ジゼルK−BALLET COMPANY

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06年5月16日(火)

宮城県民会館

 

演出・再振付: 熊川哲也     原振付: マリウス・プティパ(ジャン・コラーリ/ジュール・ペロー版による)

音楽: アドルフ・アダン

舞台美術・衣裳: ピーター・ファーマー    照明: 足立恒

指揮: 磯部省吾     演奏: Kバレエ シアターオーケストラ

ジゼル: ヴィヴィアナ・デュランテ     アルブレヒト: 熊川哲也     ヒラリオン: スチュアート・キャシディ

【第1幕】

6人の村人たちの踊り: 荒井祐子, 輪島拓也   神戸里奈, 東野泰子, ピョートル・コプカ, アレクサンダー・コーウィー

ジゼルの母親ベルト: ロザリン・エア

クールランド公爵: ギャビン・フィッツパトリック    公爵の娘バチルド: 天野裕子

アルブレヒトの従者,ウィルフリード: エロール・ピックフォード

【第2幕】

ウィリの女王ミルタ: 長田佳世      モイナ: 柴田有紀      ズルマ: 松岡梨絵

 

よい舞台だったとは思えません。
「私は引き込まれなかった」とでも言ったほうが穏当でしょうが・・・ううむ・・・「客観的に言って,よくなかった」と言いたいですなー。
なお,会場はカーテンコール開始と同時に総立ち状態。ほとんどのお客様は感動したり感心したりしたのではないでしょーか。

 

演出はよかったと思います。
「どっかで見たなー。ピーター・ライト版だったかなー?」が多かったので,独自色があったとは言えないと思いますが,オーソドックスでありながら細部の描き方がていねいなので,話の流れがたいへんわかりやすいですし,ドラマチックでもあります。バレエを初めて見る(あるいは,Kバレエ以外のバレエ公演を見ない)観客の多いこのバレエ団の客層に最適な演出だと思いますし,客層の話を別にしても,親切な演出だと思いました。
ただ,ジゼルの死因については謎。「心臓が弱い」伏線を強調する一方で,剣を取り上げられた直後のジゼルが「お腹の傷から出た血が自分の手についたのをまじまじと見る」マイムもあって・・・ショック死と自殺のいったいどちらなのでしょうね?

その他,特徴的だったこと。

ヒラリオンは登場シーンでベルタに仕留めた鳥を渡し,水汲みを引き受ける。(たぶん,ライト版と同じ)
ウィルフリードの人相風体がウィルフリードというよりエラスムスのよう。(意味不明の方は,こちらをお読みください。それにしても,ピックフォードさんの体型には驚いた。見違えちゃったわよ)
踊り好きな娘をたしなめるため,ベルトがウィリ伝説を語る長いマイムがある。
1幕のジゼルのヴァリアシオンは,バチルドたちの前で踊られる。
ペザント(村人の踊り)はパ・ド・シス。

狩の一行から身を隠すため消えていたアルブレヒトは,再登場してジゼルと手をとりあった瞬間にバチルドの首飾りに気づく。ヒラリオンはその直後に二人の間に割って入る。(「こんなデカくて派手な首飾りになぜ気付かないのかねえ?」がなくて,とてもよい演出だと思いました)
幕切れのアルブレヒトは,舞台から連れ去られそうになるが,従者を振り払って戻ってきて悲嘆に暮れる。(偶然にも,直前に見た清水版と似ていました。そして,演技力は清水さんのほうがはるかに上)

2幕の幕が開くとジゼルの墓の前にヒラリオンがいる。(たぶん,ライト版と同じ)
ヒラリオンを怯えさせるのは鬼火などではない。数人のウイリーたちが登場して彼の周りで踊って去っていった。(これは,かなり珍しい演出だと思う。もしかすると初めて見たかも?)
アルブレヒトは,舞台奥の坂から登場する。結果として「悔恨にうち沈んで歩く」シーンが短い感じ。
最後は夜が明けたのを具体的に示すため,照明がかなり明るくなってくる。

 

美術は,英ロイヤルが上演するライト版に非常に似ていたような。
同じデザイナーだから当たり前かもしれませんが・・・Kバレエの公演は美術も楽しみの一つですから(というより,美術も高額なチケット代の一部だと思っていますから),「ち,つまらん」という気分にはなりました。

