バヤデルカ(レニングラード国立バレエ)

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作曲:L・ミンクス

振付:M・プティパ  改訂:V・ポノマリョフ,V・チャプキアーニほか  演出・改訂振付:N・ボヤルチコフ

美術:V・オクネフ

    1月19日   1月20日
ニキヤ(舞姫) イリーナ・ペレン
ソロル(騎士) ファルフ・ルジマトフ
ガムザッティ(藩主の娘) オクサーナ・シェスタコワ
大僧正 アンドレイ・ブレグバーゼ イーゴリ・ソロビヨフ
偶像 デニス・トルマチョフ
ドゥグマンタ(インドの藩主) アレクセイ・マラーホフ アンドレイ・ブレグバーゼ
マグダヴィア(苦行僧) ラシッド・マミン マイレン・トレウバエフ
奴隷 ドミトリー・シャドルーヒン
インドの踊り オリガ・ポリョフコ,アンドレイ・マスロバエフ アンナ・ノヴォショーロワ,アンドレイ・マスロバエフ
太鼓の踊り アレクセイ・クズネツォフ
マヌ(壷の踊り) ヴィクトリア・シシコワ
アイヤ ナタリア・オシポワ
「幻影の場」のトリオ タチアナ・ミリツェワ,オリガ・ステパノワ,エルビラ・ハビブリナ

 

02年1月19日(土)

オーチャードホール

 

主役3人は,昨年の舞台と同じ組み合わせでした。
1幕のペレンは,昨年よりプリマらしくなっていて,大僧正を拒むシーンはなかなか毅然としており,ソロルとのデュエットは情感が出ていました。
シェスタコワも昨年より堂々としており,かわいいお姫様というより,プライドの高そうな,典型的な(?)ガムザッティ。
昨年より立派になった(悪く言えば,平凡になった)2人の間で,ルジマトフのソロルはどうだったか?

・・・キーロフ公演でおなじみの,優柔不断な男に戻っていました。(笑)

結婚を断ろうと決然として藩主に歩み寄るのに,そのままガムザッティの手をとらされて唯々諾々として従う。ニキヤと奴隷の踊りの間は,彼女が近づくとうつむいて,遠ざかると目で追っている。2幕のガムザッティとのパ・ド・ドゥの間も悩ましげですし,ニキヤが舞台に出てくると,ガムザッティの手をとって,彼女をすがるような目で見るの〜。ところが,今日のガムザッティは,公の場だからでしょうか,さりげなくその手を外してしまう。暗い表情に戻るソロル・・・。あ,あ,お嬢さまったら,なんてもったいないコトをっ。
その後も,腕を組んでニキヤを見たり,ガムザッティの腰に手を回してみたり,うつむいたり,その落ち着きのないこといったらないです。
花篭が持ち出されるとついに座を外すのですが,ガムザッティに促されると戻ってしまう。このとき,なぜか椅子の場所を後ろにずらしたのですが・・・もしかして,彼女の後ろに隠れようと思ったのかしら?(大笑)
ニキヤが蛇に噛まれると,思わず駆け寄ろうとするものの,藩主に止められてしまうし,最後,解毒剤を手にしたニキヤが彼を見ると,なんとも絶妙のタイミングで顔を背けてしまう(うますぎ〜)。

もう,なんて情けないのかしら。ああ,いらいらする。腹が立つ。
でも,でも,これがいいのよね。こんな男なのに,最後の最後にニキヤに駆け寄った瞬間,すべて許してしまうの〜♪。
ああ,ニキヤもきっと同じ気持ちだったに違いないわ。この人を一生後悔の中に閉じ込めておくなんて,そんなかわいそうなことはできない,そう思ったからこそ,影の王国の最後に,彼を許すのよね〜。

と思って,うっとり見ていたのですが・・・

・・・・・・・・・・うううむ・・・ペレンのニキヤは,ソロルを許さなかったようですね(笑)。

3幕のパ・ド・ドゥはきれいでしたが,愛の足りないニキヤでした。彼女は,この場ではメイクも変えて,表情も出さず,幻影らしさを出そうとしていたのだと思いますが・・・美しいけれど,悲しげというより無機質な感じを受けました。
さらに,この辺りで力尽きたのでしょうか,ベールの踊りや最後のソロは,やっと踊っている感じで,残念。(まあ,ニキヤってたいへんなんですよね。ここでスタミナ切れになるバレリーナはけっこういますものね)
ルジマトフは,当然ながら情感もあり,美しかったですが,パートナーを支えるのに精力を使ったせいか,感動するほどではなかったです。(いや,見る側が贅沢になっているせいです。すみません。客観的には,見事だったと思います。テクニック的には,去年よりよかったし)

