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 「悪りぃ……でも!ここの所ちっとも来ないじゃないか!だからどうしても早く
  したくて……だいたい以前は毎日だっただろ!」
 彼がこの状況に慣れるまで。 
 ここから出る事が不可能なのだと、理解するまで僕は、毎日四六時中彼に抱
かれていた。
 睦言にも似た甘やかさで、彼に呪いの言の葉を囁き続けつつも。
 「僕だって毎日来たいよ?でも君が粗相をするから来れないんだ」
 性欲もまだまだ盛りの十八歳。
 真っ暗な部屋の中、四肢を鎖で繋がれて。
 食事だけは三度三度差し入れられるとはいえ、何の娯楽もないこの部屋で。
 寝るか、自慰をするぐらいしかできることもない。
 「君が一人で楽しんでしまったから、僕は。違う男に抱かれなければいけなか
  ったんだけど?」
 上着を脱ぎ、ワイシャツのボタンを外して、合わせて壁にあるフックに引っ掛
ければ、彼の息を呑む声が響く。 
 背中にこれでもかと散らされた赤い、所有印。
 全く龍麻は、趣味が良い。
 僕が自分以外の誰かに抱かれるのを好まない龍麻は、こうして体中に烙印を
残す。
 僕を抱くもう一人の存在が、彼だとも知らず。
 龍麻が惚れて惚れて惚れ抜いて、手が出せなかった彼とは、きっと考えもせ
ず。
 「ごめん!ごめん!壬生。もう、一人でなんてしないから。だから」
 一枚一枚とゆっくり服を脱ぐ度に、彼の息が荒くなる。
 「早く、抱かせろよ!」
 見なくても、あれが、そそり立っているのなんて、簡単に想像がつく。
 そこまで彼を調教したのは他ならぬ、僕だ。
 僕以外の誰も抱けないように。
 ましてや誰かに、抱かれるなんて、できなくなるようにと。
 龍麻や、顔も覚えていない男達の手で作られた淫猥な、この身体で。
 「そうだね。一人上手も一週間我慢したし。褒美ぐらいあげるよ」
 身に付けているのは、龍麻の残り香ぐらいの状態で僕は彼に近づく。
 今すぐにでも果ててしまいそうに堅くなった肉から生み出される愉悦に、半ば
おかしくなりかけた彼が、僕の体を手荒くベッドの上にと引き倒す。
 それでもすぐには突っ込もうとせず、体中に口付の雨を降らせるなんてなか
なかできることじゃあない。
 これもまた、躾の賜物だ。
 僕を満足させるまで、絶対先にはいかない。
 挫けてしまえば、きついおしおき。
 頑張れば、褒め言葉と抱擁と深すぎる愉楽。
 飴と鞭は調教の基本中の基本。
 「満足させて、貰おう?」
 胸に舌を這わせていた彼の顎を拾い、触れるだけの口付けを施す。
 快楽に潤んで、もうまともな思考ではない彼の瞳を真っ直ぐに見詰めて。
 「ねぇ、蓬莱寺さん」
 僕は、彼の名を呼んだ。
 
 「……京一っ!」
 龍麻が僕を抱く時に、蓬莱寺さんの名前を呼ぶのにももう、慣れた。
 別に彼の身代わりに抱かれているからといって、悲しむめるほど真っ当な感
情は持ち合わせていないし。
 実際こうやって、情け容赦なく揺さぶられている事に疑問すら持てない。
 「どうした、紅葉?お前はいかないのか」
 自分が解放されて、ようやっと気がついたのか、龍麻が驚いた声を上げる。
何もかも面倒くさいので、いつも龍麻にあわせていくようにしていたのが、ど
うにも考え事をしていると疎かになってしまう。 
 「ああ、すまない。少し疲れてるみたいだ。気にしないでくれ」
 龍麻の胸を押しのけると、ずるりと三度も吐き出している割には衰えも見せ
ない肉塊が僕の中から抜け出る。
 「でも、紅葉。一度もいかないのは珍しいぜ?」
 離れようとする僕の身体を背中から抱しめて、項垂れた僕の肉塊に優しげな
手つきで愛撫を施そうとする大きな掌を、包み込んでとめさせた。
 「……本当に疲れているだけだから。勘弁してくれないか?」
 「何だ?そんなに良くなかったか。俺的にはいつもと変わりないけど」
 そう、いつもと何も変わらず。
 蓬莱寺さんの身代わりを務めている僕を、抱く。
 「いつも通りに良かったよ。ただ、身体がついてこないだけ。……先にシャワー
  を使うかい?」
 「何だか今日は、嫌に俺と離れたがるな。好きな女でもできたか?俺に抱かれ
  るのが嫌になったとか?」
 「好きな女の子なんて……できやしないよ。できたところで君と僕には関係のな
  い話だろう?その程度で君が僕を抱かなくなるとでも?」
 「京一が俺に抱かれるまで、俺はお前を抱くよ?一番相性がいいし、何より腐 
  れた俺の性分を理解してるからな」
 好きになりすぎて、最後の一歩を踏み出せない龍麻は、このままいけばずっと
蓬莱寺さんを抱く事どころか、告白すらできずに。 
 僕を抱きつづけるだろう。
 龍麻が本気で蓬莱寺さんを口説けば絶対に落ちるというのに。
 "俺のせいで京一が変わるのは、嫌だ"
 と、大変馬鹿げた理由で。
 「双龍だから、ね」
 わかりたくもなかった。
 わからなければ良かった。
 そもそも、僕が龍麻を、受け入れなければ良かったのかもしれない。
 「そうそう。勿論今、俺が考えていることもわかるだろう?」
 「……"やっぱ足りねーから、もう一度"」
 口調を真似て見せれば、満足げに笑った。
 嬉しそうな顔を見るにつけ、僕はこんな目に合いながらも龍麻が決して憎い
わけでもないのを知る。
 「今度はお前もいかせてやるよ」
 強引な口付けが僕の肩口に落ちてきた。
 「……一度も僕をいかせたことなんてない癖に」
 いつでも蓬莱寺さんをいかせているんだろうに。
 吐息だけで紡いだ言葉は、僕の体に夢中になりだした龍麻には聞こえやしな
い。
 「紅葉?」
 それでも何かを感じたのか、僕の目を見つめる龍麻の視線を素早く遮断して
目を瞑り。
 「……何も」
 僕は龍麻の指先を感じるただの、肉の塊と成り果てて行く。

 


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