「Colors」1ー3







 オリエンエーションは、体育館で午後から行われた。
 校長の短い話が終わると、四季会メンバーに引き継がれた。園子が代表でまず六月に行われる江古田学院との交流会について説明をした。

「江古田学院とはご近所であるせいか、長年付き合いがあります。六月に交流会と呼ばれるすでに伝統となった合同の行事です。これは、交流会とはいいますが、はっきり言って試合をする、つまり互いの高校の競争です。お互いの学校にある部やクラブで競いあえるものすべてが対象となります。この結果は来期の部費に当然影響します。これから、それぞれ部やクラブや同好会が紹介、勧誘を行いますがよく聞いて下さい。今日の放課後から見学と仮入部ができます。今は実感がわかないとは思いますが、交流会は大変盛り上がる行事です。各部やクラブは部員獲得に熱が入ります。あなた方はその熱烈な勧誘をこれから受けることになりますが、もし迷惑行為があった場合は投書箱が設置されていますので、そちらに記名して入れて下さい。友人が、名前を知っているクラスメイトが、激しい勧誘にあっている。学校内だけではない勧誘、明らかに違反であると思った場合は、即刻投書してください。本人も遠慮なく投書して下さい。投書箱は四季会室前、各学年のフロアーに、職員室前に置いてあります。それから、クラブ等に入らない生徒は、交流会当日は応援や報告などに協力してもらいますので、覚えておいて下さい。もちろん、競えないクラブもありますから、そこも協力をしてもらうことに決まっています。交流会は、全校で挑むものです」
 園子は淡々と説明をしていく。原稿は新一が数日前に作ってきたものだ。もちろん園子も手直しは入れている。
「今は、まだわからないでしょうし、たかが他校との交流会であると思うでしょう。が、はっきり、きっぱり侮ると痛い目を見ます。自分の役割を果たさない生徒はペナルティがあります。もう高校生ですから、自分の行動には責任を持って下さい」
 一転して、厳しい口調で園子は言う。
 帝丹学園は四季会を中心として行事に当たる。教師は最低限のことしか口は出さない。高校生となったからには、自分の責任において行動する能力を身につけて欲しいという創立者の考えがあるからだ。
 ペナルティは様々な種類がある。
 部やクラブとして、個人として罰則が決まっている。
 個人なら、簡単なもので一週間のトイレ掃除がある。段階的に規定があるが最終的には謹慎、停学。成績表にも生活面での減点が付く。
 部などの集団なら、1週間部活動の禁止、謹慎、ボランティア活動、最悪は廃部だ。
 それは生徒手帳にも書かれていることだ。よく読めば(入学式に読むように言ってあるが読んだ人間は少ないだろう)いかに帝丹学園が変わっているかわかるだろう。
「では、我が学園が誇る部やクラブ、同好会の紹介に移ります。まずは、クイズ部!」
 園子がトップバッターの部を呼んだ。そして舞台中央にあるマイクの場所を入れ替わる。クイズ部部長がマイクの前に立つのを見守って園子は袖に下がった。舞台袖には四季会メンバーと次の部の代表が待っている。
 
「クイズ部、部長の五十嵐です。我が部最大の目標は高校生クイズに出ることです!そのため日夜努力しています。傾向と対策を練り、昨年は都でも上位に食い込めました。次回は、都の代表になりたいと思っています!」
 クイズ部はいきなり目標を掲げた。新入生もあっけにとられている。
「雑学にも強くなります!歴史、化学、古典、経済、多岐に渡る知識が必要ですから、成績がよくなる可能性が高い!さりげない無駄知識は、異性にもてるかもしれません!いざ、クイズ部に!活動日は月曜日から水曜日、金曜日。場所は生物室です。見学大歓迎。今日は活動日ですから興味のある方、お待ちしております!多少男子の方が多いですが、女子部員もいますから女子も安心して下さい」
 短時間でアピールしていく話術は、さすがクイズ部だろう。
「ここで、問題を三つ。NATOの正式名称は?国際連合の常任理事国5カ国はどこ?明治政府が太陽暦を採用したのは明治何年?正解が知りたい方は、放課後生物室へ〜」
 最後はクイズを出して終わる手際は素晴らしい。
 引きとしては上々だろう。
「次は、女子チア部です」
 園子が袖からマイクで紹介する。
 それと同時に白いシャツに赤いミニスカートという華やかなチアガールの衣装を身にまとった生徒が数人出てきて実演を始めた。リズムカルに踊る女子生徒の姿に、新入生の目は舞台に釘付けである。
 
「まずまずよね〜」
 にたりと園子が口の端をつり上げる。新一、蘭、キッドも小さく笑う。
「ああ。この後、弓道で、その次は合唱だろ?」
「そうそう。合唱は校歌を速度を変えて歌うんだって。やる気だよね」
「その次が、卓球で、次が空手でしょう?で、華道。興味深くて目が離せないですよね」
 舞台の裾、幕が下がっている部分で四人が小さな声で会話する。
 ここからなら、新入生の反応もよく見える。退屈そうにしている人間は皆無だ。どこに入ろうか迷っている人間は楽しいだろうし、すでに入る部を決めている人間でも見ているだけで面白いだろう。
 
 帝丹学園の部、クラブ、同好会はとても多い。やりたい事があったら自分で作ってもいい。部員3人を集め、顧問を務めてくれる教師を捕まえられれば、同好会として認められるのだ。
 