結婚式の場のルジマトフは,たいへん,たいへん美しかったです。
ボヤルチコフ版を踊り慣れたこともあるのでしょうか,昨年より全体に洗練されていて,見事。
アヘンから半覚醒の状態で踊っていて(魂は,影の王国にあるのかもしれません),その夢見るような甘い表情でガムザッティに花を捧げるシーンが,美しい音楽とあいまって,とてもすてきでした。(「ルジマトフに甘い表情ができるのか?」などというツッコミは入れないでくださいねー。私には,そう見えるんだから。)
そして,最後,崩壊する神殿の中に,我が身を投じるシーンの緊迫感!

あの優柔不断な男が最後に自分の意志を貫いたとき,そこに待っていたのは死だったというのは,皮肉ではありますが,実に理にかなっているようにも思えます。
そして,愛の足りない3幕のニキヤも,彼女の怒りで神殿が崩壊するかのように見える以上,ボヤルチコフ演出にはふさわしかったのかなー,とも思いました。

 

ところで,ルジマトフがこの作品に自前の衣装で出演していることは,よいことではないだろうと思います。特に結婚式の場で,ガムザッティの真紅の衣装とソロルの青い衣装が並び,結婚の象徴のベールが赤いのを見るとき,この色彩感覚はなんぞや? と思わざるを得ない。(本来のマールイの衣装では,ソロルは白系らしい。)
私自身は,見慣れたキ−ロフの衣装以外で彼に登場されたら違和感に耐えられないとは思いますが,でも・・・。

ブレグバーゼの大僧正は,昨年よりは品格がありましたが,中年男の一途な恋の趣。それはそれでいいのですが,最後にこの人だけが生き残ったときに有り難味がないのが,少々困る。
ガムザッティの召使アイヤの動きは,非常に卑屈な感じで,私は嫌いです。昨年も同じ感じを受けましたから,オシポワのせいではなく,演出のせいだと思います。
トルマチョフの偶像(ブロンズアイドル)は,悪かったとは言いませんが,抜きん出たところはない。ブラボーが飛んだのは,私には理解しかねます。この方よりは,(比べるのは妙ですが)安定した見事なサポートを見せたシャドルーヒン(奴隷)こそが,賞賛に値するのではないかしらん。
日本人エキストラはさらに上達。去年と同じメンバーなのでしょうか?
子役は,昨年に続き,高木淑子バレエスクールから。上手でした。

影の王国のコール・ドは,最前列でぐらつく方もいたのですが,全体として見事。何年前になるでしょうか,「ルジマトフのすべて」で影の王国だけを上演するために,マールイがこの場面に初挑戦したときは,いささか憮然としながら見たものですが,今回は,うっとりさせていただきました。キーロフよりきれいじゃないかしら?
第1ヴァリアシオンのミリツェワは,(曲調や振り付けからして無理ないのかもしれませんが,)微笑しながら踊るのがいささか興をそぎます。
第2ヴァリアシオンのステパノワは,柔らかさは欠けるものの,大きな踊りでよかったです。
第3ヴァリアシオンはハビブリナ。ううむ・・・テクニックが弱いのでしょうか・・・看板プリマがこういう場面に出て,さほど見事でないのは,残念でした。

 

全体として,ルジマトフ主演の「バヤデルカ」としては,記憶に残る名舞台というほどではなかったですが,いい上演だったと思います。

(02.1.25)

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バヤデルカ (レニングラード国立バレエ)

02年1月20日(日)

オーチャードホール

 

主役3人は,昨日と同じ。
前日の舞台を見て,「愛の足りない3幕のニキヤも,彼女の怒りで神殿が崩壊するかのように見える以上,ボヤルチコフ演出にはふさわしかったのかなー」と思ったわけですが,どうやらルジマトフもそう思ったみたいですね〜。(←おいおい)
この日のソロルは,ニキヤが愛を見せないのも当然,神の怒りによって死ぬのも当然,という愛を捨て去った冷酷な人で,誠にこの演出にふさわしい人物像でした。
去年の演技の延長線上にあるのだと思いますが,今年のほうが,凄みが増していたように思います。

 

