不安定な体を賢明に支えようとする僕に注がれたのは、
嘲笑めいた言葉。
「たまには焦らさないってのもありか、な。紅葉ん中
ってイった後がたまんないから、ついつい長居しち
まうさね?……俺のナニをぶち込んだままで、また
イかせてやるからさ……」
まるで女性のように扱われるのに今だ、かっと頭に血
が上ることもあるが、この状況は自分に非があるように
も思えるので、黙り込むしかない。
明日一緒にいることができないのが、僕が本気で真剣
に残念で悲しいのだと、せめて伝わればいいのだけれど
も……。
「あれ?従順だな…紅葉」
ぐいと大きく腰を折り曲げて覆いかぶさってくる龍麻
が、僕の顔を覗き込んだ。
僕だけがひたすらに苦しい態勢だったけれども、僕は
真っ直ぐに龍麻を見つめ返した。
僕の目に服従の色を見出だしたのか、龍麻の口からは
深い溜め息が零れてゆく。
「……本当、俺ばっかりが子供みてーだな」
何故か自らを嘲るように苦笑して、僕の肩に表情を見
せないように顔を埋めた龍麻の肉塊が、秘部にあてられ
ゆっくりと僕を浸食した。
入り口を通る時こそ裂かれるような痛みを覚えるが中
へ入ってしまえば、龍麻がたっぷりと…下腹の力を少し
でも抜いてしまえば、僕の中から溢れ出てしまうほど…
吐き出した液体が潤滑油の役割を果たして嫌になるくら
いに、ゆるやかに滑る。
「…あ……つ……ま?」
息を継ぐのも困難な快楽の闇に沈みかけている、最中。
「……ん?…何だ」
僕は必死に龍麻に伝えようとする。
こんな時でもないと素直になれない自分を知っている
から、喘ぎながらも、乱れながらも、賢明に言葉を紡ぐ
努力をした。
「……く、れ…は?」
最奥まで届いてしまう龍麻の肉塊に、必死に慣れよう
と蠢く僕の内部は、龍麻にとって堪らない悦楽を与える
らしい。
僕が名を呼び重ねる度に耐え兼ねるように体を震わせ
ている。
「…早く……早く。できるだけ…早く帰って、くる…
から」
「……わかってる…のんびりと花、見に行こうな。こ
の前みたいに、邪魔が入るとこじゃなくて。二人っ
きりで静かに見れるような穴場、探してあるからさ」
龍麻の言葉に僕は静かに芽を伏せる。
桜なんか、見たくはなかった。
僕にとって桜は、良くないものの象徴だ。
父を失い、母を病ませ。
命より大切なものを手に入れてしまった、あの絶望と
いう字面だけでは表現もできない痛み。
失うものが目に見えている癖に、手放せないものがで
きてしまった耐えようがない恐怖。
全てが桜とリンクしているかのように、符号があう。
そんな馬鹿なことが、と言い切れないほど必然的に。
「桜は、好きだ……だぜ」
息すらも満足にできないほど折り曲げられた足の先が
シーツについてしまいそうな無茶な態勢で、龍麻の腰が
刻み出すリズムについていくのは、正直苦痛以外の何物
でもない。
龍麻が嬉しいなら。
龍麻が気持ち良いならと、いつも限界を越えてもひた
すら耐えてみるけれど。
"やめてくれ!"と、本気の悲鳴を上げたのなら龍麻は、
とめて、くれるのだろうか?
「だって、紅葉を初めて抱いた時も桜の季節だったし
さ」
嬉しそうな言葉を聞いて、揺らぐ思考の中のぼんやり
と思い起こされるものがある。
そう、初めて龍麻を受け入れた夜も、確かに。
大ぶりの八重桜が満開の時分だった。
部屋にこもってしまったすえた匂いを追い出そうとし
て、体中の骨がぎしぎしと音をたてるのにも耐えながら
窓を開けに行った。
やわらかい春の風が頬をくすぐって吹き抜けてゆくの
と同時に、はたはたと桜の花びらが舞っている光景が目
に映って。
幻惑的で儚いほどに綺麗な光景と。