音楽ですが,「Kバレエ シアターオーケストラ」というオーケストラが演奏しました。私には演奏の良し悪しはわかりませんが,専属のオーケストラがあるのだとしたら,実に実にすばらしいことだと思います。

 

デュランテさんは,うーん・・・なにも伝わってこないジゼルでした。
演技も踊りも「さすがうまいもんだなー」とは思いましたが,なんか・・・つまんなかった。ぴんと来なかった。
たぶん,私がデュランテ不感症なのだと思います。ロイヤル在籍中から何回も見ていますが,あまり感心したことがないですから。

狂乱シーンは,「おお,これが有名なデュランテのジゼルか」ということで,興味深く見ました。
「狂乱」と言うより「静かなる狂気」という趣。鬼気迫るものがあって・・・既にジゼルではなくなってしまっている。花占いの再現なども,「幸せだったころと同じことをしているのが哀れに見える」のではなく「同じことをしていても,もはや別の人格に見える」という印象を受けました。
ひらたく言えば「すっげー怖い」ので,同情はしかねましたが,熟練の名人芸を見ることができてよかったです。

 

熊川さんの1幕は,「普通の青年が普通に恋をしている」アルブレヒト。至極単純にジゼルが大好きだし,バチルダが出てくると困り果てるし,ジゼルが狂い始めるとなにもできない。そういう「ごく普通の人」に見えました。
スターオーラは十分出ていて,舞台上で一番偉い人なのは如実にわかりますから「庶民的」という言葉はふさわしくないと思いますが・・・・うーん,でも・・・容姿の問題と立居振舞の洗練の問題もあって・・・えーと,えーと・・・そうだ! 「人間味がある」と表現すればいいのだな。うん。
私にとっては「努力は認めるが,ノーブルにはほど遠い。要するにミスキャスト」なわけですが,それは要するに「アルブレヒト=貴公子」というお約束と違うからで・・・その点を気にしなければ,一般的なアルブレヒトよりずっと微笑ましくて,好感が持てる青年像。観客も,その運命に同情しやすいと思います。

踊りは,いつもどおり。
跳躍は高く,回転は速く,きわめて安定したテクニックで難しい技を易々とこなして,全身のバランスもきれいで,そして,手の動きが無粋。立ったり跪いたりしてポーズをとっているときの手は,かなりエレガントになってきていると思いますが,跳躍しているときは,相変わらず指先が硬直。(たぶん,空中の彼にとって,手は,単にバランスをとるための道具なのでしょう)
せめてこういう役を踊るときくらいは,多少技術レベルを落としても指先まで気を配って踊ってほしいと思いますが・・・まあ,それでは熊川哲也ではなくなってしまうのかな?

なお,2幕の瀕死のアルブレヒトは,アントルシャ・シスではなく,ブリゼ中心のシークエンス。幕切れの演技は,抱えた百合を一輪ずつ落としていくバリシニコフ風(?)

 

パートナーシップはよかったです。
2幕は,最初は「すれ違い」だったのが,段々と互いを見つめあうようになり,最後には「強く抱き合う」に至る感じ。ちょっと珍しい「引き裂かれた恋人たちの再会」ヴァージョンで,これはこれでドラマチックだったと思います。

 

キャシディさんは,粗野で無骨なヒラリオンで,たいへん印象的。
ジゼルへの想いの表現が,荒っぽく不器用で,真剣だからこそ押し付けがましくて・・・「アルブレヒトなんかいなくても,ジゼルはこの人だけは選ばないであろう」という感じ。(つーか,私がジゼルだったら,選びませんわ)
存在感もありますし,(少しシェイプアップしたのでしょうか)2幕で踊るシーンではけっこう身体も動いていましたし,よかったと思います。

長田さんのミルタですが・・・うーん・・・私は,全然感心できませんでした。
特にミスをしたわけではないのですが・・・ばたばたしていたというか,「いっぱいいっぱい」の踊りに見えたというか・・・。跳躍も低かったですし。
普通に上手なソリストだと思っていたのですが,この役には力不足だったのでしょうか。それとも,不調だったのでしょうか。
なお,ドゥ・ウィリの2人は,きれいに踊っていてよかったです。

