「Colors」1ー4







「こんにちは、写真部です!」

 元気よく四季会室へと入ってきたのは昨日噂になっていた写真部部長、新田明である。
「はい。どうぞ」
 ドアの近くにいた蘭が椅子に座るように進めた。
「どうも」
 と言いながら新田は椅子に腰を下ろして持ってきた鞄から写真を取り出してテーブルに並べる。並べられた写真は見たことがあるものばかりだ。
「昨年の売り上げ上位の写真です。まだ新入生はめぼしい人間がわからないので、これから探しますが、ひとまず売る予定の写真です。これを増産して新入生と昨年買えなかった人間に販売します」
 新田は三年生だが、四季会メンバーには学年関係なく敬意を払うのが帝丹学園の掟である。
「うん。そうね」
 テーブルに広げられた中から新一の写真を一枚を手にとって園子が笑った。
「これは、定番でいいわよね」
 笑顔が美しい逸品だ。新一の写真は多いが、中でも特筆して素晴らしい出来の写真がある。
「ありがとうございます。……一応、入学式に出席していた四季会メンバーは撮ったんです。これなんですけど」
 新田は数枚の写真を広げた写真の上に置いた。
 一番新しい写真である。数日前のものだ。壇上でお祝いの言葉を述べている園子。その脇に控えている新一、蘭、キッドの姿が映った写真だ。
 メンバー全員のもの、一人ずつのものがある。一人ずつの写真は何種類もある。通常はたくさんある中から売ってもよいものを選ぶのだ。今回はそれを売る写真に回すかどうか、彼も決めていない。行事ごとの写真を撮るのが彼の日課なのだ。売る目的で撮っているばかりではない。その証拠に、写真部には歴史の詰まった膨大なアルバムが存在する。
「……四季会メンバーの写真は、取りそろえてありますから今回加えなくてもいいかと思うんですが?」
 写真の出来は自分が一番よくわかっているものだ。新田は自分が撮った写真を眺めながら、はね除けることを己から提案した。
「そうねえ。新作を出すなら、絶対にいいものにして欲しいわ」
「うん、私もそう思う」
「ええ。定番でいいでしょう」
 園子、蘭、キッドはさっさと決断する。
 新一だけが、なんだかなと思いながら「いいんじゃないか」と小さく頷いた。
 基本として四季会メンバーは人気がある。蘭は女子生徒から絶大な人気があるため写真も売れる。キッドも端正な顔立ちと物腰が柔らかであることから人気が高い。園子はこの学園で実権を握っていると言われるくらいなのだ。やはり女帝の写真は売れる。噂では写真を密かに持ち歩くと御利益があると言われるくらいなのだ。主に厄払いと学園内の守護だ。
 全校で人気がある生徒は写真の数も多い。広げられている写真はもし学園で人気投票をしたら上位に食い込む人物ばかりだ。
 四月のはじめであるため、3年生と2年生のみの写真しかないが、そのうち1年生も増えていくだろう。
「四季会の新作は、皆をあっといわせるものがいいですね」
 新田はうっとりとした目で願いを口にする。
「考えておくわ。どうせなら、どどーんと派手にしてみたいもの。四季会の宣伝を兼ねて」
 園子が新田の願望を請け負った。
 またよからぬことを考えているのではないか、と新一は心中で思った。園子は時々突飛だ。
「園子さま。女帝さま。よろしくお願いします」
 新田は手をあわせて園子を大仰に拝んだ。
「任せておいて」
 胸を叩きほほほと高笑う園子は大層男前だった。
 
 
「新聞部です!」
 そこにドアを開けて顔を出したのは新聞部部長である長崎努である。
「少し取材をお願いします。入学式と交流会の抱負の記事を載せたいんです。今回は掲示板に張るやつですから簡易バージョンです!」
「いらっしゃい」
 蘭がすかさず笑顔で挨拶して、新田の反対側に案内する。長崎はばらまかれている写真を認めて、
「これ、使いたいなー」
 と本能のままのたまった。
「写真部〜。この四季会全員の貸して?新聞に載せるから!明日か明後日には掲示板に張っておくヤツなんだよ!」
「新聞部だって、写真撮っただろうに」
 新田が肩をすくめる。
「撮ったけど。もっとロングで新入生中心なんだって。抱負のとこで使いたいじゃねえか!さすが、写真部、美しい写真だねえ」
 羨ましい、と本気で誉めた。新聞部としての誇りは欠片も見あたらなかった。ある意味目的のためなら、自分の自尊心など軽いと思っているかもしれない。なんて素晴らしい部活魂だろう。
「新聞部の新しい部長も、癖があるなあ」
 しみじみと新一が呟く。隣でキッドも頷いている。
「まあ、いいんじゃない?そのくらい写真部として協力しても。借り作っておくのも大事よ?いつか使えるかもしれないじゃない。借りはいくつあっても困らないわ」
 四季会のくせに、生徒の手本となり得ないくらい悪賢い台詞で園子は助言する。
「さすが、女帝さま!」
 長崎も園子を拝んだ。
 アレだ。いかに園子の女帝っぷりが顕著であるか。生ぬるく見守っていた新一は吐息を付いて席を立つ。
「今日は、アールグレイにするから。その間に園子と蘭。新聞部へ抱負を語っておいてくれ。写真部、暫定的に販売する写真の枚数を報告!それで散らかっている写真は片づけろ。……茶はいれてやるから、飲んでいけ。キッドは手伝い」
「はい」
 キッドはすくりと立ち上がって新一に続いた。
「はいはい。了解」
「わかったわ!アールグレイ、ミルク欲しいわ。新一」
 園子は片手を上げて頷き、蘭は後ろ姿に希望を述べた。
「ありがとうございます。宮様。では、抱負をよろしく」
 長崎はお礼を言って、早速園子と蘭に向き直りメモ片手に質問を始める。
「かしこまりまして、宮様」
 新田は頭を垂れてから、写真の番号一覧に、枚数を記入していく。どの写真を何枚作るか。売るか。
 一枚百円で販売される写真の売り上げは、写真部に全額入る。その売上金でカメラやレンズを購入するのだ。高額の資材を買う部費が出ない代わりに、写真部として活動費を捻出しているのだ。だから、四季会も利益を認めている。
 
 仕事に勤しんでいると新一が紅茶の入ったカップを配っていく。香り高いアールグレイの匂いが部屋に立ちこめる。
「一区切り付いたら休憩な!」
 蘭には希望通りミルクを入れたものを渡しながら、新一は皆を見回した。
「「「「はーい」」」」
 いい子の返事をする四人に、新一は満足そうに微笑んだ。その笑みに、「ああシャッターチャンス」と新田が呟く。仕事病かもしれない。それとも、そのくらいの根性がないといい写真は撮れないものなのか。
 
 新一も腰を下ろして、キッドと紅茶を飲んだ。
 






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