「Colors」1ー7







「明日は、スポーツテストと身体測定・体力測定ね」
「うん。はい、配置一覧」
「それぞれ、回って済ませるんだもんねー。私、この学校で初めてあのやり方知って驚いたのよ。けど、いいよね、待ち時間がなくてさ」
「そうだよね。効率よく回るのって実は班長の腕だよね」
「はは、その通り」
 園子と蘭はテーブルの上に明日の配置一覧を見ていた。
 
 帝丹学園のスポーツテスト、身体測定・体力測定のやり方は少々変わっている。クラス単位または、それを男女で分けて受けるものに並ぶのが普通だが、ここでは班単位で行動する。班とはクラスで作る最小単位であるから、6人くらいになる。男女は混合だ。
 その班が自分たちで予定を組んで受けていく。開いている場所を先に済ませていけば時間ロスも少ない。
 校庭で行うスポーツテストでは、25メートル走、ハンドボール投げ、幅跳び、5分走などがある。体育館では半分で身体測定。身長、体重、胸囲、座高など計りその半分で体力測定がる。背筋力、握力、立位体前屈、垂直飛び、上体起こし、反復横飛びなどだ。
 どこから回るのが早いか計算しながら、人が並んでいない場所はすかさず済ませる。そのため、事務的に済ませていくのではなく自分から進んでやる気になるのだ。
 考えたものだ。
 トレーニングウェア姿で一覧表を持って一日回る。途中でお昼の休憩を挟むのだが、それも各版の自由で、余裕があるならゆっくりとしてもいい。
 ただ、女子生徒はお昼を食べる前に体重測定だけは済ませたいという願望を持っているため、班でも女子の力が強いと体重測定だけは好きな時にさせることになる。
 
「問題ないわね」
「平気だと思うよ。何かあった時のために、校医の先生には外にいてもらうもん」
「1年生は慣れていないけど、やっていくうちに慣れるだそうしね」
「そうそう」
 無事に行われるように、どこか穴がないか二人は確認をしていた。
 


 その横で新一とキッドが、各部から出されてきた入部届けをまとめていた。

「やっぱり、野球部少ないな。男子バスケットは思ったよりいい。……ああ、女子バスケットもいいな。大漁じゃねえか」
 部ごとに現時点で提出された入部届けまとめ、枚数を確認する。後でそれをパソコンに入力する。そうすると誰が部やクラブに入って、誰が入っていないか人目でわかる。クラス単位、男女差でも傾向がわかる。
「剣道、弓道、陸上も集まっていますね。上々です。女子のチアも今年は多いですね」
 キッドも流れるように作業しながら、新一に返す。
 彼らの前には入部届けの束があった。
 こんな時代でも、やはり本人がちゃんと届けを書いたという証拠をおいておくために、紙で管理するのだ。この入部届けは5年間保存されることになっている。その後はMDなどに保存される。
「……あ、これサインが読みにくい」
 きちんと読めないと、認定されないのだ。
 後で入部届けなど出していないと言われて問題になっても困る。
「はあ。これは返却。再度提出」
 仕方なく新一は認定されない入部届けを別により分ける。キッドもそれを見ながら、ため息を付く。
 大量に紙をめくるため、指から水分がぬけていくような気がする。
「キッド。ストップ。手を洗ってこい。指が悪くなるぞ」
 将来父親のようなマジシャンになりたいと思っているキッドにとって、指のコンディションはとても大事だ。新一は、キッドの見せてくれるマジックが大好きだ。彼以上に指が気になる。
「ほら。指に水分を付けて来い。指サック付けるとそれも指の形とか力加減に影響しそうで、俺がいやだ」
 ぶつぶつと新一は文句を言う。キッドは笑って、立ち上がりキッチンへと向かった。そこで、丁寧に手を洗う。そしてきちんと水分も取る。作業が終わったらクリームを塗るともっといいだろう。
「ありがとうございます。洗ってきましたよ」
 にこりと笑って報告するキッドに新一はふんと横を向いた。
「あとで、休憩するから。それまで、がんばれ」
「はい」
 新一の励ましにキッドは頷いた。
 
「……写真部、本当に部員が増えていますね」
 ふと、キッドが眉間にしわを刻みながらのたまった。
「へ?」
 新一がどうしたんだ?と伺うと、キッドはなんとも言えない表情で苦く笑うと、ぺらりと新一の前に入部届けの束を揺らした。
「これ、全部写真部です」
「まさか……。ほんとか?」
「本当です。現時点で今年は5人もいますよ。これからも増えるでしょうに」
 現在の写真部の構成は、3年生3人。2年生4人。合計7人だ。少ない人数でも写真が好きな人間ばかりで活動は活発だ。
「……」
 新一はどう返していいか迷った。園子が言っていた戯れ言が当たっている。
「新一の撮影規制をした方がいいかもしれませんね。向けられるカメラが多いのはイヤでしょ?」
 昔から人の視線を集めてきたせいで、多少のことには動じない。が、ない方が平和には違いない。
「……できるのか?」
「撮る人間の規制で大丈夫でしょ?一度に一人と決めればいい」
 目が笑っていないキッドは、かなり機嫌が下降していると新一にバレバレだった。
「まあ、今後の活動次第ですね」
「そうだな」
 新一はそういうしかなかった。
 新一の写真は、昨年入学してきてから何十枚と撮られ、全校に販売されている。それを覆ことは不可能だ。それに、ある程度写真を許した方がいいのだ。本人が拒否した場合個人情報保護法により販売できないが、反対に盗撮される危険性がある。
 人間隠されたものほど、興奮するものだ。燃えるものだ。
 そんな諸事情により、新一は撮影を許可し被写体となってきた。犯罪者が出ないように、新一に被害を及ぼさないように、今までキッドも園子も蘭もガードしてきた。
 

 新一はすっかり疲れたため、休憩にすることにした。
 自分たちの横で園子も蘭も忙しそうに仕事をしている。今日はなにをいれようかと悩みながらキッチンへと立った。
 
 
 






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