「Colors」1−1







「絶対に、負けないわ!」


 園子は力いっぱい叫んだ。まるで天にいる神に宣言でもするかのような意気込みがみなぎっていた。
「……気持ちはわかるけど、最初からそんなに力んだら血管切れちゃうよ、園子」
 蘭は園子の肩に優しく手をおく。
「園子。座れって」
「そうですよ」
 新一とキッドも見かねて園子を諫めた。
「私のプライドが許さないのよ。去年は勝っているのよ?今年、私達の代で負けるなんて、絶対にイヤなの!」
 どん、と机を叩いて園子は迫力満点で訴えた。
 
 彼らは帝丹学園の四季会のメンバーだ。四季会とは他校の生徒会の機能を果たす機関で学園の行事などを取り仕切る。
 
 その帝丹学園と近隣の江古田学院は昔から交流がある。
 互いの高校合同で6月に交流会が行われる。交流会とはいっても、現実は競争するのである。スポーツ(野球、サッカー、バスケなど)、室内で行うこと(囲碁、将棋、カルタなど)と、互いの高校にあるクラブなら、何でも問わず競い合う。
 この時の勝敗が部費に跳ね返るため、それぞれ本気で取り組むのだ。
 学校として総合的な勝敗とは別にもう一つ生徒会同士の勝負もある。
 これは囲碁、将棋、ダーツ、チェス、オセロの5種目を繰り返して勝負する。今年はチェスの番だ。昨年は、ダーツだったが、帝丹が勝った。この時勝つと来期勝負する場所が自分の高校になるのだ。ホームかアウェイかは重要だ。
 なぜこんな5種目なのかと生徒が疑問に思っても、昔理事長同士が決めたらしいと噂に聞くばかりだ。続いてきた伝統をなくすこともできず、歴々と続いている。
 
「……わかった!その意気込みは買ったから!そのためには、決めることがたくさんあるだろ?」
「うん」
「お茶でもの飲んで、落ち着け」
 新一の提案に園子は頷いた。そして、力を抜き椅子の背もたれに身体を預ける。
「紅茶でいいよな?アッサムもらったんだ」
 新一はお茶をいれるため立ち上がり簡易キッチンへと向かう。手伝うよと言いながら蘭も新一の隣に並んだ。
 四季会室はそれなりの広さがある。
 ドアをあけると、真ん中にあるテーブルと椅子がまず目に飛びこんで来る。ここで会議や話し合いをするため、机は大きい。椅子も予備が隅においてある。
 壁側面にはガラスの棚があり、中には今までの書類がたくさん詰め込まれている。窓際にある低い棚には備品や書類、その真横にある机の上にはパソコンがおかれている。
 その反対側に小さな流しと戸棚とミニの冷蔵庫が設置され、湯沸かしポットが横に置かれている場所を、皆でキッチンと呼んでいる。痒いところに手が届く設備は、今までの四季会が必要に応じてそろえたらしい。
 今期の四季会も自分好みなものをすでに置いている。紅茶の茶葉の缶がたくさん並び、珈琲豆も何種類ある。茶器も有名なメーカーのものが一式ある。園子が家から一式持ってきたのだ。
 
 手早く四人分の紅茶をいれて戻ってきた二人はカップをそれぞれの前においた。
「ありがと」
 お礼をいって園子が一口すする。熱い液体はすぐには飲めないが香りは十分に心をリラックスさせてくれた。
「いただきます」
 キッドもふうと息で冷ましながら、こくんと紅茶を味わった。
「美味しいですね」
「どういたしまして」
 新一が小さく笑いながら、自分もカップ手に持ち一口飲む。園子の隣で蘭も紅茶を飲んで一心地付いていた。
 
