バヤデルカ(レニングラード国立バレエ)

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作曲: L.ミンクス

台本: M.プティパ,S.クデホフ
振付: M.プティパ (改訂:V.ポノマリョフ,V.チャブキアーニほか)
演出: N.ボヤルチコフ

美術: V.オクネフ

指揮: アンドレイ・アニハーモフ  管弦楽: レニングラード国立歌劇場管弦楽団

   1月13日  1月14日
ニキヤ

イリーナ・ペレン

スヴェトラーナ・ザハロワ

ソロル ファルフ・ルジマトフ
ガムザッティ オクサーナ・シェスタコワ 
大僧正 アンドレイ・ブレグバーゼ イーゴリ・ソロビヨフ
偶像 デニス・トルマチョフ ドミトリー・リシンスキー
ドュグマンタ(藩主) アレクセイ・マラーホフ アンドレイ・ブレグバーゼ
マグダヴィア(苦行僧) ラシッド・マミン マイレン・トレンバエフ
奴隷 ドミトリー・シャドルーヒン
インドの踊り オリガ・ポリョフコ,アンドレイ・マスロバエフ 
太鼓の踊り ヴァチェスラフ・クズネツォフ デニス・トルマチョフ
マヌ(壷の踊り) イネッサ・ソブカ ヴィクトリア・シシコワ  
アイヤ ユリア・ザイツェワ
幻影の場のトリオ オリガ・ポリョフコ,オリガ・ステパノワ,エルビラ・ハビブリナ

 

01年1月13日(土)

オーチャードホール

 

いやはや,まいりましたわ。
この日の主演は,ゲストのザハロワ/ルジマトフの予定だったのですが,マリインスキー劇場芸術監督(総監督だったかな?)であるゲルギエフが,ザハロワにプーチン大統領の御前公演(?)に出るよう命じたとかで,彼女の来日が遅れ,ペレンとの舞台になりました。
正直言って相当がっかりしたけれど,ペレンは,マールイ一押しの若手プリマですし,3日のオーロラがよかったので,こちらに期待することにし,気分を切り替えて会場に。

そして,そのペレンが,期待どおり,たいへんよかったのでした。
神に仕える身の威厳みたいなものはないのだけれど,品がよくて,おとなしやかでちょっと翳りがあって,だからお姫さまに見えない(身分は高くない)ところが好き。

そして,ガムザッティのシェスタコワが,こちらは期待を上回る見事さ。
無邪気に,自分の地位を,幸せを信じていて,だからこそ無意識のうちに他人を傷つけてしまう,かわいいお姫様でした。

 

この二人による,1幕2場の対決シーンがとてもよかったです〜。

ガムザッティが,「私は藩主の娘なのよ。この国は私のもの。私と結婚すれば,ソロル様は,この広い領土も,この豪華なお城もすべて得ることができるのよ。」と語るマイムが,実に確信に満ちていて,そして愛らしく,箱入りのお姫様ならではの,邪気のない残酷さが見事に現れていました。

このガムザッティであってこそ,ペレンのおとなしそうなニキヤが「いいえ,あの方は聖なる火の前で,私に愛を誓ってくださいましたわ。」と開き直り(?),ついにはナイフを掴んで高貴なお姫様に切りつけたのだよなあ,とおおいに納得。

そして,ニキヤに襲われたガムザッティが,舞台の下手の端まで逃げて,ホールの柱(?)に手をついてうつむいてしまって,そのままニキヤを睨むことをしなかった驚愕ぶりが,お嬢さまらしくて,また感心。

 

さて,私のお目当てのルジマトフですが,こちらには,たいへん意表を突かれました。

彼のソロルは,今まで4回見たのですが,ニュアンスの違いはあれ,基本は,よく言えば苦悩の人,悪く言えば優柔不断。(笑)  ニキヤを愛しつつも,ガムザッティを拒むことができない,という,煮えきれなさも極まれリ,という感じのソロルだったのです。

ところが,この日は,驚いたことに,完全にガムザッティに心が移っているように見えました。

ニキヤと奴隷のパ・ド・ドゥのときも,平然と彼女を見ていますし,2幕のガムザッティとのグラン・パのあとは,幸せそうに,手をとりあっている。
ニキヤが登場すると,一瞬うつむくものの,すぐに,ガムザッティの手をとって,ほんとうに愛おしそうに,その手にキスするのです。彼にとっては,悲しげに中央で踊るニキヤより,このかわいい婚約者のほうが,今は大切である,というように。

私,ここで思いましたよ。これでは,ガムザッティがかわいそう。こんなふうに優しくて,誠意があって,そして,最後には捨てるのね,と。(笑)