「今年はどこが大漁だろうね〜」
 年毎に人気が集まる部は変わるものだ。昨年はサッカーと弓道と吹奏楽だった。その前は陸上、テニス、クイズ、囲碁だったらしい。
「部長の力量もあるし、最近の世情もあるだろうな」
「うちは、高校野球強くないから、野球部は毎年新入生確保大変だよね。成績だけなら陸上、弓道、演劇、剣道それから美術」
「それと、蘭さんの空手ですね。全国区ですから」
 蘭が上げていく優良な部にキッドが付け加えた。実績だけなら、全国区である蘭が在籍する空手が一番だろう。全国三位は伊達ではない。
 陸上部の中ではハードルと槍投げに全国大会に出場できる選手がいる。弓道も一人全国大会で上位に入賞できる人間がいた。演劇は都大会準優勝、美術部には二人ほど展覧会で入賞する腕前を持つ人間がいる。残念ながら一人は先ほど卒業してしまったが。
 剣道は、一人だけ猛者がいる。これが、本気で凄腕だ。全国でも屈指の剣術師であるのだが、残念ながら昨年全国大会の時怪我をして欠場した。怪我も子供をかばって交通事故に巻き込まれたというのだから美談である。
 部員数と成績で部費は決まるため、人数の割に部費をぶんどっているのは空手部である。とはいっても、使い道は遠征費に当てられるだけだ。
 弱小野球部は、部費で買わねばならないものが多すぎて、一つも無駄にできないボールをいつも暗くなるまで探している姿がもの悲しい。
 どの部も、交流会を最初の目標として励むが、次には夏の大会が待っている。
「うーん。今年は、クイズに結構人が流れる気がするな」
 新一は予想を立てた。最初に、どどーんと派手にアピールしたのは大きい。スピーチも上手かったし。部長の舌先三寸は見事だった。
「私はね、写真部。今年は増えるわよ」
 ほほほと高笑いながら、園子は面白そうに目を細める。それにぴんときたのは蘭とキッドだ。
「それは被写体のせいね?」
「あれですか、自分で撮りたいいう欲求ですか?写真部なら人気の品薄モノでもすべて逃すことがありません」
「その通り〜。大正解〜」
 二人の問いに園子は肯定してみせた。
「きっと、出回るわよ。新人が撮ったものはまだ使えるとは思えないけど、きっと部長が扱くだろうし。去年より倍増よ。検閲しっかりしないと!認可もあんまり出しちゃ駄目ね」
「そうですね。少ないのも問題ですが、多すぎてもいけません。少ないと手に入れるために激しい競争になりますし、多すぎると他校まで広がる危険性があります」
 キッドが険しい表情で園子に同意し力説した。
「需要と共有のバランスね」
 うんうんと蘭も頷く。
「……」
 新一には一切口出しできなかった。
 彼らが話題にしているのは、写真部が撮る写真のことだ。写真部は人気のある生徒の写真を売ることが許されている。ただ、四季会の検閲を受けなければならない。そこで認可されたものは四季会の名の元、販売できる。
 人気のある生徒、つまり学園一の美貌の持ち主である新一は正しく写真部の被写体一位だった。写真の売り上げも昨年度二位以下を大きく引き離し、堂々の一位だった。
 皆が心配しているのは、新一の写真のことだ。
「今期の部長新田さんでしょ。卒業した秋山さんから引き継いだ。あの人腕がいいもんね?私、あの人が撮った8番の写真が好き。新一君の美しさがうまい具合に映し出されているのよ」
「えー、私はね、15番!新一の笑顔がいいのよ、自然で。アップだし。ばっちりパスケース入れているわ」
「私は22番と23番です。連続して撮ったものなんですが、素晴らしい。憂い顔と笑顔なんです。まさにその瞬間を撮ったもの。永久保存しておきます。まあ、全部持っていますが……」
 口々にお気に入りを述べる三人に、新一の肩がひくひくとふるえる。
 彼らはここが舞台袖であることを忘れている。仕方がないと思いながら新一がマイクを取って次の部を呼ぶ。所詮、誰が呼んでもいいのだ。進行が滞りなく済めば。
「秋山さんもそれなりに上手だったけど、今一歩足りないのよね。次点なら、同学年の荒垣君でしょ!」
「荒垣君?って、あの青空と新一を撮った人?」
「そうそう。風景撮るのがうまいのよ。だからポートレートじゃなくて自然と一緒に撮ると抜群にいいの!」
「ああ。印象に残る写真を撮る人ですね?確か隣のクラスです」
 カメラマン談義に花が咲いている。
 写真部のカメラマンとのつきあいも長い。被写体となった人間はなにを撮ったか事前に知らされる。そして、一応本人の許可も取る。個人情報保護法のためだ。
 おかげで、昨年は頻繁に写真部部長と写真を撮ったカメラマンに会う機会があった。
「そういえば、明日来るよ?連絡が入っていた!」
 思い出した、と園子が手を叩いた。
「そっか。まだ新シリーズは早いから、新入生に売る分の確認かな?」
「そうでしょうね。新作はこれから撮るでしょう」
 この話題は、いつまで続くのか。新一はいろいろ思うことを放棄した。
 そして、彼らの話には加わらないことにして進行に意識を向けることにした。
 
 
 




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