ペザント・パ・ド・シスは,荒井/輪島がリーディング・カップルでした。
荒井さんはチャーミング。うまいです〜,安心して見られます〜,という感じで,さすがでした。輪島さんは,初めて認識した方ですが,身長がありますし,優しげな二枚目ですし,いきいき&伸びやかに踊っていてよかったです。
あとの2組は,女性のほうは問題ありませんが・・・男性は,たいへんたいへん物足りなかったです。

 

コール・ド・バレエは,よくなかったと思います。
最初に,この日の舞台は「よくなかった」と書いたわけですが・・・その原因の大部分は,コール・ドのレベルの低さにあります。
『ドン・キホーテ』を見たときはそれなりに上手に思えたのですが,今回は少なからず落胆しました。

まず,村人たちですが・・・男性の容姿のレベルが低すぎます。踊りのレベルもかなり低いようでしたが,それは後回しにして,とにかく「見た目」でがっかりしてしまう。西洋人の方も多々参加しているようなのですが・・・最初は「日本人よりスタイルが悪い外国人を,よくまあこれだけ集めたもんだ」と,ある意味感心しました。
次に,「このバレエ団の男性の採用基準は,芸術監督より身長が低くてプロポーションが悪いことなのか?」という疑いを抱きました。(実際,彼らと比べれば,熊川@アルブレヒトは飛び抜けてかっこいい。ジゼルが夢中になるのに説得力大)

結局のところ,この疑いは濡れ衣で・・・採用基準ではなく,出演場面の決定基準だったのですねー。狩の一行が登場してわかったのですが,「小柄=村人 長身=貴族」という,きわめて明確な線引きに基づき,キャスティングがなされているようでした。

 

したがって,貴族たちは皆背が高く,けっこうかっこよかったです。(ほっとした)

特にクールランド公のフィッツパトリックさんは,細身の長身でしかもハンサムでお髭も似合って,かっこいいわ〜♪ なのですが・・・この方,容儀が軽すぎる。立居振舞が公爵どころか貴族にさえ見えない。なんつーか,「軽薄なイケメンの兄ちゃん」ですよ,あれじゃ。(怒)
しかも,演技がトホホ。しょっちゅう肩をすくめていて・・・狂気のジゼルに対しても同じ仕種をしたのには,頭を抱えたくなりました。

天野さんのバチルドも,同じく「容儀が軽い」に該当しておりました。
長身で押し出しがいいので,ちゃんとジゼルとの階級差は出ていたとは思うのですが・・・「貴族のお姫様」ではなく「セレブのお嬢さま」風。首飾りを与える辺りも,珍しい体験をキャピキャピ楽しんでいるように見えました。

もちろん,ほかの貴族たちも,挙措がなっとらんわけです。
まあ,中小バレエ団の場合,「貴族その2」や「貴婦人その5」辺りで「?」が出てくることは多いですが・・・クールランド公とバチルドがここまで貴族風でないというのは,かなりのものだと思いました。
もしかすると,ダンサーの能力の問題ではなく,「わかりやすく」という演出の要請からこうなったのでしょうか???

 

さて,肝心のウィリたちですが・・・「がっかりしちゃった」というのが正直なところ。

まず人数が少なくて,舞台上が淋しい。(9人×2組) その結果,集団としての怖さが全然ありませんでした。
次に,皆さん,踊りが硬い。ミルタ同様「いっぱいいっぱい」に見えましたので,見せ場の交差シーンなどは,手に汗を握って見てしまいましたよ。(破綻なく終わってよかったですね〜)

どうやら,現在のこのバレエ団のコール・ドは,バレエブランの白い世界を表現できるレベルではないようです。
『ジゼル』というのは,2幕仕立てですし,男性コール・ドをそれほど必要としませんし,大バレエ団でなくても上演しやすそうなのですが・・・実は,かなり難しい作品のようですねえ。

 

というわけで,かなり不満の残る公演でした。
主演者については私の好みの問題もあるのでしかたがないと思いますが,周りがこうだと・・・いくら交通費なしで全幕が見られるとはいえ,今後このバレエ団の公演を見るべきかどうか悩んでしまうなぁ。(結局見るとは思うけれどね)

(2006.7.20)

 

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