揺さぶられ続けて箍が外れてしまった感情のままに、
自分の手には負えない従順さで龍麻の言葉に従った。
"コレ以上無様ナ姿ヲ晒スノハヤメロ"
と、どんな時でも存在するもう一人の自分の、憐れみ
に満々た嘲笑を耳にしながら。
「もう少し、後少しってとこで見れるんだよな。紅葉
のこの目…いつもは見れねーけど。今日は紅葉にも
見えるだろうよ」
「……何を…言っている?」
「女の子、まだいるんだろう?俺の位置からはよく見
えねーけど。それを鏡を見るみたいに見つめてみな。
何も考えないで。そうだな、俺の考えていることを
瞳の色だけで感じ取るように。紅葉が良くやってみ
せる、あの要領で」
こんな時に何を言い出すのかわからなくて、それでも
嫉妬に歪んだままの少女を見つめる。
彼女が何を考えているのかを見通すように。
まとう装飾の全てを剥ぎ取って、考えを読ませない龍
麻の思考を掴もうと必死に見つめるのと寸分たがわぬま
なざしで見つめていたら、少女の姿が透き通った上に空
っぽに見えた。
これが龍麻の場合は違う。
悩み龍麻やからかう龍麻や、誰も信じられない自分を
咎めてくれるのを待っている龍麻……といった等身大の
龍麻が目に映るのだが。
少女には何もなかった。
死んだから何もないのではない。
嫉妬に狂うあまり自分を亡くしてしまったが故に、少
女には何一つ自分というものが残っていなかった…代わ
りに少女の体自体が、鏡のような役割を果たしていた。
何もない少女を通して…反射して?…見ることができ
た自分。
その僕の瞳が。
月の光を吸い込んでしまったかのように銀色に輝いて
いる。
龍麻の持つ黄龍の瞳ほどの鮮烈さはないが、それでも
確固たる己の意思を孕んだ者の目に見えた。
「こーゆー時じゃないと見れないのが残念だけど。俺
だけにしか見れないってのがまた、いいんだよな。
全く特級のプレミアモノだわ」
「……僕の……目?」
まるで飢えた狼にも似た燻銀の瞳。
「そ、綺麗だろう?俺達はこんな所でも表裏一体なの
さね」
龍麻はご機嫌中のご機嫌といったところだ。
僕の中に入っていながらも、嬉しいという感情を隠し
もしない。
「だから紅葉、逃げようなんて思うなよ」
「……え?」
「気持ち悪いんだろう?痛みも酷いし、俺と抱き合っ
ているよりはまだ、飲めない酒を酌み交わす方がま
しだって……いつも思っているんだろ?」
一度も指摘されたことはなかったけれど。
もしかして、初めから気付かれていたのか?
「そんな、ことは…」
と、言い訳をしようとすれば。
「ないとは、言わせない」
最中の会話に蹴りをつける勢いで龍麻が奥を抉った。
「……!……」
首を大きく振った僕の顎に龍麻の歯がちくりと刺さる。
「俺もまだまだ修行中だし。紅葉がSEXに俺と同じ
快楽を見出せないのは知っている」
どこが修行中の身なんだろうと、溜息をつきたくなる
ほどの手馴れたSEXに体がだいぶ馴染んできているの
は事実。
自分のプライドもこだわりも捨てて、龍麻の肉塊だけ
を感じようとすればできないこともない。
「でも駄目だよ。俺が駄目なんだ。紅葉がいないと。
こうやって抱いていないと不安でしょうがない。だ
って紅葉は俺がいなくたって生きてはいけるだろう?
だけど俺はどーもなんねぇ。あんまり紅葉がつらそ
うだから違う相手とでも寝てみようかとためしたが、
勃起もしない」
初めて聞かされた告白に、思わずまじましと見つめて
しまうと、照れた龍麻が僕の瞳を掌で覆う。
「……んな顔するなってば。意外なのは百も承知さ。
俺自身なんでこんなに紅葉に依存してるのか検討も
つかねー」
「依存、なんて…僕の方こそ…」