眠れる森の美女(牧阿佐美バレエ団)

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03年10月12日(日)

ゆうぽうと簡易保険ホール

 

作曲: P.I.チャイコフスキー

脚本: マリウス・プティパ, イワン・フセボロージスキー

演出振付: テリー・ウエストモーランド(M.プティパによる)

美術: ロビン・フレーザー・ベイ

指揮: 堤俊作

管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

オーロラ姫: 平塚由紀子    フロリモンド王子:逸見智彦

リラの精: 坂西麻美    カラボス: 本多実男

フロレスタン24世王: 京谷幸雄    王妃: 沢田加代子

カタラブット: 秋山聡   オーロラ姫の乳母: 諸星静子    伝令官: 邵治軍

森の聖地の精: 佐藤朱実    黄金のぶどうの木の精: 橋本尚美    水晶の泉の精: 笠井裕子    魅惑の庭の精: 青山季可    歌い鳥の精:伊藤友季子

カバリエール: 相羽源氏, 塚田渉, 保坂アントン慶, 今勇也, 菊地研, カール・テーラー

ねずみ: 伊藤隆仁, 武藤顕三, 笠原崇広, 高橋章

4人の王子: 山本成伸, 保坂アントン慶, 菊地研, カール・テーラー

公爵夫人: 田中祐子   ギャリソン:山内貴雄

金の精: 菊地研    銀の精: 佐藤朱実    サファイアの精: 今勇也    ダイアモンドの精: 橘るみ

白猫: 橋本尚美    長靴をはいた猫: 保坂アントン慶

フロリン王女: 青山季可    ブルーバード: 相羽源氏

赤ずきん: 竹下陽子    狼: 塚田渉

 

ウエストモーランド版は,牧バレエの以前の上演をテレビで見たことがありましたが,舞台で見るのは初めてでした。
ロイヤル系だからマイムが多かったのが印象的。
演出的には,プロローグの妖精たちにそれぞれカバリエールがついているところやオーロラが指に刺すのが花束に隠された針ではなくつむぎ針そのものであることなどは気に入りましたが,王子が全然闘わない(というかカラボス一味が弱すぎ?)なのは,今ひとつ物足りないです。もっとも,逸見さんが踊る分には「王子は剣など持たない」というのは悪くないような気もしましたが。(でも,同時に,小嶋さんが新国立に移籍していて助かったわ〜,と)

 

オーロラの平塚さんは初役。チャーミングな(コケティッシュといったほうがいいのかな)美人ですからきっと似合うだろうと期待してこの日を選んだのですが,期待は裏切られませんでした。
すばらしいとまではいいませんが,そうですね・・・この役を踊るにふさわしい華と品と美しさがあったと思います。

1幕で登場したときから(意外にも,チャーミングというより)けっこう大人の雰囲気。初々しさが足りないかなー,と少し思いましたが,「愛らしい」演技が「わざとらしい」になるよりはずっといいですし,おっとりと優しげな深窓のお姫さまらしさがあってよかったです。
ローズアダージオは初役で緊張していたのでしょう(いや,そうでなくても緊張するのかも),こちらも緊張してしまいましたが,大きなミスなく踊ってほっと安心。盛大な拍手がわきました。

幻影の場ははかなげな「幻」感を出すより,大きな瞳を生かして悲しげな雰囲気を前面に押し出す感じ。これなら王子は「助けてあげたい」,いやそれ以上の「私が助けなければ」という気持ちになるだろうなー,と思いました。

結婚式のグラン・パ・ド・ドゥは,1幕の深窓のお姫様がそのまま深窓の若妻になったような感じ。おおらかな雰囲気と言えばいいでしょうか,ていねいに踊っていて品もあり,プリマらしさも感じさせる立派な舞台でした。

 

逸見さんのフロリモンド王子も初役だそうですが,王子役という意味ではベテランですからねー。エレガントな挙措や雰囲気がこれぞ王子,というか王子にしか見えないのには感心しますわ〜。

