その姿を見た時、今まで生きてきた短い時間の中で初めて圧倒的な衝撃を受けた。 がつんと頭をハンマーで叩かれたような出来事だった。 一緒にいた幼なじみも同じように思ったと後で聞いたが、今でも脳髄まで深く刻まれて忘れられない記憶だ。 いつもの海外旅行の途中、両親に連れられて行った先で出会った子供たち。 手を繋いでこちらを見ている一人の少女から目が離せない。 すごい美少女だった。自分と年頃は同じくらいだろうか? 幼いがあまりの美貌に、天使かと思った。この世のものではないのだと思った。 絵本の中に存在する人ではないもので、神からの遣い。だから、いつか天に帰ってしまう。そんな存在だろうと思った。そう思うと心が痛む。 天使がこの世界からいなくなってしまうなんて、考えただけで哀しい。 だって。 絹糸みたいな黒髪はつやつやで天使の輪が太陽の光に光っている。 白い肌に小さな鼻梁、薄い桜色の唇。大きくて蒼い瞳はとても綺麗。自分を真っ直ぐに見つめる瞳はきらきら湖面のように瞬いて、魅入られる。 そして、小さくて華奢な身体にひらひらの服をまとっていた。 白い清楚なワンピースで襟は丸く縁に共布で細かいフリルが付いていて袖口にも同じようなフリルがあしらってある。広がった裾にはレースが縫い込まれていた。腰の後ろで蝶に結んだリボンが可愛い。 ざっくりと編んだ生成のボレロ。足下はポイントにリボンが付いたクリーム色の柔らかそうな靴。 まっすぐ腰まで伸びた黒髪は、いくつか細い三つ編みがしてあって、ビーズの髪飾りで留められている。 耳元には薔薇を模した貝細工。 小さな手首にはまる細かな細工と蒼い宝石が付いたブレスレット。 どれもこれも、少女が身につけるに相応しいものだった。 自分たちを見て、不思議そうに瞳をぱちぱちと瞬くと長いまつげ揺れる。 「私の娘なんだ。こっちは、幼なじみのお嬢さん」 父親が紹介しているのを遠くで聞いた。意識が目の前の天使に注がれていて、細かい内容が聞こえてこない。 「はじめまして」 柔らかくて高い声は、聞いているだけで心地いい。 天上の調べのようだ。 心を奪われて、うっとりと見つめてしまった天使と見間違えるような美少女。 後日、美少女が美少年であると知った時の衝撃は、頭が沸騰するかと思うくらいのインパクトがあった。 幼いながらも女としてのプライドは地に落ちた。 天使の横にいた少年が、同じくらい美少女に扮装できることを知ったのも、腹立たしかった。自分より、可愛くて美しい少年が二人もいるなんて!それも、人外魔境クラス! 少しだけ腹の虫が治まらなかったが、すぐに意識を切り替えた。 それに、自分が天使を守らなければという使命感におそわれた。 やはり天使は誰をも惹き付けるため、変な大人が寄ってくるのだ。それを間近に見て、決めた!隣の少年も威嚇していたが、一人では心許ない。 自分たちも、守らなければ! 幼心に、刻んだ誓いは今も有効だ。 |