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 「何を馬鹿な…んんっつ……ふうっつ」
 今度は正真正銘のディープキス。
 どうしたらいいのかわからずに、小さく丸まった舌先を引きずり出して歯先で噛む。
 懸命に離れようとする舌の意思を尊重して瞬間離してやり、歯裏を歯の形に添うようになぞ
る。
 「う?んんっつ」
 己の体に走る快楽めいた感覚に、心がついていかないのだろう。
 顰めた眉根は、戸惑っているようにも見える。
 目を細めて表情を堪能しながら、ワイシャツの裾から掌を差し入れた。
 緊張にか未知なものへの恐怖にか、俺の掌よりも冷たくなってしまっている。
 腕ごと腰に回して、抱え込むように抱く。
 腰はすっかり華奢とも言える女の腰に変化を終えていた。
 『や!』
 塞いだ唇から、抵抗の片鱗が伝わってきたが、すっかり非力になっているのだ。
 完全に俺の胸の中に抱き込んだ身体は、そこから簡単に抜け出せない。
 やわらかな肉は、唇とは一味違った弾力を帯びて、掌に吸い付くようだ。
 世に言うところのもち肌という奴かもしれない。
 「んん……ふ…」
 何だかんだいっても、俺の指摘した通りに、鼻での呼吸を繰り返して口付けに応えてくる。
 無論本人に、応えている、なんて気はないのだろうが、こんな過敏な反応を返して寄越すなら、
和姦でも通せそうだ。
 根元から吸い上げて噛み、逃げを打つ舌に己の舌を絡ませて止める。
 本人の意識とは裏腹に分泌された唾液を執拗に、口腔全体に満遍なく塗りつければ、嚥下も
できない唾液は紅葉の口の端から伝う。


 日頃きっちりとした性分で、快楽なんぞとは縁がありませんといった涼しい顔をしているので、
そのギャップだけでもかなりそそられる。
 また、女性化したら、恐ろしく美人で尚且つ見事な肢体の持ち主になったのも僥倖だ。
 こればかりは蓋を開けて見なければわからないのだから。
 自分の勘はまだまだ衰えてはいないのだとわかって、嬉しいような、悲しいような、複雑な所で
はあるが。
 気になるのか、口の端から滴った唾液を拭おうとする指先を拾って、根元から嘗める。
 指先は自分の手の中に納めて、咽の辺りまで伝っている唾液の筋をそのまましたから上へと
嘗め上げると、顎に歯を立てて、再び唇に触れた。
 「タオルが入用か?」
 「……貴方は気持ち悪くないんですか」
 「別に、SEXでこれぐらいは普通だろう。お前の唾は悪くないぞ」
 「変態!」
 飛んできた平手打ちは、なかなかスナップが効いていたがこの体勢では思っていたダメージ
を与えられないのは本人自覚しているが、自分の体が非力になってしまった自覚は、まだ持て
ないようだ。
 「その、変態に犯されて、可愛らしい声で鳴いてるお前は変態じゃないのか?」
 「無理矢理です!貴方と一緒にしないでくださいっつ!」
 怒りが更なる興奮を呼び起こすとは思っていないのか、最中にそんな事を言っても盛り上が
るだけだと。
 後何度この身体を犯したら覚えるのか。
 まっさらな人間を自分に染めるのは、面倒臭いが楽しい。
 ましてや、壬生相手ならば純粋に面白く飽きないでいられそうだ。
 「先は長い。自分が、お前の言うところの変態になるのを、のんびり認識するんだな」
 ワイシャツのボタンを一つづつ丁寧に外してゆく。
 「ちょ!やめて下さい」
 「……脱がないのが、好みなのか?」
 「そんな訳ありません。する気がないと先刻から言ってるじゃないですか!」
 往生際も悪く、胸を叩いたりじたばたと足を動かしたりしている。
 最初は、まあ。
 仕方ないか。
 肩で息をついた俺は、壬生の体からどく。
 跳ね起きようとした壬生に向かって、銀色の瞳で睨みつけて、暗示を施す。
 『動くな!』
 びくっと大きく震えた壬生の身体は、ベッドから降りることの許されない状態となった。
 狼の邪眼は完璧だ。
 人一人の行動を制約するのぐらい朝飯前。
 以前研修旅行に行った時、そのまま持って帰ってきてしまった浴衣とそれを結ぶ帯。
 無造作にタンスに突っ込んであったそれらの内、帯を取り出す。
 紺色で一メートル以上はあるだろう、それを使って壬生の手首を縛り上げる。
 「動いてもいいぞ。先刻よりずっと動きにくいと思うが」
 再び身体にのしかかった。
 「信じられない……こんな……縛る…なんて……」
 「やりたくはなかったがな。お前、無駄に抵抗するから」
 「普通はするでしょう?」
 「お前の普通が、世間様の普通と一緒だと思っている辺りが、幼いな。まだまだ」
 輪になっている壬生の腕を俺の首に引っ掛ける。
 距離は縮まったが、俺の行動もだいぶ制約されてしまった。
 ま、壬生が『解いてくれ』と懇願するまでの間だ。
 不自由なのも面白いだろうさ。


 残りのボタンも外しきり、わざとらしくワイシャツを開いた。
 「見るなっつ!」
 「……滅多にない経験だ。お前も見ておけ。なかなか、いい身体に仕上がったぞ」
 日に焼けない性質らしいと、龍麻から聞き及んでいた体質は、そのまま受け継がれたようだ。
 抜けるような白さとは、こんな肌を言うのだろう。
 目を和ませ、男を狂わせる真白の肢体。
 くびれた腰に、しなやかに伸びる足、何より目を引くふくよかな胸。
 俺の手に余るくらいだ、カップでいえば、D……もしくはそれ以上といった所か。
 「……僕の、身体、が」
 呆然と開かれた瞳には、完全な変貌を遂げた自分の身体が映っているのだろう。
 衝撃で、いまひとつ焦点が定まっていない。
 「そう、これが、お前の身体だ。俺が満足するまでは、このまま」
 「満足、するまで?」
 「そう。満足すれば、自然に元に戻るさ」
 「……貴方は、満足、するのですか」
 「お前が頑張ってくれれば、もしかしたら、な」
 本当の所は、俺の体液を限界超えて流し込めば、身体に回った血の効果を薄めさせるって
感じだ。
 女として、俺に抱かれたという感覚は一生付き纏うし、一度俺の血が馴染んでしまった以上。
 俺が、望んで抱き締めれば、簡単に変化してしまうのだけれど。
 さすがに、今の状況で、そこまで本当を言ったら壊れかねないからな。
 ゆっくり、じっくり。



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