「…痛い時は、痛いって言えよ、紅葉。紅葉が感じる
痛みは俺にはわかんねぇけど。そーゆー顔をする紅
葉を見なきゃなんない俺の痛みも、紅葉にはわかん
ないだろう?」
龍麻の言わんとしていることが理解できないわけじゃ
ない。
でもそれに"わかった"と頷くわけにはいかないのだ。
痛みに程度や種類はあるけれど、そんな体の痛みもい
つかは、消える。
激痛がずっと続けばそれだけで死に至るだろうが、人
間はもともと痛みに強い動物ではないもの。
僕自身…かなり痛みには強い方だが、それでも限界は
あった。
「…痛…」
「だから、紅葉。声は殺すなって」
龍麻の肉塊によって引き裂かれた体が、きしきしと悲
鳴をあげる。
入り込む瞬間はどんなにリラックスした状態で受け入
れてもきつかった。
噛み締めた唇を龍麻の舌が割って宥めるのに合わせて、
ふと力を抜こうとすると奥まで入り込まれる。
背中に爪を立てながらだんだんと乱れ狂わされていく
体を、他人の物のように感じながら大きな溜息をつく。
「紅葉?見えるだろ、あの女の顔」
伏せていた瞳を上げれば少女の顔が目の前にあった。
憎々しげに睨み付けてくる表情は、幼いながらも般若
そのものといった風情だ。
「…ちょ!…驚いたのはわかるけどそんなに締め付け
るなってば。まだ、紅葉の中にいさせてくれや?」
目を見開いたままの僕の瞼に降りてきた唇をおとなし
く受けた後で、瞼を閉じ少女の姿を視界から外す。
焼け付くような嫉妬の炎は、視界から遮断したくらい
では消えるはずもなく、僕の体に決して望みはしない熱
を残してゆく。
「だから…んなに締め付けるなってば!」
"もう限界さ!"といって引き抜こうとする龍麻の体
を足を使って絡め取った。
閉じた瞼の向こうで笑う気配がする。
「…ほんと、紅葉って俺が限界の域に届いてから…そ
の気になるよなー」
しみじみとした口調の龍麻は、僕の背中を両腕で抱き
こんで腰の動きを早めた。
体に打ち込まれる肉塊の熱さに浮かされて、ようやっ
と忘我の淵が見えだす。
気持ち悪い。
もう、許して欲しい。
どうして僕がこんなにも無様な、をんな、に成り下が
らねばならないのか。
痛い痛い痛い。
イ、タイ。
声にならない言葉が胸の中溢れそうに膨れ上がった。
男に慣れた女の子達も似たように、僕にはない子宮の奥
深くに身勝手な男の感情を孕んだままで狂乱しながらも、
愛を囁くのだろうか。
自分が思っているのとは全く反対の言葉を。
「…龍麻…」
「…ん、だ…紅葉?ちったー気持ち良く、なってきた
のかよ?」
「ああ…いい、よ」
良いことなんて何一つない。
ただ己の中に吐き出される灼熱を待ちながら、焦がれ
もしながら。
「……すごく…良い、よ」
何もかもを忘れ去れる、微かな。
極々僅かな一瞬を追い求めながら狂う自分を遠く、見
つめて。
片腕で龍麻の背中を抱きしめながら、利き腕を空に伸
ばす。
ひんやりとした小さな花びらが、熱のこもった腕を伝
って何枚も踊るように滑ってくる。
桜は嫌いだ。
大嫌いだ。
こんな時にも綺麗で、龍麻の灼熱すら忘れるほどに綺
麗で。
掴めば確かに掌の中に有るくせに、震える指を開けば
散り急いだ無様な残骸を晒す。
抱き壊された手に再び癒されて。
どうしようもなく惹かれてゆく魂に対面させられた。
「紅葉…目を開けよ……俺を見てくれ、こーゆー時、
くらいはさ」