再びフィレンツェ
車は昼までに返せば良いと言うことで、ゆっくりしながら丁度正午を目指してフィレンツェの町に入った。 旧市街は交通規制をひいていたが車を返すというと通してくれた。 問題なく返却。 まずは宿に荷物を置く。 ウフィツィから数十メートルの場所にあるホテルで、明日朝一番に行こうと決めた。 サン・マルコ修道院のフラ・アンジェリコを見に行く。 階段を２階に上ると、まず受胎告知に遭遇。 これだけはガラスの保護がしてある。 若いマリアの水色の衣の微妙な色調は、確かに実物を見るまではわからなかった。 その他のフラ・アンジェリコの作品はひとつひとつの部屋に掛けられていて、丹念に見て回る。
夕ご飯は大したものではなかった。 もうどうでもよい。
翌日、３０分は並ぶ覚悟で、開館前にホテルを出ると、ウフィツィへの通りを日本人の団体がバタバタと駆けているのを見た。 通りに出ると、美術館の裏で、既に行列が出来ている。 １時間ほど並んで、やっと中へはいる。 数十分で団体の人々は全て見学終了してしまったので、
後はゆっくりと堪能できた。 無理に朝一番に並ぶ必要は無かったのかも知れない。 まだ、爆弾テロの傷跡が残っていて、マニエリズムのあたりから部屋は閉鎖されていた。 それにしてもウフィツィはイタリア人が自慢するとおり、素晴らしいものだ。 ルーブルやナショナル・ギャラリーが特製十人盛り寿司とすれば、ここは、トロ、ウニ、イクラ、アワビ・・・の極上ネタ一人前。 どうでもいい絵が一つもない。
ふらふらになって外に出たのは午後２時近く。 サンタマリア・デル・カルミネでマザッチョの楽園追放を見る。 ホテルに戻り荷物を取って、最後の宿に向かう。 ホテルが混んでいて、１泊ごとに移動になってしまったのだ。 最後のホテルは駅の近く。 明日は、ここからミラノまで列車で行かなければならない。 帰りの飛行機がミラノ発しか取れなかったのだ。 新幹線ペンドリーノの切符を買いに駅に行く。 ところが、何故か閑散としていて、切符売り場だけが人だかりだ。 張り紙をよくよく見れば、ショペーロとある。 イタリア名物のストライキに遭遇してしまったようだ。 さて、どうするか。 よくよく見れば単純に全部の列車が止まってるわけではなく、列車は動くが駅の信号係だかのストで、駅に列車が入れないだけらしい。 そのため、ローマからの列車は町の外側にある駅には停まり、中央駅に来ないだけだと分かる。 読書百遍意自ずから通ずるだ。 銀行のように整理券をもらって待つこと３０分。 駅員は親切で、私の理解が正しいことが確認できたので切符を購入、これで帰ることが出来そうだ。
夕刻前にサンタ・クローチェ教会に行き、チマブエを見る。 アルノ川氾濫による水害のために修復不能な破損を受けて痛々しい。
最後の晩のホテルは少し値が張ったが、最も快適だった。 目の前がメディチ家の墓があるサン・ロレンツォ教会というロケーション。 最後の日の朝、リッカルディ宮殿礼拝堂のベノッツォ・ゴッツォリのフレスコを見にゆく。 小さな部屋の壁画なので、一度に十数人しか見られず、ウフィツィ以上の行列が出来ると言うことだったのだ。 早起き効果で、一番に入場。 管理人が必ず付いてくる。 １５分ほどの制限時間を目を皿にして過ごし、礼拝堂を後にした。 すこしぶらつきながら、最後にサン・ロレンツォでメディチ家の聖廟を見てホテルに戻り荷物をピックアップ。 タクシーで町の外のスタジアム近くの駅に向かった。
列車は定刻にやってきた。 フランスのＴＧＶよりゆったりと快適なペンドリーノは、２等車でもチョコレートが配られる。 山を下りきると程なくボローニャ。 北イタリアの平野を走り、夕刻にミラノに到着。 ミラノ見物の時間はさすがに無く、バスターミナルから空港へと向かった。 最後はあわただしくアルプスを越えてパリに戻った。
フィレンツェという町は、結局あまり好きにはなれなかった。 人々はそれほど親切ではないし、食べ物もまずかった。 少なくともおいしいものを探すには何らかの技能か鼻が必要そうだった。 アクチュアルな町としての魅力が感じられなかった。 それでも、再びこの華の都を訪れたい。 何と言っても、町の全てが宝物のような美術品なのだ。 トロ、ウニ、イクラを食べながら、これは甘さが足りないからいやだ、という訳はないのである。