眠れる森の美女(牧阿佐美バレヱ団)

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2007年6月15日(金)・17日(日)

ゆうぽうと簡易保険ホール

 

作曲: P.I.チャイコフスキー

脚本: マリウス・プティパ, イワン・フセボロージスキー (シャルル・ペローの原作より)

演出振付: テリー・ウエストモーランド(M.プティパによる)

美術: ロビン・フレーザー・ベイ

指揮: アンドレイ・アニハーノフ (ムソルスキー記念サンクトペテルブルク国立アカデミー・オペラ・バレエ劇場 音楽監督兼主席指揮者)

管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

  

 6月15日

 6月17日

オーロラ姫 田中祐子 青山季可
フロリモンド王子 森田健太郎 京當侑一籠
リラの精 橋本尚美 吉岡まな美
カラボス 保坂アントン慶 本多実男
フロレスタン24世王 京谷幸雄
王妃 坂西麻美
リラの精のカバリエール 塚田渉
水晶の泉の精(美)/そのカバリエール 加藤裕美/徳永太一
魅惑の庭の精(勤勉)/そのカバリエール 奥田さやか/中島哲也
森の聖地の精(優雅)/そのカバリエール 笠井裕子/今勇也 小橋美矢子/今勇也
歌い鳥の精(雄弁)/そのカバリエール 竹下陽子/邵智羽
黄金のぶどうの木の精(活気)/そのカバリエール 佐藤朱実/菊地研 橋本尚美/菊地研
リラの精のおつき(1幕) 館野若葉  貝原愛  関友紀子  藤原まどか  金森由里子  日高有梨  海寳暁子  小塚悠奈
カタラブット 山内貴雄
オーロラ姫の乳母 横山薫
伝令官 篠宮佑一    
宮廷の小姓 住田瑠奈  中原春奈
ねずみ 伊藤隆仁  坂爪智来  細野生  上原大也
フランスの王子/インドの王子/ロシアの王子/スペインの王子 菊地研/塚田渉/徳永太一/今勇也
オーロラ姫の友達 館野若葉 小橋美矢子 山中真紀子 藤原まどか 日高有梨 海寳暁子 坂本春香 佐々木可奈子 館野若葉 関友紀子 山中真紀子 藤原まどか 日高有梨 海寳暁子 佐々木可奈子 坂本春香
針を持つ婦人達 横山薫  清水美貴  土田さと子
ギャリソン(王子の副官) 今勇也
公爵夫人 吉岡まな美 笠井裕子
ニンフ 館野若葉 加藤裕美 貝原愛 竹下陽子 関友紀子 坂梨仁美 山中真紀子 藤原まどか 大野智子 金森由里子 日高有梨 海寳暁子 杉本直央 佐々木可奈子 柳川真衣 茂田絵美子 館野若葉 奥田さやか 貝原愛 坂梨仁美 関友紀子 山中真紀子 藤原まどか 大野智子 金森由里子 日高有梨 海寳暁子 杉本直央 佐々木可奈子 柳川真衣 坂本春香 茂田絵美子 
金の精/銀の精/サファイアの精/ダイアモンドの精 今勇也/奥田さやか/中島哲也/小橋美矢子
白猫/長靴をはいた猫 坂梨仁美/邵智羽 佐々木可奈子/保坂アントン慶
フロリン王女/ブルーバード 佐藤朱実/菊地研 竹下陽子/清瀧千晴
赤ずきん/狼 小松見帆/塚田渉 安部里奈/塚田渉

 

牧の『眠れる森の美女』は4年ぶりの上演。
演出はテリー・ウエストモーランドで,マイム多用を始めてとして,英国系の演出(ふた昔前の英ロイヤル風)と言えると思います。細かいことは前回の感想当時の日記に書いたのですが,再度見て突出して印象に残るのは,「カラボスのケバさ」と「手下のネズミの愛らしさ」でありました。

カラボスについては,特色ある描き方でよいと思いますし,特に今回は,初日に踊った保坂さんが見事に役にはまっていたので大いに楽しみましたが,ネズミちゃんたちには参りました。
カラボスが醜悪な老女ではなく華美な衣裳をまとった妖しげor怪しげな熟女になっているので,ネズミもおどろおどろしくないのは理解できますが,だからといって,なぜにあそこまで「いやん,かわゆい♪」なのでしょーか??? かぶりものはつぶらな瞳で愛矯に溢れているし,衣裳は赤系でこぎれいだし,シッポの先はくるりんと結び目になっているし,お手々は「かいぐりかいぐり」だし。いったいあれでいいのでありましょーか???

