ってやりたくなるわ。あなた達、それでも幹部なの?馬鹿じゃないの? でも、それは杜撰の一言で片づけていいの?ダメでしょう? ふつふつと沸いて出る怒りや腹立たしさは何だろう。組織なんてどうだっていいのに! 自分も組織と言っていること自体滅茶苦茶イヤだけど、それ以外呼びようがないし。 「俺なら、もっと会社の名前っぽいのにするか、誰もそんな犯罪組織だと思わない名前にするな」 「…………たとえば?」 志保は恐る恐る聞いた。ここまで来たら、怖いもの見たさかもしれない。 「そうだな。山田商事でも、東都総合会社でも何でもいいだろう。で、商事や会社と通称で呼んでもいい。なんならもっとファンシーな名前でもいいんじゃないか?エンジャルとかシエルとかミカエルとか。香水の名前とか花や精霊の名前とか。地名でもいいけど。日本なら、近場で米花?遠くなら旭川とか小樽とか。絶対に犯罪組織だとは思わないから。ついでに、服装ももうちょっと普通にする。季節感のある清潔感のある感じ」 彼なら組織の大改革をしただろう。 今更だけど。もう、そんなものないけれど。 「私だったら、そんな名前の組織に属していたくないわ」 「なら、余計にいいだろう?そんなものに属す必要はない。よほどの物好きしか入ろうなんて思わないさ」 素直に感想を述べた志保に新一はからりと笑った。志保はあっけにとられ、そして理解してから頷いた。 工藤新一なら警察関係の組織だろうと、犯罪組織だろうとまとめあげることができるだろう。彼に付いていきたいと思う人間は増えるばかりだ。その統率力、カリスマ、頭脳。どれを取っても天下一品。 志保は幾分冷めた珈琲を飲んで、息を長く吐く。そして、顔をあげて新一を真っ直ぐに見る。 「工藤くんなら、たくさんの物好きが付いて来そうよ。だから、不用意な言葉は言わない方がいいわ。これは忠告よ?」 「は?」 首を傾げる新一に志保が笑う。 「だから、犯罪者からも警察関係からも、諜報関係からも、果ては芸能界からも、もてもてだろうから、貞操は守るのよ?」 「……はあ?」 志保の言葉が理解できない新一が瞳を瞬き、不思議そうな顔をする。そんな表情はとても可愛い。 「いいわよ。私ができる限り守ってあげるから。まあ、相思相愛の場合はこの限りではないけどね」 今までの会話はさっぱりと流し、どこか空の見えない場所にでも棚上げて、志保は姉のような気分になって告げた。 「志保?」 「大丈夫。任せておいて」 志保は胸をたたいて、保証した。 まるっきりわかっていない新一は無視をする。説明しても理解できないのだから、仕方ない。 それは、とある日の午後のこと。 組織というものが、この地球上になくなって本当によかったと思った日だった。 |