口ではなんだかんだ言いながら、態度では否定しなが
らも、認めたくない部分で僕は間違いなく龍麻を必要と
している。
 どんなに不安にかられていても、龍麻が側で微笑んで
いれば何もかも大丈夫だと思ってしまう程度には重傷で。
 「僕の方こそ、しているよ」
 「だったら俺は、こんなやきもきしねーと思うがな」
 自分がかぶせていた掌を避けて、真っ向から視線を合
わせてくる。
 「紅葉が、桜……嫌いなのも知ってる」
 「……」
 「でも俺は紅葉と一緒に桜が見たかったんだ。紅葉が
表向き『嫌』とは言わないのがわかっているからな」
 龍麻には似合わない寂しげな苦笑が浮かんだ。
 中にまだ龍麻が入ったままだというのを忘れさせるよ
うな優しいしぐさで、額に張り付いていた汗ばんだ髪の
毛が払われて、唇が降りてくる。
 「わがままは通したもん勝ちだろ?俺は紅葉が好きだ。
  誰より何より好きで、大事にしようと思っている…
  時々失敗もするが」
 「……確かに」
 真摯なまなざしを受け入れながら、龍麻の頬に唇を寄
せた。
 「僕も龍麻が好きだよ。ベクトルの方向が違う気もす
  るけれどね」
 「紅葉…」
 何だか妙に納得した色を乗せた龍麻が、もう一度濃厚
な口付けを仕掛けてくるのを。
 「それならばお言葉に甘えて、今日はもうやめてくれ 
  るかな?」
 指先一つで止めた。
 「正直しんどいよ」
 「そうか…なら……っと」
 僕の体を限界のぎりぎりまで引き裂いていた龍麻の肉
塊が、ずるりと音を立てて引き抜かれる…と思ったのだ
が、寸前で奥に届く勢いで深く押し入られた。
 「龍麻!」
 「素直な紅葉は好きだけど。素直じゃない紅葉も好き
  なんだ。頭痛ももう、しなくなっただろう?もう一
  戦付き合ってくれや」
 言われてあれほど頑固にいたんでいた頭が、奇妙なく
らいすっきりしていることに気付く。
 嫉妬に狂った少女の姿はもうどこにも見当たらない。
 「あの子は…どこへ?」
 「あれだけ見せつけられちゃー浄化するっかねーだろ
  うよ。次の世じゃ、死なない程度に恋に狂って頂き
  たいもんだ。なかなか可愛い子だったしな。そりゃ、
  紅葉の足元にも及ばないけどさ」
 「どの口がふざけたことをいうのだろうね?どの口が」
 口の端を指先でひっぱると端整な龍麻の顔も三枚目に
早代わる。
 「そーそー。そんなんでいいんだってば。紅葉は頭が
  良い分色々考えすぎるからなー」
 「そんなこともないと思うけど…」
 龍麻の方が余程物事考えているように思う。
 でなければ少なくとも僕と、こういった関係にはなら
なかった。
 「だからさ、俺と一緒に居る時ぐらいは体で考えるっ
  てのを実践しようぜ」
 だいぶ見慣れた飽きれるくらいの不敵な表情で龍麻の
体重がのしかかってくる。
 「あああっつ!」
 凶暴な龍麻の分身が程なく僕の体を犯してゆく。
 壊されかねない激しさは、理性を保とうとする僕の精
神をたやすく破壊した。
 「龍麻!…んんっ…たつ…まぁ…」
 名を呼んで抱きしめて、その大きな背中に幾筋もの爪
痕をつけた。
 「愛しているよ、紅葉…愛してる……」
 こうやって四六時中囁かれ、抱かれてしまったならば
嫌になるくらいに因縁ある桜もいつか、好きな花になる
のかもしれない。
 たぶんきっとそれは随分と先の事で、もしかしたら側
に龍麻はいないかもしれないけれど。
 この桃色の闇がいつか、愛しいものに変わるのだとし
たら。
 今よりは少し、心穏やかな日々が送れるのかもしれな
い。

END






*龍麻×紅葉。
 コピー本でしたが完売するの早かったな…。
 や、いつも1年近く在庫抱えるんですが、
 この本はイベント2回しかもたなかったんで。
 ”いっぱい龍麻×紅葉好きがいるのね!”と
 喜んだものです。
 懐かしいなあ…色々(苦笑)


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