・・・というふうに細々と描写してしまうのは,要するに,気に入った・・・ということですかね?(あはは)

今回は,2幕と3幕の間に「目覚めのパ・ド・ドゥ」が踊られました。
これは,通常王子の道行きとカラボス一味との対決の間に演奏される間奏曲に振り付けられたデュエットで,最初のほうは大きなリフトが多く,中盤はユニゾンが続き,最後は舞台3分の2の距離を頭上リフトでゆっくりと移動して袖に入る・・・という,体力の要りそうな振付でした。よい振付かどうかは・・・どうでしょう? 音楽によく合っているとも思いませんが,合っていなかったわけでもなく。
演出的には魅力的。結婚式のグラン・パ・ド・ドゥは多数のギャラリーの前での披露宴ですから,2人きりでロマンチックに踊ってくれる場面があるのはよいですよね〜。まあ,なくてもいいとは思いますが(というか,通常の演出で不満はないわけですが),あって悪いわけではないですから。

 

初日の主役の田中さんは,オーロラは初役だそうですが,「さすがだわ〜」でした。
驚くようなバランス技を見せるわけではないですが,バランスを見せるべきところでは当然のように腕はアンオーまで上がります。「これぞオーロラ」的な華や甘さがあるわけではないですが,「この作品の主役を踊るのが当然」と納得できる存在感があります。演技も上手ですし,腕も脚もきちんとコントロールされて動いて,「きれいだわ〜」と見蕩れることができる踊り。よいオーロラ姫でした。

表現的には,(16歳には見えませんが)おとなしやかな「姫」の1幕と,クールビューティーの幻影と,しっとりとした目覚めのパ・ド・ドゥと,プリマの貫禄の結婚式・・・でしょうか。
一番印象的だったのは,幻影の場面。悲しげでも切なげでもなく,かといって笑顔でもなく・・・要するに感情を見せないで,あたかもシンフォニック・バレエのように音楽を踊っている印象で,これはかなり珍しい表現だと思います。すてきでした。(うっとり〜)

 

日曜日の青山さんも初役。こちらは,うーむ・・・誉めかねます。
まず,かなり緊張していたようでした。
特に1幕は,ローズアダージオのバランスが「固唾を飲んで見守る」になってしまいましたし,ヴァリアシオンなども「もっと上手だと思うんだけどー?」な感じ。2幕以降はそれに比べると安定していたと思いますが,全体に表情が硬く,自然な笑顔が見られたのは,グランパ・ド・ドゥのヴァリアシオンが終わった辺りから?

初役のオーロラを応援モードで見るというのは,バレエファンとして決して悪くない体験ですが,応援したくなるのは,「この緊張さえなければ魅力的なオーロラであろう」と思える場合なのですよね。
残念ながら今回の青山さんは,「この緊張さえなければ」と私に思わせてはくれませんでした。

というより・・・彼女のオーロラというのは,ミスキャストだったのだと思います。
上手だと思いますし,存在感のあるバレリーナだとも思いますが,いかんせん「お姫様」らしい「キラキラ」や「ふんわり」がない。庶民派というか男前系というか・・・なバレリーナなのではないでしょうか。もっとキャリアを積めば表現力を駆使してオーロラも踊れるようになるのかもしれませんが,現時点ではかなり苦しいものが・・・。
将来性もスターづくりも大切だとは思いますが,適材適所ということも考えてキャスティングをしていただきたいものです。

 

森田さんのフロリモンドは,「・・・・・・いいと思いますよ」という感じでした。
ロメオのほうが1万倍くらい似合っていると思いますが,王子になっていないわけではない。ノーブルだし,マイムが板についているし,サポートもリフトも上手だし,主役にふさわしい存在感があるし,客観的に見て,よいとは思います。
ただ,私にはとっては全然「すてき」ではありませんでした。ソロに「!」がないし,スレンダーとは言いかねるし。さらに,キメのポーズでの顔の表情の作り方が好みではないのを発見してしまったので・・・。(いくらキメて見せるべき場面とはいえ,口を開ける王子は些か・・・。バジルとかならいいですけれど)

日曜の京當さんのほうは,「うん,よかったと思いますよ」でした。
公爵夫人との意味深なシーンの情趣不足などは気になりますが,正攻法の堂々たる主役ぶり。初役でこれなら誉めてよいですわ〜。
ダンスールノーブル体型ですし,リフトとサポートがしっかりしていますし,大柄だからか悠然たる雰囲気があって,(貴公子とは少々違うかもしれませんが)「周りよりエライ人」に見えました。