ただ,いつものことながら,感情の起伏の少ないお公家さんのような王子で・・・狩の場面での公爵夫人(あるいは世間一般)への無関心や結婚式で舞い上がりすぎないところ(←ロイヤルウエディングなんだから,下賎の者のように浮かれてはいかんわけです)はすてきだったと思いますが,幻影の場とかゴンドラに乗って城に向かうところはもう少し何とかしてほしかったなあ。自分の意志でお姫様を救いに行くというよりは,なりゆきで行動しているみたいというか・・・。まあ,何もしなくても周囲が計らってくれるのが古典バレエの王子だと考えるべきなのかもしれませんけれど。

踊りは普通というか・・・いつもより少していねいさが不足していたかも。サポートは,ええと・・・初役のオーロラのパートナーとしては若干問題があったかもしれませんねー。

 

リラの精は坂西さん。とってもとってもよかったです〜♪

長身で首と腕がほっそりと長くて,肩から腕へのラインがたおやかで美しいバレリーナですが,その長い首や腕が優美に伸びやかに動いて,なんて優しそうなのかしら〜。しかも,以前(版は違うけれど)同じ役で見たときに比べて存在感が出ていて,「これぞリラの精よ〜」という感じでうっとり〜。

華やかという感じではないですが,マイムもきれいでわかりやすいですし,踊りも安定していて見せ方が上手。プロローグで妖精たちのヴァリアシオンの最後に踊ったときには,そこまで踊ったバレリーナとは「年期が違う」感じさえ見せていました。
カラボスと対決するシーンや幻影の場での落ち着いた貫禄はもちろん,プロローグでカラボスと王妃たちがやりとりしている間,オーロラのゆりかごの前に両手を広げて毅然として立っているところなども,とてもすてきでした。

ずっと見てきたダンサーですが,こんなにすてきになるなんて〜♪ と,とても幸せな気分にしてもらいました。(正直に言えば,牧の公演を見にいく度に出ているから見てきたにすぎないわけですが,それだからこそ感激は大きいのよ)

 

他のソリストで印象に残るのは,プロローグの妖精では伊藤さん(チャーミング)と橋本さん(ベテランの安定)。
3幕では,銀の精の佐藤さんとダイアモンドの精の橘さん。佐藤さんは軽やかで可憐な音楽の雰囲気を魅力的に表現していましたし,橘さんの華にはびっくり♪ 安定しているし,上半身が柔らかくて優雅。キラキラ輝いていました〜。

男性は,全体に低調(というか,数年前よりソリストのレベルが下がっている)と思いましたが,プロローグではリラの精のカバリエール,1幕ではフランスの王子で安定したサポートを見せた保坂さんがよかったと思います。体型とソロは少々問題があると思いますが,優しい笑顔でハンサムですしね〜。

コール・ドはよかったです。統率がとれているし,身体の使い方がそろっているのだろうと思います。
リラの精のおつき(プロローグ)とオーロラの友達(1幕)は特にきれいで,雰囲気もあってよかったです。それに比べると,2幕のニンフたちは,現実的すぎて「幻影の場」らしさが足りなかったかしらん。

 

装置はあまりよいとは思いませんでしたが,衣裳は豪華でありながら色調が落ち着いていて美しかったです。各国の王子の衣裳がお国ぶりを表しているのも楽しかったですし。(ただし,国籍不明の衣裳も。白と赤のヒトはスペインなんですかね?)

あと,カラボス一味が赤系なのが珍しかったです。特にカラボスの衣裳は王妃より豪華で,もしかすると,今まで見た中で一番派手かも〜。
それにしても手下のねずみはかわいらしすぎだと思うなー。『くるみ割り人形』のねずみだってもう少し迫力ある顔をしているよねえ。(まあ,王子が戦わないヴァージョンにはふさわしいのかもしれないけどー)

 

全体としては,楽しい公演でした。
平塚さんの初オーロラの成功を祈り,(成功したので)祝福する感じの客席の雰囲気もよかったですし。
私としては,平塚さんはもちろんですが,坂西さんの立派なリラの精を見られた嬉しさもあり,今日を選んでよかったわ〜,見られてよかったわ〜,と心楽しく帰路につきました。

(03.10.18)

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