そして,さらに驚いたのは,「花篭の踊り」のときのソロルの態度。いったんは席から立つものの,自分からガムザッティの隣に戻り,平然と,ニキヤを,自分に対して愛を伝える彼女を見つめていたのです。
さらに,なんと! ニキヤが蛇に噛まれ,彼女とガムザッティの短いやりとり(「あなたが仕組んだことなのね。」,「私は,そんなこと知らないわ。」)があったあとも,ガムザッティの手をとります。しかも,2度も! 彼女を安心させるかのように・・・なんと,心変わりのソロルの面目躍如。(笑)

いや,仰天しましたー。
10年ファンをやっていても,未だにルジマトフという方には驚かされますわ。

もちろん,ここまで裏切られても,なおソロルを慕うニキヤは感動的でしたし,だからこそ,最後,駆け寄った二人はすれ違う,という幕切れを経た後の,「影の王国」での二人の踊りは,(パートナーシップに難はあっても)たいへん美しかったとも言えますが,いやー,ほんと,驚いたなあ・・・。

 

もう一つ驚いたのは,芸術監督ボヤルチコフによる3幕2場の新演出。

この場面,途中までは,なるほどなあ,と感心しながら見ていたのです。

ソロルは,アヘンで夢うつつのままに,結婚の場に臨みます。花嫁・花婿の踊りのさなかにニキヤが現れますが,彼には(もちろん,ほかの参列者にも)ニキヤは見えず,ニキヤもソロルに呼びかけたりはしません。
しかし,ソロルが花をガムザッティに捧げると,それを横からニキヤが奪ってしまう。なお,別の花を捧げるのですが,その都度,ニキヤが奪います。そして,この踊りの最後に,並んで跪く二人の上から,ニキヤが,奪った花を降らせる・・・奴隷のパ・ド・ドゥの最後のように・・・。そして,足元のその花を見たとたん,我に帰るソロル。
ベールを外し,決然と結婚を拒むソロルと,嘆くガムザッティ・・・

そのとき,舞台中央奥,神殿の上にはニキヤが現れ,神殿は崩壊します。

ここまではよかったのですが,この後,暗転があり,白い布(たぶんニキヤのベール)が,急速な勢いで上に上っていく・・・? ニキヤが恨みを晴らして昇天したのでしょうか・・・??
そして,廃墟の中,聖なる火だけが残り,何とそこに大僧正が一人・・・神を称えるかのように両手を差し上げて・・・幕・・・???
なぜ,大僧正だけが生き残ったのでしょうかねえ(まあ,ほかの人も逃げ散ったし,ソロルも袖に引っ込んだから,ほんとに死んだのかどうかはわからんとも言えるが)。神に愛でられるほど,立派な聖職者だったとは思えないんだけどー????

 

まあ,この不可思議な結末を除けば,たいへんいい舞台でした。

キーロフに比べると,大僧正(ブレグバーゼは,高位の僧というより,好色なオヤジに見える・・・笑)やマグダヴェア(マミン)の演技が通俗的なのですが,わかりやすいと言えば,わかりやすく,これはこれで結構でしょう。
コール・ド・バレエは,若返って美人が増えたように思いました。「影の王国」は,まあまあ,といったところでしょうか。(坂を降りてくるときに,アラベスクが左右交互ではなく,全員同じ動きなのは珍しいですが,どちらが難しいのかしら?)
ソリストでは,第2ヴァリアシオンを踊ったステパノワが見事でした。

忘れてはならないのは,多数登場した日本人エキストラの方々。体型的には非常に問題がありますし(笑),動き方はバレエではないのですが,皆さん相当の舞台経験があるようで,堂々と作品世界に貢献していました。(キーロフのときの「思い出づくり」に参加したような方々とは,全然違う。)
高木淑子バレエスクールの生徒さんたちの子役も上手でした。

衣装や装置は,ちょっと派手すぎ,というか,私にはついていけない色彩感覚(笑)がありました。
バレリーナのチュチュの角度が床と水平で,ヒップから下が見えすぎるような気も・・・。特に,3幕では,違和感が大きくて・・・ううむ?
もう一つ,ぜひ文句を言っておきたいのは,2幕冒頭の象。天蓋つきで,たいそう豪華なのですが,その天蓋のせいで,ソロルの表情が見えないじゃないの。ぷんぷん。

(01.11.27)

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バヤデルカ(レニングラード国立バレエ)

01年1月14日(日)

オーチャードホール

 

ザハロワは,昨日無事に到着。踊ってくれるのは嬉しいけれど,果たして調子はどうかしら,と心配していましたが,たいへん見事な舞台でした。彼女に関して言えば,12月のキーロフのときより,よかったと思います。

 