ソロも悪くないです。
跳躍はさほどでないけれど,回転はよいですね〜。コーダでのアラスゴンドではきれいに膝が伸びていました。(つま先も伸びるとなおよい)
それから,狩の場面の上着を着込んでのソロでの回転系のニュアンスのつけ方(音の取り方?)が魅力的でした。(この点については,もしかすると,小嶋直也風味の踊り方になっていたから私の好みだったのかも? という疑いも。だとしたら,よいことではないのでしょうが・・・)

フィッシュダイブ3連発もダイナミックに決めていました。
オーロラが遠くに立ち過ぎるせいか今ひとつスムーズでない? という気もしたのですが,3回とも同じ距離で処理していましたから,主演2人にとってはベストな位置だったのかもしれません。

 

リラの精は,橋本さんと吉岡さん。

初日の橋本さんは,優しげな雰囲気の中にいつもどおりの少々切なげな色気が漂っていて魅力的でしたが,「王女の守護神」的な貫禄や強さに欠けていたとは思います。妖精の中で一番のお姉さん株には見えましたが,「別格」ではない感じでした。
彼女もたぶん初役なので,何回か踊れば違ってくるのではないかと思いますが・・・このカンパニーではそれは難しいことなのですよねえ。

最終日の吉岡さんは,きちんと「別格」の存在になっておりました。(彼女は,前回に続いてのリラ)
プロポーションの見事さが薄紫のチュチュでいっそう映えていて美しかったですし,踊りは安定。演技も,カラボスに対するときの毅然とした表現や幻影の場で王子をじらす(?)ところの間の取り方などに,たいへん説得力がありました。

カラボスは,保坂さんと本多さんでしたが,保坂さん(初役)には驚嘆しました。臙脂色のキラキラのドレスと女らしいメイクが,なんとまー,こんなに似合うとはっ。美しいとはっっ。
手の動きなども女らしいし,パープルのアイシャドウが実に映えているし,おお,妖艶♪ しかも,男性が演じるからこその迫力と,少々お顔が大きいからこその印象の強さがあり,それが権高なる押しの強さになっていました。
リラの橋本さんが「優しそう・穏やかそう」に終始していることもあり,なんかカラボスのほうが最終的に勝利をおさめそうな気がしてしまいましたよ。

本多さんのほうは,そうですねー,白塗りの姥桜? 
保坂さんほどのインパクトはなく,一方でリラの吉岡さんは気が強そうなので,「最初から負けは見えている」感じ。印象的とは言いかねますが,特に悪いわけでもない。この版のカラボスは「戦うことなく敗北を迎える」わけですから,そういう演出に合っていたとも言えるかも?

王妃の坂西さんは,長身に豪華なドレスが映えて美しかったですし,気品と母性が両立していてすてきでしたが・・・4年前のリラの精のすばらしさが記憶に残るだけに,できれば,もう1度踊ってほしかったです。
京谷さんの王様のほうは,王侯貴族は食事も豪華だからお太りになられるのですよねー,という感じ。「絵本で見る王冠」なんかかぶらされて少々マンガチックな見た目だから,貫目があるの結構なことだと思います。

 

プロローグの妖精たちは,カバリエールや小姓を従えた演出の豪華さもあって全体としては「よいな〜」でしたが,ヴァリアシオンは総じて「今ひとつ」感がある踊り。
まあ,あれは難しいのですよね。それぞれの振付に適任で美しく踊れるバレリーナをそろえられるのは,マリインスキーとボシリョイだけではないか,と思うくらいで。中では,日曜日に森の聖地の精(優雅・ロシア系だと鷹揚の精)を踊った小橋さんの明るさと「さすが主役も踊る方は違う」な黄金のぶどうの木の精(活気・ロシア系だと勇気の精)の佐藤(金曜)・橋本(日曜)がよかったです。

1幕の「宮廷の娘たち(花輪の踊り)」はバレエ学校の生徒さんたち。優美よりは元気,という感じの踊りですし,「揃える」技は身に着いていないわけですが,まあ,舞台経験は大切ですもんね。
オーロラ姫の友達は・・・あまりよろしくなかったです。普通に上手に踊っていましたが,貴族のお嬢様達にしては優美さがないですし,なにより皆さん表情が硬い。「お友達の誕生会」なんですから,もっと楽しそうに踊ってくださいね〜。

