長く遊びつもりなら、それなりの段階を踏まねばならないだろうよ。
「お前がいくより、俺がいく回数の方が多ければ、完璧だろうよ」
過敏すぎる身体で、あまり性の知識と経験をもたないお前が、できるわけないだろうが。
「……元に、戻れるんですよね?」
一時的にな。
俺が望めば、いつでもをんなに変わってしまうのだが、今は告げない。
「ああ、できれば、な」
「……わかりました。腕外してください。このままでは、僕からは何も出来ない」
「お前、俺の言う事を信じるのか?」
「絶対的有利に立つ貴方が、嘘を言う道理もないでしょう?まぁ、全部本当だとは思っていま
せんが」
はは。
さすがに、見抜いていやがる。
震える身体で、声で、囁く辺りがまだまだ、拙いがな。
「解くのは、もう少し先だ」
拘束というシチュエーションも、それはそれで萌える。
不安げに自分の身体を見下ろす、壬生に見せつけるようにして、乳房を持ち上げる。
たっぷりと肉の詰まった質感がたまらない。
その癖、指を食い込まさればやわやわと形を変えるのだ。
横になっていても谷間のできる、乳房に顔を埋めれば、ふわ、とした感触が頬を包む。
「……ふ……」
息を飲み込んだ壬生の指先が、反射的にだろう、俺の髪の毛を強く引く。
無意識の、やめてくれ、と意思表示なのだろうけれど、その程度のささやかな抵抗では、男
の劣情を煽るだけだ。
軽く乳房に歯を立てて、感触を楽しむ。
とくとくとくと、心音による極々僅かな振動が歯にダイレクトに伝わってくる。
勿論、一種の恐慌状態による脈動なのだろが、行為に興奮しているようで楽しい。
このままやわらかい塊を食い破り、その温かい血潮を啜り上げたいと思わないでもないのだ
が。
愛情が極まって食欲に移行。
なんて、狼男らしいストレートな恋愛表現を、俺がしてしまう、なんて許せない。
そんな子供でもあるまいし?
子供を孕まないSEXは大人の遊びだ。
二人で、楽しむもの。
まぁ、子供の壬生にそれを求める事態が子供の所業だと困るのだが。
しばし、遅くなる事の無い鼓動を楽しんでから。
俺は乳房を吸い上げた。
真っ白い肌に、すぐ様赤い烙印が施される。
これはまた、陵辱しがいのある肌だ。
全部口の中に入れられる大きさではないのだが、それでも出来うる限りと、口の中いっぱいに
肉を頬張る。
中々に、満たされた感触だ。
唇にあたる圧倒的な肉の弾力が心地良い。
歯を立てたつもりはなかったのだが、乳房にはぐるりと歯形がつき、牙のあった二箇所からは、
血が伝ってしまった。
病的ではないにしろ真っ白い肌に、真っ赤な血が流れ落ちてくる様には性欲ばかりか食欲ま
でもがそそられて困る。
こんな時、自分が純粋な人間でないことを思い知らされるのだ。
カニバリズムどころではない。
人間は自分にとって完全な捕食の対象なのだ。
まぁ。
へまをして狩られるのはごめんだし。
ただ我武者羅に肉を頬張らなくとも日常生活に支障は無いから、滅多やたらに興奮するなん
て、通常はないのだが。
この壬生の身体は、色々な意味で俺を駆り立てる。
「もしかして、食べたいんでしょうか。僕の、身体を」
「少し、な」
「……ああ、貴方。本当に人ではないんですね」
「何を、今更」
「だって、瞳が……綺麗だったから」
怖いとか不気味だという人間は過去に幾らだっていたが、正面切って綺麗だとのたまった人
間には、久しぶりに出会う。
「綺麗か?」
「何か特別な作用があると思うのですが、心が揺れます。魅了眼というものでしょうか」
「ああ、そうだ」
「道理で。この僕が……囚われるはずだ」
くすくすと無防備に笑い出す。
俺とて負けない仏頂面が板についているが、それに勝るとも劣らない不機嫌な顔を晒してい
る人間がするには、随分と不用意だ。
無理矢理注ぎ込んだ俺の血が、上手く回っているのだろうけれども。
「意識して、使ってはいないぞ」
「じゃあ、この眼は、僕に合うんでしょう?……手首解いて貰えます?もう、逃げませんから」
いきなり変わった態度に、訝しいものを拭いきれないまま。
微かに淫蕩な色合いを瞳の端に見せ出したのを、信じるとして。
手首の拘束を解いてやる。
俺でも届くスピードで、壬生の腕が俺の首に絡んできた。
身構えるまでもなく、瞳に、舌先が届いた。
ぺろっと。
軽く、嘗め上げられる。
「イイ趣味してるじゃないか?」
「美味しそうだったんですよ。どうしても味わって見たかった。気持ち悪かったですか」
「いや?」
仕返しに、まるで挑むように俺の目を覗き込んでくる壬生の瞳を嘗めたやれば、怯える風で
もなく腰をくねらせて見せた。
「しま、しょうか?」
「して、いるだろう?」
「僕の意思で、貴方を欲しがってみますよ。面白いかも、しれません」
突然、何が壬生をここまで変えたのかはわからない。
ただ、壬生が。
ようやっとその気になったのは、わかった。
腕の中の体が、触れている場所から恐ろしくやわらかに蕩け始めたからだ。
「受身のSEXは初めて、ですし。男性同士も無論。そうです。お任せしてしまって、イイです
か」
「ああ。お前はただ、感じていればいいよ」
「わかりました」
頷きながら重なってきた唇は、先刻よりもずっと甘さを増した。
積極的に求めてくるのだが、どこかがぎこちない。
俺が想像している以上に、場数を踏んではいないらしい。