如月を喪った後に見せた、あの。
何も、俺をも映さない瞳は嫌だった。
そんな瞳をする紅葉が嫌なんじゃなくて。
させた、俺が嫌だった。
強いて言えばあれが、罪悪感という奴なのだろう。
「あるといえば、あるかな。如月にはねーけどよ」
「玄武だから?」
「ちげー。紅葉以外に罪悪感は持てねーだけ。奴が玄武だったから、じゃなくて。奴が紅葉
じゃないから、が正しい」
「盲目的な恋情だな」
「相思相愛だぜ?」
俺が紅葉にどれほどの無体を強いても、紅葉は俺をどこまでも受け入れるだろう。
それが、俺の半身。
双龍の片割れ。
「だとしても。過ぎた恋執は破滅を招くぞ」
「経験者は語るか?」
「俺にはんな、恋愛はできんよ。俺も如月も好き合って身体を重ねてはいたけどな。お互い、
他にもっと好いた相手がいたし」
「……それが、紅葉だというのならば。今すぐ潰すぜ?」
「紅葉、でなかったとしても潰す気だろう?」
「如月は、無抵抗だったけど……お前はどうする」
言いながら俺は、ゆっくりゆっくりと臨戦態勢に入ってゆく。
既に賽は投げられたのだ。
俺は売られた喧嘩を百%買う。
奴もそうだろう。
まず俺は、片目に金色を点した。
「俺は、如月のようには潔くない」
奴は懐の中から花札を取り出す。
とても奴らしい武器を触媒とする技は、仲間内でも優秀な部類に入る。
技自体の癖と属性に偏りがあるが、奴の手にかかればその辺りは問題でもないだろう。
仲間として背後を守らせるには、本当。
優秀な奴だった。
ま。
俺の隣は紅葉。
反対隣は京一。
背後には紗代ちゃんというのが、最強メンツ。
村雨なんざぁ、結局。
俺の盾にしかならんのだがな。
「……龍麻!蒲団の用意が出来て……」
紅葉らしくもない、この緊迫感が読めないなんて。
しぱん!と勢いも良く襖を開けて入ってきた身体を、背中から抱き締める。
「龍!」
反射的な抵抗は、俺が握った手首の強さから、如月を殺したのと同等の殺気を感じた
のだろう、瞬時に大人しくなる。
「紅葉を離せよ、先生」
「嫌だ。俺は紅葉に手を出そうとする奴を潰す時は、紅葉に見せ付けるって、決めてるんだ」
俺は言いながら、ねろりと紅葉の耳の裏を舐めた。
敏感症の紅葉に弱い所は多いが、ここも取っておきの場所だ。
ぴくりと震える体の感触を楽しむままに、俺は面白い事を思いついた。
「殺す前に、村雨。いいモン見せてやるよ?」
紅葉を大切に思う村雨の前で、紅葉を犯してやろう。
指先にさしたる力を入れるでもなく、紅葉が着ていたワイシャツのボタンを一つ残らず弾き
飛ばす。
黄龍の力なぞ使わなくともできる、俺の陵辱技って奴だ。
「たつまあっつ!」
恐怖と嫌悪と、それよりも強い羞恥の色。
本人的には咎めるはずの声音なんだろうが、俺には甘い誘い文句にしか聞こえない。
「先生っつ!」
こっちもやっぱり咎める色が入っているが、何より掠れた語尾は情欲に彩られていた。
俺の紅葉は最高に可愛いから無理もない。
そもそも、村雨は紅葉に惚れてっからな。
出会ったばっかりの頃は、そうじゃなかった。
秋月ってーいう、ご主人様にめろめろなのは誰の目から見ても明らかだったんだぜ?
ただ、今だ夢と現実を彷徨い続けている兄の代わりに、秋月家の当主を勤めている少女の
瞳は、違う男。
それも、村雨の対と称される御門を見ていたから。
そして、その御門も秋月を見ていたから。
あっさりと身を引いた。
多少の煩悶はあったんだろうけど。
ある日、突然。
隠し切れなかった少女への思慕は、女を求める物でなく、家族を慈しむものに変化した。
御門辺りも最初は不審がっていたが、村雨の紅葉に対する態度を見て納得したらしかった。
恋愛感情は微塵も無いが、御門もまた。
紅葉を例外的な高位置に置いているから。
ほんとーに、俺の紅葉はモてるんだ。
高校生の身で、超利き腕の暗殺者として仲間内でも認識されているけれど。
反面、手芸が得意で、料理が大好きで、動物や幼い子供に女性に優しく甘い性質を知って
いるから。
最大のネックとなる、暗殺も。
元々、母親を護る為に身を落としたのだと、おしゃべりな俺のせいで知れてしまったが故。
ライバルを自分で増やすようなネタ提供して、阿呆だとしみじみ思うが後悔はしていない。
自分の対が、憎まれるのは嫌だった。
何も知らない輩に踏みにじられるなんて、耐えられなかった。
まぁ、今だ紅葉を嫌ったり、不可解なモノを見る目で遠巻きにする奴等もいるけれど。
その数は少ないし、紅葉を嫌う奴等は俺も好きじゃないからな。
阿呆どもに、何言われても。
別に、気にしない。
「よせっつ!龍麻っつ!」
必死の抵抗を、黄竜の力で封じる。
全く便利な力だ。
本来、まさかSEXするのに活用するもんじゃねーんだろうがな。
ま。
俺に宿ったのが運のツキって奴だろうよ。
鼻歌交じりに、腕を高く上げさせた状態で紅葉の体を固定する。
力で拘束しているので、俺の両手は自由だ。
便利で困る。
俺は焦らずに、紅葉の背後に回る。
目線を紅葉に止めたまま動けなくなってしまった村雨に、紅葉の可愛い所を山と見せ付け
てやるつもりだ。