2幕のニンフたちは,もっとよろしくなかったです。それなりに揃ってはいるのですが,足音は大きいし,踊り方はパキパキしているし,この場面に必要な幻想的な雰囲気が一向に出ていませんでした。
まあ,ここのバレエ団の踊り方はプティパを踊るにはそもそもスクエアすぎるのだとは思いますし,記憶に新しいミラノ・スカラ座バレエ団のドリアードたちに比べればずっと叙情的だとは思いますが・・・うーむ,でも・・・もうちょっと優美にお願いしたいものです。

話が後先になりました。公爵夫人は非番のリラの精が出演するというキャスティング。
初日の吉岡さんは「危ない色気」で,王子とのやりとりも(森田さんの演技力とあいまって)かなーりイミシン。王子を残して舞台から去るときの想いの残し方もたいへん上手で,物語を感じさせてくれました。
最終日の笠井さんのほうは「おっとりした色気」でした。幼馴染の年上の従姉が,王子の最近の元気のなさを心配して「たまには外に出て気晴しなさっては?」と誘ってくれた感じ・・・でしょうか。

 

結婚式は男女2人ずつのパ・ド・カトルから。
女性のほうは,金の精の奥田さんのおとなしげな感じとダイアモンドの精の小橋さんの外交的な感じが好対照。特に小橋さんの,舞台を明るくするような常に楽しげな様子は魅力的だよなー,と改めて思いました。
金の精は今さん。前回のサファイアは「ありゃりゃ」だったのですが,今回はよかったです。上達したのかな? それとも,要するにサファイアが「難しい割りに効果的でない」踊りだということなのか?
で,そのサファイアの精は中島さんでした。金曜日は,「おお,健闘しとるではないか♪」だったのですが,日曜日はお疲れだったのでしょうかね,音楽に間に合わなくてパが崩れていたような。

青い鳥のパ・ド・ドゥは,金曜日が佐藤/菊地。
佐藤さんはすばらしかったです〜。いつもどおり愛らしい踊りで,しかも肩から腕にかけての動きやポーズが(いつも以上に?)すっきりと優美。ブラヴォー♪
菊地さんは,着地の消音に意を用いていたのはよかったですが,そのせいかいつものダイナミックな魅力が欠けていたような? でも,サポート関係が上達しましたね〜。(なにしろ,1幕ではサポート主任のフランスの王子を任されたくらいですから)

日曜日は竹下/清瀧という清新なキャスティングでした。
竹下さんは,えーと・・・ご本人の不調か? 初役の緊張か? 清瀧さんのサポートが問題ありすぎだったからか? よくわからないのですが,ポアントから落ちてしまうミスが何回かありましたし,全体に滑らかさに欠けた印象。バレエ団でそれなりのキャリアを重ねてきた方ですが,初役ですし,それ以上に,準主役級? の役は初めてなわけですから,もう少し頼りになるパートナーを配してあげたほうがよかったのではないでしょうか。

清瀧さんはもちろん初役。正式に団員になって初めての舞台だったそうです。
事前に届いたバレエ団の会員誌によると女性と組んで踊るのに慣れていないそうで(なぜ学校で教えないんですかね? 男女の人数に差がありすぎて授業として成り立たないのかしらん?),アダージオの最後のリフトには成功したもののパートナリングが「あちゃー」でした。その上,ヴァリアシオンでも最後に手をついたりしたので,堂々とは誉めかねるのですが・・・でも,とってもとってもよかったです〜。

体重がないみたいに軽やか〜な跳躍で,ほんとに小鳥ちゃんみたい。着地は柔らか〜で足音がしないし,高さもある。特にアントルシャ・シスの高さには目を見張りました。跳躍以外も,力みの感じられない素直な動き。爽やかで気持ちのよい踊りでした。
彼の体型や現在の年齢が特に青い鳥にはまったということもあるでしょうが,今後の舞台も楽しみです〜。

 

それにしても初役が多い舞台でした。
公演数が少ないバレエ団での4年ぶりの上演だからやむを得ないことなのかもしれませんし,世代交代の時期なのかもしれませんが,うーむ,育成公演ばかり見せられるというのは困った事態ではあります。(金曜日は,主要な役については育成公演ではありませんでしたが,コール・ドはそういうレベルだったと思いますから)

いや,私はバレエマスターのファンだからこのバレエ団の公演に通っているわけで,ご本人が出演しない場合は,その「育成」手腕を見られるこういう公演も悪くはないのです。というか,大いにエンジョイしています。
が,しかし・・・「よそ様に勧めるのを躊躇する公演」だというのも事実なわけで・・・そういう公演をいそいそと見にいくとはなんとも妙な境遇に陥ったものだ(=小嶋さんが出演するわけでもないのに,なんつー酔狂な)・・・という慨嘆はあるのでした。

(2007.06.25)

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