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 「忍者とは、所詮忍ぶ者。例え君達が睦みあう姿を目にした所で、私の胸の中にしまい込む
  だけさ?この世で私や涼浬ほど、口の堅い存在はいないよ」
 「涼浬殿までいらっしゃるんですかっつ!」
 「まさか。一応作法は仕込んであるがね?妹に閨の手伝いは難しい」
 親も子も兄妹ですら主の命とあらば殺す事もあるのだという、忍者という存在の中で、奈涸殿
は例外中の例外だ。
 他の存在はどうでもよくとも、妹だけを溺愛している。
 主が彼女を望んだのならば、奈涸殿は絶対者である主ですら、殺めるだろう。
 そんなにも大切な彼女を、他の人間が抱き合う閨になど送り込みたくは無いだろう。
 「妹はさすがに、目を使わないと、ハリはうてないのだよ」
 盲目の者に多い針師だが、熟練となるにはそれだけ年月がいる。
 目が見えると余計、難しい世界なのかもしれない。
 「その点、奈涸は極めているからな」
 満足そうな龍斗の方に困った風に微笑みかける奈涸殿の瞳は、手ぬぐいできつく、縛り上げ
られていた。
 「さて、では始めようかな?まずは……ここだ」
 どこから取り出したのかという早業で、取り出されたハリが額の中央に打ち込まれる。
 掌の二倍の長さはあっただろうハリが、根元まで打ち込まれて、全身に怖気が走ったと思っ
た途端。
 体中から力が抜けた。
 「え?」
 全く己の思うとおりに動かなくなってしまった身体を、龍斗が背中から支えてくれなければ、ず
るずると蒲団の上に崩れ落ちてしまったかもしれない。
 すっと抵抗もなく打ち込まれ、また違和感なく引き出されたハリの先端が、今度は天を仰ぐ肉
塊の裏筋を根元から先端になぞってゆく。
 「う、あ、あ、あ、はあっつ!」
 恐怖ではなく、快楽でもない何かに支配された俺の喉からは、まるで獣のような声が漏れた。
 「なーがーれ!それは手前の役目だ!」
 「……と、言われてもね?ここに直接打ち込まないと効き目が落ちるんだから。もう少し、君
  にも我慢していただくよ」
 直接?
 奈涸殿の言葉に背中がびくっと反応した。
 「ああ、霜葉。大丈夫。怯えないでいいんだ。これはただの準備だからね」
 だからといって、納得できるものでもないが、身体に力が入らないでは逃れ様もなかった。
 背中から腕を回した龍斗が、俺の太ももを持ち上げる。
 何とも居た堪れない、まるで、触れてくれといわんばかりに性器を突き出した格好にされた。
 俺は奈涸殿のハリが、深々と己の肉塊に食い込んでゆくのを見せ付けられねばならなかっ
たのだ。
 「ああっつ!」
 頭を抱え込んで耐えるが、それは凄まじい快楽で。
 今すぐにでも出してしまいたい感覚に襲われる。

 抜き出されたハリは、てらてらと濡れ光っていた。
 「これで、大丈夫。狂うほどの、愉悦を。霜葉」
 気が付けば頬を伝っていた涙を、舌先で掬われる。
 「誰が、霜葉に触れていいと言った!」
 怒気を多分に含んだ気が、心弱い人間ならば即座に昏倒する強さで、奈涸殿に向かって放
たれた。
 まるでその流れが見えているように、軽々と避けてみせた奈涸殿は、喉の奥で軽い笑い声を
立てる。
 「これぐらい、役得があっても良いでしょう?」
 「間抜けなことをぬかすんなら、涼浬にも同じことするがっ!」
 「はは、それは困ります。早々に、退散しますよ……では」
 深々と腰を折った……その姿を確認したのが幻だったのかと思う呆気なさで、奈涸殿の姿が
消え失せる。
 一瞬。
 己の置かれた立場も忘れて、呆けてしまった。
 鮮やか過ぎる退場。
 「全く。油断も隙もない奴だ」
 ふう、と肩で息をついた龍斗の声音が。
 変わる。
 酷く淫らな色を帯びて、耳の中へ直接吹き込まれた。
 「一度、出してしまおうな」
 「止せっつ!」
 濡れた肉塊に指を絡ませられて、情激激しく扱きたてられる。
 大きく股を開かせられたままの状態が、飛び込んできて実を瞑れば、愉悦が増すような気が
して、堪えきれない嬌声を上げてしまった。
 「だめ、駄目、だ……ああ、龍っつ」
 「もう、我慢なんかすんなよ。全部手前に預けて、出してしまえ?」
 耳朶を唇で食まれる。
 掌で裏筋を擦られて、首筋が仰け反った。
 反対の指は、先端から溢れ出る先走りを、まるで中に戻そうとでもいうのか、ぱくりと開いてし
まった小さな穴を塞ぐ。
 「龍っつ!龍……」

 我慢にも限度があった。
 女性との交わりを知らず、自慰よりも鍛錬を選んできた俺には、厳し過ぎた快楽だ。
 奈涸殿のハリの効果故だと信じたい。
 そうでなければ今の俺は、余りにも拙い。
 「もうっつ」
 「ん。出しな。全部受け止めてやっから」
 言われて、そういえば誰かに自分自身を受け止めて貰うなんてどれ程ぶりなのだろうかと、
爛れた思考をぼんやりとなぞる。
 何時だって、誰かを、何かを受け止めるばかりで、自分が受け止められる日が来るとも思
っていなかった。
 強いて言えば、血に狂い掛ける俺を、最後の一線で正気づかせてくれる村正がそんな存
在だったのだろうか。
 「あああっつうあああっつ」
 声でも上げていなければ、頭が沸騰してしまいそうだった。
 殺戮に溺れる最中、けたけたと笑い続けた、あの時の状況に少しだけ似ているのかもしれ
ない。
 「んつんつ!」
 最後は唇を噛み締めて、到達を迎える。
 今までこんなに溢れさせたことがあったかと、思わず青ざめてしまうくらいの量を、俺は龍
斗の掌の上に吐き出した。
 とろっと滴る精液が掌から滴り落ちそうになったのを見詰めた龍斗が、俺の目の位置に掌
を上げて、わざとらしく手首から腕へと滑ってゆく俺の精液を舐め上げた。
 明らかな羞恥と、自分でも知らぬ何やら甘くもどろりとした感情が、青ざめたはずの顔に
朱を差してゆく。
 「……溜まってたって訳じゃねぇんだろうが。濃いな」
                                




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