1幕は,まあ普通に進みます。ペレン・シェスタコワとも,前日より熱演。ソロビヨフの大僧正は,懊悩する聖職者で,私は,ブレグバーゼより好きです。

そして2幕ですが,うーん,ガムザッティとソロルがむやみに仲がいいんですよねー。
パ・ド・ドゥでの2人の踊りの揃い方などが見事で,愛があるように見えるし,踊り終えた後の手の取り合い方や顔の近づけ方が親密そう。並んでニキヤの踊りを見ているときの「私たちは信じあっているから大丈夫」風の平然さには,非常に怖いものがありました。まあソロルは,ニキヤが近づくと多少心が揺れていたみたいですが,その都度ガムザッティへの思いを確かめるかのように,彼女の手をとったり,その手に優しくキスしたりして・・・。(それとも,ニキヤに見せつけていたのかしら?)
花篭の踊りが始まっても,平然と席におさまったままなのには,かなり驚きました。

ニキヤが蛇に噛まれたのを目にした瞬間,驚愕して立ち上がるソロル・・・彼の前にはガムザッティが立ち,「あなたが私を殺そうと・・・」というニキヤの視線を,冷然と受け止めます・・・その後ろで,小さく首を振るソロル・・・「いや,彼女がそんなことをするはずがない」と。
そしてガムザッティとソロルは,手を取り合います。瀕死のニキヤは2人にとって問題ではない,というかのように。

大僧正の指示により全員が後ろを向く中,解毒薬を手にしたニキヤに見つめられたソロルは,やはり小さく首を振りながら後ずさります。
うーん,ひどい男ですねー。昨日の顔をそらすのとどちらがひどいだろーか? と,しばし考え込む私・・・。
さすがに,最後は駆け寄って,倒れるニキヤを抱きとめていましたし,死んだニキヤを抱きしめる幕切れは,見ているのがつらいほどに美しかったですが。

ところで,一つ疑惑が・・・。花篭が持ち出されたとき,ソロルは,第一の部下を呼び寄せて,何事か会話をしていたのですが,いったい何を告げたのでしょうか?
も,も,もしかすると,ちゃんと蛇を仕込んだか確認したのでは・・・? 
とすると,ニキヤ殺害の真犯人は藩主やガムザッティではなく,彼ということに・・・。ニキヤが犯人として指したのはソロルだったのかもしれませんし,彼が首を振っていたのは,「オレじゃない」と言っていたのかも・・・ううむ・・・???
私はこの解釈にかなり傾斜しています。だって,中途半端な小悪人よりは,冷酷無慈悲な悪人のほうが,男性としては魅力的だもの。(それにしては,蛇を見て驚愕していたけれど・・・いや,やはり目前で見ると,ショックだったとか・・・)

3幕の冒頭。ソロルはアヘンを吸っても,全然酔えないようでした。いつもの舞台では,寝台の上に横たわり,酩酊しながらニキヤの影を見るのですが,この日は,頭を抱えたまま・・・。
それほど,彼の苦悩は深いわけで,やっぱり,この人が下手人なのか? と疑惑がどんどん深まっていく・・・。(笑)

影の王国は,美しかったです。
コール・ドもよかったですし,ペレンも前日と違って,最後まできちんと踊っていました。
ルジマトフは,(犯人だと思って見ているせいかもしれませんが)愛よりは悔恨がはるかに勝って,その憔悴した表情は,痛いような切なさ。一つ一つの動きが,ポーズが,ほんとうに美しかったです。
最後,ソロルは,ニキヤに手を合わせて許しを請います。ニキヤは,無表情のまま小さく頷く・・・。彼は許されたのか? それとも・・・?

その答えは結婚式の場で出ます。
ついに,ガムザッティとの結婚を拒んだにもかかわらず,神殿は崩壊し,ソロルは命を落とします。ニキヤとソロルは来世で結ばれるわけでもなく,ニキヤの魂を象徴する白いベールだけが昇天し,残ったのは瓦礫の山と神聖な炎と(なぜか)大僧正だけ・・・。
この場面でのルジマトフの表情には,昨日のような夢見がちな甘さはなく,なんというか・・・凄愴な感じ。5日間4回公演による体力的な問題が相乗効果を生んだのか,怖いようでした。

 

うーん・・・ものすごかったです。
感動しました。
去年は,優柔不断なソロルがベストだと書きましたが,少なくとも,ボヤルチコフ版では,悪人ソロルのほうがいいのかもしれません。いずれにせよ,愛に溢れたソロルではありませんねえ。とほほ。

それにしても,2日間で全く違う表現を見せたルジマトフには,仰天しました。それに応えて演技を変えたシェスタコワも,見事だったと思います。

(02.1.26)

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