この日,一番すてきだったのは,1幕のニキヤとソロルのデュエット。

ルジマトフは,登場の瞬間から人の上に立つべき風格に満ちていて,しかもその表情には,思い屈したところがあります。ですから,彼が一人になって神殿の奥深くにいるニキヤを想うところから,二人の恋は,決して身分の高くない舞姫と地位ある武将の間の,許されざる恋だということが伝わってきました。

ザハロワは,(キーロフで見たときの彼女のニキヤは,深窓のお姫さまという趣が強く,神殿に仕える舞姫には見えないところが疑問だったのですが,)この日は,神に仕える身の神秘的なオーラが感じられました。その,神に選ばれた者の全身が,ソロルが待っていると聞いた瞬間,恋する少女の表情に変わるところがドラマチック。

そして,二人の逢引の場面では,華はあるけれど華やかではない,ザハロワの清らかな個性と,内向的な,翳のあるルジマロフの個性が見事に溶け合って,ほんとうに二人が愛しあっていて(ルジマトフの情熱的な恋人であることといったら!),でも,悲劇的な運命が待っているだろうことが感じられました。だからこそ,恋人たちの姿が,切ないほどに,美しく見えて・・・。

最後,別れを惜しむようでもなく,礼儀正しく手に口づけして去るソロルの姿に胸が痛みます。
ああ,美しかった〜。

 

そして,1幕をよりドラマチックにしたのは,ソロヴィヨフの大僧正の演技。この役は,まあ悪役に分類すべきなのでしょうが,この日の大僧正の,高位の僧としての存在感がありながら,道ならぬ恋に苦悩する様子(ソロルも負けそう?)には,おおいに同情させられました。

一方,困ってしまいましたのは,マグダヴェア(トレンバエフ)。いや,大熱演なのですが,ちょっとやりすぎじゃないのぉ。ソロルからニキヤと連絡をつけるように命じられるときの,「そ,そ,そんな恐ろしいこと,け,け,けっしてできません。お,お許しを〜」という演技とか,つい笑ってしまいましたわ。せっかくルジマトフにうっとりしていたのにー。

 

さて,2幕のルジマトフには,今日も驚かされました。

思い悩むソロルでもなく,ガムザッティに惹かれているソロルでもなく,ニキヤを愛しているけれど,その愛を捨てることに決めているソロル。
舞台の上でやっていることは,基本的には昨日と同じなのに,どうしてこんなに違うのかしら。

グラン・パの途中で,ふとニキヤを思うところも同じだし,終わったところで,ガムザッティと手をとりあうのも同じ。でも,昨日ほど晴れやかではないし,何より,ニキヤが舞台に現れたときのソロルの表情が,なんとも苦痛に満ちたものに見えました。

ニキヤが踊り始めると,下を向いてしまうソロル。隣で,ガムザッティがじっと彼を見つめます。グラン・パを踊り終えたばかりで,上気しているシェスタコワの表情が,自負と不安の間をさまようかのようで印象的。その心配そうな眼差しに気付いて,ソロルは彼女の手をとって口づけをします。(ここは,ニキヤが席についている二人に一番近づくところなので,)ガムザッティがお姫さまらしく手をとらせながら,ちらっとニキヤを見る演技が,実に雄弁でした。

花篭の踊りのときは,ソロルは,はっきりと顔を上げてニキヤを見つめていました。冷たい,自分を殺したような表情に,内からの激情を包んで。

ここのルジマトフの表現は,説得力もあり,すてきでもあったのですが,でも,どうやら私の好みではなかったようです。二人の女性の間で引き裂かれ,ニキヤを正視できないで下ばかり向いている情けないソロルが,私にとってはベストらしいわ。(笑)

その後の,ニキヤが毒蛇に噛まれてから,解毒剤を手にすがるようにソロルを見つめ,彼に拒まれて,それでもなお彼を求め,ついに彼も彼女に駆け寄るまでの二人の演技が,たいへん見事でした。
前日も同じような表現だったと思うのですが,これがパートナーシップということなのでしょうか,劇的な盛り上がりが,この日は圧倒的でした。

やはり,ザハロワは,ルジマトフにとって貴重なパートナーなのですね。
ハードスケジュールの中,踊ってくれてありがとう♪

 

ザハロワは,「影の王国」でも見事。上品で,優美で,情感があって,美しい。先月のキーロフのときよりていねいに踊っていて,うっとりさせていただきました。険しい表情で踊るルジマトフも,実に美しかったです。

コールドやソリストも立派で,昨日に続いていい公演でしたが,でも,やっぱり,どうもあの神殿崩壊後の演出は納得いかんよなー。ぶつぶつ・・・

(02.1.11)

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