 
 彼らが所属する四季会と呼ばれる帝丹学園の生徒会は少々変わっていた。
 四季会は四人で成り立ち、選挙で選ばれるものではない。
 彼らは一般の生徒とは違うネクタイをしているのだが、そのネクタイを譲り受けたものが四季会になるのだ。代々のメンバーは自分の後継者に相応しい人間を選びネクタイを渡してきた。それはいつでも構わないが、多くは自分が卒業する前だ。とはいえ、それぞれが自分の裁量で後継者に渡すため、普通は学年も性別もばらばらになるものだ。前任者が卒業生ばかりであると、行事などのやり方を知らない人間ばかりとなるため、唯一残った在校生がしばらく努めて次に渡す場合もあるし、気を利かせてやらせたいメンバーに総入れ替えすることもある。
 今年は、まさしくそれだった。
 彼ら四人に任せるため、前任者は一斉にネクタイを渡したのだ。おかげで、彼ら全員は同学年、新2年生だ。
 ついこの間、まだ寒い1月の終わり、つまり一年生の時にネクタイを譲り受けた。
 四季とは、このネクタイから来ている。
 春夏秋冬を表す四つの色だ。
 一般生徒は緑色に銀色のストライプが入ったネクタイだが、四人のネクタイは地色が違う。
 
 春は桜を思い出させるピンク色だ。これは毛利蘭が身に付けている。長い黒髪に白い肌に清楚な顔立ち。背も高く颯爽としている上、空手都大会優勝という凛々しさは女子生徒に絶大な人気を誇っている。
 そこから、「春の君」「桜の上」と呼ばれるている。ちなみに、熱烈な女子生徒からは「蘭さま」と熱い視線と共に呼ばれている。
 余談だが、可憐なピンク色のネクタイを女子生徒が身につけるなら可愛いが、ごつい体躯の男子生徒が引き継いだ時は悲劇だ。後継者にしたい人間に渡すため、季節の色が似合わないからといってやめることは不可能なのだ。だから、全く似合わない色のネクタイを受け継いだ時は、同情的な視線で笑いを堪えた声で「春殿」と呼ばれる。「春殿」は困った生徒達の苦肉の策であるあだ名だ。そんなことがあったと、伝説というか笑い話として今でも語られている。
 
 夏は海や空を想像させる青色だ。これは工藤新一の首元を飾っている。絹糸のような漆黒の髪に白磁の肌、整った鼻梁にバラ色の唇、宝石のような蒼い瞳が印象的な美人だ。手足が長く華奢な身体からは匂い立つような色香まであって、少年の身でありながら、世界中を虜にした美貌の母親の血を色濃く引き、傾国の人として近隣でも有名だ。頭脳は世界的ミステリ作家である父親からしっかりと受け継いで、学年でもトップを争うほどである。全国模試をしてもトップクラスであるため、学園での勉強は彼にとって退屈しのぎだ。
 そのせいで、「夏の君」「帝丹の姫君」「蒼い女王様」(ブルー・クイン)「蒼穹の宮」「傾国の君」などあだ名が山とあるのだが、通常「宮様」と呼ばれることが多い。
 
 秋は紅葉のような紅色。鈴木園子の首に結ばれている。
 肩で切りそろえた茶色の髪に利発な濃い茶色の瞳をした彼女は、財閥の次女という出自として有している計略に優れている。表で実権を握り裏で陰謀を巡らせ暗躍するのが大好きで、かなりのやり手であるため、「秋の君」「紅の女帝」「緋の女王」「暗躍の帝王」「帝丹王国の女王様」と呼ばれている。が、さすがに本人に直接呼べない名前だらけのため、普通に「園子様」「女帝さま」「女王さま」と呼ぶことになる。
 
 冬は雪や白銀を思わせる白色。ただ、ネクタイとして白は少々アレなので冬だけは銀色の地色に白のストライプとなっている。これはキッド・クローバーが受け継いだ。
 茶色混じりの黒髪は少々癖毛だが柔らかく瞳は怜悧な紫暗。長身でしなやかな身体付き、物腰柔らかで丁寧な言葉を使いをしている彼は父親が著名なマジシャンであるため、自身も手先が器用でマジックが得意だ。また、名前からわかるように、外国の血が混じっているせいか、仕草が日本人離れしている。だから、「冬の君」「白の騎士」「魔術師」「蒼い女王の忠実なる僕」と呼ばれている。
 一つ付け加えるなら、騎士とは一人の王(女王)に従うものであることは間違いない。
 
 






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